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値上げと求人

「困りましたね」

「困ったわね」


 若干日も傾いてきた夕方、本社会議室にて、緊急会議が開かれています。


「晩羽さんから、値上げのお知らせが来てましたね」

「なんでも異世界の雇用の需要が増えて、最低賃金が上がったらしいのよ」

「異世界にも最低賃金が決められているんですね?」

「そうね、異世界でも労働者は法律で守られているのよ」

「そうなんですね」

 

 それにしても、需要が増えたってことは、参入企業が増えたのね。


「異世界の労働力が取り合いになっているんですね?」


 しっかり参加している鶴乃さんが答えます。


「そうですわね、若松観光も参入致しましたし、現地の人の雇用は重要ですのよ」

「そうよ、大月も現地の人を是非雇いたいわね」


 鈴ちゃんや星野さんまでいる。


「みなさん普通にウチの会議でてますよね」

「なによ、綾部あおの!これは業界全体の問題でしょう?」

「そうだけど」

「綾部さん、今は敵だの言っている場合じゃありませんのよ」

「は、はい」


 いいのかな?

 もう気にしないでおこうかな。


「うちも求人票直さないとね」

「あーそれうちも早くやらないと」


 星野さんと園田さんがうーんと唸っています。


「需要が増えたとなると、派遣の人も条件次第で来なかったりするかもですよね?」

「そうねぇ、エキストラも正規で現地の人雇っちゃおうか?」

「ちゃんとどっちが得か計算してくださいねぇ~」


 うーん纏まりなくがやがやしてきたぞ。


 私は異世界の求人が気になったので、別の会社の求人をネットで検索。

 大月、若松、異世界観光開発以外にも、世界を跨いだ求人が結構ありました。

 インターナショナル的な意味じゃなく、文字通り世界が違う求人です。


「あおのちゃん求人見てるの?」

「そうなんですよ、ちょっと気になっちゃって」

「どう?増えたでしょう?」


 そういわれても、増える前を見てないからなんとも……

 確かに旅行業にしても何社か増えてるし、

 製造や娯楽、接客等など、さまざまな業種が募集していました。

 

 そんな時、各求人の細かい違いが見えてきました。


「会社によって労働時間や給料が結構違いますね、完全週休2日制もたまに完全がついていない会社がありますよね」

「あら、あおのちゃん知らないの?それはただ書き忘れただけじゃないよ」

「そうなんですか?」


 説明しましょう! と懐から眼鏡を出してきました。


 あっ 眼鏡新しくなってる。


「完全週休2日制と週休2日制は別物なのよ、毎週必ず2日お休みがあるのが完全週休2日制で、週休2日制とは、月に1回でも2日お休みの週があるということなのよ」

「えええ、全然違うじゃないですか」

「そうだよー、ちゃんと分かっていないと大変よ」


 週休2日制って書いてあると、普通は週に2回休めると思っちゃうよね。

 紛らわしい。


「じゃあ、完全週休2日制じゃないところはブラックなんですか?」

「そうじゃないよ、労働基準法で定められている労働時間(1日8時間 週40時間)を超えてはいけないルールがあるので、休みが少ないと、その分1日の労働時間が短いという場合もあるよ」

