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仁和さんとOJT

「さぁ、今日はツアーだよー、一緒に行きましょう!」

 朝礼後、間髪を入れず仁和さんが飛んできた。

 

 元気だなぁ。

 こうなんていうか、いい意味で大人気ない人って好きだな。

 "大人気"だけに。


 なぜか対抗意識が出たので、負けじと元気に返答しました。


「ツアーですね!ツアー行きましょう、でも不安です!」


 元気に不安も口にしておきました。

 入社してから、はじめての現場だからね。


「だーいじょうぶ、大丈夫、OJT、おーじぇーてぃー!」

「なんの歌ですかそれ、OJTってなんですか?」


 あぁしまった、時間が無いのに聞いちゃった。

 OJTの歌がどうしても気になってしまった。


「ふふん、お答えしましょう!」


 仁和さんはポーズをとって、懐から眼鏡ケースを出そうとしたけれど、

 時間が無い事に気が付いて、ケースをしまいました。


「現場へ向かいながら説明するよ!」

「よろしくお願いします!」


 現場へ向かうバスの中。

 ポーズは諦めたけど、眼鏡だけはかけた仁和さんが

 説明を始めました。


「OJTとは、On-the-Job Training のことだね、簡単にいうと、働きながら働き方を学びましょうねって感じの、従業員教育方法だよ。」

「はーなるほどー」


 説明会でやられたやつだわ。


「アルバイトだったり、今までも経験あるでしょう? すぐに現場で使える子に育つんだよー」


 眼鏡越しにドヤ顔が光る。

 確かに。

 言ってることは割と普通だよね?


「逆に、本社で座学、歴史やいろいろと勉強もしたでしょ?あれは、off-the-job training OFF JTとよばれているよ」

「なるほどですねー、仁和さんはOJT好きそうですよね?」


 なんとなく、そんな気がした。

 とりあえず行動!とか、とりあえず現場!とか

 私に仁和さんに対するイメージはそんな感じです。


「そんなことないよー 座学も大好き、というか喋るのが好きかな」

「そうなんですね」


 意外、と思ったけどそうでもないかな。

 確かに、ずっと喋ってそうだし、

 あんなに喋ってるから、

 ほほの筋肉がついて、小顔なんだろうか。

 私もたくさん喋るようにしようかな?

 余計な事を考えながら、会話は続く。


「ONとOFF、どっちの方が良いんですかねー?」

「どっちの方が良いということは無いよ、どっちも使えば良いし、その時に応じて最大の効果が出る方を選べばいいんだよ」


 頭柔らかいなぁ、

 頭柔らかいから小顔なんだろうか。


 本日も前回と同じルートをツアーし、案内します。

 今回は、とある企業の社員旅行だそうです。

 最寄駅で集合し、ゲートをくぐり、異世界のバスに乗り込みます。

 要所要所で仁和さんに教えてもらいながら、

 前回を思い出して、業務をこなしていました。

”世界が違う”という点以外では、普通のツアーと何ら変わりません。


「アァ!見テクダサイミナサン! 勇者様ガタタカッテイマスヨ!」


 指定の場所で、必ず戦っている勇者スタッフです。

 驚いた演技でお客様の視線を誘導し、盛り上げます。


 そういえば演技指導は受けてなかったなぁ。

 なんだかテーマパークのクルーになった気分。

 何かに似ていると思ったんだけど、それだわ。


 バスは、異世界の草原を走ります。

 お客様の盛り上がりも良好で

 このまま何事もなく終わるかと思ったその時、

 仁和さんが,運転手の関と小声で相談していました。


 関さんが、バスの速度を落としていきます。

 私は小声で聞いてみました。


「どうかしたんですか?」

「うーん、どうやらこの先のルートに、小型のドラゴンが出たらしくて。」


 あら?

 モンスターは皆雇われてるんじゃないのかな?


「どこかの従業員じゃないんですか?」

「ドラゴンはね、現代化についていけなかった種族の一つなんだよね」


 今の異世界になじめなかった種族もいるのね。


「じゃあまずいんですか?」

「この世界じゃ強い方だからね」


 関さんはゆっくりとバスを止めました。

 仁和さんが、お客様にしゃべり始めました。


「みなさーん、こちらの湖で少し、休憩をとりましょう、景色がきれいですよー」


「あおのちゃん!ちょっと時間稼いでおいてー!」


 そういうと仁和さんは、バスをさっと降りていきました。

 

「ええちょっと仁和さん!」


 もう見えないし!

