第132話〜金色の一閃〜
聖盾フィンは一定以上の魔力攻擊を受けるとそれを蓄積し、一撃必殺のカウンターが放てるようになる。
今俺が古代龍に向けて放ったのがそれだ。
ここまでの戦闘でフィンにはかなりの魔力が蓄積されていたらしく、その一撃は有栖のダインスレイヴやフィオのレーヴァテインの全力に匹敵する威力だったように見える。が…
-グォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!-
その一撃をもってしても、古代龍を仕留めるには至らなかったらしく、龍は大きな雄叫びを上げる。
「…ま、当然これじゃ倒せねぇよなぁ!」
そう、今の攻擊で勝負が決まらないのは予想の範囲内だ。むしろ本命はここから。
「いくよ…レーヴァテイン!!!」
古代龍の頭上よりも遥かに高く舞い上がったフィオが、レーヴァテインを手に急降下する。
-ウォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!-
ただならぬ気配を感じだった古代龍が再び熱線を放とうと口を開ける。
「うるせぇ、これでも喰らっとけ」
開けた口をめがけて手榴弾を投げ込み、その口を塞ぐように下顎目がけてショットガンを放つ。
強引に閉じられた龍の口の中で手榴弾が爆発、古代龍の口から煙が沸き立つ。そして…
「これで…終わりです!!!!」
龍の首を目がけて放たれたフィオの一閃。
それは金色の光を放ちながら暗い洞窟を照らす。
-ガァァァァァァァァァァ!!!!!!-
その一閃を受けてもなお、雄叫びを上げながらフィオへと迫る古代龍。
「フィオ!!!」
一撃を放った後で完全に隙ができたフィオの身を案じリーシャが叫ぶ。
だが、フィオは目を伏せたまま動こうとしない。
反撃の様子を見せないフィオに、そのまま古代龍が襲いかかるかにおもわれた瞬間、古代龍の首がぼとりと音を立てて地面へと落ちる。
どうやら決着は既についていたようだった。
俺はフィオの元へと歩み寄り声をかける。
「やるじゃねぇか…さすがは勇者だな」
「あはは、あれだけお膳立てしてもらいましたから。この勝利はここにいる皆で掴んだものですよ」
フィオはそう言って周囲にいる仲間たちに優しげな目を向ける。
「そうだな。ただ、まだ終わりじゃない」
「ですね」
俺の言葉にフィオが頷き、一点を見つめる。
そこは先ほどまで、炎の柱に塞がれて見えなかった場所。
そこに俺達を見下ろす1つの影があった。
「やれやれ…古代龍の炎で消し炭になっているとばかり思っていたけど、まさか生きているとはねぇ」
そう言うと黒い翼を生やしたスーツの男が、大げさにため息をつきながら俺達の近くまで降りてくる。
「…サジタリウス」
「まさか君までこっちに来ていたとは予想外だったね」
魔王軍部隊長、サジタリウスが俺を見ながらそう言ってきた。
「なんだよ、てっきり古代龍にビビって逃げたのかと思ったぜ」
「よく言うねぇ、逃げたのは君だろう?」
「俺のは戦略的撤退だよ馬鹿」
「そうかい、じゃあ今からもう一度逃げるかい?」
黒い翼を広げながら、嘲笑気味にサジタリウスが笑う。
「もう逃げる必要もねぇだろ、後はお前をぶっ倒して終わりなんだからな」
「ははっ!僕を倒すって?束になっても勝てなかったくせによく言うよ!」
「あぁ、そうだな」
「それに、君たちはあの龍との戦いで随分疲弊したみたいじゃないか!」
「あぁ、そうだな」
「それで魔赫を解放した状態の僕に勝つって?そんなこと不可能に決まってるじゃないか!」
「あぁ、そうだな…まぁ、場所がここじゃなければの話だけどな」
「は?君は一体何を言って「レーヴァテイン!!!」」
会話の途中でサジタリウスに斬りかかるフィオ。
寸前のところで、サジタリウスが辛うじて避けるが、その顔には焦りが見える。
「…勇者が会話の途中で斬りかかるとか、本当に品がないなぁ!」
「貴方にどう思われようが結構です!」
「くそっ!調子に乗るなよ!!」
サジタリウスはフィオの猛攻を躱しながら、反撃の機会を伺う。
だが、その機会と踏んで黒い翼を展開した瞬間、フィオが放った斬撃によってその片翼が吹き飛ばされる。
「なっ…!よくも僕の翼を!!!」
怒りとともに魔赫の力を強めるサジタリウス。
その怒りに呼応するように、溢れ出た魔赫はサジタリウスの失った片方の翼を埋めるかのごとく、赤黒い腕を形成する。
その腕の形はまるで、悪魔を想起させるような気味の悪いものだった。
「これが彼の持つ魔赫の力。なんだかすごく禍々しいですね…」
「…まぁ、魔王由来の力って話だからな」
「どこまでもこの俺をコケにしてくれた代償、今この場で払ってもらうぞ!」
先ほどの戦闘で使っていた双剣を呼び出しながら荒々しく叫ぶサジタリウス。
魔赫の力が強まったことに起因しているのだろうか。
サジタリウスの口調が代わり、攻撃的な姿勢を隠さなくなっている。
「代償云々はさておき、ここで決着つけるって意見は賛成だ。今度こそきっちり葬ってやるよ」
言いながら、スキルでマスケット銃を呼び出し、再度サジタリウスに向き合った。




