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はじまり①

 異世界と聞いてどんな世界を想像するでしょうか?

 剣や魔法?

 勇者と魔王?

 様々な種族が存在する世界で、

 現代の常識が通用しない世界……。


 数年前まではそうでした。


 ところが。

 

 異世界転生者や異世界漂流者が増えすぎ、

 すっかり異世界は現代化。

 舗装された道路に、並び立つビル街。

 様々な種族は街をスーツで歩き、

 エルフがコンビニでバイトし、

 ゴブリンがスマホでゲームしているそんな世界。

 

 そんな時代に、一人の就活生がいました。



 私の名前は綾部あおの。

 子供のころから旅行が大好きで

 小さいころに見たバスガイドさんに憧れていた。


 仕事しながら旅行にも行けて、最高の職業じゃない?

 という軽い気持ちでこの業界を目指して就活中。


 今日は旅行会社の合同企業説明会。

 気合を入れてイベント会場に来たのであったが、なかなかすぐには会社は決まらずでした。


 旅行会社はいろいろあれど、希望はバスでのお仕事でした。

 子供のころからの強い憧れで、どうしてもバスガイドさんやツアーのお仕事がやりたかったのです。


 そんなとき、ひとつの会社のブースだけぽっかりと開いているのを見つけた。

 説明会に誰も座っておらず、薄暗く、不気味な感じすらした。


 何あそこ?

 占いの館みたいな雰囲気なんだけど。

 ちょっと怖い。


 説明者側の席を覗くと、女性が座っているのが見えた。

 あと横に毛玉?のような、動物のようなものがあった。


 綺麗な女性。

 でもなに?あの毛玉、会社のマスコットかしら。

 茶色の毛の生えたボールに手足がついていて、あんまり可愛くないなぁ。

 そんなことより、女性のお顔が見たい。

 なんとなく、美人の雰囲気が出てる。


 そういうの……あるじゃないですか?


 説明者(たぶんこの会社の女性)は、うつ向いていて顔が見えない。

 居眠りしているようだった。

 せっかくだから、会社説明を聞いて帰ろうと、

 そう思い、おそるおそる並べられたパイプイスに座ってみた。


「おや、君はここに座る事ができるんだね?」

「えっ!?」


 声低っ! 

 いや女性は口開いてないし、まさか毛玉が?

 自動でしゃべるマスコット?にしては声も可愛くないなぁ。


「ほっほっほ ゆっくり聞いて行ってね、仁和君!説明会を始めよう」

「……」

「仁和君?」

「……はっ!」


 綺麗な女性が目覚める。

 目は大きく、綺麗な長い金髪。

 座ってるので確かでは無いけれど

 背も高そう。


 私もその女性も、ただただびっくりしていました。


「えっ!社長お客さんきてますよ!座ってますよ!」

「うん、だから説明会を始めようね?」


 なんだろう、座っただけですごい驚かれている。

 他に誰も見向きもしないし、ひょっとしてヤバイ会社なんじゃ?


「ようこそ説明会へ、私は"仁和水無にわみな"あなた、お名前は?」

「はい!綾部あおのと申します!」


「じゃあ、早速説明会を始めましょう、でも……」

「へ?」


 仁和さんは私に顔をぐっと近づけてきました。

  

 うーん近くで見るとやっぱり美人だわ、まつ毛長い。


「あなたは、体験したほうが早そうね」


 仁和さんが、パンっと手を叩き。

 そして気が付いたら、バスに乗っていました。


 仁和さんに言われるがまま、わけも分からず指示に従っていると、

 だんだんと状況が分かってきました。

 どうやら現在、お客さんとツアー中のようです。


 知らないうちに、着替えまで済ませてるし。

 というか、説明会だったのでは?


 私も仁和さんも、制服を着ていました。

 バスは、お客さんを乗せて草原を走っています。

 そして草原には、見たこともない動物たぶんモンスターや、

 変わった格好の人間が見えました。


 おかしい、国内旅行や景色には割と自信があったんだけど

 知らない景色ばっかりだわ。

 変な生き物までいるし、

 一瞬で海外に来た可能性もあるのかな?


「あのー仁和さん、ここって何処なんですか?」

「元とは別の世界だよ、所謂異世界だよ、アザーワールドだよ」

「はぁ、異世界ですか?」

「そ、異世界、ちょっとまってね」


 そういうと仁和さんは、マイクを持って立ち上がりました。


「皆様ご覧下さい!冒険者がモンスターと戦っていますよ!」


 ざわざわ


「おおっ本当に剣で切ってるのか。」

「すごい!あっちは魔法だ!」


 おおっー!と歓声が湧く。


「いやー、モンスターとのバトルが見られて良かったなぁ」

「すごいですよ!みなさん運が良いですね!魔法もめったに見られませんよ。」

 

 あら?

 ほんとに異世界なの?。

 戦ってるところを見られるのはラッキーなんだ?

 まぁそんな都合よく戦っていないよね。


 しばらく走り、森の入口まで帰って来たところでバスは停車しました。


「はい、みなさん!今から休憩に入ります。お手洗いは入り口の建物をご利用ください。」


 お手洗いあるんだね。

 ちょっと安心した。

 安心したら、お手洗いに行きたくなってきた。


「注意事項ですが、この辺りは柵で囲ってありますのでその外には絶対に行かないでください」


 さきほどよりも、淡々とした、事務的なトーンで仁和さんは注意喚起しています。


「弊社の管轄外で責任は取れませんので、宜しくお願い致しますね」


 ツアー客は、元の世界の人かな?

