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第2話

 僕や妹の通う学校はここ数年で共学化を実現させた元女子高だ。

 いわゆる基督教を主軸とした聡明な淑女を育て上げることに特化したカリキュラムが組まれていた。

 一部の上流層の特待生は受け入れたものの、それ以外は卒業生の親兄弟、親戚なんかの承認がないと入学すら許されない。

 部外者は徹底的に排除していた。

 鎖国のなかで更に鎖国するという鎖国の上塗りのような状況だった。

 ただそれも一九八〇年代くらいまでの話で九〇年代は以降は古い慣習は残ってたものの時代の流れと国内の少子化問題の波で薄れていったらしい。


「――それにしても、」


 僕は登校中、ふいに立ち止まってみた。


「「「え……?」」」


 すると何故か周囲の雰囲気が変わった。

 明らかに僕を意識した様子だ。

 どうしたの? なんで立ち止まってるの? 具合が悪くなったの? とでも投げかけられそうな雰囲気だ。

 まあそれでも周囲の人たちが歩みを止めることはなかったけど。


「祈莉、どうかしたの?」


「もしや、体調でも悪くなったか!?」


「ううん、そんなことはないの。ふたりともありがとう」


 左隣に男子一人、右隣に女子一人と一緒に通学路を歩いていた。

 僕の幼馴染である夜凪由卯よなぎゆう不知火凛花しらぬいりんかだ。


「そうか、それは安心した」


「凛花は心配しすぎだね。祈莉はもう大丈夫だよ」


「はは……うん、大丈夫」


 胸を撫で下ろす凛花。

 凛花は長い黒髪をポニーテールに結っている。

 何故かいつも刀を携えていて身長は165くらいで僕より高い。

 可愛い系というよりも綺麗系の顔立ちをしていて、よく漫画やドラマなんかのお嬢様学校とかに出てきがちな女子でありながら学園の王子様みたいな感じで学園での女子人気も高かったりする。


「でもいいの? 由卯。ボクと登校しても、」


「うん? ああ、ついに君も学園での立ち位置を理解したんだね。大丈夫だよ祈莉。なにせ、僕は学園では女装してる変人だと思われてるからね」


 由卯は女装が似合う中性的な顔立ちをした美少年だ。

 大和撫子然とした風貌で美少女の凛花と並んでも見劣りしないくらいで正に僕が間にいなかったら美男美女のふたりといった具合。


「そうなの? 結構注目されてるけど」


「ははっ、注目されてるのは僕じゃなくて祈莉と凛花じゃないか」


「それは……そうみたいだけど」


 凛花は学園では正義感が強くサッパリした性格をしている。

 だから男女関係なく人気が高い。

 対して由卯は人気とは程遠い位置にいるけど、ノリは良くて女装男子というところを除けば普通の男子とほとんど変わらない。

 喋り方が少しねっとりとはしてるけど。



「本当に美少女だと思われてるのかな」


「……気になるかい?」


「うん、気になる……」


 僕のちょっとした呟きに由卯が少し含みのある感じで問いかけてくる。

 莉沙にも登校中に気にしてみてみたいなこと言われたし、これからの学園生活のためにもはっきりさせたかった。


「由卯、お前まさか、祈莉に」


「くす、凛花。そんな怖い顔しないでおくれよ」


「じゃあ祈莉に何をさせるつもりなんだ」


 少し怖い顔をしながら由卯に詰め寄る凛花。

 対する由卯はいつものこといわんばかりに涼しい顔をして続けた。


「なあに、簡単なことさ」


「簡単……?」


「ああ、簡単さ。祈莉がちょっと大袈裟おおげさに転ぶだけでいい」


「転ぶ?」


 由卯の言葉に首を傾げる。

 確かに簡単ではあるけど、そんなことでわかるの?


「そんなことで、って顔をしているね。まあやってみたら答えはすぐに出るよ」


「わざと転ぶなんてそんな器用な真似が、」


「……やってみるよ」


「祈莉⁉」


 気付けば校門に差し掛かるところ。

 タイミングが良いか悪いかわからなかったけど試すにはいいタイミングだった。


「できるのか……?」


「うん、任せて」


 心配そうな凛花に笑顔で答える。

 凛花と由卯は僕が男だってことは知っている。

 小さい頃からの付き合いで幼馴染。

 由卯の提案で凛花が見てくれている。

 このふたりが見ていてくれたら何があっても大丈夫。


「しっかりね」


「うん、いってくる」


 由卯に頷くと、ゆっくりと校門を通り過ぎようと歩みを進める。

 由卯と凛花に見守れながら僕は──


「おはようございま──きゃあああ⁉」


「月丘さん⁉」


 めっちゃ大袈裟にこけた。


「月丘さん大丈夫⁉」


「怪我はない⁉ 足は?」


「へ? だ、大丈夫、です。少し、つまずいただけで。えへへ……」


「そっか。よかった」


 気付けば 僕は十人以上の男子や女子に囲まれて心配されていた。

 結構名前も知らない人も混じっていたけどどうやら僕は本当に学園の有名人みたいだった。


「イノリ……? 本当に大丈夫なの⁉」


「え……? 貴女は?」


 人混みを掻き分けて女の子が心配そうに僕に声をかけてきた。

 透き通るような鮮やかな背中ほどまである銀色の髪と瞳。

 華奢な体で日本人離れしたスタイルの良さ。

 ううん、これは日本人じゃない。


「覚えてないの? 小学生のとき、短い間だけイノリの家でホームステイしてたソフィヤ・ミローノヴナ・アルダーノヴァだよ……?」


「ソフィヤ……さん?」


 ロシア人だ。

 忘れるはずもない。

 ソフィヤのかつての主影を重ね合わせながら僕はどうしようもなく、動揺して色々な感情がごちゃまぜになって胸の高鳴りがしばらく鳴り止まなかった。


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