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26 世界樹奪還作戦

 山脈に囲まれた広い盆地に、天まで伸びる大木がそびえ立っている。

 内部は風の魔力を内封しているのか、月明かりに照らされ仄かに輝いていた。

 太く伸び入り組んだ根っこの隅々には、軍隊蟻のように魔物たちが蔓延っている。

 

「どうだ、敵の食料庫は見つかりそうか?」


 世界樹の手前にある丘から、膨大な敵陣営を一望する。見張りはもちろん排除済みだ。 

 五千ものの大軍を駐留するとなると、当然だが補給線はかなり重要になる。

 弱点を隠すとなれば後方か。大樹の根っこで死角となる箇所も多く判断がつきにくい。

 

「右端の松明が掛かっている場所が怪しいです。食料となる家畜さんが外にはみ出ちゃってます。他にも幾つか候補を見つけましたが、特定箇所に固められていて、襲撃に対する備えが不十分です。……雑な仕事ですね」


 遠くを見渡せる遠視鏡を使い、ニケさんが敵食料庫の場所を瞬時に導き出す。

 うちのメイドさんは兵站を担当している。つまり敵の兵站もある程度推測できるのだ。 

 俺が【千里眼】で一から探すよりも早い。餅は餅屋って奴だ。


「これだけの戦力を有しているから、端から反撃されるとは思っていないんだろう。よし、まずはその伸びきった鼻を折ってやろう。必要分だけ強奪したあと、食料庫に火をつける。ザクロ、通訳を頼むぞ」


「ワカッタ! ザクロ、勇者様ノオ役ニ立ツ!」


「ブオ、ブウウ」

 

 俺はザクロを通してハイオークに指示を伝える。

 闇に乗じて、俺たちの部隊を敵陣営に忍び込ませるのだ。

 これだけの大部隊であれば、何人か異物が混ざっても気付かれまい。

 

 まず第一の目的として、セントラーズへの帰路の分の食料を確保する。

 村人たちに分け与える食料を峡谷に落としたので、どこからか補給する必要があった。

 魔物の食事は人間のものとさほど変わらない。食料庫から手当たり次第いただいていくとする。


 咲親衛隊が敵陣営に侵入していくの見送り。

 俺は世界樹を静かに眺めていたルーシーに再確認を取る。


「肝心の精霊核はどこにあるかわかりそうか?」


「……感じるわ。今は双頭巨人コットスの手元に。体内に取り込んで力を得ているのね」


「つまり【精霊融合】と似たような状態か。面倒だな」


「ふふっ、面倒で済むのね? 頼りになる勇者様だこと」


「当然だ」


 第二の目的として、奪われた精霊核を取り戻す。

 風の精霊とハルピュイアの力の源であり、風の魔力の発生元だ。 

 彼女たちは貴重な空戦力である。必ず精霊核は手に入れなければならない。


「さてと、そろそろ時間か。今夜のうちに決着をつけるぞ」


「ええ、長引かせたら援軍を呼ばれるものね」

 

 今回の作戦もこれまでと同様、いたって単純だ。

 少数で夜襲を掛け食料を奪い、反撃の暇も与えず総大将を討つ。

 俺も全員を相手するつもりはない、余計な敵は無視する方針にしている。

 長期戦が望めるほど、生き残った村人たちの体力は残されていない。それは巡回してわかった。


「姫乃様、ハイオークさんたちが食料庫に無事侵入しました! こちらに合図を送っています」


「確かに松明が揺れているな。アイツらサボり癖はあるが普通に優秀だよなぁ」


「ではでは、私はカトプレパスさんを誘導して食料を受け取りに参りますね!」


 ニケさんがフードを深く被り、木々を利用しながらカトプレパスを誘導していく。

 敵も行軍には大型魔獣を使っているので、どうとでも誤魔化しは効くだろう。

 念を入れて護衛も付けているし、すぐに連中はそれどころじゃなくなるはずだ。


「ボクたちはこのまま、正面からちょっかいをかければいいんだね?」


「ああ、しばらくすると各食料庫から炎が上がる。敵さんは慌てふためくはずだ」


「その混乱に乗じてコットスを討つと……本当、勇者様にしかできない無謀な作戦ね。命が幾つあっても足りる気がしないわ」


 ルーシーは槍を握りながら俺の傍に立っている。

 ブツブツ文句を言いながらも、ヤル気があるじゃないか。

 