「なるほどですねー」


 なるほどー、人によって条件は違うわけだし、

 人によっては1日の労働時間が短い方がいい人もいるもんね。


「それ以上残業等で働いてもらう場合には、労働基準監督署に届け出をしないとダメなんだよ」

「労働者との合意の上で、時間外労働・休日労働に関する協定を締結するんだよ、これを通称36協定さぶろくきょうていというよ」

「はい、よくわかりました」

「よろしい!」


 うーん新しい眼鏡も良い。


「36協定を結ばずに、違法に残業を課していると大変な事になるからね」

「そうよ、それは異世界でも同じだからね」

「お、覚えておきます」


 異世界にも労働基準監督署はあるんだね。


「36協定も週休2日制も分かったけれど、値上げの件はどうするのかしら?」


 鈴ちゃんが話題を戻しました。


「まぁ、最低賃金が上がっちゃうなら、どうしようもないわよね」

「ちょっと人削るしかないわね」

「村やダンジョンから人が少し減る感じですか?」

「そうなるわね」


 それは大丈夫なのかなぁ。


「スタッフ減って大丈夫なんですか?」

「うーんまぁ、足りない分は魔法に頼るしかないかな」

「また間地さんに頼るんですか?」


 あの花を思い出す。

 多分みんな思い出していました。


「気持ちはわかるけど、腕はいいし仕事は早いんだよね」

「たしかにそうですね」

「それに集団だと、効率が悪くなるという考え方もあるんだよ」

「そうなんですか?」

「リンゲルマン効果と言ってね、集団になるほど一人当たりの仕事効率が下がるという研究結果もあるんだよ」

「どういうことですか?」

「1人の仕事量が100だとしたら、2人だと200じゃなくて193ぐらいになるという、研究結果だよ」

「え、減っていくんですか?」

「そう、無意識に手を抜いてしまうんだよ、なんと5人だと70%で8人だと半分にまで落ちるというよ」

「8人で半分も減るんですか!?」

「このように人数が増えるにつれて、一人当たりの仕事の効率がどんどんと下がっていくこと、社会的手抜きとも言われる現象だよ」

「……なんとなく、分かるような気もしますね」


 たぶん無意識に起こる現象なんだろうな。


「まぁそういうこともあるので、雇えば効率が上がるという訳でも無いんだよ」

「なるほどですね、そしたら魔法の方が効率良いんですかね?」

「かもしれないわね」


 八木ちゃんが恐る恐る聞きました。


「あのぉ、ちゃんと計算してくださいねぇ~」

「そうね、魔法のラニングコストと今の費用を比べてみましょうね」

「魔法を発注したら、減価償却もお願いしますねぇ~」

「大丈夫よ、八木さん」


 園田さんと八木ちゃんは、よくお金の話をしています。


 お金の計算はあの2人に任せてる方がいいだろうなぁ。

 私は苦手です。


「とりあえずこんなところかしらね」

「M&P削ったら十中八九、晩羽さんが飛んできますよ」

「それはもう仕方ないんじゃない?私が話しておくよ」


 晩羽さんが文字通り飛んでくるのを想像してしまった。


 会議は終わりのムードになりました。


 オフィスに戻り、席に戻ると

 鶴乃さんが帰り支度をしていました。


「さて、わたくしも一旦もどります、星野さんも戻りましょうか」

「かしこまりました、社長」


 お二人は挨拶をして、自社に戻りました。


「じゃあ私も大月に戻ろうかしら」

「はーい、行ってらっしゃい」


 鈴ちゃんも、自社に戻っていきました。

 

「さて、今日はもう少しで終わりだね」

「そうですね」


 繭ちゃんが近くにいたので話しかけました。


 うーん繭ちゃんは話てるだけで癒されるね。

 今日はそのまま解散、帰宅になりました。


 次の日。


 出社すると、出入り口に大きな蝙蝠が

 ぶら下がっていました。


「いや、晩羽さんでしょ?これ」

「綾部さん!待ってましたよ!聞きましたよ、どういうことなんですか!」

「ちょ、ちょっとまって下さいよ」


 しまった、今日は1番に出社してしまったのかな。

 ぶら下がったまま騒いでいるので困る。

 ちょっとビジュアルは面白いけど。


 私は大急ぎでオフィスを開け、中へ案内しました。

 打ち合わせ室へ通し、お茶を出し、落ち着かせました。


「で、今日はどうしたんですか?」

「どうもこうもないですよ、ウチの契約減らすってどういうことなんですか?一緒にやってきた仲間やないですか!」

「ちょっと、落ち着いてくださいよ、頭に血が上りすぎなんですよ」

「上ってないですよ!」


 いや上ってたでしょ、ぶら下がてったし。

 勝手に人の会社の入り口にぶら下がるの止めてほしいなぁ。


「まぁまぁ、そうなるかもってお話ですよ」

「そうなったらウチも困るんですよー、そんな血も涙もないことせんでくださいよ、血も涙も無かったら飲むとこ無いやないですか?」

「飲む気やったんかい」


 思わずつっこんでしまった。


「冗談ですやんか」

「ほんとですか?」


 そんなことやっているうちに、みんなが出社してきました。


 ガチャ

 打ち合わせ室の扉が開き、八木ちゃんが入ってきました。


「お世話になりますぅ晩羽さん、綾部さんおはようございますぅ」

「八木ちゃん、おはようございます!」

「あ、お世話になってます」


 八木ちゃんが私の隣に座って

 一緒に話を聞くことになりました。


 たぶん園田さんか仁和さんに派遣されたんでしょう。


「ほんでね?綾部さんからも説得してほしいんですよ、値上げ言うても時給が1人10円あがるだけですやん、安いでっしゃろ?」


 あら?そうなんだ、値上げって聞いてたけど

 たかが10円上がるだけなんだ。


「ほんとですね……」


 そう言いかけた時、八木ちゃんが遮りました。


「待って下さい綾部さん」

「えっ?」

「例えば1日8時間勤務だとぉ、1人あたり10円×8で80円値上げですよねぇ」

「そうだね、それでも80円だけなんだね」

「でも1人じゃ無理なのでぇ、交代で毎日5人使うとしたらぁ1日400円の値上げになりますよねぇ」

「うん」

「すると月で計算するとぉ30日×400円で12,000円、月に12,000円も値上げになるんですよぉ?」

「ほんとだ!」


 そう考えると高い気がしてきた!


「チッ!」


 ……。


「今、舌打ちしました?」

「いえいえ、ちょっとその、血ッ!って言っただけです、飲みたくなっただけです」


 それはだめだろう。

 

「まぁまぁまぁ、今回はほかの提案もあるんですよぉ」

「そうなんですか?私午後からツアーがあるんですけど」

「ちょっとだけ聞いていってくださいよぉ、ウチの社長もお話ししたいいうてますんで」

「え、M&Pの代表来られるんですか?」

「そうなんです、そろそろ来る思いますけど」


 それはまさに図ったようなタイミングでした。

 血相かえた園田さんが、打ち合わせ室に飛び込んできました。


「はぁ、はぁ、お、お世話になります」

「どうもお世話になってます園田さん」

「綾部さん、八木さん、そのお客様よ」


 園田さんの後ろから、巨大な体に大きな角、

 筋骨隆々で、物語に出てくる鬼のような赤みを帯びた肌。

 赤い目が光り立派なおひげのスーツ姿。

 一目に只者ではない雰囲気の男性が立っていました。


「あ、社長こちらです」

「社長!?」


 とてつもないオーラを放ちながら、

 その人物は名刺ケースを取り出しました。


「初めまして、M&P代表の魔王と申します」


 ま、魔王きちゃったーーーーー!?

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