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第14話〜とある昼下がり〜

 

掃除を終えた昼時、俺はエドワード王に呼び出され昼食を一緒に取ることになった。


「リュートよ。急に呼び出してすまんな」


「いえ、それはいいんですが一体何用で?」


「簡単なことだよ。まだ娘に会わせていなかったからな」


おおっと?


どうやらエドワード王はミナ王女に挨拶する場としてこの場をセッティングしたようだ。

しかしこれは非常にまずい。


面識があると気付かれるのは良いとしても、勝手に娘の部屋に入ったことがバレたら最悪殺されかねない。


俺は思考を巡らせて打開策を考える。

こうなれば初対面を貫くしかあるまい。

ミナ王女だって寝起きだったし、ワンチャン俺の顔を忘れている可能性だってあるからな。


「紹介しよう、我が娘ミナ・ヴェレストリアだ」


扉の奥からそっとミナ王女が現れる。

彼女はこちらにまっすぐ歩いてきて、俺に軽く会釈した。

今朝は感じなかったが、改めて見ると所作や雰囲気から気品が滲み出ている。


この所作を目の当たりにしたら、誰の目から見ても彼女が貴族であることを疑うものはいないだろう。


その気品に溢れた立ち居振る舞いに釘付けになってしまったが、俺にも作戦があることを思い出す。何とか初対面としてこの場を切り抜けなくては。


「初めまして、ミナ王女。リュート・クオンです」


俺は爽やかな笑みを浮かべてミナ王女に会釈を返す。これでこの場をやり過ごせば俺の勝ちだ。


「あら、今朝会ったばかりですのに、もう私の顔を忘れてしまったのですか?」


…現実はそんなに甘くはなかった。

ミナ王女は無垢な笑顔で残酷な言葉を問いかけてくる。


「ほう。もう2人は面識があったのか」


「ええ、今朝寝ている私のお部屋にいらっしゃったのでその時に」


「寝ている…部屋に…?」


最悪だ。

今朝の件が一番あってはならない形でエドワードの耳に入ってしまった。

そしてなまじ嘘ではないので否定もできない。


「リュートよ、詳しく話を聞こうではないか」


「っ…!?」


挿絵(By みてみん)


あ、終わった。

2回目の人生終わった。


笑顔で冷や汗を流すしかない俺の様子を見て、

悪戯な笑みを浮かべるミナ王女。

こいつ…確信犯か…!


「ふふ、冗談ですわお父様。本当は今朝お掃除しているリュート様に偶然お会いしたのです」


一瞬ただの悪女かとキレそうになったのだが、ここで王女から助け舟が入る。


「それは…本当か…?」


「はい!断じて王女の部屋には入ってません!」


「ふむ…それならいいのだが…」


「さ、せっかく美味しそうな料理が並んでいる事ですし、そろそろ召し上がりましょう?」


エドワード王にバレないよう、ウィンクを飛ばしてくるミナ王女。

どうやらこの娘は王様よりもやり手のようだ。


しかし何とか修羅場は脱することが出来た。

あとは適当に会食を終えて、さっさとこの場をあとにしよう。





−そう思った矢先だった−






「エドワード王!!!ご報告です!!!」


守衛の1人が慌てた様子で食堂に駆け込んできた。


「魔王軍が城内に押し入ってきました!部隊長の姿も確認されています!!」


「なんだと…!?」


守衛の報告を受けて明らかに顔つきが変わるエドワード王。


「なぜ我が国ひとつに部隊長が動くのだ…?」


部隊長。

そうだ、馬車で有栖が話していた魔王軍の主力で確か…


有栖よりも強い存在…


「聖女は?今どこにいる?」


「聖女様は隣国にいらっしゃいます!助けを期待するのは絶望的かと…!!」


「図られたか…」


何かを察したような顔のエドワード王の様子を見て、聖女がいないタイミングを狙っての襲撃であり、今回の件が仕組まれていたことを理解する。


同時に聖女がいない今、この国で魔王軍を相手にすることが不可能であることも悟ってしまう。


「リュートよ、お前に一つ命令だ」


状況を察して絶望感に浸っていたが、

その言葉でエドワード王方に向き直ると、彼はまっすぐこちらを見据えていた。


「ミナを。娘を連れて今すぐ逃げろ。」


「それは…」


「お前を雇った時に言っただろう、もしもの時は娘のことを頼みたいと」


「そうですが…」


確かにそう聞いた。安請け合いしたことも覚えている。

だが、こんなにも早くその【もしも】が来るとは。


「…分かりました、なるべく逃げ切ってみせますよ」


「あぁ頼んだぞ」


俺の返答に満足したのか、王の声色が少し穏やかになる。


「お父様…一体何を…?」


「心配ない。お前はこの男に付いていけばいき」


「でもお父様は…」


「大丈夫だ、ミナ。さぁ行きなさい」


幼い子に言い聞かせるように優しい声色で娘に告げるエドワード王。

彼も威厳のある国王である前に、1人の娘の父親なのだろう。


「リュート、娘を頼んだぞ」


その言葉を引き金に、俺はミナ王女を連れて走り出す。

絶望の中で、俺と王女の逃亡劇が始まった。


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