お花と魔法
「うーん……」
「どうしたんですか?園田さん」
もう業務も終わろうかという、平日の夕方
今日の星野さんのレクチャーを終えた園田さんが困っていました。
「若松、BMに続いてまた別の会社が参入してるわね」
「どんどん増えますね」
「儲かるのがバレてきたわね」
またライバルが増えるのかな?
「社長は何か言ってました?」
「朝は何も言ってなかったわね、今は印鑑証明を取りに行ってるわ」
「印鑑証明ってなんでしたっけ?」
園田さんは、静かに眼鏡をかけました。
ちょっとこの感じ久しぶり。
「印鑑証明とは、押印された実印が本物であるという証明書ですね、不動産や車等様々な契約で提出を求められますよ」
「うーんそんなことがあった気もします」
「社長は今回法人のを取りに行ってるから、法務局ですね」
「なるほどー社長も大変ですね」
「代理人を立てるより、代表本人が行った方が早いからね」
「そうなんですね」
「異世界で使う場合には、実印に魔法が掛かっていないことの証明にもなるのよ」
「異世界はやたらと魔法に敏感なんですね」
「そりゃそうでしょう、大月さんを見たら分かるでしょう?」
それもそうか。
そう思い鈴ちゃんの方を見ると、
自分の席でお菓子を食べていました。
最初は嫌がってたけど、最近ふつうにこの会社にいるし、
結構な頻度で星野さんと鶴乃さんもいるので
もうどこの会社なんだか。
そんな時、オフィスに荷物が届く。
「すみませーん、お届け物でーす」
「はーい」
「こちらにサインお願いします」
さらさらっとサイン。
「ありがとうございます、では失礼します」
幅40cmぐらいの
縦に長い長方形の箱が届きました。
天井がビニールになっていたので中をのぞくと、
植木鉢に入ったお花でした。
誰宛なのか伝票を探している私に、仁和さんが話しかけてきました。
「あおのちゃん、それ何?どこから?」
「お花ですね、今伝票探してるんですけど、あった」
箱の横側に貼られていました。
「えっと、差出人は、マジックショップ真 間地」
「あぁ……」
露骨にテンションが下がっている。
「えっとどうしましょう?」
「多分、魔法の運用開始と新ルートのお祝いに送ってきたんだわ」
「へぇーいいとこありますねー綺麗なお花ですよ?」
「うーん、たぶん碌な物じゃないわよ」
?
こんなに綺麗なお花なのに。
花びらは白く、茎の長いおおきなパンジーのよう。
5本ほど植木鉢から出ていた。
「私、飾ってきてもいいですか?」
「いいけれど……」
開けちゃえ開けちゃえ
私は箱から取り出して、いったん机に置いてみました。
「ほら、綺麗じゃないですか」
「あら、綾部あおの、綺麗なお花じゃないの」
「む、早速来たね、お祝いで業者さんにいただいたんだよ」
「いい色じゃない、見たことない花だけど」
「本当ですねぇ~」
八木ちゃんも寄ってきた。
君たち、この花が食虫植物なら食べられてたよ?
そのとき、花の真ん中に横線が入り
人間の口のように
グパっと
開きました。
「えっ?」
「気持ち悪!」
そして花は歌いだしました。
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
5本が揺れながら合唱しています。
「ほら、言った通り碌な物じゃないでしょ?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「ほんとうですね、ふつうにきもいです」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「そうですかぁ?ちょっとかわいくないですかぁ?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「……」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「電池?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「あおのちゃん、花の前から離れて?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「はい」
「……」
花は止まり、静かになりました。
「なんですかね?これ」
「魔法でできた花だね」
「めちゃくちゃうっとうしい上に自分のところの宣伝なんですね」
「あそこが送ってくるものは、そんなのばっかりなのよ」
商魂たくましいなぁ
「これどうします?」
「うーん困るわね」
「入口においちゃだめですかぁ?」
八木ちゃんは置きたいみたい。
「別にいいけれど、ちゃんと社長に魔法を解除してもらってね」
「はぁい」
八木ちゃんはオフィスの入り口にお花を置きました。
「異世界はとりあえず色んなものに魔法がかかってるんですね」
「そうだね、契約はほんとに気を付けないとね」
「魔法がかかっていない証明も必要なんですね」
「そうだね、異世界にはそれを調べるだけのお仕事とかあるよ」
「へぇーカッコいいですね」
「そうかな?」
その後、しばらく雑談をしながら、事務作業を行っていました。
( ~? ~♪)
「……」
「あの、綾部さん?」
「はい?」
園田さんが何か気になっている様子。
( ~? ~♪)
「さっきから、微かに何か聞こえるんだけれど」
「え?」
どれどれと、耳を澄ましてみると。
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「花が歌ってます!」
「誰か来たんだわ」
園田さんと入り口に向かってみると
「あぁ、園田さん、綾部さんこれはいったい……」
「社長!」×2
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
印鑑証明を取って帰ってきた社長に
花が歌っていました。
「あっちの業者さんが送ってきたんですよー」
「なるほど、魔法を解除しようとしたんですけど頑強に作られていますね、プロの仕事です」
そうなんですね、なんて迷惑なプロ。
「困りましたね、他社の名前を歌うから、チャイム代わりにも使えませんね」
「いやですよ、こんなきもいチャイム」
「うーん綾部さん、園田さん」
「はい」
「捨てましょうか」
「分かりました」
こうして歌う花は捨てられました。
翌日
いつも通りにオフィスで作業をしていると、
ピンポーンと来客のチャイムが鳴りました。
「あ、私見てきますね」
「お願いね」
ちょうど入り口付近にいたので、私が見に行きました。
そこには、管理人のおじさんが立っていました。
「あぁ、管理人さん、どうしたんですか?」
「実はですね、昨日不法投棄がありまして」
「不法投棄ですか?」
(~♪)
このビルに不法投棄する人がいるとは、
けしからん!
