第1話〜ある意味規格外な転生者〜
2024/11/09
挿絵を追加しました。
これからこれまでのエピソードにも徐々に挿絵を増やしていこうと思います!
【異世界転生】
何らかのきっかけによって、自分が暮らしている世界とは異なる次元の世界、即ち異世界に転移することを指す。
近年ではすっかりお馴染みとなった言葉だ。
そしてこの俺、久遠遊斗もそんな時代の波に乗り、まさに今異世界転生者になろうとしている。
その証拠に俺の目の前には、死んだ人間を異世界へ送り込むでお馴染みの女神様と思しき女性が立っている。
不幸にも18でこの世を去ってしまった俺の、輝かしい第2の人生が今始まろうとしているのだ!!
…しているのだが。
「はぁぁ…」
美しい女神様は俺の顔を見るなり心底呆れたように、深い溜め息をついていた。
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「えーっと、久遠遊斗さん、でいいんでしたよね?」
「はい!!そうです!女神様!」
「はぁ…ですよね…」
俺の軍人バリの返答にも嫌そうに答える女神様。
なんかやる気ないなこの人…さてはダウナー系ってやつなのか?
「えー、あなたは不幸にも命を落としてしまいました、その時の記憶はありますか?」
「はい!学校の通学途中、駅のホームで少女を救けるために、迫りくる電車に跳ねられました!」
「それ、本気で言ってます…?」
全く嘘を言ったつもりはないのだが、なぜか女神様が俺に疑いの眼差しを向けて来る。
「はい!本気であります!」
「はぁぁぁ…」
俺の返答に女神様は先程よりも更に大きな溜め息をついてみせた。そして大きく息を吸い込み…
「実際のあなたの死因は!駅のホームで駅員さんに注意されたにも関わらず!歩きスマホをしていたために足を踏み外してホームに転落!そのまま迫ってきた電車に跳ねられた!こうでしょう!?」
端正な顔つき、そして気品のある立ち居振る舞いからは想像も出来ないほど、ものすごい剣幕で怒鳴られた。
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怒鳴られたことに不服そうな顔をしていると、女神様が呆れながら話を続ける。
「本来この場所に来られるのは、世のため人のために行動する善良な心を持ちながらも、不幸な事故や事件に巻き込まれ命を落としてしまった人だけなんです…」
「そうなんですか?」
「そうですよ…転生者というのは転生先の国を救うために召集される人達なのですから、悪人や自分本位な人を送り込むわけにはいかないでしょう?」
「なるほど…じゃ、俺はまさに適任ってわけですね!」
納得した顔の俺を訝しむように見てくる女神様。
「なんでそうなるんですか…?歩きスマホして勝手にホームに落ちて轢かれて、駅員さんや通勤通学途中の人に迷惑をかけまくったあなたが適任なわけないでしょう?」
「いや、でも人助けのために命を落としたわけですし」
「どの口が言ってるんですか、それ…」
なるほど、どうやらこの人の俺に対する信頼度はゼロのようだ。
勝手に呼び出しておいて実に不当な扱いである。
「本当ですって女神様。実際俺はあの瞬間、一人の少女を救うために悪の尋問官の一人と激闘を繰り広げてたんですから!」
「えーと、それはどうやって…?」
「もちろん、スマホでですけど。知りません?幻心。最近流行ってるんですよ」
「つまり…あなたはスマホの中で人助けをした気になっていたと…?」
「いや、本当にしてたんですよ、人助け」
「はぁ…なるほど…大体事情は分かりました…」
俺が自信満々に答えると、何かを察したように絶望した顔をする女神様。
「あなたが死ぬ瞬間、たまたま人助けをした気になっていたから、システムがあなたを善人と誤認して転生者として送り込んでしまったようですね…」
「いや、俺は善人ですけど…」
「はぁ…これ作ったのどこの業者かしら、ちゃんとテストとデバッグしたわけ?適当な仕事して、これだから業務委託は…」
俺の言葉を無視して、随分と俗っぽい言葉を並べる女神様。
本当にこの人俺に対する扱いが雑である。
「あの…そんなに俺が来たのが不服なら転生させずに追い返せばんじゃないですか?」
俺の指摘に対して女神様は頭を抱えながら答える。
「出来るならそうしたいのですが…転生システムに選ばれた人は必ずどこかの世界に飛ばす決まりになっているんです。あなたをどこかに送るまで、次の転生者を招けないんですよ…」
「そうなんですか?じゃあちゃちゃっと飛ばして下さいよ」
「簡単に言わないで下さい…これはとってもシビアな問題なんですよ?」
「はぁ…なるほど?」
よくわからん、という顔をしていると女神様は半分諦めたような顔をしながら俺に問いかける。
「一応聞きますね久遠さん、もしあなたが勇者として異世界に転生したとしたらどうしますか?」
「うーん?勇者って偉いんですか?」
「まぁ世界の命運を握る方ですから、それなりには…」
「じゃあ、世界を救う振りだけしながら適当に豪遊しますかね!」
「はぁ…聞くんじゃなかったです…」
この世の終わりのような顔を浮かべる女神様。
「あれ、俺なんか変なこと言っちゃいました?」
「もう頭が痛いです…こんな人にどこかの世界の命運を託さないといけないだなんて…」
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俺の転生先で、しばらく頭を悩ませていた女神様だったが、何か名案が浮かんだようで意を決したように頭を上げた。
「そうだわ。既に転生者がいる世界に行ってもらいましょう。同じ世界に2人の転生者を送るのはルール違反ですけど…もうそれしかありません…!」
「よく分かんないですけど、その既にいる転生者ってのと協力して世界を救えとかいう話ですか…?」
「いえ、あなたは何もしなくて大丈夫です。どこかの村人として転生させますから、世界はもう一人に任せて、気楽に余生を送ってください」
彼女は優しい笑顔を向けながら俺にそう告げる。
どうやら俺への期待は皆無なようだ。
まぁ個人的にそっちの方が楽でいいけど。
「そうと決まれば、早速転移を始めますね♪」
悩みが解決した途端さっさと俺を飛ばしにかかる女神様。
俺の周りを光り輝く魔法陣が取り囲む。
「いやいや!まだ色々あるでしょ!?ほら転生特典の能力とか武器とか!」
せっかくの異世界転生だ、その辺りはしっかりしてもらわないと困る。
「では特別にあちらの世界でも意思疎通が取れるように言語変換能力を差し上げますね♪」
「それデフォでついてくるやつでしょ!普通!?」
「細かいことはいいのです。こほん。あなたに神のご加護があらんことを。それではお気をつけて」
俺の訴えを無視して転生は進む。
光に包まれながら最後に見たのは、笑顔で手を振る女神の姿だった。