35 演説
「勇者殿、準備は抜かりなく整いましたぞ!」
「おー、これは圧巻の光景だな!」
元領主邸のバルコニーから庭を一望する。
集められたのは三千二百五人の老若男女。そこに一人の欠けもない。
事情を知る者、不安げに縮こまる者。呑気に欠伸をする者と千差万別だ。
リヴァルホスは壇上に上がり、声を張り上げる。
「この度、諸君らに集まってもらったのは他でもない。現時点を持って、我ら魔王軍第三潜水部隊はこちらにおられる勇者殿の指揮下に入った。同時に統治権を譲渡する運びとなる。今後は勇者殿の指示に従うように!」
騒然となる会場。誰かが言う「俺たちは解放されたのか」と。
リヴァルホスが前へ出るよう催促してくる。俺は頷いて歩き出す。
とはいっても、スピーチなんて小学生以来だぞ。
カンペも持たずに表舞台に。緊張するかと思ったが。
不安げに見つめる民衆を眺めていると、案外冷静さを保てた。
「あー、俺が紹介にあずかった件の勇者であるが。時間もないので難しい話は置いておくとして、単刀直入に言う。現在三万のアンデット軍団がこの街を目指している。到着日時は大体二週間後だ。もう少し早いかもしれない。つまり近日中にここは戦場となる」
変に取り繕うよりも、事実をそのまま伝える方が重要だろう。
騒がしい敷地内が一転して静まり返る。大掛かりな舞台を用意してもらったんだ。
ドッキリを疑う余地はないだろう。誰もが残酷な現実を受け止め切れず戸惑っている。
「防衛にはリヴァルホス率いるサハギン軍団も協力してくれるが、現状ではどうしても人手が足りなくてな。ここに居る皆に力を貸してもらいたいんだ。武器を握れて戦う意思を持つ者は名乗り出て欲しい。戦えなくても後方支援で働ける場所はいくらでもある。共に魔王軍から居場所を守ろう」
ボロが出る前に、簡潔にまとめて俺は頭を下げた。
あまり深く下げすぎると、リヴァルホスが気にするので軽くだ。
従ってくれる魔物たちに示しがつかなくなるとか。その辺の意識も重要になる。
民衆の一人が前に出てきた。顔を真っ赤にさせている。
「――ふざけるな! 俺たちはこのままの暮らしで満足していたんだ。誰が解放してくれと頼んだ!? また魔王軍に目を付けられるくらいなら、サハギンに支配されていた方がマシだった!!」
「偉そうに言いやがって、魔王を倒せない勇者なんて必要ない! さっさと出ていけ! 俺たちを巻き込むな!!」
案の定、好意的な反応は引き出せなかった。暴言と石が飛んでくる。
指導者が魔物から人に移っただけで、この反応の変化はちょっと笑える。
その威勢の良さを、もっと別の方角に向けて欲しいのだが。難しいだろうな。
首を振ってゴミを躱しながらも、俺はリヴァルホスに落ち着かせるよう頼む。
護衛のサハギンたちが槍を構えてブチギレていたのだ。この場で無駄に血を流したくない。
「なっ、この期に及んでまだ勇者任せなの!? どこまで性根が腐っているのよ! ふざけるな!!」
キレているのはサハギンだけじゃなかった。ルーシーも飛び出そうとする。
俺はそんな彼女の身体を片手で抑える。感情を剥き出しにしたところで何も進展しない。
無駄に体力を使うだけだ。俺たちの為に怒ってくれるのには感謝するが、今は我慢して欲しい。
「ああ、そうだ。ローザリア軍が攻めてくるのは、間違いなく俺のせいだろうな。魔王軍にとって危険分子である勇者の存在がある限り、セントラーズへの危機は止むことはない。疫病神であるのは事実だ」
俺は再び民衆に向き直ると、否定はせずに素直に認める。
フードを被ったシンシアが一瞬、身体を強張らせたが視線を向けてなだめる。
少なくともローザリア軍が攻めてくるのは、俺がセントラーズを解放したせいだ。
「――だがな。遅かれ早かれ、いずれは勇者の存在なんて関係なくなるだろう。このまま逃げ続けて、どうするつもりなんだ。セントラーズが今後もサハギンの支配化のままでいられる保証なんてどこにもないんだぞ。何を根拠に今の平穏が延々と保たれると思っているんだ。誰が守ってくれると思っているんだ? お前たちを守護するはずだった国も騎士もとっくに滅んでいるんだぞ」
