第3話
「驚いたな、まさかソフィヤがうちの学園に通うことになるとは」
「えへへ、うん! わたし、イノリたちと同じ学校に通いたくて来たの!」
「一人で来たの?」
月丘祈莉転んだ騒動からしばらく。
どうやらソフィヤはうちの高校に転校しに来たらしい。
ソフィヤは凛花や由卯とも面識がある。
ソフィヤがうちにホームステイしてたときはよく四人で遊んでたっけ。
「ううん、途中までは送ってもらったよ? でもイノリが転んでたから慌てて来ちゃったの」
「ああ、それはタイミングが悪かったな」
「まぁ、普通は昔の知り合いが転んでるところに遭遇などなかなかしないよね」
「……悪かったね、転んで」
提案したの由卯だよね? なんで然も自分は関係ないみたいな顔してるの?
「そういえばイノリ、本当に大丈夫なの? 体、擦りむいたりしてない?」
「うん、大丈夫だよ。ほら、どこもおかしくないでしょ?」
そういえばと心配そうに覗き込むような形で下から僕を見るソフィヤ。
どぎりと、胸がざわつくのを感じつつも平静を装いながら一回転して見せてどこも傷付いてないことをアピールしてみる。
「んー……そうなんだけどぉ、心配なんだよぉー……」
「そう?」
「はは、ソフィヤは相変わらず心配性みたいだな」
「だね、ソフィヤと祈莉のやりとりでなんだか昔を思い出したよ」
そういえば昔はどんくさい僕はよくつまづいて生傷が絶えなかったっけ。
それでよくソフィヤに心配されてたような気がする。
「…………だって好きなんだもん」
「え? なんて?」
「な、なんでもないよー! イノリのおバカざむらい……」
「お、おバカざむらい⁉」
別に聞こえなかったわけじゃない。
ただ信じられないような恥ずかしい言葉がソフィヤの口から出たから聞き返しただけのつもりだったけど、ソフィヤは別の意味で捉えたみたいだった。
頬を膨らませて納得いってないというのがありありと見て取れた。
「そうだよ……イノリはおバカざむらいなんだよ! ふんだ」
「いじけてしまったな」
「いじけたね」
「え、ええ⁉」
ソフィヤは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
顔は明らかにご機嫌ナナメで怒ってますよーって訴えてるポーズにも見えた。
凛花と由卯はスポーツ観戦に来ている観客のように結果を淡々と語っていた。
……まったく、他人事だと思って!
「……ねえ、イノリ?」
「うん? なに?」
僕はどうしたものかなんて言おうかと考えているとまさかソフィヤから切り出してくるとは思わなくてどうしたのとソフィヤを見る。
「っ……なんでもなーいっ‼」
「あっ! ソフィヤ! どこいくの⁉」
「職員室ーー‼」
かと思えばソフィヤは走り出してしまった。
僕が大声で行き先を聞くと職員室とだけ答えて行ってしまった。
そういえばソフィヤはロシアからの転校生だ。
さすがにいきなり教室に行くわけには行かないんだろう。
「行っちゃったね」
「行っちゃったね。じゃないよ! なんでフォローしてくれなかったの?」
「フォローって言われても」
「さすがにあの中に入るのはね」
「なんだよ、あの中って」
なんなのそのニヤついた顔は! なんか納得jいかない。
「祈莉、口調戻ってるよ」
「う……これは」
「まあいいじゃないか。私たちは教室に行こう。あまりここで長話してると遅刻するぞ」
「そ、そうだね……」
由卯に指摘されて自分が素に戻ってることに気付いて口元に手を添える。
やばいやばい、こんなところを他の生徒に見られたら大変だ。
僕は反省して凛花の言葉に同調して教室に移動することにした。
「ねえねえ聞いた⁉ 今日うちのクラスに転校生が来るらしいよ!」
「聞いた聞いた! なんでもすげえ可愛い娘らしいぜ!」
「マジ⁉ うおおおおおおおお! テンション上がってきたああああ!」
教室についた頃にはクラスメイトたちの話題は噂の転校生の話題で持ち切りだった。
しかも転校生は意外にもうちのクラスに来るらしい。
凛花は同じクラスだけど、由卯は別のクラスで途中で別れた。
「相変わらず祈莉の隣の席は空いているな」
「うん、まあね……」
凛花が僕の隣の空いている席を見て言う。
そう、僕の隣の席は空席なのだ。
別にそれは今に始まったわけじゃない。
僕は、僕の隣の席の人は一年のときからいない。
なんでかはわからないけどとても寂しい。
「ドンマイ。じゃあまた後でな」
「うん、またね」
僕は自分の席に向かう凛花に軽く手を振って別れてから席に着いた。