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第7話


「ねえ、イノ」


「なに?」


「……コスプレに興味ある?」


「コスプレ?」


「……そう、コスプレ」


 僕が焦っているとソフィヤは押し倒したまま言ってるとは思えない言葉を吐いた。


「どうしてコスプレ?」


「わたし、コスプレしてるんだー」


「……そうなの?」


 そう言うとソフィヤは僕の上からどいてスマホを弄り始めた。

 僕はその気に乗じて起き上がる。


「あったあった。ほら、これ見て」


「え、これソフィヤ?」


「そうだよー」


 ソフィヤはしばらくスマホを弄ると僕に見せたい写真を見つけたみたいでスマホのアルバムの一覧を見せてきた。

 某VTuberの銀髪美少女キャラや小説投稿サイト、”小説家になれ”が初出の有名ライトノベル小説原作の銀髪エルフ、そしてアイドル育成ゲームの元祖とも言われる作品の銀髪アイドルキャラだ。

 こちらはリアルアイドル顔負けのクオリティの高い衣装に身を包んでいる。

 全てが銀髪美少女キャラでしかもその全てが巨乳だ。

 そのキャラクターたちはソフィヤの顔立ち、体型にマッチしていた。

 まるでキャラクターが本当に現実化したような──そのくらい再現度が高かった。


「すごいね、綺麗……」


「そう? えへへ、ありがとう!」


「あっ、うん」


 つい本音が口から出ていた。

 ソフィヤは少し照れたようにはにかんだ。


「それで? 僕にコスプレに興味があるかって言ってたけど」


「うん! そうなの! イノにしてほしいコスがあってね」


「してほしいコス?」


 コスというのは恐らくコスチュームの略称だ。

 よく莉沙があのイベントのコスは良かったとかあのイベントのコスはイマイチだったとか愚痴を聞いたことがある。


「そうそう! たしかこの辺に──」


 ソフィヤはベッドから離れるとクローゼットを開けてごそごそと探し始めた。

 僕に着てほしいコス。

 ちょっと気になるけどちょっと怖い。

 いったいどんなコスが出てくるのか。


「イノはコスプレってしたことある?」


「ないよ?」


 学園内のオタク男子や女子に何度か勧められたことはある。

 だけどコスプレなんて恥ずかしいから全部お断りしていた。


「そうなんだ。じゃあそんなコスプレ初心者のイノにはこれを着てもらおうかな?」


「な、なに?」


「じゃじゃーん! ミニスカメイド服ー!」


「メイド服⁉ しかもミニスカ⁈」


「そうだよー、かわいいでしょ? 日本のメイドは海外でも人気あるんだよー」


 僕が恐る恐ると問い掛けるとソフィヤは満面の笑顔でミニスカ仕様の完全にコスプレするために作られたであろうメイド服を見せてきた。

 そこで僕はソフィヤの言葉に違和感を覚えた。


「……日本のメイド?」


「うん。日本のメイドだよ」


「そう、日本のメイド……」


 どうしてわざわざ日本のってつけるんだろう。

 そのことが少し気になったけどそんな僕の疑問を察することもなくソフィヤは話を進めた。


「それより早く着ちゃお!」


「えっと、着るとは言ってないんだけど」


「ええー! 着てくれないの⁉」


 ソフィヤは僕が着るつもりがないことを心の底から残念そうな声を上げる。

 普通の、ミニスカじゃないメイド服ならまだしも、ミニスカメイド服は恥ずかしい。


「だって、恥ずかしいし」


「恥ずかしくないよ! 今はわたししかいないから」


「だから恥ずかしいんだけど……」


 学園から離れてのコスプレ。

 なんだか本当に趣味でやってるみたいで恥ずかしくなる。

 ソフィヤのお願いは聞いてあげたいけど。

 メイド服なんて……


「お願い着て! 一生のお願いだよぉ!」


「ちょっとソフィヤ⁉」


 ソフィヤは僕に抱きついてきて懇願する。

 ソフィヤの胸は規格外にデカい。

 その大きさは制服を着ていてもわかるほどで良い匂いするし、やばいクラクラしてくる。


「うー! 着てくれるまで離れないからね!」


「わ、わかった! メイド服着るから!」


「本当⁉ イノ大好き!」


 そしてギュッと抱きしめられてしまった。

 僕はもう死んでもいいかもしれない。


「じゃあ着替えてくるね」


「え? ここで着替えていいよ?」


「でも、恥ずかしいし」


 しばらくして解放された僕はミニスカメイド服を受け取ってベッドから立ち上がる。

 すると不思議そうな顔したソフィヤに止められる。


「? 女の子同士だし、わたしは平気だよ?」


「そうだけどソフィヤに見られるの恥ずかしくて」


「そうなの?」


「うん……同じ女の子だけど、ソフィヤは特別だから」


「……イノ」


 嘘である。

 僕は男の子だ。

 でも怪しまれないように少し恥じらいながら言ってみる。

 ソフィヤの瞳がどこか熱っぽく揺れた気がしたけど僕は言葉を続けた。


「そ、それじゃあ着替えてくるね!」


「あっ……うん、待ってるね」


 そして少し慌てるように僕は着替えるべくミニスカメイド服を持って部屋を出た。



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