第151話〜聖女の救済〜
フィオと話し込んでいると、いつの間にやら結構な時間が経過していたらしく、リーシャ達が起きてきた。
「おはよ。朝から元気ね、アンタ達」
「あはは、うるさくしちゃってすみません。ちょっと話が盛り上がっちゃって…」
「ま、それはいいんだけどさ」
そんな他愛ない話をしながら、簡単な朝食を済ませる。
「このあとは、ふぃおとゆーとであのせいじょのところにいくんだろ?」
「そうですね、あまり大勢で行ったらフレアさんも話しにくいと思うので、私達だけで行こうと思います」
フュリィの問いにフィオが答える。
「フィオ、ユートのこと頼むわね」
「あはは、任せてください」
そんなやり取りを横目で見ていると、リーシャが真剣な顔でフィオにそう告げる。
「どういうことだよ」
すぐに俺が問いかけると、リーシャは小さくため息をつきながら答える。
「そのまんまの意味よ、下手な真似して彼女と敵対しないようにってこと」
「敵対ね…あいつが魔赫を使う以上、状況的には元から敵だと思うけどな」
「そうかも知れないけど、あの子はフィオのことを信用してたでしょ?その気持ちも嘘ではないと思うから」
「まぁ、そりゃそうだろうな」
彼女がフィオに向けている、狂信的なレベルでの信頼や尊敬。
あれにきっと偽りはないのだろう。
「だから、深く考えずに彼女を排除しようとしたり、敵対するような真似はしないでってこと」
「もし味方になってくれるなら、それが一番理想的ですものね」
リーシャの言葉にフィオが同意する。
確かに彼女の言う通り、もしフレアを味方に引き込むことが出来たなら、俺達は有栖と同じ聖女の力を手に入れることができる。
そうなれば、魔王との戦いの助けになることは間違いないだろう。
だが…
スピカに軽く目配せすると、彼女は首を振りながら答える。
「ないですね」
まぁ、そうだよな。
「…とりあえず昨日話した通り、まずはフレアと話をしてからだ」
「そうですね、まずは彼女のことを知らないと何もわからないですから」
「…そうね。じゃあ2人とも、しっかりね」
リーシャに見送られ、俺とフィオは部屋をあとにした。
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ーー
ーーー
「お待ちしておりました。勇者様、そしてお付きの方」
フレアがいる中央の部屋に辿り着くと、既に俺達を待っていた様子の聖女フレアが、俺達を笑顔で出迎える。
「おはようございます、フレアさん」
「ふふ、おはようございます勇者様。昨日はよく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで」
まるで貴族のような挨拶を交わす2人。
まぁ、勇者と聖女と言えば世界でもトップクラスの重要人物なわけだし、こういった礼儀作法に精通しているのも納得ではあるが。
「それで、お二人でいらしたということは何か込み入った話がある、と捉えて良いのでしょうか?」
笑顔を崩さないまま、それでいてどこか威圧に近い雰囲気を感じさせながらフレアが訪ねる。
「お前の真意を聞きに来た」
こちらが警戒していることは向こうも承知の上だろう。
ならば今さら取りつ繕っても意味はない。
そう思って俺はそのまま目的を告げた。
「本心…と言いますと?」
「お前がフィオに力を貸す気があるのか、それとも魔王軍側につくつもりなのかってことだよ」
「あら、それならばもちろん私は勇者様の味方ですよ。ふふ、昨日も申し上げたではありませんか」
「…では、私達の仲間に加わってくださいますか?」
笑顔で話を流そうとするフレアに、フィオが核心をついた問いを投げかける。
「…申し訳ありませんが、それは出来ません。私はここで祈りを続ける必要がありますから」
もう少し悩む素振りを見せるかと思ったが、フレアは意外なほどあっさりとフィオの提案を拒否する。
「それはアルゼシウスの王に命じられたからですか…?」
「…」
「それなら王がいなくなった今、あなたがその命令を遂行し続ける意味なんてどこにも…」
「いいえ、違うのですよ。勇者様」
必死に説得しようとするフィオの言葉を、フレアは優しい顔で否定する。
「違うって…それはいったい…」
「私がこの土地に祈りを捧げているのは、アルゼシウス王の命令があるからではないのです」
「でもフレアさんの話では、この国の地脈に魔赫の力を流すように王に命じられたと…」
「…はい。確かに最初こそ私は王の命令通り、祈りの力でアルゼシウスの地脈を赤い魔法で満たそうとしていました。ですが今の私は、もっと大きく、人類にとって大切な目的のために祈りを捧げているのです」
話しながらどこか恍惚な表情を浮かべるフレア。
それはどこか、フィオに向けていたものと近い雰囲気があった。
「人類全てのために…、それっていったい…」
「神様による、人類全ての救済ですわ」
フィオの問いに、フレアは満面の笑みを浮かべてそう答えた。