冷静に、語りかけるように俺は口を動かす。
魔王軍が占領した土地の人間を生かしたまま管理し続けるのは、軍備を維持し続ける為だ。
戦争が終われば、不要とされた人間は順次処分されるだろう。それはもう目前に迫っている。
魔物の脅威に怯えながらも、魔物の良心に頼るという歪な状況に気付かない馬鹿はいない。
要はここにいる全員が現実逃避しているんだ。批判を恐れず誰かが教えねば手遅れになる。
「ここから海を渡った先に無人島をいくつか開拓してある。リヴァルホスに頼んで人が住めるよう手配してもらった。子供や年寄り、戦う意志のない者は申し出てくれればそこへ避難させる。臆病風に吹かれて逃げ出したとて、俺はそれを咎めたりはしない。その辺は安心して欲しい」
いずれ来たる決戦に向けて、以前から多少の準備はしてあった。
避難場所についてもそうだ。それでも不足が目立つのは否めない。
こんな情勢下であるのに万全の状態を望むのも、高望みではあるが。
「いつ訪れるかもしれない終焉をひたすら怯え待ち続けるのか。それとも、恐怖を乗り越えて抗うか。選択は二つに一つだ。俺は、お前たちを導く勇者としてこの場所を――最後の楽園を絶対死守するつもりだ。ここを失えばもはや人類に反撃の機会を失う。あとはただ死を待つだけになるからな」
騒然となる会場。有力者たちが集い話し合っている。
もちろんその大半が消極的な意見で埋め尽くされていた。
戦っても勝ち目がない。戦力差は歴然としている。無駄死になると。
「……俺は戦うぞ! 既に国も家も家族も失ったんだ。あと残されたのは復讐心だけだ。俺は最後まで抗い続ける!」
名乗り出てくれた者に見覚えがあった。ピスコ村の生き残りだ。
一人が前に出ると、何人かがそれに続いていく。彼らは戦士の眼をしていた。
「正気か!? 俺たちがここに残って何ができるっていうんだ。俺は死にたくない、船に乗るぞ!」
「そうやっていつまでも逃げ続けて、死んでいった者に顔向けできるのか? この先生まれてくる子供たちに何を残せる? 自分だけが助かればいいと、本気で思っているのか! 誇りはないのか!?」
「何よ、私たちはもうとっくの昔に戦争に負けたのよ。抵抗しても無駄死にするだけよ!」
「抵抗しなくても殺されるのを待つだけだ。ここには、勇者様がいらっしゃるんだ。俺たちで彼を支えて魔王軍を追い払うんだ! それしか生き残る術はない!」
「誰があんな男を信じられるのよ! 勝手に勇者を名乗っているだけでしょ!?」
「俺たちはあの方に救われたんだ。彼は勇者様で間違いない!」
「うるさい。お前たちもあの男に雇われた詐欺師でしょ!」
肯定派、否定派二つの勢力に分かれて議論が白熱していく。
とまらない熱は徐々に膨れ上がっていき、表へと剥き出しになっていた。
「ちょっと、ヒメノ……これは良くない流れよ。このままだと民衆同士で争いが始まるわ」
「好きにさせればいいだろ。各々の人生だ。俺にそこまでの権限はない」
「ここまで煽っておいて放置するつもり?」
「これ以上俺が何か言えばそれは強制になる。……アイツらにも我慢の限界があるからな」
俺を慕ってくれているサハギンたちが、俺の願いを叶えようと動き出すだろう。
そうなると恐怖に背中を押され嫌々名乗り出る者も出始める。徴兵するのと変わりなくなる。
「……まだ、彼らに覚悟を決めさせるには早急すぎたのかもね」
「既に大陸の八割を支配されているのにも関わらずか? 盲目にもほどがあるだろ」
「同じ世界の住人として情けなくなるから、事実でも言わないで欲しいわ」
ルーシーは深く溜め息を零していた。
もう賽は投げられたのだ。あとは黙って人々の良心に任せる。
どう転んだとしても俺のやることは変わらない。そりゃ気分は変わるだろうが。
異世界の住人が命を張るのだ。せめて救う価値のある世界であって欲しいとは願う。