「今、ビルに入ってる会社さんに聞いて回っているんですよ」
「そうなんですか、ちなみに何だったんですか?」
「うん花と植木鉢なんだけどね」
……
え?
(~♪)
「いやぁ御社を疑ってるわけじゃないんだけどね」
そういうと管理人さんは植木鉢を持ってきた。
「これなんだよ」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
あの花だーーーーー!?
「なんかずっと歌ってるんだけどね、スイッチも電池も見つからないし」
「え、ええええ」
「心当たりないかな?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
すごく、心当たりあります。
「え、えええっと」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
困っているとそこに、園田さんがやってきました。
「園田さん!」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
私が声をかけると、園田さんは
歌う花を持った管理人さんを見て、
私を見て、
悟ったようです。
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「上司の方ですか?この花が不法投棄されていたんですよ」
「ええ」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「こういう大きなものは業者で処分してもらわないと」
「そ、そうですね」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
珍しく、園田さんが焦っている。
「心当たりがないなら次の会社にいきますね」
「え!?いやーその、実は見おぼえあります」
「そうなんですか?」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「はい、でも管理人さんが行くと、その、大事になってしまうかもです」
「どういうことです?」
「ほら、たぶん知らなかっただけだと思うんですよ 植木鉢が何ゴミか」
「はぁ」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「で、その、もしよかった私が返しておきますよ」
「おや良いんですか?異世界観光開発さんにそこまでしていただいて」
「い、良いんですよビルのためですもの」
「じゃあよろしくお願いします」
「は、はい任せておいてください」
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
では、と管理人さんは出ていきました。
「はぁ~~~」
園田さんのため息。
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
私もほっと一息。
さすが園田さん、危険を乗り切った。
2人して花を見る。
(魔法の相談なら~? マジックショップ真~♪)
「もう、この会社からは物を受け取らないようにしましょう」
「そうですね」
捨てるならプロに魔法を解除してもらわないと……
プロねぇ?
「これひょっとして」
「うん?」
「解除するのに、また間地さんのところに行かないといけないのでは?」
「プロに頼まないと、解除は難しいらしいわね」
「つまり、お花を黙らせたかったら、また依頼に来い ということでは?」
「そうだとしたら、もうその花は祝いというより呪いじゃない」
「まぁ見た目的には、完全に呪われてますよね」
とりあえず、会社の倉庫行きとなりました。
疲れた2人は入り口から、自分の席へ戻りました。
「ふー疲れた」
オフィスでは、八木ちゃんが電話中でした。
「あ、すみません、今戻ってきたので、お電話かわりますねぇ~」
そういうと、八木ちゃんは電話の保留ボタンを押しました。
「園田さん、M&Pの晩羽さんからお電話ですぅ~」
「はい、分かりました」
園田さんも業務に戻ったし、私も仕事を再開しよう。
そのとき園田さんが、電話しながら立ち上がりました。
「なんですって!」
園田さんがびっくりしてる。
今日は心労が重なってるね、園田さん。
「はい、はい、分かりました、一度見積もり送ってください」
園田さんは電話を切りました。
珍しく声を上げたものだから、みんなが園田さんに注目している。
「どうしたの?京子ちゃん」
「それが……」
「うん?」
「M&Pの派遣、値上げだそうです」
「ええええ!?」
まだまだ波乱は続きそうです。