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第12話〜もう一つの物語act2〜


「…またこんな夢」


 こっちに来てから何日かに一度は、前の世界で過ごしていた日々の夢や、転生した日の夢を見る。

そしてその度に少しだけ胸が締め付けられる。


「はぁ…自己嫌悪だ」


挿絵(By みてみん)


 どんなに思い返して焦がれても、両親とともに暮らした日々はもう帰ってこないのに。

この世界で生きていく覚悟を決めるしかないのに。


 そんな虚無感に浸りながらも、身支度を整え聖女としてのスイッチを入れる。


「よし、今日も頑張らなくちゃ」


 意気込んで部屋を出てみたものの、嫌な夢を見たせいで随分早く起きてしまったのか、外はまだ朝日も登っていない時間だった。


「とりあえず魔法の練習でもしようかな」


 私は毎日の日課である魔法の練習をするため中庭に出てきた。


「それじゃ…行くよダインスレイヴ」


呼びかけると、私の胸の辺りに小さな光が生じ、魔法の杖ダインスレイヴが現れた。(見た目はどう見ても剣だけど)


 ダインスレイヴは私が転生をする際に女神様から授かった物であり、世間一般では聖遺物と呼ばれる代物らしい。

 なんでも所有者の魔力を何倍にも増幅させる効果があるらしく、私がこの世界で戦力として数えられているのは、間違いなくダインスレイヴのおかげだ。


「まだ朝早いから大きな音は出せないよね、そしたらあれ、やってみよっかな」


 私はダインスレイヴを逆手に構えてから、小さな小瓶を取り出して、そこに私の回復魔法を凝縮し、流していく。

そうすると薄ピンク色の液体が、少しずつ瓶に溜まっていく。


 これはポーション生成と呼ばれる回復薬を作る魔法だ。

 少しの怪我であればこの薬を飲むだけで一瞬で回復することができるため、どこの国でもポーションはかなり重宝されている。

 聞くところによれば、かなりの高値で取引されているため、これを量産して販売すればこの国の財政難も少しは緩和されるかもしれない。


まぁ今の私の魔力量ではこの小瓶一本分の量しか作れないので、そんな話は夢のまた夢ではあるのだが…


「‥はぁ、やっぱりしんどいなぁこれ」


 そのまま3分ほど魔力を込め続け、なんとかポーションを作成することができた。


−−

−−−


「ふぅ‥とりあえずこんなもんかな」


 その後もなるべく光や音の出ない物を中心に1時間ほどトレーニングを続けていたが、魔力の消耗を感じてきたため、切り上げることにした。

 魔王軍はいつ攻めてくるか分からない以上、練習で魔力や体力切れを起こすなど、もってのほかだからである。


「でもさすがに魔力制御系の練習ばっかりだったから少し疲れたな‥」


 ほどよい倦怠感に包まれながら王宮に戻る。練習を始めた時間もだいぶ早かったので、まだ誰も起きてはいないだろう。


「私も部屋で少し休もっかな」


 そう思っていたのだが、意外なことにキッチンに明かりがついていた。

 練習に行くときは消えていたはずなので、誰かが起きてきたのだろうか。


 気になって中を覗き込むとそこには私と同じ世界から来た転生者の青年がいた。


「ま、大体こんなもんでいいだろ」


「もう起きてたんだ?」


「おぉ聖女、早いな」


「聖女は止めてよ…普通に有栖でいいから」


同郷の人から聖女と呼ばれることにはさすがに抵抗があるので、そう言って訂正する。


「そうか、じゃ有栖」


「うん。それで遊斗は何してたの?」


「ん?あぁ、これ作ってたんだよ」


そういうと彼は出来立ての料理を見せてきた。


「これって、もしかして‥!」


「焼きそばだよ。食いたいって言ってたろ?まぁ、ソースはなかったから塩焼きそばだけど」


「私のために作ってくれたの?」


「そりゃお前以外に日本の料理をリクエストする奴なんていないだろうしな」


「あはは、確かに!」


「こっちの食材で作れるか分からんかったから早めに作り始めたが、まぁ一応何とかなったわ」


「でも意外だよ、早起きして仕事するタイプには見えないのに」


「お前に媚び売っとく分には損がないと思ってな。有事の際優先的に助けてもらえそうだし」


「うわぁ‥ほんとそういう事言わなきゃいいのに‥」


 性格は相変わらずねじ曲がっているが、仕事に関しては真面目に取り込む意思があるようだ。なんとも意外な一面である。


「ねぇ、これ今食べてもいい?!」


「別にいいけど、朝から焼きそばとか重くね?あと太るぞ」


「早くからトレーニングしてたからおなかすいちゃって、あと後半はほんとうるさい」


何だかんだ言いながらも、すぐに器に盛り付けて私の席に料理を運んでくれる遊斗。

料理からはまだ湯気が出ていてとても良い香りがする。


「じゃあ、いただきます!」


死と隣合わせの残酷な異世界。

ここで生き抜く覚悟はまだ固まっていないけれど、こうして暖かくて美味しい料理が食べられるなら、少しはこの生活も悪くないかもしれない。


そう思えた朝だった。

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