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30 腕相撲

「あの勇者様、本当に近付いても平気なのでしょうか? 急に頭を喰われたりしないっスよね……?」


「大丈夫だ。短い時間ではあるがしっかりと躾けてある。コイツは意外と知能が高いんだ。善悪を区別できるし、弱い者虐めだったり、無駄に暴れたりもしない。そうそう、足を撫でられるのが好きなようだぞ?」


 レグが恐るおそる魔王獣――嵐を纏うモノハイテンペストドラグーンに近付いていく。

 他者を寄せつけない、生物界における覇者が頭上から人々を見下ろしている。

 レグが足元に肉を置き、ゆっくりと足を撫でる。すると嵐を纏うモノが瞳を閉じる。


「キューン」


 心地がいいのか、鳴き声も透き通って聞こえる。

 レグが緊張しながらも戻ってきた。俺は村人たちに続くように伝える。

 次は子供たちが近付いていく、咲は直接触れられないので髑髏の杖経由で撫でる。


「鳥さん、こんにちは! おおきいね!」


「大人しくて可愛い!」


「でけぇ……!」


 子供たちに囲まれても嵐を纏うモノは気にせず、眠そうに欠伸をしていた。

 バシリスクもそうだが、魔王獣は巨体である為に動くのに莫大なエネルギーを浪費する。

 よって殆ど寝て過ごす日々を送っているらしい。つまり味方としては扱い辛い存在なのだ。 


 まぁ最初から簡単に操れるのなら、人類はもっと早く滅んでいただろう。

 これに関しては朗報と捉えるべきか。魔王軍側も多用できないということだ。


「魔王獣もこうなれば小鳥みたいなものパルね! ヘヘン、オイラの子分にしてやるパル!」


「キュ」


「ふぎゃああ!? 頭を齧られたパル! 嘘つき! 全然躾けられてないパルよ!?」


「今のはパルルさんが悪いっス。怒られて当然っスよ」


 嵐を纏うモノはパルルを咥えて俺に献上してくれる。いらんぞ。


「キュイキュイ」


「よーしよし。お前もそんなマズイ肉は喰いたくないよな?」


「オイラはマズくないパル! あ、いや、美味しくもないパルよ!」


「……パルル、美味シソウ」


 ザクロが俺の肩の上で涎を垂らしていた。パルルは非常食としても人気者らしい。

 お腹を壊されても困るのでちゃんとした肉を与える。食料は大量に手に入ったからな。


「ほら、たらふく食って大きく育てよ」


「これ以上大きく育ってもらっても困るわよ……! まさか、生きている間に魔王獣と触れ合う日が訪れるなんてね」


 ルーシーも宙に浮かび大きな翼を撫でている。

 三日ほど調教を重ねた結果、こうして人間にも慣れてくれた。

 ちなみに嵐を纏うモノだと呼びづらいので、俺が『パズズ』と名付けた。


「ヒメノ、この子をどうするつもり? 今後も戦力の一部として数えるの?」


「それなんだが、世界樹の防衛をしてもらおうと考えている。確か、精霊核は移動できないんだろう?」


「そうね。世界樹は風の魔力を集めるのに最適の場所だから。ここから移動させるとなると、必然的に私やハルピュイアたちの風の力も弱まってしまうわね」


「これから無人となる村に誰かを置いておく訳にもいかないしな」

 

