仁和さんと会社
「それでは紹介します!新人の綾部あおのさんでーす!」
「よろしくお願いします!」
90度のお辞儀をしました。
現在私はとあるビルの3階、本社のオフィスにいます。
割と片付いていて綺麗なオフィスの中で、仁和さんから紹介されています。
働いている皆さんも、手を止め、立ち上がって挨拶してくれました。
「経理の園田です。よろしくお願いします。」
「アルバイトの八木です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」
オフィスには今2人(+毛玉)しかいませんでした。
園田さんは、ショートカットのクールなイメージの女性です。
八木さんは、女の子らしい、ふわふわ髪の女の子です。
「私が社長の毛利です。」
毛玉がしゃべった。
社長なんだ、毛利ってやっぱ見た目から来てるんだろうか?
いやモーリーという異世界人なのかも。
「あと4人いるけど、今はいないね、あー関さんは会ったからあと3人かな」
おぉそういえば!
もう忘れかけてた。
「必要な書類だったり、手続きは、明日説明するから、今日は帰って休んでください。」
「分かりました!」
その日は紹介だけで終わりました。
さすがに色々とありすぎて疲れ果て、
帰ってすぐに寝てしまいました。
そういえばいつの間に着替えたんだろう。
翌日、会社の説明があるとのことなので、私は本社まで来ていました。
「おはようございます!」とあいさつを交わし、
オフィスの自分の席に案内されました。
わわ、自分の席だ!
テンションあがってきました。
しばらくすると、アルバイトの八木さんから、
仁和さんといっしょに、社長室に来るように言われました。
確か、ノック2回は駄目なんだったよね。
コンコンコンっと3回ノックし、仁和さんと入室しました。
社長室内は暗く、温度も少し低く感じました。
背筋が伸び、少し緊張していましたが、
社長の机から、毛利社長の低く、明るい声が聞こえました。
「おはようございます。さっそくですが、色々と書いていただくものがあります。」
「は、はい!」
「では仁和君、彼女に会社の説明をお願いしますね、会議室空いてるから使ってください」
「かしこまりましたー!」
仁和さんが元気に答える。
2人そろって、社長室を退室しました。
そういえば先輩とか呼んだほうが良いのかな?
いきなり先輩は、ちょっと勇気がいるよね?
「それじゃあこちらへどうぞ」
アルバイトの八木さんに、会議室に案内されました。
座って待っていると、仁和さんが、資料やらファイルやらを抱えて登場しました。
それらをドン!と机に置き。
「はい、じゃあ会社の説明をしまーす!わーい!」
「お願いしまーす!わーい!」
乗っといた。
子供か!
仁和さんは、持ってきた資料を私に見せながら、
必要書類に記入したり、説明を受けたりしていました。
まぁ就業規則だの会社の規定だの、いろいろと難しい説明がありました。
有給のお話だったり、36協定のお話だったり。
難しい話が続く中、お給料の話にさしかかったところでした。
「うちはねーストックオプションあるから、浪費癖のある人は積み立てといたほうが良いよ!」
ストックオプション?
「あおのちゃん、すぐお給料つかっちゃいそうだし、おすすめだよ?」
うるさいやい。
まぁ使っちゃうんだけど。
それよりも、ちょっと聞きなれない単語が……
「あのー仁和さん、ストックオプションって?」
「なるほど!ではお答えしましょう!」
どこからか眼鏡を出してきて、ポーズをきめて装着。
似合う!
スチャっという効果音が聞こえた気がした。
「ストックオプションとは、日本語では自社株購入権のことですね、その名の通り、自社の株を従業員が決まった金額で購入できる権利です!」
はぁーなるほどー
それにしても眼鏡にあうなぁ。
「例えば毎月のお給料の一部を、ストックオプションで株にして、積み立てておけば、将来価値が上がった時に売れば、差額が儲けになるよ!」
「は、はい」
「従業員は、自分の持っている株の価値を上げるために、業績アップを目指す!というわけなんだよー」
「なるほどですねー」
理にかなったシステムだとは思うけど。
まぁ良くわかんないけど、仁和さんが言うならいい制度なんでしょう、たぶん。
それより眼鏡いいなぁ、似合うなぁ、写真撮りたい。
「ちなみに会社法上、株式会社の"社員"とは株主のことを指すよ、つまり雇われているけど、株を持っていない人は、みんな"従業員"になるよ」
「へぇーそうなんですね!」
それは知らなかった。
そんなことより仁和さん伊達眼鏡かな?
伊達似合う人はいいなぁ。
「でもね?あおのちゃん、一般的には正規雇用の従業員のこと社員と呼ぶから、それをいちいち指摘することは、大人じゃないわ」
「はい」
「会社法もわかった上で状況によって使い分けるのが大人のレディの秘訣よ」
ウインクされた。
「分からないことは、何でも聞いてね?この会社はみんな、説明大好きだから。」
「分かりました!」
一通り説明が終わると、仁和さんは眼鏡をしまいました。
説明用の眼鏡だったんですね。
「会社には、色々な制度があって、知ってる前提で進む話もたくさんあるからね」
仁和さんが、また手を握ってきました。
距離感近い!
「せっかく、うちの会社を選んでくれたし、色々知って、楽しい会社にしていこうね?」
「はい!」
私は、この人についていくことを決めました。
それがたとえ異世界でも。
会社法では、株式会社の"社員"とは、株主の事をさしますが、
実際には、一般的に正規雇用の従業員のことを”社員”といいますね。
正確には違うことであっても、わざわざ指摘して回るのは、社会的とは言えません。
実際には違うと理解した上で、みんなに合わせる。
これこそが、大人ではないでしょうか?