第143話〜城の果てに座すもの〜
城の階段を登り最上階を目指す。
するとその途中でようやく、兵士と思われる2人組と出会った。
彼らもまた、先ほど見た骨と皮だけの民と同じように痩せ細っていたものの、辛うじて身につけている防具と武器で兵士なのだと判断できた。
「…なっ、何者だ…」
兵士達は俺達の顔をみるなり、手に持っていた槍を構えてこちらに問いかける。
まぁ、見知らぬ人間が急に領内に入ってきたのだから、こんな反応になるのも仕方ないか。
「落ち着いてください。私達は話をしにきただけです」
なるべく刺激しないよう、柔らかい笑みを浮かべながら説明しようとするフィオ。
だが、兵士達は余裕を失っているらしく、彼女の話を聞くこともないままこちらを警戒している。
「て、敵だ…誰かいないk…がはっ…」
兵士達は2人では勝てないと判断したのか、大声で仲間を呼ぼうとしていたのだろう。
だが、それに気がついたスピカが面倒くさそうに手を伸ばし、魔法の力で兵士達の首を締め上げると、彼らの声を封じる。
「スピカさんっ!!?」
すぐにフィオが非難の声を上げるが、スピカは無視して魔法の拘束を強め、そのまま兵士達を絞め落としてしまう。
「…殺したの?」
リーシャの問いかけにスピカが首を横に振る。
「そのつもりでしたが、気絶しただけですよ。見た目よりタフなようですね」
「不用意に人を傷つけるのはやめてください…っ」
淡々とした様子のスピカに対して、フィオが怒りを抑えたような声で食ってかかる。
「ではあのまま仲間を呼ばれた方が良かったのですか?」
「こちらに敵意がない事を示す意味では、その方がマシです」
「はぁ…なんて甘っちょろい」
合理性を重視しているスピカから見れば、人と分かり合うためにあえて面倒な道に進もうとしているフィオの判断は理解できないのだろう。
「…なんと言われても結構です。ですがこのパーティーにいる以上、不用意に人を傷つけることは許しません」
「許さない、ですか。では具体的にどうするんですか?」
挑発的な笑みをべるスピカ。
だがフィオはそれには乗らずに淡々と言い返す。
「状況次第ではあなたを斬ります。それが人を守る勇者の責務ですから」
「ふふっ、貴女程度が私を斬る?おかしな事を言いますね、そんなこと出来るはずもないのに」
「…やってみなければ分かりませんよ」
「2人ともストップだ。こんなところで言い争っても仕方ねぇだろ」
一触即発の状況になったので、見かねて止めに入ることにする。
「あら?私は事実を申していただけで、言い争っていたつもりはないのですが」
依然として挑発的奈態度を取り続けるスピカ。
つくづく、魔物という種族は他者を見下すのが好きなようだ。
「そうかよ。まぁお前の考えを否定するつもりはないさ。だが、このパーティーにいる以上、フィオの判断には従ってもらうぞ」
「こんな知性も覚悟も足りない子供の考えを優先しろと?」
「当たり前だろ。ここは勇者パーティーなんだから、トップは勇者であるフィオだ。彼女に従えないってんなら今すぐこのパーティーを抜けろよ…出来るもんならな」
意趣返しとして、スピカににやりと笑いながら言うと、彼女は舌打ちをしながらも押し黙る。
まぁ、この反応は予想通りである。
このパーティーを抜けるということは、魔王の命令に背くことと同義。
それは魔王を絶対視する彼女にとって、それは絶対に出来ない選択肢なのだから。
「分かったんならフィオに従え、いいな?」
「…承知、いたしました」
苦虫を噛み潰したような顔で、そう返事をするスピカ。
「ありがとうございます」
スピカと話がつくと、フィオが少し悲しそうな笑顔を浮かべながら、礼を述べてくる。
「別に礼を言われるほどのもんじゃねぇよ。それよりも先を急ごうぜ、この状況を見られても面倒だしな」
兵士2人が倒れているのを他のアルゼシウスの人間に見られたら一体どんな誤解をされるか分かったものではない。
…いや、実際気絶させたのは俺達なわけで別に誤解ではないのだが。
兎にも角にも見つかると体裁が悪いので俺達はそそくさとその場を跡にさらに上層階を目指して歩き続ける。
そうしているうちにやがて、最上階と思われる場所に辿り着く。
そこには古びているものの、豪華な作りの扉があった。
直感的に、この扉の先に国の統治者がいるのだと理解し、パーティーの間でも不思議な緊張が走った。
「ふぅ、じゃあ開けるわよ?」
張り詰めた空気の中、リーシャが扉に手をかけながら俺達に尋ね、全員が無言で頷く。
それを合図にゆっくりと閉ざされた扉が開かれる。
瞬間、まばゆい光が立ち込め俺達の視界を遮る。
その眩しさに顔をしかめながら、なんとか扉の先を見ようとした時…
「お待ちしておりました、勇者様」
扉の先から優しげな女性の声が語りかけてきた。
手で光を遮るようにして、なんとか声の方に目を向ける。
するとそこには、真っ赤な修道服に身を包んだ少女が立っていた。




