第117話〜黄金の矢〜
突然の魔力の大幅な上昇。
それと同時にサジタリウスの背中から真っ白な翼が生えてくる。
「見せてあげるよ天馬の力を、ね」
そう言うと、彼は空高く舞い上がる。
「なっ、アイツ飛べるわけ!?」
「ちっ、厄介だな…」
遠距離攻撃の手段はあるものの、俺とリーシャには空を飛ぶ手段がない。
「大丈夫です!任せてください!」
そう言って、旗色が悪くなった俺たちの代わりにフィオが前に出る。
彼女は足元に魔法陣を展開し、そのまま空に浮かび上がった。
「へぇ、さすがは勇者様ってわけだね」
「あなたの相手は私です!」
フィオは剣を構え、そのままサジタリウスに突進する。
「全く、そんな単調な攻撃が通用するはずがないだろう?」
彼は少し呆れながら、手を前に突き出す。
それを合図に、フィオ目がけて無数の矢が放たれる。
「フィオ!」
リーシャがフィオの身を案じ声を上げるが、フィオは一切スピードを緩めず矢の雨に突っ込む。
そしていざ矢に当たる直前、前方に魔法陣を展開させその攻擊を受け止める。
「このまま…押し切ります!」
フィオはそのまま一直線にサジタリウスに近づいていく、近接戦に持ち込めれば分があるのは彼女の方だ。
だが、当然それはサジタリウスも分かっているらしく…
「やれやれ、そう簡単に君を懐に入れるはずがないだろう?」
真っ向から近づいてくるフィオを嘲笑するように、サジタリウスは一層高く舞い上がる。
フィオの魔法移動と比べて翼を持つ彼の方が速度に分があるらしく、少しずつフィオとの距離が離れていく。
「くっ…!」
「ふふふ、翼を持たざるものが僕に敵うはずがないだろう!」
そう言って高笑いするサジタリウス。
その傲慢な態度は鼻につくが、やまない攻擊を防ぎながら、スピードでも勝てないとなると、このままではいずれフィオが落とされるのも事実。
となればどうにかして先に奴を地面に落とすしかないが、どうすれば良いか…
ふと、頭の中にとある神話の話がよぎる。
それは翼を作った男が太陽に近づきすぎた結果、その翼を熱に溶かされて落下死するという話だ。
傲慢になりすぎればやがて地に叩き落される…なるほどな。
「リーシャ、まだ曲がる矢は射てるか?」
「時間的にあと一発くらいなら大丈夫だけど…」
開幕から全力を使ったことで残り時間が限られているが、一発撃てれば充分だ。
「じゃあ俺の合図でそいつをサジタリウスに射ち込んでくれ」
「いいけど、一射でアイツを仕留めるのは無理だと思うわよ?」
「仕留めるのが目的じゃねえよ、狙うのはアイツの翼だ」
「翼って…それでも矢で穴を空けたくらいじゃ射ち落とせないんじゃない?」
「大丈夫だよ、いいから俺を信じろ」
「アンタがそこまで言うなら…分かった」
一瞬戸惑った様子だったものの、すぐに目を閉じて神経を研ぎ澄ませるリーシャ。
それに応えるように、俺もリーシャに攻撃の合図を出すべくタイミングを図る。
「狙い、定まったら言ってくれ」
「私を誰だと思ってんの?いつでもいけるわよ」
「りょーかい」
「そっちこそ、早くしないと射てなくなるわよ?」
「焦んなって…まだ待てよ…あと少し…もうちょい……今だ!」
「いっけぇぇぇ!!!」
俺の合図で、リーシャが全力の一射を放つ。
魔力をありったけ乗せたその矢は金色の光を放ちながら、サジタリウスへと向かっていく。
「へぇ、この僕に弓で勝負を挑もうって?ずいぶんと身の程知らずがいたもんだね、なら…!」
自身に向かってくる矢を視認すると、サジタリウスは余裕の笑みを浮かべながら自らも弓を召喚し矢を番える。そしてリーシャの金色の矢を狙って、反撃の一撃を放つ。
「リーシャ!落とされんなよ!?」
「そんなの!分かってるっつーの!」
リーシャとサジタリウス、それぞれが放った矢が衝突しそうになった瞬間、リーシャの金色の矢が一気に進路を変える。
そのままサジタリウスの放った物を躱すと、弧を描くような軌道でサジタリウスへと向かっていく。
「へぇ、面白いことするね。なら僕も…」
サジタリウスが手を返すような仕草をした瞬間、金色の矢に避けられそのまま空を切っていたサジタリウスの矢が反転し、凄まじ速度でリーシャの矢へと迫っていく。
「あぁ、もう!しつこい!」
リーシャが再度軌道を変えようとするが、寸前のところで彼女の全力開放の制限時間が到来し、金色の矢はその光を失ってしまう。
「ふふ、残念だったね」
状況を察したサジタリウスが笑いながら、それを射ち落とそうと自身が操る矢のスピードをあげる。
再びそれらがぶつかりそうになった刹那…
「残念なのはてめぇだ、ボケ」
サジタリウスの矢に鉛弾が当たり、その軌道が変わる。
当然その弾の出どころは俺の拳銃…なんとか矢がぶつかる瞬間に狙撃に成功したというわけである。
「ちっ!小賢しいことを!」
サジタリウスは咄嗟に身を捩って、ギリギリのところでリーシャの矢を避ける。
「惜しかったね」
彼は勝ち誇ったように嫌味な笑みを浮かべるが…
それを見たリーシャが笑いながら言い放つ。
「惜しかったのはアンタよ、ばーか」
リーシャの姿は、以前として童話に出てくるエルフそのままの姿、つまり…
-彼女の力はまだ制限時間を迎えてはいなかった-
瞬間、リーシャの矢は再び金色の光を取り戻しそのまま軌道を変えて翼に突き刺さる。
「くそっ、だがこの程度で私の翼は…まさか!?」
撃ち負けても余裕を崩していなかったサジタリウスがの顔に焦りが見え、慌てて突き刺さった矢を引き抜こうとする。だが…
「おせぇよ」
瞬間、魔力付与されていた矢から電撃と炎が迸る。
そして…
その2つの魔法は巨大な爆発を巻き起こし、サジタリウスを撃ち落としたのだった-