 後ろでは咲が月明かりを頼りに暇潰しの絵を描いている。


「お兄ちゃん、よふかし楽しいね」


「咲、大丈夫か? 眠くないか?」


 夜も遅く子供はもうとっくに眠っている時間だ。

 お昼寝をしていたとはいえ、お兄ちゃんは妹の体調が心配である。


「咲はお兄ちゃんと一緒に悪い子になる!」


「そっか。悪い子にはお仕置きしないとな~! ぷにぷにぷに」


「きゃっ、お兄ちゃんくすぐった~い!」


 柔らかいお腹をつっつくと咲が喜ぶ。


「生死を賭けた決戦前の兄妹の会話とは思えないわね……」


「そこはほら、ボクたちで二人を支えるんだよ」


「まぁそれもそうね。――――ところで、ノムまでお腹を晒して何をしているの?」


「えっ、せっかくだからボクも参加しようかと」


 ノムが「ボクも混ぜて」と服を捲ってお腹を晒すので、ついでにつっつく。

 この真似っ子め、いつも不健康そうな肌をしやがって。もっと飯を食え、飯を。

 

「きゃっきゃっ」

「フフフ」


「はぁ……私が三人分頑張らないとね」


 ◇


 ズオオオオオオオオオオオオン


 咲の投げた岩石が、陣営を囲う防柵をいとも容易く粉砕する。

 破片が飛び散り砂煙が舞い上がる。慌てて動き出した門番を、俺とルーシーで討ち取った。


「サク、次はあっちに移動するよ」


「うん。ノムちゃんについていくね!」


 咲はノムと共に別の狙撃ポイントに移動する。

 俺たちはその場に残り、まずはとにかく時間を稼ぐ。


「おらぁ! 勇者様のお通りだぞ。その命、神に返してやる! 首を置いてけ!」


「よくも私の故郷を荒らしてくれたわね! ここから反撃の時間よ!」


 わざとらしく大声を上げて注意を引き付ける。敵はこちらに集ってきた。

 夜襲によって統制の取れていない軍団は、各々が身勝手に動き数の利を生かせない。

 次々と湧き出てくる敵を適当に相手しながら、頃合いを見計らう。


「ここだルーシー、一旦下がるぞ」


「わかったわ!」


 暗闇を利用しながら素早く撤退する。

 タイミングよく別の箇所から咲の投石が放たれた。

 合わせて今度は反対側から二人で急襲。敵は陣営内で右往左往していた。


「ははは、ここまで作戦が上手くいくと笑いが止まらないなぁ!?」


「まさか敵も、こんな少人数に襲撃を受けるとは思っていないでしょうし」


「勇者にそんな常識は通用しないことを教えてやるよ!」


「私も、現在進行形で思い知っているわ……!」


 初戦で植え付けた恐怖も大いに機能している。

 咲の爆撃に怯えた魔物たちが、恐怖を伝染させていたのだ。

 人数の多さが仇となったな。大軍も御しきれなければただの的である。


「ヒメノ、ニケが目的地点に辿り着いたそうよ。ザクロが知らせてくれたわ!」


「わかった。このまま敵を食料庫から引き離す。ここが正念場だ、気張れよ!」


 【火球】を放ち天幕に火を放っていく。

 自分たちの居場所を知らせて、更に敵を呼び集める。


「第二波、気を付けて、ゴブリンの弓兵!」


「任せろ! 動きがおせぇんだよぉ!」


「グギヤヤヤヤヤヤヤヤヤ」


 殺到する矢を敵オークを盾にしてやり過ごし、首を折って地面に転がす。

 落ちていた槍を拾ってぶん投げると、弓兵の一体を貫いた。接近して剣で蹴散らす。


「ルーシー、まだまだいけるよなぁ!?」


「当然、私たちだけでも十分なくらいよ!」


 徐々に囲まれていくが、俺もルーシーも勢いが止まらない。

 これまでの鬱憤を、亡き者の仇を取る為に魂の籠った一撃を加えていく。

 松明に照らされ修羅の如く暴れ回る俺たちに、敵は戦々恐々と円を広げていた。 


「見て、ヒメノ。食料庫が燃えているわ、作戦が成功したみたいよ!」


「おっし、このまま敵陣を押し通る! 狙うは敵総大将首ただ一つだ!」


 各所で派手な炎の柱が立っている。

 咲の爆撃に俺たちの奇襲、そして食料の損失。

 敵の士気は底辺まで急降下、総崩れ状態になっていた。

 