 足速いなぁ 

 小顔だから風の抵抗が減って、あんなに早いんだろうか。

 おっとそれどころじゃなかった。


 関さんの案内で、お客様は湖のほとりで各々休憩しています。

 関さんは、まったく慌てていませんでした。


「関さん!大丈夫なんですか?」

「仁和さんなら、大丈夫です」

「そうなんですか?」


 心配だわ。


「それより綾部さんは、お客様を楽しませてください、トラブルに気づかれないようにお願いします。」

「は、はい!」


 そうだった。

 いきなりアドリブかぁ。

 えっと、どうしよう

 こういうときは、

 お客様いじり?


「みなさん!本日はどこから来られたんですかー?」

「岡山県でーす」

「へー岡山ですかぁー 岡山といえば桃とか、きび団子とか有名ですよね」

「ガイドさん行ったことあるんですか?」

「もちろんですよ、倉敷の街並みや、備中松山城を見に行きましたよ」


 あ、なんとかなりそう。

 よし、頑張れ私

 喋りながら考えろ!


 関さんは、人がはぐれない様に見てくれていました。

 私はできるだけのお客様に声をかけ、なんとか会話をつないでいました。

 すると、20分ぐらいで、仁和さんは帰ってきました。


「やーやーおまたせ」

「仁和さーーーん!早かったですね!」

「大丈夫そうね?」

「はい!」

「ふー疲れた、あ、お茶貰うね?」

「どうぞどうぞ」


 一息つくと、いつもの顔に戻っていました。


 制服で走ったのかな?

 さすがプロ。


「はい、みなさんそろそろ出発致します!」

「バスにお戻りくださーい」


 関さんが最終確認し、バッチリです。

 バスは再び出発しました。


 森の入り口の、トイレの広場(勝手に命名)で、休憩中

私は仁和さんに、色々と聞きました。


「あんなこと、よくあるんですか?」

「たまーにねー、この異世界の数少ない、異世界っぽい自然の残っている土地だからね」


 異世界っぽいとこ、もう少ないんだ。

 

「ドラゴン強いんじゃ? どうしたんですか?」

「んー?蹴って追い払っといたよ?」


 ええ?


「まーほら、元世界でもたまに道路にイノシシとかでるでしょ?」

「確かに、でもイノシシは蹴って追い払えないですよ」

「まぁまぁ、小型だったしね!」


 仁和さんは、ケラケラ笑っている。

 この人にかかれば、ドラゴンも野生動物扱いなのね。

 さすが小顔の人は違うな。


 このあとこのツアーは滞りなく終わり、

私はアドリブを誉められ、鼻高々なのでした。

こうして私の、入社して初めての現場は終わりました。



「仁和さん、ですかぁ?」


 ある日、本社でアルバイトの八木さんと、雑談していました。


「仁和さんはめちゃめちゃ強いんですよぉ」

「やっぱりそうなんだ。」

「異世界で仕事するには、一応法律で決まりがあってですねぇ?」

 

 この人、すごく女の子って感じの喋り方するなぁ。

 聞き取りやすいわ。


「一定の強さを持った、"戦闘責任者"を一人置かなければいけないんですよぉ」

「それが仁和さんなの?」

「そうなんですー、戦闘訓練を受けた人しかなれないんですよぉー」

「へー知らなかった。」

 

 店舗の火元責任者みたいなものかな?


「それって資格なの?」

「資格ではないんじゃないですかぁ?」

「そしたら、研修受ければ、誰でもできるのかな?」

「かもしれないですねぇ」

「まぁ研修うけても、仁和さんの強さにはならないよね?」

「仁和さんクラスが量産されたら、それはもう訓練ですよぉ」

 

 八木さんとはお菓子仲間です、すっかりお菓子で打ち解けました。

 みんなお喋りが好きだよね。

 

 そんなとき、休憩の終わりを知らせるタイマーがピピっと鳴りました。

すると、仁和さんが休憩室の扉がバン!と開きました。


「さ!あおのちゃん、お勉強の時間だよ!今日はOFF JTだよー!」

「ま、まって下さいよ、それは八木ちゃんのタイマーですよー!

私はあと5分ありますよー! 私の休憩スイッチはまだONのままですーーー!」」

職場では、お菓子は通貨になることがあります。

仕事を任せるのに、書類といっしょにお菓子がおいてあったり、交換に使えば、違うお菓子にも変わります。

旅行のお土産にもお菓子はよくありますね、職場の人間関係をスムーズにしてくれます。

ところで、通貨とは国の血液とも申します。つまり国の血液はお菓子です、お菓子の流通が途切れると国が死にます。

大変なことを発見してしまいました。

世界はお菓子によって支配されているかもしれない。

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