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第144話〜もう1人の聖女〜


「勇者様、お会い出来て大変光栄ですわ」


赤い修道服の聖女は柔らかい笑みを浮かべながら、フィオに頭を下げる。


「…えっと、あなたは?」


アルゼシウス城の最上階の広間…てっきり国王がいる場所だ予想していたところに現れたの意外な人物に、フィオは状況を飲み込めてない様子で彼女に尋ねる。


「あら、大変失礼いたしました。私はフレア…このアルゼシウスを統治しているものですわ」


フレアと名乗る少女は柔らかい口調のまま答える。


「ちょっと待ってよ!アンタがアルゼシウスの統治者?!」


その言葉に耳を疑ったリーシャが前のめりになりながら聞き返すが、フレアは「そうです」と短く答えるだけだった。


この少女が一国のしかもかつて最強の大国とまで言われた国の長だと?


にわかには信じられない話だが、彼女の様子を見るに冗談や嘘を言っているようには見えなかった。


「フレアさん。アルゼシウスはあなたお一人で治めているのですか?」


フィオがそう問いかけると、フレアは嬉しそうに答える。


「まぁ、勇者様様が私に興味を持ってくださるなんてなんという光栄でしょうか…!はい、私が1人で統治しておりますわ…!」


少しだけ顔を上気させ、興奮した様子のフレア。

どうやら彼女は人並み以上の勇者への憧れがあるらしい。理由は分からないが、それならば話は早い。


「そういうことなら単刀直入に聞かせてくれ。どうして周囲をあれだけの魔物に囲まれながら、この国は存続できているんだ?」


俺が問いかけに、フレアは不思議そうに答える


「あら、ご存知なかったのですか?てっきり全てを知った上でここに来たのかとばかり…」


「は?一体何の話だ?」


「…いえ、こちらのお話です。なぜアルゼシウスがこんな状況でも国として維持できているか、というご質問でしたよね?」


「あぁ。状況的にはいつ魔物に攻め落とされても不思議じゃないだろ。そもそもなんで城外の魔物達は外にいても襲って来ないんだ?」


「うーん。それは少しご説明が難しいのですが…端的に言えば外の魔物達は国を攻撃するために集まったわけではないのですよ」


「…攻撃するためじゃないって、さすがにそれは無理あるでしょ。完全に城外を取り囲まれてたじゃない!」


少し苦笑しながらフレアが答えると、その答えにリーシャがすぐ突っ込みをいれる。


「結果的にそうなってしまいましたが、彼らに敵意はありませんよ」


フレアは子供を諭すように優しく答える。


敵意がない…か。


挿絵(By みてみん)


確かに彼らは城壁を取り囲んでいただけで、壁を壊そうとしていたわけではない。

改めて考えれば彼らは侵攻しに来たというよりも、まるで何かに吸い寄せられるように、この場所に集まってきているようにも見える。


「…この国には魔物を引き寄せる何かがあるのか?」


「あら、今の私のお話だけでそこに辿り着くのですが、勇者様の従者は優秀な方だと聞いておりましたが、予想以上ですわね」


「そりゃどうも。それで、魔物は何を求めてここに来ているんだ?」


「…私、ですよ」


フレアはそう言って少し悲しそうに笑った。


「…どういうことだ?」


先ほどからフレアの答えに嘘がないことは分かる。

だが、それにしても話があまりに突飛すぎる。


「これについては、お見せした方が早いですね」


そう言うとフレアはこちらにゆっくりと近づき、そして俺の手を取った。


「何するつもりだ?」


「害を与えるつもりはありません。だから私を信じて目を閉じてください」


「…」


正直その言葉を信じて良いか分からないが、言う通りにしないと話が進まないのも事実だろう。


俺は彼女の言葉に従って目を閉じた。


「ありがとうございます。それでは…」


フレアの言葉とともに、彼女の手を通じて何かが流れ込んでくるのを感じる。この感覚には覚えがある。

そうだ、前の戦いで俺がフィオに魔力を渡した時に感じた感覚に近い。


それでは彼女がやっているのは魔力の譲渡ということか。

いや、だとしたらこの異物感はなんだ?


確かに魔力のようにも感じるが、それにしてはあまりに荒々しく禍々しいものを感じる。

そう例えるならこの魔力は…


「もう、目を開けても大丈夫ですよ」


思考の最中、フレアの声が聞こえる。

促されるまま目を開けると、彼女は聖母のような柔らかい笑顔でこちらを見ている。

そのまま彼女が言葉を続ける。


「分かりましたか?」


「魔赫…か?」


「ふふ、さすがは従者様、正解です。一応申し上げておきますと流し込んだのは極微量です。人体に影響はないのでご安心ください」


「お前は…いったい…」


「ふふ、聡明なあなたの事です。もう気がついたのではありませんか?」


いたずらっぽくフレアが微笑む。

その仕草がとある少女と重なって見え、俺は彼女の正体の確信に至る。


「聖女か…」


「はい。その通りです」


「待ってください!近代の聖女は有栖のはずでは…!?」


フレアの答えに混乱を隠せない様子のフィオ。

だが、フレアは取り乱したフィオの口を指先でそっと抑え、彼女を制する。


「ふふ、混乱するのは分かります。でもまずは私の話を聞いてください」


そう言ってフレアはこの国の成り立ちや自分の素性について語り始めた。




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