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私と着物

「お待ちなさい綾部さん、あの丸い建物は何かしら?」

「えっ、は、はいこの町の美術館ですね、魔法で描かれた絵とか飾ってありますよ」

「興味深いわね、お休みの日に見にいってみましょう」

「は、はぁ」


 なにを喋ったらいいんだろう。

 

 私は今、若松鶴乃さんと、異世界を歩いています。

 それも2人だけで。


「お待ちなさい綾部さん、よく見る家電量販店がありますわ、ここは本当に異世界なのかしら?」

「そうですよ、ほかにもよく見る牛丼屋さんもありますよ」

「牛丼屋さんですか?」


 いまいちピンときていない様子。

 行ったことないのかな?


「綾部さん、御覧なさい尻尾の生えた人や、耳の長い人が歩いていますわよ」

「そうですね、色々な種族がいますね」

「本当に異世界なのですね」


 今実感したんですか。

 

「猫っぽい人可愛くないですか?」

「可愛いですわね」

「撫でたいですよね~」

「そうね」


 まぁなぜ鶴乃さんと歩いているかというと、

 若松観光㈱をゴレ建の石さんに紹介するためです。

 しばらくウチの会社で、星野さんがレクチャーをしてくれるので、

 変わりに異世界の会社と繋げてほしいということです。

 で、なぜか私がその案内役をしているわけです。


「綾部さん、娘はしっかりやっていますか?」

「繭ちゃんですか?しっかりしていて、とても助かっています」

「そう」


 話せるんだけど、続かないなぁ、会話。

 うーんなにか盛り上がる話題ないかな?

 別に無理にしゃべる必要もないんだけど、

 無言で2人歩いているのもおかしいでしょう?


 そんな時、目の端にコンビニが見えました。


「すみません、ちょっと喉が渇いたので、コンビニに寄ってもいいですか?」

「ええ、参りましょう」


 よーし、

 コンビニの食品とかを見せて、

 元の世界で普段食べている物も、異世界産だったりしますよ。

 みたいな話をしよう。

 ちょっとは会話が長持ちするかも。


 2人でコンビニの自動扉の前に立ち、

 センサーが反応して扉が開く。

 

 2人して中に入ると、

 お買い物中の人の中に、見覚えのあるシルエットが、

 なんていうのかなー、こう、

 撫でたいんだけど、すぐに逃げちゃうような、

 猫ぽいあのシルエット。


 ばれないように後ろからこっそりと近づく。

 捕まえるときは、一気にガバっと!


 ガバッ!と抱きつく


「ひぃ!」

「ほら、やっぱり鈴ちゃんだった」

「えっ!?」


 鈴ちゃんは後ろを振り返る。


「ちょっと!びっくりするじゃない、何してるのよ綾部あおの!」

「いやーつい見かけたので捕まえとこうかと」

「ゲームのモンスター感覚で捕まえてくるんじゃないわよ」

「ゲットしちゃう」

「セキュリティ呼ぶわよ?」


 そう言うと、鈴ちゃんは自分の服のボタンに手をかける。


「すみません、勘弁してください」


 そういえばそんな機能ありましたね。

 でも助かった!たしか2人は知り合いだったはず。


 商品を見ていた鶴乃さんが、こちらに気が付きました。


「あら、大月の御嬢さん、ごきげんよう」

「ごきげんよう、おばさま」


 2人は挨拶を交わす。

 

「ところで鈴ちゃんはこんなところで何してるの?」

「今日はお休みなのよ、それより2人なの?繭美は?どういう組み合わせ?」


 まぁそう思うよね。


「いやーちょっと詳しくは言えないなぁ」

「はぁ?さては何か企んでるわね!私もついていくわよ、ちょうど予定もないし」


 よし、釣れた!


「えぇーついてくるのー?」

「その態度、気になるわ、絶対についていくわよ」


「あら、大月さんも一緒にいらっしゃるのね」

「良いでしょう?おばさま」

「ええ、参りましょう」


 よし、これで賑やかになるね。

 こういう時、鈴ちゃん本当に助かる。


 と、いうわけで3人でゴレ建に向かいました。


 街の一角、一見普通のビル街に、ゴーレム建設はありました。


 ここに来るのは久しぶりだなー。


 エントランスに入り、受付で要件を伝えます。


「すみません、異世界観光開発の綾部と申します」

「お世話になります、お約束ですか?」

「はい、営業の石さんをお願いいたします」


 来客用の部屋に案内され、3人で椅子に座りました。


「驚きました、動く像なのね」

「ここは基本的にみんなそんな感じの会社です」

「私てっきり、エントランスに置かれた飾りの石像かと思いましたわ」

「最初はそう思いますよね」


 鶴乃さん、雰囲気は強いけれど意外と普通の人だなー。


 コンコンコン


 石さんが入室


「失礼します、ご無沙汰しております。」

「ご無沙汰しております」


 私は石さんと挨拶を交わす。

 とりあえず最初に2人を紹介しようかな


「こちらは若松観光の若松鶴乃さんです」

「初めまして、若松観光代表取締役の若松鶴乃と申します」

「初めまして、石でございますって、代表ですか!?」


 あ、石さんの顔?がちょっとクシャっとなった。

 驚いたり、困ったりするとそうなるのね。


「で、こっちがビッグムーンの大槻鈴ちゃんです」

「宜しくお願い致します」


 石さんは2人の名刺を見たあと、私の名刺を見て

 不思議そうに顔を曲げている。


 まぁ、全員会社が違う上にライバル会社だし

 なんだこの組み合わせ

 って顔してるんだろうなぁ たぶん


 そんな中、鶴乃さんが話し始めた。


「若松観光はホテル業をメインとしておりまして、この度こちらの世界にも弊社のホテルを立てたく思います、御社の腕は一流と伺っておりますので、是非弊社にもお力添えいただきたく参上いたしました」