 単体で人間の国を滅ぼした魔王獣ならば、精霊核の守護者として適任だろう。

 もうすっかり名前を忘れてしまったが、あの双顔巨人もいい贈り物をくれたものだ。


「そこまで考えて、この子を仲間に引き入れたのね」


「ただの成り行き、偶然だぞ?」


「ご謙遜を」


 ルーシーもノムと似て褒めたがりだな。

 別れの雰囲気を察してか、パズズは頭を擦り付けてきた。


「キューン」


「そうか、お前も寂しいか。いずれ迎えに来るからな? 今は大人しくお留守番をしてくれ」


 ベロベロと舌で舐めてくるパズズを撫でながら。

 俺は世界樹へ向かうよう命令する。パズズは指示に従い翼を広げ飛び立った。


「パル~すごいパル! ガーゴイルより、ずっとはや~い!」


「ぱずずちゃん、がんばれ~!」


 嵐の衝撃で家々が崩壊するが、新たな守護獣の誕生に村の皆も歓迎していた。


「凄まじいわね……今の一瞬で地上の物が吹き飛んだわよ」


「これだと仲間も巻き込むからな。どの道、セントラーズに連れて帰るのは難しかった」


 セントラーズには既にバシリスクも住み着いている。

 魔王獣を二匹も飼い慣らしていたら、さすがに大きく目立つ。


「姫乃様、出発の準備が整いました! いざセントラーズへ帰還しましょう!」


「ああ、わかった。ルーシー、女王にも伝えてくれ」


「はーい。ヒメノは先に荷台に乗って待っておいて。いい? 絶対よ?」


 ルーシーから一人で女王に会いに行くなと、警告されているので任せる。

 どうも俺はハルピュイアに狙われているらしい。何を、までは説明されてないが。


「……さてと、この村ともお別れか。色々あったが、得るものは大きかった。いつかまた、ここに居る連中と戻ってこられる日が訪れるといいな」


 役目を終えた村を一瞥して、俺たちは港街を目指し歩みを進めた。


 ◇


「なぁ、ニケさんや。一つ確認したいんだが」


「はい、姫乃様。どうかしましたか?」


 レイアース峡谷を無事に通り抜け、広い荒野に移り変わり。

 気持ち余裕が生まれたところで、俺は気になっていたことを尋ねる。


「気のせいだったらいいんだが……咲親衛隊の数が増えてないか?」


 俺は改めて一人ずつ丁重に数えていく。総勢六十九名か。

 セントラーズを出発した際に、親衛隊として連れてきた魔物の数は三十だった。

 つまり二倍以上増えているのだ。しかも牛顔の魔物やら杖を持つ灰色のゴブリンまで。


 誰もツッコまないから俺も自然と受け入れていたが。冷静に考えておかしいだろう。


「あれはミノタウロスにアークゴブリンですね。親衛隊隊長のハイオークさんが捕虜の方をまとめて入隊させたみたいですよ。当然ですが、二心を抱いていないか大変厳しい審査がありましたが」


「俺の知らないところで。リヴァルホスの元にいた時よりも生き生きと活躍してるよな」


「ハルピュイアさんたちのおかげで意思の疎通が簡単になりましたし。今後も頼りになる仲間を増やしていきましょう!」

「わーい!」

「おー!」

「パルパル~!」


 ニケさんが元気よく拳を振り上げると、咲とノム、あとパルルも真似っ子していた。

 頭上はハルピュイアたちがルーシーを先頭に羽ばたいている。こちらに手を振ってくれた。

 後方には、体力に余裕がある村人や、土妖精、魔物たちが足並みを揃えて行進している。

 

 ――最初はたったの四人だったと考えると、随分と遠い場所までやってきた気分になる。

 まだ一つの大陸すら解放していないのだが。現実世界と比べてこの世界は時間の密度が高い。


「んで、お前は何故俺の膝の上に乗っている。ここは咲専用席だぞ」


 視線を前に戻すと、仲間に加わったばかりのモフモフが動いている。

 見た目通り軽い体重で、愛嬌があるのに妙に憎たらしい太眉が目立つ。

 

