八木さんと予算
「暗いですね」
「やっぱりそうですか?」
「真っ暗だと思いますね」
お昼過ぎ、本社の打ち合わせ室で、私と石さんは相談しています。
今日は、園田さんは別のお仕事なので、一人で応対しています。
漫画を参考に描き上げた、イメージノートを石さんに見せながら、感じていた疑問を石さんに投げかけます。
「ふつうに照明つけちゃうと、作り物っぽくないですか?」
「うーん物にもよりますね」
「いい方法あります?」
「たとえばそうですね、壁にコケを生やして、コケを光らせるとか」
「そんなことできるんですか?」
「できますよ、他にもこのノートにある~」
石さんは、私のノートに描いてあるキノコを指さしながら、
「キノコを光らせるとか」
「いいですね! 光るキノコはダンジョンっぽくないですか?」
「ぽいかもしれないですね」
結局、例の漫画を最新刊まで読破した私は、かなり具体的なイメージができていました。
キノコは悪くないね、むしろかなり良い。
さすがプロに相談してよかったなぁ。
「それってどういう仕組みなんですか?魔法とか?」
「いえ、普通に電気を仕込みます」
「そうなんですね」
「でも作るのには魔法を使います」
「おお、そういう魔法があるんですね」
「そうですね、詳しくは企業秘密ですけど」
じゃあ作ってるとこは見られないのかな。
ちょっと残念。
「あとすみません、地底湖とか、ダンジョン内に滝とか作れませんか?」
「作れますよ、どんなイメージですか?」
「一番奥までいくと、天井が開いていて、そこに光がさしていて、湖とお花があるといいんですけど」
「なるほどですね、できますよ」
「ありがとうございます、冒険もいいんですけど、私は景色を作りたいんですよね」
「観光ですもんね、休憩所みたいなイメージですか?」
「そうです!そこで絶対必要な物があるんですよ」
「なんでしょう?」
「お手洗いです!」
「分かりました、景色になじむデザインにしときますね」
話が早い!
「そうしましたら、一度帰って、図面と見積もりを送りますね」
「ありがとうございます、お願いします」
それでは失礼します。
と石さんは帰っていきました。
私は自分の席にもどり、資料を整理していました。
「あおのちゃん、お疲れ様!どんな感じ?」
「あ、仁和さん!順調ですよー もうすぐ見積もりと図面が来ます」
「そうなんだー、よく頑張ってるね」
「園田さんのおかげですよ」
「うんうん、京子ちゃんは頼りがいあるでしょ?」
「おんぶにだっこです!」
二人でふふふっと笑い、私も質問を返します。
「仁和さんの火山はどうですか?」
「うん、こっちももうすぐ図面と見積もりがくるよ」
「楽しみですね!」
「そうねーあおのちゃんの考えたダンジョン!楽しみだわ」
一応、完成までお互いに図面は見ないという約束をしています。
「図面のチェックが終わって、正式に発注したら、あとはほとんど完成まで待つだけだからね、今の間に次の事しよっか」
「そうなんですね」
「うん、まずは社長に、銀行からお金を借りてきてもらいましょう」
「え、社長そんなことできるんですか?」
「出来るわよ、社長をなんだと思ってるの?」
仁和さんは、ケラケラ笑いながら聞いてくる。
何って、何だろう、手足の生えた毛玉にしか見えないんだけど。
「毛利社長はね、銀行からお金を借りるのが得意なんだよー?」
「ええ!?そうなんですか?」
「うんうん、そんなわけで、準備をしましょう」
「はい!」
「あおのちゃんは、八木ちゃんにBS出してもらってて」
「分かりました」
そっかぁ、もうダンジョンはほぼやることないのか。
もっとこう、現場に行って色々指示出したりとか、
工事のヘルメットかぶって、作ってる最中とか見たかったかも。
そういえば、工事ヘルメットって異世界でもあるのかな?
普通のやつだと、角生えた人とかかぶれないよね?
気になってきた。
余計なことを考えながら、アルバイトの八木ちゃんの席へ向かいました。
いつもながらふわふわとした髪に、可愛い服とスカート、ネイルには星が飛んでいる。
「八木ちゃん、八木ちゃん!うわ、スカート可愛い!」
「ふふん、でっしょー?」
本題の前にちょっと雑談を少々。
「でー用事があったんじゃ?」
「あ、そうだった、仁和さんが社長が銀行からお金借りるから、BSだしといてーって」
「オッケーでーす」
「よろしくねー」
しまったな、工事が気になって聞くのを忘れていた。
仁和さんどこか行っちゃったし、八木ちゃんに聞いてみようかな。
「ところでBSって何?」
「バラスンシートですよー」
というと、可愛いケースから眼鏡を出してきて、説明しだしました。
八木!おまえもか!
「BSとはバランスシート、日本語だと、貸借対照表のことですねー」
「たいしゃくたいしょうひょう?」
「うん、言いにくいからBSって呼ばれることが多いよ、BSは会社に入ったら、結構よく聞く言葉だの一つだよ」
「そういえば聞いたことあるかも」
「まぁ簡単に言うと、その時点での会社の財政がどんなものかを見るための、資料の一つですね」
「なんだか難しそうだわ」
「銀行さんは、この会社ってちゃんとお金あるの?とか、この収益でちゃんとお金返せるの?とかをBS等の資料を参考に、判断するんですよー」
「ふむふむ」
「今は名前を覚えておくぐらいでいいと思いますよー、詳しく説明すると夜になっちゃうからね」
「分かった!ありがとうね」
まぁ、内容は理解していないけどね。
しかしこの会社は、眼鏡かけないと説明できないのか!
私はBSのお願いを八木ちゃんにして来たことを、仁和さんに報告にいきました。
「ありがとう!じゃあ、私たちはさらに次の事をやりましょう!」
「はい!なんでしょう?」
もうなんでもどーんとこい!
「求人と面接だよ!」
「そ、それは?」
「あおのちゃんの後輩を募集しよう!」
BSは、あくまで判断材料の一つです。
他にもPL(損益計算書)であったり、色々なものを複合的に判断されます。
ところで、バランスシート ってスマホでうつと、予測変換に貸借対照表が出てきました。
最近のスマホはすごいですね。