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鈴ちゃんと退社

 朝のオフィス。

 天気も良く、気持ちのいいスタートが切れると思っていた矢先。

 従業員は困惑していました。


「BMツアーズって、あの"海外旅行へ行くなら、ビッグムーン!"でおなじみのアレですか?」

 

 私は、誰に尋ねるでもなく問いかける。


「そうね、あの有名な会社ね、若松観光も国内にホテルをたくさんもってる会社だわ」


 園田さんが教えてくれました。


「それって、鈴ちゃんの?」


 全員の視線が2人に集中しました。

 鈴ちゃんは立ち上がり、ドヤ顔で喋りだしました。


「そ、というわけで、今日で退社致しますね!」

「えええええ!?」


 繭ちゃんも驚いていました。


「うーん仕方ないね、お疲れ様」

「お疲れ様でした」


 仁和さんと園田さんはドライだなぁ。

 どうしたんだろう?

 鈴ちゃんも気になるんだけど、もっと気になることが、私にはあった。


「えっと、繭ちゃんは?」

「えっ!?私、ですか? 私は退職しませんけど……」

「本当?やったー!」

「繭ちゃん!ありがとう」


「ちょっと!」

「?」


 鈴ちゃんがぷんすこしていました。


「私に何か言うことないわけ?」

「鈴ちゃん辞めちゃうの?なんで?」

「ふん!私はね、この会社を叩き潰して、シェアを奪うことにしたわ!」

「そっかぁ、残念、お疲れ様、また来てね?」


 鈴ちゃんは、さらにぷんすこ怒りだしました。


「ぬーーーー! 覚えてなさいよ綾部あおの!こんな会社すぐに潰して、私の後輩として雇ってあげるわーーー!」

「鈴ちゃん、オフィス走ると危ないよ」


 ピューっと走って行っちゃいました。


「……大丈夫なんですかぁ?ウチの情報とか流れてるんじゃぁ?」

「大丈夫よ!手は打ってあるから」


 仁和さんが八木ちゃんにウインク飛ばしていました。

 園田さんも何かに気づいていた様子。

 さて、あとは繭ちゃんか。


「繭ちゃんは、若松観光はいいの?」

「はい、あの、私は、関係ありませんので……」

「そうなんだ?」


 てっきり、鈴ちゃんと目的は一緒かと思ったんだけど。

 嘘ついている様子も無いし。

 むしろ一緒になってびっくりしてたしね。

 

「じゃあ良かった、一緒に頑張っていこうね」

「は、はい!」


「いや、この際聞いておきましょうよぉ」

「そうねぇ私も気になるわ」


 八木ちゃんと園田さんは、納得していませんでした。


「えーいいじゃないですか!繭ちゃんは関係ないって言ってるし」

「それはたまたま名字が同じだってことなのかしら?」


 繭ちゃんは、ビクビクしながらも小さな声で答えてくれました。


「無理もありません、正直に言いますと……若松観光は母の会社です」

「やっぱりそうなんですねぇ」

「でも私は、家を出てきました」

「なぜです?」

「子供のころから、その、旅行が好きで、添乗員さんに憧れていたのですが、表情を作るのが苦手な私は、母親に接客は向いていないと言われて……」


 確かに、表情はすこし分かりづらいけれど。

 皆は静かに聞き入っていました。


「母親とそのことで少し喧嘩になってしまって、私は家を出ました」

「えええ!?」

「私は観光業の小さい会社を探しました、小さな会社で添乗員になり、やがて若松観光より多くお客様を取って、母を見返そうと、そう思いこの会社に来ました」


 みんなが黙ってしまいました。

 繭ちゃんも、うつむいてしまいました。


「うわーーん繭ちゃん!」

「えっ先輩?」


 私はガバっと抱きつきました。

 涙目で繭ちゃんに向き合い


「絶対勝とうね!」

「は、はい」

「そういうことなら、私たちも協力するわ」


 園田さんや八木ちゃんもやってきて円になりました。


「よーし、繭ちゃんのためにも、勝つぞー!」

「おー!」


 その時、オフィスの扉がピシャっと開きました。


「ちょっと!誰か一人ぐらい追いかけてくるかと思ったら、なんでより団結してんのよ!」

「あら、おかえり鈴ちゃん、お菓子食べる?」

「食べないわよ!」

「食べないの?ていうか話聞いてたんだ?空気読んで話が終わってから入ってきたの?いい子なの?かーわいい!」

「ぐぬぬぬ」

 

 それはもう真っ赤な顔になって


「覚えてなさいよ綾部あおのーーーーー!」

「オフィス閉めていってね」


 ピシャ!

 

「で、仁和さん、手を打ってあるっていうのは?」

「ふふ、それは、おたのしみよ」


 こっちにもウインクきたー!

