お嬢様とお嬢様
ほんとうに可愛かった。
そして綺麗だった。
一人は、ヒラヒラお洋服に金髪ふわふわヘアーの、釣り目で八重歯が光るかわいい娘。
もう一人は、着物で黒髪ぱっつんミドルヘア、丸い目のかわいい娘。
明らかに目立っていた。
え、何?
もう異世界だっけ、ここ。
そんな感じ。
オーラに気圧されそうな私とは違い、仁和さんはニコニコ話しかけました。
「今日面接を担当します、仁和です」
「同じく綾部です」
2人のお嬢様は、お互いに顔を見た後、ふわふわの方から自己紹介が始まりました。
「大月鈴と申します」
「若松繭美と申します」
4人でお辞儀をして、異世界のゲートに向かって歩き出しました。
「2人とも異世界は初めて?」
「いえ、わたくしは子供の頃に1度来たことがあります」
大月さんが答える。
見た目は、ちょっとわがままお嬢様って感じ。
家に執事の"じいや"とかいそう。
「わたくしも、子供の頃に一度だけ……有ります。」
若松さんが答える。
古くからの日本の名家のお嬢様といった感じ。
家にしきたりにうるさい"おばあさま"とかいそう。
うーん若松さんのお顔、どこかで見たことあるような。
気のせいかな?
いや、聞いてみよう。
行動あるのみ、の綾部あおのですよ?
まぁ、そんな風に呼ばれたことないけどね。
「ねぇ若松さん、私たちどこかで会ったことなかったかな?」
「……すみません、覚えがないです」
「そっかぁ、勘違いかな、ごめんね?」
ナンパか!?
勘違いだったのかな?
でもなんだろう。
粘着テープを切った後のハサミのような、
微妙にくっついてくる、すっきりしない感じが。
雑談をしながらゲートに到着。
ゲート管理官に通行証を呈示して、いざ異世界へ。
ゲートはほんとに見た目はただの大きな門です。
通り抜けると、景色は一変し、中世のような街並みが広がります。
話しかけたら、「ここは〇〇の村だよ」という人は雇っていません。
すこし歩いて支社に到着。
支社は景観を崩さないように、レンガ調で中世っぽい見た目の2階建ての建物です。
「さ!入って入って、こちらの部屋へどうぞ」
「失礼します」
「失礼いたします」
仁和さんは、2人とも面接部屋に案内しました。
どっちから面接するのかな?
と思っていると。
「もうこのまま、同時に面接しちゃおっか?」
「えぇ、いいんですか?」
「いいのいいの、集団面接とか普通にあるでしょ」
またなにか思いつきでやり始めましたよ?
「じゃあ、履歴書と、あれば職務経歴書もお願いします」
「はい、こちらに」
「お願い致します」
集団面接が始まりました。
「じゃ、綾部さん、説明をお願いします」
「は、はい!」
急にこっちに振らないで、焦る焦る。
……?
なんだか私の慌てている様子を、若松さんが見てる気がする。
この子は表情がわかりにくいなぁ
喜怒哀楽が読み取りにくいというか。
面接はマニュアル通り進み、何事もなく無事終了しました。
テストもやってもらって、回収済。
「今日はお疲れ様、2人とも異世界は大丈夫そうね?」
「はい、大丈夫です。」
「もう帰るのですか?わたくし少し異世界を観光したくありましたのに」
「だめですよ、大月さん、わたくし達は今日は面接に来ただけですので、帰りましょう?」
「はいはい」
仁和さんはふふっと笑っている。
今の会話、この2人は知り合いなのかな?
そんな気がする。
ゲートをくぐり、世界に2人を戻し、それじゃっと手を振りました。
「いやーお上品だし、可愛かったね?」
「そうですね、ところでなんで同時にやったんですか?」
「ケーキと和菓子って感じじゃない?」
「イメージですか?」
「そうそう、2人一緒にしたら面白いかなって思って」
「ケーキと和菓子は贅沢ですね」
「でしょう?」
「で、いっしょにやってどうでした?」
「うーん普通だったねー、まぁケーキはケーキで 和菓子は和菓子で食べたほうがいいってことだね」
上手いこと言ってるような顔しないでほしい、
うまくないからね?食べ物だけに。
「可愛いから2人とも雇おう!ね?」
「仁和さん、会った時から決めてたでしょう?」
「てへへ」
まったく、可愛い娘には"あまい"んだから。
さて、元世界の本社に帰ってきた私たちは、
2人のテストの採点を行っていました。
私はケーキのお嬢様を採点しています。
大月鈴さんかぁ、うわぁ字が綺麗。
厳しく教育されてたのかな?