「そんな冷たいことを言わないで欲しいパルよ~ヒメノの兄貴ッ!」


「急に馴れ馴れしくなったな」


「初対面でのあの対応は、あとでルーシーちゃんに怒られて、オイラもしっかり反省したパル。なので、お詫びと、親交の証としてこれをあげるパル。オイラの宝物パル!」


 パルルがゴソゴソと鞄から貝殻を取り出す。虹色に輝いていて綺麗ではあるが。 


「だから、今後とも仲良くよろしくパルよ。――義兄貴♪」


「グボァ」


 受け取った貝殻に唾が飛んだ。


「ど、どうしたのお兄さん!? もしかして気分が悪くなった?」


「姫乃様!?」


 突然苦しみ出した俺を心配して、ノムが背中を擦ってくれる。

 ニケさんも慌てて水を運んできてくれるが、一気に飲み干して俺はパルルを睨む。


「義兄貴、怖い顔してどうしたパル?」


「や、やめろ……! お前、明らかに(あに)ではなく義兄(あに)と呼んでいるだろ!? 俺は世界一番、義兄って言葉が嫌いになる予定なんだぞっ!?」


 俺は頭を抱えながら拒絶する。咲が誰かに攫われる未来を想像したのだ。

 そりゃあ、いつかはそうなる日が訪れるかもしれないが。断じて、今ではない。


「お兄さん……どうしたの? 別にパルルはおかしなことは言ってないと思うけど」


「兄と義兄は同じじゃないぞ!? 読みは同じだが関係性は大きく違う!」


「私には、姫乃様の仰られている意味がわからないです……」

 

 だって細かいニュアンスの差だし。


「うわー、咲、俺を置いてどこにも行かないでくれぇ!」


「お兄ちゃん? 咲はどこにもいかないよ? ずっと一緒! よしよし」


「あぁ~」


 小さな手で頭を撫でられて、ざわついていた心が落ち着く。

 昔の母さんにあやされた記憶が蘇りそうだ。一生このまま何も考えず過ごしたい。


「大変です大変です、姫乃様が幼児退行されてしまいました!」


「あ、いいなぁ。ボクもお兄さんに頼られたい」


「ズルいパル! オイラもサクちゃんによしよしして欲しいパル!」


「よしよし」


「あぎゃああああああ!? 背中が焼けるパルうううううう!?」


 学ばない馬鹿が燃えているが気にせず咲に甘える。

 しばらくすると、ノムも真似っ子して俺の頭を撫で始める。

 ニケさんは太ももをマッサージしてくれた。ここはもしや天国か?


「ちょっと、勇者様ともあろう人が何をしているのよ……全員に見られてるわよ?」


「あたっ」


 最終的に呆れ顔のルーシーにデコピンされるのであった。


 ◇


「よし、今日はこの辺りで休息を取るぞ」

 

 俺はさっそく荷台から降りて指示を出す。

 散開して天幕を張り、分かれて作業する面々の様子を確認する。

 村人も親衛隊も野営技術はプロ並みなので、俺は手持ち無沙汰であった。


 隅っこで静かに見守っていると、一人で丸太を複数個担ぐ有能な人材を発見。

 

「ウモオオオオオオオオオ」


「おっ、威勢がいいな。気に入った、お前は今日から俺の近衛隊長な」


 ちょうど気になっていた牛顔と接触する。見るからに脳筋だ。

 咲親衛隊は既に数が揃っているので、何人か俺の手勢にしてしまおう。

 ミノタウロスは俺を見下ろしながら首を傾げている。ザクロを呼んで通訳を頼む。


「モオオ、ムオオオ」


「フムフム、勇者ナラモット筋肉ヲ付ケロ、ヒョロヒョロダゾト言ッテイル。……失礼ナ奴ダ!」


「初っ端からダメだしかよ、いい根性してんな。わかった。だったら実力で黙らせてやる」

 

 俺は荷台から机を取り出し、そこに袖を捲った鍛えた腕を乗せる。

 意図を理解したのか、ミノタウロスは俺の三倍はあろう極まった太腕を乗せた。


「ムホホホホホ」


「ソンナ細腕デ大丈夫カ? ト、心配シテイルヨウダ」


「あぁん? 笑ってられるのも今のうちだぞ?」


 野営地のど真ん中での対峙。周囲には作業を止め凝視する人々の姿。


「あ~! あの牛顔、オイラを崖から突き落とした魔物パル!」


「今頃気が付いたの? それに貴方、自分から転げ落ちただけでしょ」


「これから勇者様が何かするらしいっス。みんな注目するっス!」


 お互い手を握って、そして同時に力を込めた。

 一瞬にして、鳥肌が立つほどの衝撃が全身に走った。

 

「ムオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ぬあああああああああああああ!!」


 漢と漢。野太い二つの咆哮が荒野に轟く。

 部隊を指揮する者として、新顔に大きな顔をさせられるか。

 ミノタウロスは真っ赤になっていた。鏡はないが、俺も変わらないだろう。

 

「おー、お兄ちゃんうでずもうがんばれ~!」


「お兄さん、応援してるよ~」


「兄貴~サクちゃんの応援で百倍強くなるパルよ~オイラの仇を取るパル~!」


 ちびっ子たちの声援を背中に受け、足元から力が入る。

 妹の前で意地を張るのがお兄ちゃんの仕事だ。悪いな、俺だけ応援付きで。


「だあああああああああああああ!!」


「ムオ!? ムオオオ、オオオオオ!」

 

 拮抗していた接点が僅かにズレていく。

 ミノタウロスの動揺が伝わる。しかし相手も強者だ。

 不利な状況でも漢の意地で堪えている。想像以上の長期戦だ。


「姫乃様~あともう少しですよ!」


「ほらっ、私を助けてくれた時の、あの勇姿を、もう一度見せてみてよ!」


「どりゃあああああああああああ!!」

「ムホオオオオオオオオオ!?」


 熱血魂を燃やした全力の気迫をぶつけると、会場の机が耐え切れず爆裂霧散。

 残された俺の覇気で腕を大地に叩きつけた。ミノタウロスが派手に転がっていく。

 

「うおおおおお! さすがは勇者様だ! この方についていけば間違いはないっス!」


「あぁ……勇者様。その逞しい腕で今すぐ抱かれたいですわ」


「間違いなく背骨を折られると思うのじゃが、女王様はそれでよいのか?」


 周囲の観客たちの大歓声が巻き起こった。勇者としての面子は保たれたか。

 俺はミノタウロスの元に向かう、立場上ヒール()役にして孤立させてしまった。


「ナイスファイトだったぞ。今後は俺の片腕としてその筋肉を生かしてくれ」


 身体を支え逞しい肩を叩く。お前も十分強かったと健闘を称える。

 するとミノタウロスは胸を叩いて、ボディビルダーのようなポーズを取った。


「ムオ、ムオオオ!」


「勇者様ヲゴ主人様ダト認メタラシイ。期待ニ応ジテ活躍シテ見セルト言ッテイル」


「お前らは本当単純だな。そういうの嫌いじゃないけどよ」


 腕相撲が功を奏したか新人たちは俺の実力を改めて知り、結束が高まった。

 ミノタウロスに加え、あとは有能そうなアークゴブリンを副隊長に任命しておいた。


「ヒメノ、この子に近衛隊長を任せるって聞こえたけど、貴方の背中を守るのは私じゃないの?」


「ルーシーには戦えるハルピュイアを再編成して遊撃部隊を任せたい」


「え、そんな。貴方の背中は私の場所だと思っていたのに……!」


 ルーシーが頬を膨らませて、不服そうにしているが。

 現状ハルピュイアを指揮できるのはルーシーしかいないのだ。

 いずれ、ザクロが成長すればそのポジションを任せたいとは思っている。


「残念だったね。お兄さんには既にボクがいるんだよ。ここは一人用だもんね」


「くっ……私が最初に出会っていれば。ノム、今からでもいいから変わりなさい!」


「ダメだよ、ボクは空を飛べないし。性格的に部隊長って柄じゃないから」


 ノムとルーシーが謎のポジション争いを繰り広げている。子供の喧嘩か。

 ルーシーを仲間にする理由の一つに負担の分担もあったはずだが。それはもういいのか。


「どちらにしろ役目はさほど変わらないと思うが。あとノムも基本は咲の護衛だぞ? その為の新たな近衛部隊だ。【精霊融合】も必要ない場面で、主力を一ヶ所に固めておくのはもったいないしな」