 普通の人に見えるし、日本語しゃべってるし。


「あのー私もいいですか?」

「うん、行ってらっしゃい!」


 いい顔で返事されたし。

 ちょっと怖いから一緒に来てほしかったんだけど、

 これちゃんと日本に帰れるのかな?


 ちょっと落ち着きを取り戻しました。

 不安もありましたが、元来旅行好きの私、

 見たことない景色に、目を奪われていました。


 はぁ、どんな状況でも、旅行で見る景色は素晴らしいね。


 しばらくすると、バスのスピーカーから仁和さんの声がしました。


「皆さん!只今この近くにオークが出没したという情報が入りました。」


 え、それってやばいのかな?


「お早くバスにお戻りください!」


 仁和さんの焦ったような声が聞こえてきます。


「急いで!あっ!皆さんあちらをご覧ください!」


 そこには、大きな体に角と牙、今にも襲い掛かって来そうな表情のモンスターがそこに立っていました。


 なんだか、恐ろしい表情なんだけど

 そんなに恐怖に感じない、不思議な雰囲気を感じていました。

 と、その瞬間。


「異世界の皆さん下がってください!」


 オークの前に剣を携え、マントを翻して男性が登場しました。


「勇者様だーーー!」


 みんな叫んでいた。


「異世界の皆さん!こいつは私たちが何とかしますので、バスの近くで固まってください!」


 勇者の言う通りに集まると、パーティーの魔法使いのお爺さんが両手を掲げ、

 バリアのようなものを張ってくれました。


 こ、こんな近くで勇者が戦闘するの!?

 というか、バスは知ってるんだ。


 誰もが注目する中、勇者が動きました。


「オークなど剣を使う必要なし!雷の魔法を使う!」


 晴天が一瞬で曇天へ、手を前に出し勇者は何やら唱えて、


「落ちろ!」


 危険を察知し、逃げ惑うオークだったが容赦なく雷が落ち、

 黒くなって動かなくなってしまいました。

 そして曇天が元通り晴れ、光が広がる。


「異世界のみなさん!危険は去りました!」


 キラっとさわやかな笑顔を向け、振り返って手を振る勇者。

 私は何が何やらという感じでぽかんとしていました。


「駄目だよあおのちゃん!楽しいツアー何だから、ほら笑顔で!」


 そうでした。とりあえず考えるのは後で、


 ツアー客は大興奮、バスは異世界の入り口まで勇者の話題一色でした。



 バスは村の異世界へのゲートへ到着。

 ツアーはここで終わりのようです。


「皆様お疲れ様でした、本日ツアーの最終日いかがでしたでしょうか?」


 お客様は大満足な様子でバスを降りていきます。


「お土産は村で、その後はゲートからお帰り頂けます、ゲートの先に現代のバスが御座いますので、そちらをご利用の上、お帰りください」

「本日は弊社の異世界ツアーをご利用いただき、ありがとうございました」

「あおのちゃんも、ほら!」

「あ、ありがとうございました!」


 全員バスを降り、各々お土産屋さんに向かったり、ゲートへ向かったり。


 夢でも見ているようでした。

 あたふたしているだけで、終わってしまいました。


「はい、お疲れ様。バスの掃除しながらトイレのとこまで戻るよ!」

「え?戻るんですか?」

「うん、まだ仕事は終わってないからね」


 理解が追い付いていないので、いったん休ませてほしかった。

 まぁ異世界に現代日本から、”ツアー客を連れていくサービス業”という事は分かりました。

 なんでバスがあるの?とか、勇者っているんだ? とか聞きたいことが山ほどありました。



 バスはまた、草原をはしり、トイレの広場まで戻ると

 そこには列が出来ていました。

 その列をよく見ると、さっきみた異世界っぽい人と、モンスター達が

 仲良く並んでしました。


「へ? えええっと?」


 困惑していると、仁和さんがバスから降りて列の前にでました。


「お疲れ様でした、じゃあカード返却しますねー」


 カード・・・?

 タイムカードのようなものを順番に渡されていく異世界人たち。


 というか勇者も並んでるし!

 さっきのオークと雑談してるし!

 あ、オークさん無事だったんだね。


「あのえっと 仁和さん?」

「あー彼ら日雇いなのよ」

「なるほどですねー」


 なるほど日雇いか。

 うん?


 列から雑談が聞こえてきます。


さっきのオークさん筋力ついたよね?ジム通い?」

「そうなんですよ。24時間通えるジムが近所にできてね?」

「うんうん」

「コンビニも近いんですよ、今入会金無料キャンペーンやってましてね?」


 また別の異世界人も


「帰ってゲームしよう?」

「いいね、その前に、着替えたら服屋さん寄ってっていい?」


 ちょっと待ってほしい。

 異世界だけでも、処理がいっぱいなのに。


「ちょっとまって!勇者さんオークはいいの!?ここ異世界ですよね?魔王がいたり!魔法とか!どういうこと!?」


 魔法使いのお爺さんと、勇者パーティーの女の子が話しかけてきました。


「はっはっはお嬢さん新入りかい?」

「てゆーか魔王と勇者の戦いって、なん百年前の話してんの?」

「へええええ?」


 もうみんな着替えて普通に洋服だし、

 さっき管轄外と言っていた、柵の向こう側に消えていきました。


「あおのちゃん、残念だけど、日本人が考えているような異世界は、もうないのよ?」

「ええええええええええええ!?」



 異世界・・・それは剣と魔法、勇者や魔王のファンタジーの世界。

 しかし、異世界からの転生者や漂流者が増えすぎ、

 今ではすっかり現代日本と変わらない世界となっていた。

 そんな中お客様の夢を壊さず、いわゆる”異世界”をツアーすることができる会社がある。

 その名は「株式会社 異世界観光開発」

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