 逃げる敵は追わず、ただ真っ直ぐ敵の総大将を捜索する。


「――これは、一体何があったノダ。何故我が部隊がこれほどの損害を受けてイル。敵は少数の村人ではなかったノカ? まさか、例の反乱軍の仕業カ!」


 ひと際大きな天幕から巨人が遅れて現れた。まるで状況を把握しきれていない様子だ。

 勝利を目前とし、部下に職務を丸投げ惰眠を貪っていたか。随分とマヌケな総大将じゃないか。

 魔王軍も玉石混淆(ぎょくせきこんこう)であるのか、無能もそれなりにいるらしい。それとも勝者ゆえの慢心か。


 大陸の八割を制しているからと油断しすぎだ。こちらとしてはありがたい話だが。

 

「小さき人間ヨ、お前がこの惨状を引き起こしたノカ」


 巨人の顔は二つあり、怒りと悲しみの両方を滲ませている。

 最初に遭遇したサイクロプスと比べると一回り小さいが、より筋肉が発達していた。

 もはや幼子とプロレスラーほどの体格差がある。しかし俺は負けじと声を張り上げる。


「そうだ。貴様の首を奪いに来てやった! ちょうど二つあるからな。競い合わなくて済みそうだ」


「そうね、私とヒメノでお前の醜い顔を斬り分けてあげる」


「おのれ……我が主君から授かった大事な戦力をむざむざと失うトハ。せめて、お前たちだけでも潰してくレル」


 双頭巨人コットスは巨大な鉄球を取り出し、味方への被害も顧みず振り回す。

 身体が大きい分、動きが大袈裟で回避するのは難しくない。一旦、距離を取る。


「大切なものなら尚更、宝箱にでも詰めて隠しておくべきだったわね!」


「愚かな風の精霊よ、力も兵も失い、失意に沈みながらそれでも尚、精強な魔王軍に逆らウカ!」


「私だけじゃない。皆の意志を背負っているのよ。何度だって立ち向かうわ!」

 

 ルーシーの気合の入った言葉に呼応し、後方から援護射撃が飛んでくる。 


「ぬうううウウ! この程度の攻撃は効かンゾ!!」


 咲の投げた石が風圧でずらされ別地点に落下した。

 双頭巨人は風に包まれている。胸には輝きを放つ宝玉が。

 あれが風の精霊核か。激しい衝撃に耐えながら俺は剣を握った。


「投擲は効かないようだ。ならば近接戦闘で片を付ける!」


「私の力を返してもらうわよ!」


 二手に分かれて、まずは巨人の足元を狙う。が、風の勢いが凄まじい。

 少しでも近付くだけで吹き飛ばされそうになる。足元が浮かび距離を離される。

 

「フハハハ、無駄ダ、無駄ァ!」


「くそっ、またロッククライミングの続きかよ!!」


「自分の力を敵に回すと、こんなにも厄介なのね。胸の精霊核さえ奪えれば……!」


 近付くことすらままならず、かといって遠距離攻撃も届かない。何という面倒な相手だ。


「お兄さん、邪魔な連中はサクが追い払ったから。援護に来たよ!」


「助かるぞ、【精霊融合】だ!」


 後ろから駆けつけてくれたノムと融合し、大地の力を味方に付ける。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 地面を掴みながら、獣になり四足歩行で暴風の中を駆け抜ける。