「えーそんな、ボクもお兄さんの隣がいいのに!」


「独り占めしようとして罰が当たったわね」


 ノムも抗議の声を出すが、【精霊融合】はいわば強敵専用であり。

 雑魚相手には過剰になってしまう。戦場で俺だけが強くなっても意味がない。

 今はとにかく人手が足りないのだから、基本は分かれて行動する方がいいだろう。

 

 ノムは咲と仲がいいから、しばらくは狙撃部隊の指揮を任せたい。


「新顔に居場所を奪われるだなんて、ボクたち負け組だね……」


「そうね……牛顔にヒメノの背中を取られた……! 悔しいぃ……!」


 喧嘩は痛み分けで終わったようだ。ノムとルーシーは肩を落として離れていく。


「んで、ニケさんは後方支援です」


「まだ私は何も言ってませんよ!?」


「いや、何となく顔に出ていたから」


 後ろで自分の番をウキウキで待っていたメイドさん。

 しかしニケさんもまた不服そうにしていた。全員反抗期か?


「私は姫乃様と咲様の従者ですが、咲様にはノム様がいらっしゃいますので」


「つまりだ。俺の補佐がしたいと?」


「はい! もうご主人様の傍を片時も離れませんから」


 そう言って元気よく答えてくれるのは構わないが。

 俺の傍って常に最前線な訳だが。この人は理解しているんだろうか。

 ニケさんの場合、天然ボケだからどちらの可能性もあるので判断が難しい。


「ニケなら大丈夫だと思うわよ。……それだけの覚悟があるのでしょう?」


「はい、ルーシー様。今回、皆様の戦いを間近で見てきて、私も怯えてばかりではいられないと。少しずつでも以前の勘を取り戻していきたい、お役に立ちたいとそう思ったんです」


 意外なところからの援護だ。ルーシーはニケさんを認めているのか。

 しかしながら俺はこの人が戦っている姿を殆ど見てないぞ。本当に大丈夫か。


「こう見えても少しは戦えますし、私だってやる時はやるんです! お傍に置いてください!」


「やる気だけがあってもだな……。まっ、とりあえず今は保留にしておこう」


「姫乃様ぁ……!」


「そんな愛玩動物のような目をしても駄目だぞ。適材適所があるんだから。ニケさんはいつものように後ろで応援しておいてくれ。ドラゴンの卵を抱えてな」


 軽くおでこを押すと、ニケさんは両目を瞑って退いた。

 仮にニケさんが戦えるのだとすれば、それなら別の部隊を任せたいし。

 俺の周囲は少人数でなるべく腕自慢の連中を並べた方がいい。危険な切り込み部隊だしな。


 今どき古臭い考え方かもしれないが、最前線で命を張るのは男の仕事だと思っている。


 あとは個人的な話で、ニケさんには俺たちの居場所を守って欲しいのだ。

 傍に居るだけで、その瞬間は戦いを忘れられるような。そんな安らぎの空間を。

 俺も咲も最近血に慣れ過ぎて過激になりがちだ。これは危うい傾向にある気がする。


 ただでさえ勇者でなく、魔王に近い存在だと精霊たちに言われているのに。

 人として大切な何かを忘れてしまわぬよう。ニケさんは俺たちの心の拠り所だ。


「とまぁそんな訳で。俺の護衛は頼んだぞ、ミノタ。あとアーク」


「ムホホホ」


「…………ギギ」


 近衛隊長のミノタが勝ち誇った顔でポージングを取っている。

 咲を除いた女性陣が悔しそうにしていた。後が怖いから煽るなって。


「ザクロハ勇者様ト一緒」


「通訳は必要だしな。ザクロは俺の傍にいてくれ」


「嬉シイ。勇者様、勇者様」


 ザクロがモフモフの羽で頬を擦ってくる。

 最近勇者よりも魔物使いの方が天職な気がしてきた。

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