壇上から降りて俺は背中を向ける。すると入れ替わるように誰かが通り過ぎていった。
「――皆様、どうか落ち着いて聞いてください」
ニケさんだ。後ろで黙って成り行きを見守っていたはずだが。
一人バルコニーに身を乗り出して、彼女は人々の前に立っていた。
「私は、現勇者として活躍されている姫乃様にお仕えするニケと申す者です。――そして、以前は私自身も勇者として戦っていました。ローザリアから逃げ延びた方々の中には、もしかすれば記憶の隅に残されている方もいらっしゃるかもしれません」
先代の勇者。その言葉に多くの人が議論を止めて注目する。
シンシアの名は既に知れ渡っているが、本人曰く、ニケさんは目立ってはいなかったらしい。
もはや呪いに近い称号を自ら打ち明けてしまったのだ。それは彼女なりの覚悟の現われだろう。
「私はシンシア姉様と比べても酷く落ちこぼれでした。いつも安全な後方から物を投げているだけで……勇者として一度だって記憶に残るような活躍をした試しがなかった。ハデスに敗れて、街が陥落するさまをこの目で見届けて。自分の無力さを呪いました。何度も悪夢にうなされて……忘れたことなど一度もありません!」
いつも明るいニケさんが本当はずっと苦しみ続けていた。
誰にも悟られぬよう、隠れて涙を流す姿を想像してしまう。
「そうだ、ローザリアが陥落したのはお前や騎士団が不甲斐なかったせいだ!」
「私の旦那と子供を今すぐ返してよ! 人殺し!!」
「ここから出ていけ! 二度と関わるな!!」
罵声やゴミの嵐を浴びながらも、ニケさんは挫けず立ち向かっている。
ただ簡単に謝るのではなく。自身が何も成せなかった事実だけを並べて。
命を燃やして戦い続けたシンシアや騎士団たちの名誉を傷付けないよう。
その分、ニケさんに対しての憎悪が集まっていた。それはもう理不尽なほどの。
「――ヒメノ、私はこれでもかなり我慢しているわよ……! もう、限界だけど……!」
「偉いぞ。その調子であと少しだけ我慢してくれ」
激しい怒気を放ちながら、民衆を吹き飛ばさんとするルーシーの首根っこを掴み続ける。
少しの火種でも爆発しかねない状況だ。中断するかどうかの判断をリヴァルホスが委ねてくるが。
俺は静かに首を横に振るう。このままニケさんの好きにやらせてやりたい。彼女に託したい。
「ほら、落ち着いてリラックスしろ。可愛い顔が台無しだぞ」
「ちょっ、可愛いって――あんっ、そこは、だめぇ……ヒメノ、わ、わかったから、許して……!」
耳が弱いのか、指で弄るとルーシーの力が抜けていく。
友人想いなのはわかるが、ニケさんを信じてやってくれ。
「……勇者の力も万能ではありません。圧倒的な数の前には個の力も埋もれてしまいます。それは皆様も十分に理解してくださっているはずです。どうか、皆様のお力でその穴を埋めていただけないでしょうか? その激情の矛先を、人類が明日を歩む為に生かして欲しいのです」
暴力にも屈せずに、自分を貫くニケさんの姿に、人々の手が止まる。
「そんな力なんて俺たちには……」
「無力な私たちが何ができるというの? 勇者も騎士も敵わない相手なのよ!」
「自分には何もできないだなんて仰らないでください。何かを成そうとするのに、力の有無なんて関係ないんです。誰かが隣にいるだけで、それだけでも人は大きく変われるんです。現に私もそうでした」
一瞬だけ、ニケさんと目が合った。
「私は勇者の力を失い、役目を押し付けて、逃げ出して。最初こそは楽になりました。でもそのうち、自分が情けなく思えてきて、誰かを犠牲にしてまで何の為に生き延びているのかわからなくなって。ほんの少しの勇気を出して、今の自分にできることはないかと探しました。私のご主人様はお優しい方ですので、いつだって役に立っていると認めてくださいますが。まだまだ不十分であると自覚しています。胸を張ってお役に立てていると言える日は当分先になると思います」
そんなことはないぞと伝えたい。空回りしていても、いつだって真剣なのは知っている。