 その間も敵の鉄球が降り注ぐ。何とか避けるも、また風圧に押し飛ばされた。 

 下手糞な鉄球によって地面に穴が空きまくり、掴み場所がなく姿勢制御が安定しないのだ。


「だあっ、面倒臭い! ルーシー、奴の弱点はないのか!?」


「よく見て、周囲を守る風は奴自身には干渉していない。それはつまり中央は範囲外ってことよ。所詮は借り物の力、自分自身を傷付けるのを恐れている」


「そうか、台風の目だな。上空からなら近付けると――って、翼がないのにどうしろと!?」


 双頭巨人の近辺には高台もない。その場に居座り続けている。

 奴も己の弱点を理解しているだろうし、安易に移動することもないだろう。 


「フハハハハ、お前たちの攻撃は、この俺には届かナイ。残念だっタナ!」


 風の推進力を味方につけて、次々と鉄球が降り注ぐ。

 

「他人から奪った能力でよくもそこまで威張れるわね……!」


「うおっ!? また飛ばされ――」


 鉄球の一部が足元で爆発、俺の身体が吹き飛ばされる。


「――勇者様、ザクロガ勇者様ヲ運ブ!」


「だ、大丈夫か!? 怪我も治っていないんだろ?」


「少シダケナラ……運ベル。奴ハ仲間ノ仇……! ザクロモ、役ニ立チタイ……!」


 飛ばされた俺をザクロが空中で捕まえた。

 翼を広げて、コットスの真上まで運んでくれる。

 足先から血が流れているが、歯を食い縛って耐えている。


「ハルピュイアもいたノカ!? こ、これ以上は、近付けさせンゾ!!」


 これにはコットスも余裕が崩れ焦りだす。

 俺たちを狙って再度、鎖で繋がれた鉄球を振り回す。


「マズいぞザクロ、奴に狙い撃ちされている、避けられるか!?」


「ウ、動クノ、大変」


 幼い翼では真っ直ぐ飛ぶだけで精一杯か。鉄球が放たれる。

 剣を盾にするが、このままでは俺が無事でもザクロが耐えられない。

  

「させないわよ!」


 その瞬間、地上ではルーシーが拾った弓を構えていた。

 何もない上空に放ち、降り注ぐ一本の矢が台風の目に吸い込まれる。


 見事にコットスの腕に命中して、鉄球が僅かに逸れていく。


「アイツ天才か? どんな弓の精度だよ」


『ルーシーは昔から武闘派だったからね。村を守る中で更に武を極めたみたいだ』


「勇者様、ザクロ限界。ココマデ!」


「よくやったぞザクロ! 十分だ。仇は必ず取るからな!」


 台風の目直上に差し掛かり、俺は自ら飛び降りる。

 コットスが慌てて逃げようとするが、そこに追撃の矢が降り注ぐ。


「……お前をこの手で打ち倒す日を、どれほど夢見てきたことか。絶好の機会、死んでも逃さない!!」 


「お、おのれぇ……!」


 ルーシーの信念の矢にコットスが怖気づいた。

 時間にして数秒、それが戦場では生死を分ける。


「くたばれ巨人野郎おおおおおおおおお!」


 重力に乗せて愛剣を二つある顔面の片側に叩きつける。

 悲鳴を上げてコットスが退いた。逃がさずに足の腱を斬り付ける。

 風の勢いが弱まった。背中で走り寄る音がする。ルーシーが槍を構えて飛翔。


「これでトドメよ! 死んでいった数多の戦友たちの仇!!」


 躊躇なくコットスの心臓を貫く。引き抜くと血飛沫が舞った。

 だが、それでもコットスは腕を振るいルーシーを遠ざける。

 しぶとすぎる。もしかして顔だけじゃなく心臓も二つあるのか。


「ゴオオオオオ……ここまで、追い詰められるトハ、もはや形振り構ってらレン。魔王様よりお預かりしていた、獣を解き放つ。世界樹を破壊する為のものだったが、貴様たちもろとも滅ぼしてくレル!!」


 コットスは怒りに任せ拳を地面に叩きつける。

 すると、世界樹の方向から凄まじい咆哮が響いた。

 

 遠方に大きな黒点が見える。左右に長いシルエット。

 巨大な翼竜だ。灰色の雲を引っ提げて怪物が降臨していた。


「あ、あれは、魔王獣――――嵐を纏うモノハイテンペストドラグーン!?」

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