 はぁ、今日も頑張ろう。



 次の日

 いつも通り出勤すると


 鈴ちゃんが席に座っていました。


「あら鈴ちゃんおはよう、お菓子食べる?髪撫でて良い?」

「綾部あおの!私はなんでここにいるのかしら!?」

「はぁ?」


 何言ってるんだろう。

 そもそもなんでいるんだろう?

 とりあず髪撫でちゃえ。


「ちょっと触らないでよ!どうなってるのこれ!」


 ガラガラと扉が開き、仁和さんが登場。


「おはよー!あら来てるわね?」

「仁和先輩!ちょっと私に何かしたわね!?」

「鈴ちゃん、あっちはどうだった?」

「あっちは今、ゴレ建とルート構築中ね、こっちには無い雪山のルートを作って差別化を図ろうとしているわ」


 おや?鈴ちゃんの口から情報が


「は!?私はなんで情報を?」

「フッフッフ、ありがとう鈴ちゃんもう帰れるよ」


 鈴ちゃんは、席から立ちあがり、何が何だか分からないという表情でした。

 フフフと笑い、仁和さんが、契約書の棚から1枚紙を取り出しました。


「鈴ちゃん、これ覚えてる?雇用契約書」

「えぇ、私も控えもってるわ、これに何か?」

「この下の部分に魔法で文字が書いてあるんだけど」

「はぁ~どこよ?」


 仁和さんが手をかざすと、文字が浮かび上がりました。

 え、いいのこれ?


「え、こんな文字書いてあったの?」

「書いてあったんだなぁ」

「はぁ~?」

「ちなみに、契約者は私がもういいよというまで、毎朝きて他社の情報を置いていくという契約の魔法がかかっているよ」

「はぁ~~~~~?」

「だめだよ鈴ちゃん、異世界で契約書を交わすときは、リーガルチェックとマジックチェックかけないと」

「知らないわよそんなこと!無効よ無効!」

「異世界の人はみんなこの文字見えるからね、隠してたわけじゃないしー? 交わしたのは異世界だしね?」

「ぐぬぬぬ!」


 お、鈴ちゃんのぐぬぬがでたぞ!


「覚えてなさいよ!綾部あおのーーーー!」

「なんで私!?」


 なるほど、手を打ってあるとはこういうことなんですね。

 しかし恐ろしい魔法だわ。

 

「仁和さん、こうなると分かってたんですか?」

「保険よ保険、何事も無ければ発動はしなかったものよ」

「……私の雇用契約は大丈夫なんですか?」

「あおのちゃんはこっちの世界で書いたでしょ?」


 そうでしたっけ?


「ところで仁和さん、リーガルチェックって何ですか?」

「うん、久しぶりにやりましょうか!」


 仁和さんは懐から眼鏡を取り出し、ポーズとともに装着!

 相変わらず似合う!


「リーガルチェックとは、契約書を交わす前に、弁護士や専門家の先生に、自分や自社に不利なことが無いか、法的に問題が無いか、等をチェックしてもらうことですね!」 

「ふむふむ」

「"リーガル通してる"とか言われたら、まずこのことだね、思わぬ不利益を被ることもあるから、チェックは重要だよー」

「大変よく分かりました」

「ちなみに異世界では、契約書に魔法がかかってるケースもあるので、これを確認することをマジックチェックというよ」

「なるほどですねー」

「あおのちゃんも、契約書には気をつけようね?」

「はい」


 いやー恐ろしい。

 でもおかげで毎日鈴ちゃん撫でられるかもしれない。

 あんまり退社した気しないかも。


「しかし、ガイドの人数に少し不安が残るわね」

「そうですね」

「さらに競合他社も相手にしていかないとね」

「忙しくなりますね?」

「楽しくなるわよ!」


 たくましいなぁ

 

「ところで2社ともかなり大手ですよね?戦っていけるんですか?」

「もちろん!それに市場にとって競合他社はメリットにもなるからね」

「どういうことですか?」

「1つの市場を1社だけで盛り上げていくのは大変なんだよ、それこそ大企業が、異世界旅行をどんどんCMしてくれたら、一般に認知も広がるでしょう?」

「たしかにそうですね」

「1つの市場を1社が独占している状況のほうが、むしろ不健全といっていいわ、排他的に考えるのではなく、お互いに利用し、或いは住み分けていきましょう」

「はい」

「ただ、甘えているとシェアを奪われるのも事実だからね?」

「は、はい!じゃあ具体的にはどうするんですか?」

「大手には大手の、弱者には弱者の経営戦略があるのよ!」


 ビシっとポーズでウインクを決める仁和さん、

 可愛いカッコいい!

 なんだか仁和さんのポーズを久しぶりに見ました。

 しかしライバル企業の登場かぁ……

 うーん新たな波乱の予感!

マジックチェックはありませんが、リーガルチェックは本当にあります。

弁護士先生とは、いい関係を気づいておくことは、大変重要です。

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