「それでも自分の殻を破って初めて、この世界で生きている実感を得られたんです。背中を支えるだけでも、励ましの言葉を掛けるだけでもいい。武器を持たずとも戦う術はあります。見てみぬ振りをしないで、諦めないで。私は――この世界が好きです。辛いことも多かったけど、それ以上に守りたいものがたくさん増えました。皆様と明日も明後日もずっと笑っていたい。ここで終わりにしたくなんてありません。どうか願わくば良き隣人として、戦友として。共に戦ってください。お願いします!!」
ニケさんは最後に深く頭を下げ、そしてゆっくりと背中を向けた。
リヴァルホスが解散の指示を出す。それからもしばらく人々の議論は止まらなかった。
しかしながら、聞こえてくる内容も熱が冷め随分と落ち着いている。暴動には発展しないだろう。
「……姫乃様、事前に相談もせず身勝手な行動をしてしまいました。申し訳ございません」
「別に構わないんだが。ニケさんや怪我はないか?」
「平気です。こう見えても身体は丈夫ですから」
「本当か? あとで嘘を付いていないか確かめるからな。まったく、無茶しやがって」
――正直のところ。
俺がどれだけ言葉を見繕っても、民衆の心に響かせることはできないと考えていた。
何故なら俺も咲も女神の力を得ている。戦えない者の気持ちなんて真に理解はしていない。
安全圏からヤジを飛ばすだけの、そんな人物の言葉なんて芯のない空虚なものだろう。
だが、ニケさんは違う。元勇者という立場でありながら、今は普通の一般人だ。
彼女は無力である辛さを知っている。その中でも、自分のできる範囲の戦いをしている。
同じ土俵に立つ彼女の言葉は、きっと民衆へと真っ直ぐに届いていた。俺はそう信じたい。
「……ありがとうな。ニケさん。その、まぁ、カッコよかったぞ」
「姫乃様が、私に優しい……? 褒めてくださる……? もしや偽物さんですか……?」
「は? 抓むぞ? 俺は優しいご主人様だったんじゃないのか?」
「はぐぅ。あぁ、安心しました。いつもの姫乃様です」
鼻をつまむと、ニケさんは嬉しそうに身を委ねてきた。
最近はわざとお仕置きされようとしてないか。この変態メイドさんめ。
「しっかし、ニケさんの方が勇者に向いているかもな。俺がなれるのは精々魔王くらいか」
「……謙虚なのか傲慢なのかよくわからないわね。ヒメノらしいけど。あ、もしかして実は照れてたり? ヒメノって素直じゃないわよね」
「ルーシー、俺の世界には沈黙は金なりという言葉があってだな」
「いやっ、またきた……! あっ、んっ、それむりぃ、くすぐったいって! サクもやめっ!」
「こちょこちょこちょこちょ」
本音で言えば照れている。が、認めるのは癪なので否定する。
親しい人を褒めるのはどうしてこうもむず痒いのか。誤魔化すようにルーシーの耳を弄る。
ルーシーは足腰が砕けて座り込んでいた。咲も面白がって反対側の耳を弄っている。
「何を仰るんですか。私は姫乃様、咲様あっての私なんです。何一つ欠けてもここには別の、今とは違う臆病な私が立っていました。勇気をくださったのは他の誰でもないお二方です。私のご主人様は、いつだって理想の勇者様なんですから」
「……そうか?」
「はい。これからも、いつまでもお二人の従者でいさせてくださいね!」
「本当、煽てるのが上手くなったよなぁ」
真っ直ぐに向けられる笑顔が眩しくて直視できない。まるで太陽だ。
俺たちとの出会いで変われたと彼女は言うが、それはこちらだって同じなのだ。
俺が勇者になろうと決心したのは、一番は咲の代わりを務める為ではあるんだが。
それだけでは、赤の他人を救おうとまでは考えなかったはずだ。面倒事だと切り捨てていた。
俺も咲も人類が滅んだところで、無関係に生き残れる自信はある。
忠実な連中だけを従えて、他人なんて見てみぬ振りをする生き方だってできた。
そしていつしか、他人の生き死ににも慣れ、何も感じなくなり。
人とも魔物ともかけ離れた、心を持たない怪物に成り果てていただろう。