「と、とんでもございません、なんなりとお申し付けください」


 石さんがいつも以上に難くなっている気がした。


「喜んでお仕事させて頂きますので、ぜひうちの代表と会っていってください」


 そういうと石さんは、すぐに出ていき、


 バタバタ ドタバタ ガンガンガン 


「失礼いたします!ゴレ建代表の炎でございます!」


 石さんに火がついたようなのがやってきた。

 どうせファイヤーゴーレムとかフレイムゴーレムとか

 そんなんだろうけど。

 名刺交換と握手を求めているけど、これ熱くないの?

 

 さすがに鶴乃さんも戸惑って、


「あの、熱くはないのでしょうか?」

「し、失礼いたしました、すぐに消しますので」


 ボシュっと消えて、石さんとの違いが分からなくなった。


 融通きくのね、それ。


「宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくお願い致します」


 無事握手と名刺交換ができました。


「それで、ひょっとしてビッグムーンさんも?」

「私はこの綾部あおのが何が企んでないか見に来ただけですのよ」

「そ、そうですか、もし何かありましたらお申し付けください」

「分かりましたわ」


 お、石さんの表情が読めるようになってきたかも。

 いまの曲がり方は"なんだこいつ"って感じかな?


「本日は挨拶に参上したまででございます」

「わざわざありがとうございました、ご要望の際は、この石にお申し付け頂ければ、すぐに駆け付けますので」

「かしこまりました、ありがとうございました」


 その後、3人はゴレ建を後にしました。

 この後どうするか考えたけど、

 いったん異世界観光開発の本社に戻ることになりました。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、あおのちゃん、鶴乃さん」

「私も来たわよ!」

「あら、鈴ちゃん拾ってきたの?ウチじゃ飼えないわよ」


 仁和さんがボケてる。


「ちゃんと私が世話するもん」

「しょうがないわね、ご飯もあげるのよ?」

「野良猫扱いするなーーーー!」


 噛みつかれた。

 鶴乃さんはもうお茶のんでくつろいでいる。


「あおのちゃん、無事にゴレ建には行けたのね」

「はい、バッチリ紹介してきましたよ」


 鈴ちゃんは袋から文房具を取り出して

 仁和さんに見せた。


「仁和さん見て見て」

「なになに?文房具?」

「ゴレ建ボールペンにゴレ建クリアファイルなの、可愛くない?」


 ボールペンに石さんっぽいキャラが描かれている。

 それ貰ってきたのね。


「そ、そうね」

「えーそれ可愛いかなー」

「はぁ?可愛いでしょ?分かってないなぁ綾部あおのは」


 まぁ気に入ってるならなによりだけど、


「仁和さんは、マーケティングの授業は終わったんですか?」


 あれ以来、星野さんがレクチャーに来てくれています。


「まだまだ、難しいわね」

「そうなんですね」


 マーケティングかぁ

 一回一緒に授業受けてみたいかな。


「鶴乃さんはもうホテル立てちゃうんですか?」

「そうそう、BM的にも気になるわね」


 気になっていた人が続々と集まってきた。

 しかし、もう企業間の秘密も何も筒抜けだなぁ。


「みなさん気になっていらっしゃると、仕方ありませんわね本日の事もあるし、お見せ致しましょう」


 そういうと鶴乃さんは懐から巻物をとりだし、

 机にバサッと広げました。


「これが今企画しているホテルでございます」

「おおぉー」


 そこに描かれていたっものは……


 豪華な日本庭園の入り口、枯山水におおきな池

 中に入ると大理石でできた綺麗なエントランスに金色の証明

 間接照明が鯉の絵等を照らし、上品な赤い絨毯がきれいに敷かれている。

 和風を取り入れた新しくも落ち着いたホテルは5階建てでエレベータ付き

 洋食を楽しめるようビュッフェもあり、浴場には最新のマッサージチェアも・・・


 全員唖然としている。


「どうやら皆さん、豪華すぎて声も出ない様子ね」

「違う」

「えっ?」


「違う気がする」

「違うと思います」

「すみません、ちょっとこれは違うかもです」

「ちょっとちがうかもですねぇ~」

「あの、その、ちょっと違う、かもです」

「おばさまこれは違うんじゃない?」

「代表すみません、少し違うかもです」


 星野さんまで!?

 鶴乃さんはたじろいで、

 

「えぇ、いったい何が違うとおっしゃるのかしら」


 全員が口をそろえて言いました。


「もっと異世界っぽいの!」

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