どれもこれも正解で、いい点数が出るよこれは。
というか……
間違えてなくない?
「あおのちゃん、あおのちゃん!」
「はいはい?」
「すごいよ若松さん、100点だよ!」
「えっ、こっちの大月さんも100点ですよ?」
ガタッ! ガタッ!
園田さんが、席から立ちあがっていました。
八木ちゃんも、後に続きました。
「仁和さん!どっちか経理にください!」
「えええ経理は別で募集してよー」
「いいじゃないですか!?」
「やだやだ、どっちも可愛いから添乗員にするんだよ!」
「この業界、募集したってなかなか来ないじゃないですかぁ!」
うわぁ取り合いが始まった。
仁和さんの言い方がちょっと可愛いかも。
八木ちゃんは、テストの結果と履歴書を見比べています。
「添乗員2人もいらないでしょう?バスもないし、ルート増えたら忙しいんですよ!?」
「バス増やすもん!」
「ルートを一度に作ったおかげで、減価償却が大変なことになってるのに、バスも買うんですか!?」
「あの2人ならそれぐらい、すぐ稼げるもん!」
ぎゃーぎゃーわいわい騒いでいると、
八木ちゃんが何かに気が付いた様子。
「あのーこの2人って、大月と若松っていう名前なんですかぁ?」
「そうだよ?」
「大月ってあの、ビッグムーンツアーズのですかぁ?」
「え?そうなの?」
「なんか一人娘がこんな名前だったようなきがしますよぉ」
え、大手観光会社のお嬢様なの?
「それに若松って、若松観光じゃないんですかぁ?」
「ま、まさか?」
「たしかそこにも娘さんがいたようなぁ」
若松観光って、国内最大のあれですか?
仁和さんと園田さんは、"見せて!"とすぐに飛んできました。
こういう時は息ぴったりなんですね。
「仁和さん、どうします?スパイですかね?」
「いやー偶然でしょう?あんな可愛い娘達だよ?」
「偶然名前が一致しただけとでも?」
「私は面接したときに、いや面接する前にビビっときたよ!良い娘に違いないって!」
「いや、テストも満点ですし、おかしいですよ!止めときましょう?」
「あの娘達がスパイっていうエビデンス無いでしょう?」
「そりゃ、無いですけど」
「……」
うん?
なんか2人ともこっち見てない?
八木ちゃんまでこっち見てるし。
聞けってことですか?
実はエビデンス知ってるんですけど、
でも私は大人、エアーリーダー綾部あおの
空気を読んで質問しちゃう!
「あのーエビデンスって、どういう意味ですか?」
「ではお答えしましょう!」×2
「エビデンスとは証拠とか証明、根拠などの意味ですね」×2
「は、はぁ」
「あら、あおのちゃん、知ってますよって顔してるね?」
「は、はい、調べちゃいました」
「じゃあ、なぜ"証拠"じゃなくて"エビデンス"を使うか知ってる?」
「グローバルな流行りだからですか?」
「ううん、エビデンスは証拠って意味だけど、ニュアンスが違うんだよー」
「どういうことですか?」
「例えば取引先の人との会話で、”すみません、それ証拠あります?”っていうと疑っているようなきつめの印象じゃない?」
「そうですねー」
「でも”すみません、それエビデンスあります?”って聞くと、ちょっと柔らかく、ビジネスで聞いてるだけですよっていう印象になるんだよ」
「なるほど!みんなカッコいいから使ってるわけじゃないんですね」
納得。
ビジネスで使う単語は、使う理由があるんだね。
ビジネスっぽいから使ってる人もいるような気もするけどね!
「と、いうわけで証拠も無いし2人雇うよ!みんなが何と言おうと雇うよ!」
「わかりましたよ」
園田さんは降参しました。
後日、私たちは2人に、合格の連絡をしました。