第13話〜眠れる部屋の王女〜
「ありがとう!とっても美味しかった!!」
塩焼きそばを完食した有栖は満面の笑みだった。
「今日は予定決まってんのか?」
「うん、一応決まってるよ。隣国との同盟締結のために王様と謁見するの」
「それお前がやんの?普通宰相とかの仕事じゃねぇか?」
「人手不足で交渉に長けた人材がいないんだよ、まぁ私も苦手だけど、一応聖女として名が知られているから話は聞いてもらえると思うから」
「なるほどなぁ。ま、頑張れ」
「遊斗は今日どんなスケジュールなの?」
「とりあえず日中は部屋の掃除だな。最近はティアナさん1人で家事回してた関係で使ってない部屋の掃除は出来てなかったらしくて、その辺を頼まれてる」
「ははっ、やっぱりあなたから掃除っていうワードが出るの面白い!」
「うるせー…食ったんならとっとと行け」
「はいはい、じゃお互い今日も頑張ろうね!」
軽口を言い合いながら有栖と別れる。
同じ転生者として、気兼ねなく話せるあいつの存在は有り難い。
今後も友好的な関係を築いていきたいものだ。
「さて、じゃあ食器片付けたら掃除でもしますかね」
―
――
―――
部屋の掃除と一口にいっても、王宮内にはかなりの数の部屋がある。
しかし財政難や人材不足が重なり、実際に使われている部屋は全体の3割ほどだそうだ。
つまり…
「残った7割を掃除しろってことか…」
話していて気がついたことだが、ティアナさんはかなり人使いが荒い。
まぁその分よく気が回る人だし、自分もかなりの仕事人なので文句を言うつもりはないが、もう少し手心が欲しいところである。
「さて、じゃあこの部屋からやっていくか」
適当に部屋を選び中に入る。
「おぉ…」
そこには蜘蛛の巣がびっしり張り巡らせた埃っぽい空間が広がっていた―
という予想をしていたのだが、それはあっさりと裏切られた。
眼前に広がっているのは手入れが行き届いたきれいな部屋と大きなベッド。
そして―
ベッドでは金色の髪の美少女がすやすやと寝息を立てて眠っていた。
「やべ、人がいたのか…」
この一体は空き部屋だけだと思っていたので、人がいるのは完全に予想外だった。
そしてこの部屋の内装的に寝ているのは恐らく、かなりの権力者。
この王宮にいる権力を持った若い女性、それは必然的に
「王女様、か…」
意外な形でこの国の王女との初対面を迎えてしまった。
とはいえ女性が(しかも王女が)寝ている部屋に無断で立ち入ったとすれば、社会的にも肉体的にも抹殺されても文句は言えない。
幸いまだ目を覚ましていないようなので、俺は音を立てないようにそそくさと撤退を図る。
ゆっくりと扉を開き、あと一歩で外に出られる。
勝ったと思った瞬間に
「あら、見慣れない顔ですね」
後ろから声をかけられてしまった。
「あ、これはその…」
「もしかして貴方がお父様が仰ていた新しい執事さんですか?」
「あ、はい。ユート・クオンです」
「やはりそうだったのですね、こんな格好ですみません。私はミナ・ヴェレストリアと申します」
「…エドワード王から名前だけは聞いてますよ」
「父にはもう会ったのですね。もうお父様ったら。私にも知らせてくれたらその場でお会いできたのに」
「あはは、まぁ急な話だったんで」
「それで、私に何かご用事があったのでしょうか?」
「あ、いえそれが…」
変に取り繕っても仕方がないので、俺は素直に掃除する部屋を間違えたことを伝える。
「そういうことだったのですね。王宮も広いですから慣れないうちは仕方ありませんよ」
「すんません…じゃあ俺もう行きますんで」
「えぇ、お話できて嬉しかったです。ではまた後ほど」
「後ほどって…?」
「ふふ、すぐに分かりますわ」
気にはなったがいつまでもこの部屋に留まるわけにはいかない。
俺はミナ王女に軽口会釈をしてから部屋を出た。
「はぁ…問題にならなくてよかったぜ…」
王女の部屋に突入という、一大ハプニングに見舞われ朝からどっと疲れたが、気を取り直して掃除を開始する。
聞いていた通りかなり部屋数はあったが、何とか午前中には掃除を終わらせることが出来た。




