園田さんと名刺
ドキドキドキ
あぁ緊張してきた。
打ち合わせのメールから数日後、
今日はM&Pの晩羽さんが、打ち合わせで来ます。
ゴーレム建設の石さんは、別の日です。
「ちょっと落ち着いてください」
園田さんが、こっちを見ている。
「いや、でももうきちゃいますよ」
「まだ30分前ですよ」
「そうですけどー」
心の準備が、
ガイドでお客様の前に立つのとは、
また違った緊張感が、
受付のチャイムが鳴り、アルバイトの八木さんが、
お客様を、打ち合わせ室に案内し、オフィスにかえってきました。
「さぁ、行きますよ」
「は、はい!」
園田さんが立ち上がり、
私も立ち上がる。
おぼつかない足取りに見かねた園田さんが、
私に語り掛けてきました。
「打ち合わせってね?」
「はい?」
「元は楽器の演奏で、太鼓等のリズムを合わせるため、"打ち"合わせるというところから、来ている言葉なの」
「へぇーそうなんですか」
「落ち着いた?」
え、今の雑学でですか?
どうして落ち着くと思ったんですか!
おやじか!
でも、園田さんなりに緊張をほぐしてくれようと、考えてくれたんだと、嬉しくなりました。
優しい!
廊下を渡り、ドアをノック。
扉を開けて入った先には。
黒いスーツに黒い帽子、色白で細身の男性が立っていました。
「どうも!初めまして、マオウ&パートナーズの晩羽<ばんぱ>です」
「初めまして、綾部です」
"ちょうだいいたします"と名刺交換をした後、園田さんが雑談を始めました。
「お久しぶりです、お日様大丈夫でした?」
「園田さんお久しぶりです、いやー傘ささないと解けてしまいますわ」
知り合いなんだ、
あ、ばんぱってヴァンパイアか!
そういえば牙が見える。
「えっとー綾部さんは、初めましてですね 見ての通りの吸血鬼です!」
「よ、よろしくお願いします」
いや見てもわかんないし!
実物見たことないし!
って実物だったわ!
混乱してきた。
「ウチは人材派遣の会社をしとります、代表はマオウいいましてね?」
「マオウさんですか?」
「今は人間もモンスターもノーサイドやさかいに、幅広い人材を派遣させていただいてます。」
「へえぇー ノーサイドなんですね」
「そうなんですよ!なんでー吸血鬼も人間襲って血吸うたりしません、まぁ人が汗水流して働いたお金から、手数料すこーし頂戴してご飯食べてますんで、ある意味血吸うて生きてるようなもんですかね、汗と血は成分同じや、言いますしね?」
「は、はぁ」
よくしゃべるなぁ
小顔目指してるのかな?
「ほな、さっそくプラン見せてもらいましょか」
私たちは、今作っているダンジョンの計画を話ました。
「うーん、なるほどですね、なるほどですねー 分かりました!」
「どうでしょう?いい人いますか?」
「ウチに任しといてください、先祖がダンジョン出身のモンスターいますよー、具体的なプラン頂けたら、さっそく見積もり上げますわ」
「ざっくりで構いませんけど、いくらぐらいですか?」
「うーん、こんなもんちゃいますかね?」
園田さんは電卓の画面を見せられていました。
いまちょっと目がピクっとしたような?
「まぁ、ざっくりと なんでね? でもこれいいですねぇ ツアー客増えるんちゃいます?」
「そうねぇ、そうだといいんですけど、しかし、異世界も人件費は高いわね」
「あっちもあっちで、最低賃金上がっとりますからね、まぁ自分とこで雇うて、育ててーするよりかは、ウチに任せてもろたほうが、リスクも少ないし安い思いますわ。」
まぁよく口の回る。
私は、隣で二人の会話をふんふん聞いていました。
「ほな、決まりましたら、詳しい内容をメールしてください、すぐに見積もり送りますんで。」
「分かりました」
「じゃ、今日はこれで持ち帰らさせて頂きます。」
「ありがとうございました」
晩羽さんは帰っていきました。
窓から下を見ると、
「おお、傘さしてるさしてる!」
「目立つわよね、あの人」
すごく目立っていた。
「綾部さん、打ち合わせはどうだった?」
「なんというか、普通?というか、構えてた割には拍子抜けというか」
「何か特別な事してるわけじゃないわ、人と会話しただけだったでしょ?」
「はい」
「相手も人だからね、向こうだって多少は緊張してたと思うわ」
そうなのかな?
そうは見えなかったけど。
でもそう思うと、少し次回からは気が楽になる気がする。
「そうだ、園田さんは頂いた名刺は、ケースに入れているんですか?」
「いいえ?私はすぐに電子化して、スマホに入れているから、捨てるか、まとめてしまっているわね」
「ええ、そうなんですか」
「もう名刺アプリの時代よ?」
がっくり
私の名刺・・・捨てちゃうかな 晩羽さん
初めて交換したのに。
「ほら、私の名刺と交換しましょう」
園田さんが、自分の名刺を私にくれました。
私も、自分の名刺を園田さんに渡しました。
「これは捨てないで持っててあげるから、ね?」
「あ、ありがとうございます!」
やっぱり優しい!
園田さんが居てくれてよかったと
心から思いました。
現在、名刺管理アプリがいくつかありますが、
結局まだまだ紙の名刺は現役です。
頂いた名刺は、スキャンしてアプリに取り込みます。
そして紙の名刺が、机の引き出しに溜まっていきます。