園田さんと団子
とある日、私は本社で、経理の園田さんとお仕事をしていました。
本日は、仁和さんは"異世界戦闘責任者"の講習会に行っており、不在です。
1年に1回は、講習会に出ないと、営業許可を更新してくれないそうです。
「綾部さん、回収したアンケートを集計してもらえますか?」
「は、はい!分かりました!」
園田さんは、いつも落ち着いていて、クールな女性です。
ショートカットが似合っている、
仁和さんとは、違う方向の美人って感じだ。
いつもは大体、むずかしい顔でパソコンを見つめています。
喋るまでは正直ちょっと怖い人かと思ってました。
「アンケートなんて、やってたんですね」
「向こうのゲート前の村の、お土産屋さんのところに回収ボックスがあるのよ」
「そうなんですね」
私たちは、お土産屋さんに寄らないからね、どうりでみたことないわけだ。
BOXからアンケートを取り出し、私は綺麗に並べていく。
内容もまぁ、いたって普通のアンケートですね。
そういえば、いろいろな所でアンケートって見るけど、
あんまり答えた覚えがないなぁ。
抽選でよっぽど良いものとか、
欲しいものが当たるとかでないとねぇ?
めんどくさいじゃない?
個人情報もあるし。
「答えると、何か当選するんですか?」
「旅行券があたるのよ」
「おお、いいですね!旅行券。」
旅行券かぁ 使ってもいいし、売ってもいいよね。
旅行券なら、私はアンケートもやぶさかでないよ!
「私はもっと、高価な物でも良いと思っているわ」
「ええ!?旅行券でも十分じゃないですか?」
「もっと、うちを利用した沢山のお客様に、アンケート答えてほしいのよ」
「アンケートに期待しているんですか?」
「もちろん、アンケートは企業にとって、とても重要なのよ?」
おぉっと、この感じは?
仁和さんの眼鏡とポーズが見えた気がした。
園田さんは、私を見た後、パソコンの画面をチラっと見て、
再び私の目みて、話し出しました。
「アンケートの結果で、傾いた経営を持ち直した企業は、いくつもあります」
「そうですね。」
「こういったところから、新商品は生まれるんですよ」
「なるほどですね!頑張って集計します!」
「よろしくお願いしますね」
仁和さんのように、説明しだすかと思ったけど
思いとどまった?ような感じでした。
数時間後。
私が集計した結果を、園田さんがチェックしていると、
「こ、これは、早急に手を打たないと!」
「いやー色々書かれていましたね、気を付けないとですね」
やれ、"バスが揺れすぎる"
やれ、"ガイドの声がでかい"(たぶん仁和さん)
やれ、"お土産が高い"などなど
良い評価もありましたが。
「綾部さん、一番の問題はこれです」
園田さんが,指をさしたそこには、
"以前も参加しましたが、同じルートで飽きます"
"ユウシャはいつも森にいますけど、レベル上げですか?見飽きました"
という文でした。
「そうですね、たしかにいつも同じルートですよね?」
「新規ルートを、急がないとまずいわね」
園田さんは、体ごとこちらを向き、
いつもの落ち着きで、喋りだしました。
「綾部さん、三色団子は知っているでしょう?」
「はい、あの串に刺さっている、よくあるアレですよね?」
スーパーでよく見るよね。
あるのかな!?
食べたくなってきた。
「あれは、花見団子とも呼ばれててね?三色がそれぞれ四季を表しているの」
「あの、ピンク、緑、白 ですか?」
「そう、ピンクは春、緑は夏、白は冬ね」
「あれ、秋は?」
「なぜ、秋が無いのか、それはね?」
ふむふむ?
「秋が無い、"秋無い"と"商い"と"飽きない"が掛かっているのよ」
「へぇええー!」
普通に関心してしまった。
トリプルミーニングとは、
昔の人はすごいね!
「それほど、昔から商売人は、商品に飽きられるのを怖がったのよ」
「なるほどですねー」
「期間限定で、奇抜な味のお菓子やドリンクを出す会社もあるでしょう?」
「はぁ、たしかに」
きゅうり味とか ナポリタン味とかかな。
「あれは話題性や、限定商法もあったんだと思うけれど、結局定番の味がおいしいよねってならない?」
「あー、なりますね」
アイスも食べたくなってきた。
「ああやって色々出し続けることで、定番の味にも飽きさせないという、意味もあるのだと思うわ」
なるほどなぁ
「さて、新しい商品を提案しないと」
「商品というと、新しいツアーのルートですか?」
「そうね、何か意見はないかしら?」
うーん急に言われても。
「そうですね、今のところ勇者と一緒に、最初の森でレベル上げしているようなものですよね?」
「そうね」
「ゲームとかだと、勇者はレベルアップして、次の村やダンジョンに行くんじゃないですか?」
「やっぱりダンジョンがいいかしらね?」
そうだ、ひらめいた!
「じゃあ!最初のルートをレベル1としておいて、レベル2をダンジョン、レベル3を火山とかどうですか?」
園田さんが聞き入っている。
「勇者一行と一緒にレベルアップ! まるで勇者一行と一緒に冒険しているような、
そんな雰囲気が味わえます!みたいな?」
園田さんが止まっている。
安直すぎたかな?
「ど、どうでしょう?」
「いいわね、それ!」
「わ、いいですか!?」
やった、ちょっと嬉しい。
「早速、社長に提案して~予算が~稟議書を~」
園田さんがぶつぶつ言いながら、考えている。
私も何か、手伝いたいな。
私の案だし。
「じゃ、じゃあダンジョンから作ります?」
おそるおそる、尋ねてみると、
園田さんは、キリっとした目でこちらを見て、
「いや、ダンジョンも火山もいっぺんに作るわ!」
おお
園田さんがキラキラして見える!
いつもより生き生きとしてる。
園田さんは、経理よりこういう仕事をしたかったのでは?
と思えるほどの豹変ぶりでした。
「さ、忙しくなるわよ!とりあえず」
園田さんは、ゆっくり立ち上がり。
「お昼ごはんに行きましょうか?」
「はい!」
今日はなんだか、園田さんとの距離が縮まった気がする。
新規ルート!ワクワクするね。
他のアンケート結果も忘れないようにメモっておこう。
まぁ、お昼の後、コンビニに寄って
おやつに三色団子を買うのを忘れない
私たちなのだった。
とある自動車メーカーでは、アンケートの抽選で、新車をプレゼントしました。
そして結果を徹底的に盛り込んだ車が、メインターゲット層にヒットし、業績を持ちなおしました。
顧客のアンケートは、消費者が思っているより、ずっと価値のある物なのです。