今でこそ考えられないが、一つの分岐点としてそんな可能性もあったはずなんだ。
「――咲は、みんなのことが好きか?」
部屋に戻るまでの道中、俺は愛する妹に問いかける。
「うん。ゴブちゃんも黒ブタさんも、お魚さんも、せいれいさんも、とりさんも、それにお姉ちゃんも! お兄ちゃんの次に大好き!」
「そっか。だったら、お人好しのメイドさんに感謝しないとな。――よっと」
「わぁ、お兄ちゃんたかーい!」
後ろから程よい重さの身体を担ぎ上げて肩車する。
「実はここ数ヶ月で身長が二センチも伸びたんだ。異世界に来て再び成長期が訪れたんだな」
「咲も大きくなって、お兄ちゃんいっぱいなでなでしたい!」
「あはは、それは楽しみだな。まあその時はお兄ちゃんはもっと大きくなってるけどなー!」
「えー、咲もぜったい追い付くもん!」
涼しい頭に暖かい手のひらが乗っている。肩に掛かる重みが、どうしようもなく幸福だ。
俺はこの一瞬の為ならどんな困難も乗り越えられる。同じ想いを、彼女は感じていたんだろうか。
ニケさんの言う通りだ。人の価値は力だけじゃないのだ。
傍に寄り添ってくれるだけでも、確かに支えになってくれている。
◇
「結局、街に残ったのはたったの三百六人って……少なすぎるわよ」
あれから半日ほどの時間を掛けて、島への退避を希望した人々を船で移動させ。
残った人数を集計したのだが。リヴァルホスから聞かされた数にルーシーは眉を顰める。
この数字の中には子供や年寄りも混ざっていて、戦場に立てる実数値は更に減ることとなる。
リヴァルホスの部隊一千に加えても、一千二百に届くかどうか。
絶望的な戦力差ではあるが、対して俺は晴れやかな気分になっていた。
「違うぞ。突如として現れた、勇者と名乗る男の無謀な願いに、それだけの人数が命を賭けてくれたんだ。そこに多いも少ないもないだろ?」
現状を憂いて、されど力を持たない人々が立ち上がってくれた。
それだけで俺たちが戦う意味は生まれる。やる気が出るというものだ。
「ヒメノ……そうね。その考え方は悪くないわね。いつだって前向きな姿勢はとても素敵よ」
「それで、それで、かわいこちゃんはいっぱいいたパルか?」
「馬鹿パルル! 貴方もヒメノを見習って、たまには真面目になりなさい!」
「あだっ、酷いよルーシーちゃん!」
「あ、あの。彼らはどういった形で配備されるのでしょうか?」
背中を押した張本人であるニケさんが、不安げにリヴァルホスに尋ねる。
「戦える者は男女問わず新兵として扱います。もちろん前線には出しませんが、防壁の守備隊として弓を持たせましょう。厳しいようでしたら投石でも構いません。戦えない者も後方支援に回してすべての者に役目を与えます」
「あくまでも主力は俺たちとリヴァルホスの部隊だ。ルーシー、新兵たちの訓練はお前に任せる。ピスコ村での実績があるからな。敵を倒す技術ではなく、生き残る術を教えてやってくれ。最初からかなり厳しめで頼むぞ、実際に死なれるよりマシだからな」
「そう来ると思ったわ。もちろん引き受ける。無意味な犠牲は出させないわよ!」
僅か二週間で満足に戦えるようになるとは誰も期待していない。
初っ端から三万の大軍とやりあう訳で、否応に度胸は付くだろうが。
今は後々の為に経験を積んでもらう。戦いはローザリア軍を突破して終わりじゃないのだ。
ゆくゆくは歴戦の戦士として、次の新兵を引っ張ってもらわないと。
そこまで戦争が長期化されても面倒なのだが、そういう心構えはしている。
「勇者殿と肩を並べ戦場に立てる日がこうも早く訪れるとは、腕が鳴りますな!」
「咲もいっぱいがんばる!」
「パルパル~サクちゃんと一緒にオイラも張り切るパルよ~!」
「姫乃様の足を引っ張らぬよう、精進を尽くしまいります!」
「別行動しているノムの分も含めて私が働かないとね。期待してくれて構わないわよ?」
頼りになる面々の力強い言葉を受け取り、俺は頷く。
「よーし、ここからが本番だ。戦争は準備段階で勝敗が決するという。各自、最善を尽くすように!」




