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7 オークの砦

 港街セントラーズまで最短の距離で進もうと考えれば、オークの砦を通らなければならない。

 砦を避けて通るのであれば、現在地から迂回して更に数日を費やす必要がある。

 どちらの道を取るか。その判断の為に俺はニケさんと山が見える小さな丘まで来ていた。


 【千里眼】


「敵の数は三十体ほどか……砦自体は小さく大した作りではないんだな」


 元々あった関所をオークが補強した感じだ。

 大きな石門の周りに木製の住処がいくつか並んでいる。

 片側は険しい崖、もう片側は海に面している。自然の防壁だ。

 

 忍び込むのは不可能か。強引に門を突破するしかないだろう。


「そうですか……やはり避けて通るべきなんじゃないですか?」


 ドラゴンの卵を抱きかかえたままニケさんが言う。

 置いておくとゴブリンに食べられそうになるからと、頑なに手放さないのだ。


「婆様の話を聞く限りでは、迂回ルートもそこまで大差がないんだよな」


 あれから補足でニケさん経由で婆様から伝えられたが。

 山を迂回した場合、今度は深い森を通らなければならないらしい。

 そこは魔物ですら立ち入らない魔の森と称される場所で、故に守りも薄いのだと。


 どちらを取っても労力は変わらないというか、目下のオークを相手にした方が楽だと思う。


「それに、このままじゃ咲の体力が持たない。長旅の疲れか、最近よく途中で寝落ちしているからな」


 いくらゴブリンたちに担がれていようと、慣れない野営生活は少しずつ体力奪っている。

 俺ですら精神的に疲れてきたのだ。早くちゃんとした宿を見つけなければ、体調を崩しかねない。


「咲様が主戦力である以上、時間を掛けられないということですか? この辺は人の隠れ里もありませんし……引き返すのも難しいです」


 今、一番近い人間の住む街がセントラーズだ。

 現在は魔物によって支配され、住民も奴隷として働かされているらしい。

 多くの兵を養う為の食糧生産を担う労働力としてだ。解放すれば、力になってくれると思う。


「俺と咲ならオークくらいは楽に倒せると思うが、仲間を呼ばれると厄介だな」


「海も近いので、サハギンが来るかもしれません! 危険だと思います」


 この先には本隊との決戦も控えている、どこを主戦場に置くかも考えないと。


「……よし、砦を攻め落とす。うん、そうしよう」


「えぇ!? 通り抜けるとかじゃなくてですか? 援軍を呼ばれますよ! さっさと抜けてどこかに潜んだ方が……例えば魔の森とか……そこで少しずつ誘き出して戦うとか……!」


「そもそも必ずどこかで本隊と戦うんだ。立地的にも砦に陣取った方がいい。敵の大将がサハギンのえーっとなんだったっけ?」


「姫乃様、リヴァルホスです」 


「そうそう、そのカッコいい名前の半魚人なんだから、海に面した砦は格好の釣り餌になる」

 

 これが森だと敵が動いてこない可能性がある。咲の為にも長期戦は避けたいところ。


「……うぅ、これから本格的な魔王軍との対決なんですね」


「まっなんとかなるだろ」


「どうして姫乃様はそんなに余裕があるんですか? 私はもう、緊張で震えが……!」


 勇気を持つ者と書いて、勇者だからじゃないかな。俺は偽物の方だけど。


 ◇


「グギギ! ウガグ、ウギ!」


「ブオ、グアア!」


 仲間のゴブリンたちが、先んじて砦前に立つオークと話している。

 作戦ではゴブリンが人間を捕縛したと、敵に知らせ何体か外へと連れ出す。

 その後、ソイツらを倒して守りが薄くなった砦を襲撃する手筈となっている。


「ブオオオウオオオ」


「ウギギ! ウギ!」


 予定通りオークの集団が砦から武器を持って出てきた。

 数は八体か、思ったより少ない。ではここは最狂の妹に任せよう。


「ほら、咲。的が来たぞ? よーく狙って投げるんだ」


「ブタさんとドッチボール? 咲、負けないよ!」


 事前に拾ってきた手のひらサイズの石を渡す。

 咲はそれを両手で握って、気合を入れて放り投げた。


「えーい!」


 ブオ――――――――――――ン


「ひいいい、またこの衝撃ですううう!」


 初日に巨人サイクロプスを一撃の元に粉砕した咲の投擲。

 その衝撃は俺たちにも暴風として襲いかかり、ニケさんが飛んでいく。


 ……もう少し加減を覚えさせた方がいいかもしれない。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!」


 オークが文字通り溶けた。影すら残されていない。

 あるのは隕石が落ちたのかと錯覚する規模のクレーター。

 咲の【消滅(イクリプス)】は魔物が相手なら、石ころにも効果を及ぼすらしい。


 木の枝で突いて平気なのは……単純に意識の問題だろうか?


「ほーら、おかわりが来たぞ。次は四体と……奥に五体だな」


「えーいえーい!」


 ビュ――――――ン


「ギャアアアアアアアアア」


 ズド――――――ン


「ギョエエエエエエエエエ」


 ドカ――――――ン


「お兄ちゃん、ボール帰ってこないよ?」


「咲が上手過ぎてみんな天国(外野)に行っちゃったな。今度はお宅訪問といこうか?」


「うん、次はおにごっこ!」


「わ、私は後ろで邪魔にならないよう見ていますね……!」


 ニケさんとゴブリンたちを入口に待機させ。俺と咲はそのままオークの砦に突入する。


「ブヒイイイイイイイ」


 外の惨状を目撃したのか、小屋から逃げ出すオークの姿が。

 どうせ後で本隊を釣り出すのだから、何体かは逃がしても構わない。


「やっぱりドッチボールがしたい!」


「鬼ごっこじゃないのか?」


「だっておにさん逃げるもん。つまんない」


 ああ、鬼はオークにやって欲しいのか。

 でも戦意喪失したオークたちに鬼が務まるだろうか。

 しかも追い詰めた獲物に触れられたら消滅する糞ゲーに。


「ブオ……ウヴォ……ヴヴ」 


 逃げ遅れた数体のオークを小屋の中で発見する。

 武器を放棄して、膝を付いて泣きながら震えている。


 おいおい、コイツら魔王の正規軍じゃなかったのか? 

 なんとも情けないが、咲の力に平伏しているとしたら話は早い。


「咲、このオーク仲間にしないか?」


「ブタさんもゴブちゃんみたいに? うん! ペットいっぱい欲しい!」


 お友達じゃなくてペットか。思考も魔王に染まってきたな。

 本物の魔王もまさか次々と配下をペットにされているとは思うまい。


「ブタさんと、咲はなかよし!」


 咲はゴブリンの杖で地面に絵を描く。人と魔物が手を繋いでいる作品だ。

 実際にそれをやると灰になるんだけど。


 オークは首をブンブンと縦に振った。半ば強制的だがこれで無駄な殺生は避けられる。

 咲の周りに集まり、ゴブリンと同じく踊り出す。こうして新たな同士が加わったのだった。


「えっ、どうなっているんですか!? 様子を見に来てみれば、オークたちが踊ってます……!」


「ウギギッギ! ウギギギギギギギ!」


 後ろには驚愕して固まるニケさんと。何故か嫉妬しているゴブリンの姿があった。

ウギ! ギギ、ゴググ!(ゴブリン)

ブオ? ブウ……(オーク)

ゴブリンは何を言っているんだ?(姫乃)

お仕事おしえるだって! ブタさんがんばれ~(咲)

新人いびりですか。魔物も縦社会なんですね……(ニケ)


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