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第109話〜ドワーフ族の長〜


「さてそれじゃあ用件を聞こう、と言いたいところだが、まずは自己紹介でもしようか。儂はドワーフ族の長、トワリンだ、名乗るのが遅れてすまないね」


俺達が座ったのを見計らって、ドワーフのリーダーがそう言ってこちらに頭を下げてくる。


微笑みながらそうやって自己紹介をしてくる様子を見るに、今のところ敵対する意思はないようだ。


「こちらこそご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。勇者のフィオ・リストレールです」


トワリンの態度に少し焦った様子で、フィオが慌てて挨拶をする。


「エルフのリーシャです」


フィオに続いて形式的な挨拶を交わすリーシャ。相手がレイシェルの知人であってもその辺りの対応は変わらないらしい。


「あぁ、そんで俺が…」


「転生者の久遠遊斗くんじゃな、待っておったよ」


「…は?」


トワリンから発せられた予想外の言葉に、思わず驚きの声が漏れる。

勇者であるフィオや、友好関係にあるエルフのリーシャを知っているというなら分かるが、何の接点もない俺を知っているというのはあまりに不自然だからだ。


しかも俺が転生者である事まで知っているとは。


「戸惑っているようじゃな。まぁ無理もないさ」


「…俺のことをどこで知った?」


「そう警戒しなさんな。お前さんの事は古い知人から聞いていただけさ」


「…古い知人、レイシェルか?」


「いや、彼女ではない。だがまぁその話は後でゆっくりしてあげよう。それよりもまずは改めて、君達がここに来た用件を確認させてもらおうかね」


トワリンは動揺する俺を諭すように笑うと、強引に話を本題へと戻す。


「あ、えっと…私達がここに来たのはドワーフ族と同盟関係を結ぶためです」


急に話が変わり少し戸惑いながらも、フィオが来訪の目的を明かす。


「ふむ。やはりそうかね」


「あなたさっき、私たちがここに来た理由を知ってるっていたわよね。それならここに来るまでに何があったのか、大方の事情は把握してるんじゃない?」


「確かに、ある程度の情報は入ってきている。ルプスの里が魔王軍に襲われたと耳にした時は、儂もちと焦ったよ」


リーシャの問いにトワリンがそう返すと、リーシャは待ってましたと言わんばかりに彼に詰め寄る。


「そうでしょう?中立国のエルフでさえ、魔王軍は侵攻をかけてきた。これってつまりもうどこの国が襲われてもおかしくないって話だと思うわよ」


「なるほど、それは我がドワーフ族であっても例外ではない、と?」


「えぇ、少なくとも時期に本格的な侵略対象にされるでしょうね」


「なるほど、故にお前たちと手を組むべきだというわけかい」


「ええ。一考の余地はあると思うけど?」


「はは!あの堅苦しいエルフの中にこんな気の強いお嬢さんがいたとはな!」


リーシャの説得を聞き終わった途端、手を叩いて笑い始めるトワリン。


「何よ…?何が面白いわけ?」


「いやぁなに、お前さん達と組むのがまるで安全だとでも言う口ぶりが面白くてな」


「…実際味方は多い方がいいでしょ?」


「そうじゃな…お前さん達が本当に味方なら、な」


トワリンは突然笑うのを止めてそう言い放つ。

刹那、周りの空気が一気に変わるのを感じる。


「それって…一体どういうことよ?」


「言葉通りの意味さ。儂らの縄張りに魔王軍を連れてくるような連中が本当に仲間になり得るのか…族長としては確かめねばならんからな」


口調は相変わらず優しげであり、表情からも敵意は一切感じない。

だが、言葉では表せないほどの威圧感がその場を支配しており、その空気の中心にこの男がいることもまた疑う余地がなかった。


その空気に気圧されリーシャが言葉を失っていたが、そのバトンをフィオが受け取って話し始める。


「あの、魔王軍を連れてきたと言うのが良くわからないのですが…」


「そうかい?だが、実際にお前達がここを訪れたことで魔王軍が儂らのアジトを嗅ぎつけたようじゃが?」


そう言うとトワリンはどこからか光る鉱石のようなものを取り出し、俺達の前に差し出してくる。


目線をそちらに向けると鉱石の中に何やら人影が映っているのが見えた。


目を凝らしてその中の人影を見てみると、その男は大量の魔物を引き連れて歩いており、その目的地がこのドワーフのアジトである事が分かった。


「…これって」


「真ん中に写っておるのは魔王軍部隊長序列第4位‐魔弓のサジタリウスと恐れられた男じゃ。そんな大物を差し向けてくるとはお主らはよほどドワーフを潰したいと見える」


「それは誤解です…!私達はただ同盟を組みに来ただけで…!」


挿絵(By みてみん)


フィオが慌てて釈明するが、トワリンは聞き耳を持とうとしなかった。


「だが、現実に部隊長が攻めてきておる。それは厳然たる事実だと思うが?」


「それはっ…!」


「例えお前さんらが本当に悪意がなく、運悪く部隊長に尾行されておっただけだとしても、そんな迂闊な連中を歓迎できる道理はないじゃろう」


「…」


返す言葉を失ったらしく、フィオが完全に押し黙ってしまう。


まぁ良く頑張った方か。

俺はフィオを庇うように一歩前へと出ると、


「…それで?仮に俺達が魔王軍を連れてきていたとしたらどうする?」


一時の静寂を裂くように挑発的にそう告げた。


「…ほう、それは面白い問いかけじゃの」


俺を一瞥しながらトワリンが返答する。

同時に、より一層辺りの空気が張り詰めていくのが肌で感じられた。



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