25 ご褒美
二時間ほど休息を取り、興奮冷めやらぬうちに作戦会議を開く。
防衛戦を勝利で飾れたが、まだ敵の本隊が残されている。総大将も健在だ。
このまま迎え撃つ戦い方を続けていても、不毛な消耗戦を繰り返すだけになる。
「この勢いに乗じて、今度はこちらから攻め込むぞ。夜襲を掛けるんだ」
「正気? まだ敵は数千の兵と双頭巨人コットスが残っているのよ? それに風の魔力を大陸中に循環させる機能を持つ世界樹を防衛するからには、まだ切り札を隠している可能性もある。あまりにも危険すぎるわ!」
俺の提案にすかさず風の精霊ルーシーが反発してくる。
こうして対等にぶつかってくる人物は少ないので好感が持てる。
勇者だからと煽てるだけの人物ばかり囲んでも、意味がないからな。
「後顧の憂いを絶たなければ、安心してセントラーズには戻れない。カトプレパスは動きが遅いからな。峡谷を抜けて、平野を移動しながら守り通すのは難しいぞ。確実に犠牲者を増やす羽目になる」
このまま女王を含めた非戦闘員を逃がそうにも、敵は必ず追っ手を差し向けるだろう。
不利な状況で追撃部隊をやり過ごすくらいなら、敵本隊をぶっ潰した方がまだやりやすい。
「そもそも、これだけの戦力で挑むつもりなの? 全員合わせても百にも満たないじゃない」
「ああ。もっと言うなら俺と俺の連れてきた部隊だけで戦うつもりだ」
「君と話していると、頭が痛くなってくるわね……!」
これ以上の犠牲を抑える為にも、既に疲弊している村の連中は当然置いていく。
ずっとサボっていた親衛隊どもは体力が余っているからな。仕事を与えてやらねば。
「お前も精霊の力を失っているんだろう? 安心しろ、俺が取り返してきてやるよ」
「んなっ……! 何で君はそう……簡単にそんな事が言えるのよ!?」
ルーシーは頬を赤らめていた。雨に当たり過ぎて風邪でも引いたか。
「ボクもお兄さんの案に賛成するよ。頭の悪い作戦だけど、それしか打開策がないからね。勢いに乗るのは間違っていない。敵は兄妹の圧倒的な強さを身に染みて味わったあとだし、優位に戦えるはずだよ」
「頭の悪いは余計だぞ」
「……褒め言葉だよ?」
「何でも褒めときゃセーフじゃないぞ?」
ノムは相変わらず一言多いが、思考は一致している。
恐怖は時が過ぎれば薄まるものであり。こと集団においては簡単に誤魔化される。
一度崩壊した部隊を再編制される前に、初戦の勝利を最大限有効活用すべきだろう。
「従者は常にご主人様と共にありです。姫乃様が戦うのでしたら、私はどこまでもついていきます。えへへ。いっぱいお叱りを受けちゃいました」
「咲もお兄ちゃんとずっと一緒にいる!」
「ブホホホ!」
「ウギッ、ウギィ!」
「ザクロモダ、勇者様ヲ支エル!」
全員乗り気だ。多数決では俺たちが大いに上回っている。
咲はいつも通りとして、ニケさんも再会してから妙に俺に甘いし。
ザクロは重いし、咲親衛隊たちは何も考えていなさそうな顔をしている。
どんな状況でも普段通りの様子を崩さない、妙な安心感があるな。
「ルーシーは休んでいても構わないぞ。別に俺たちのやり方に付き合う必要はない」
勇者の力が大前提の作戦である為、常識外れなのは間違いない。
だが魔王軍との戦力差を埋めようと考えれば、何をするにもリスクは生じる。
正攻法で勝てる相手なら、わざわざ俺たちはこの世界に呼ばれていないのだ。
ルーシーは俺の顔をじっと見つめていたかと思うと、間を置いてわざとらしく溜め息をつく。
「はぁ……私もついていくわ。君は何だか危なっかしいもの。そのうち過労で死にそうね」
「そうか? この世界に来てからかなり体力がついたと思うんだがな」
「精神的な部分でよ、自覚がないところが特にね。それに勇者様頼りにするのは私の意に反するの。引き続き背中は守ってあげる。君自身には護衛がついていないようだし」
コイツもノムと同じようなことを言い出すな。
そんなに俺が頼りなく映るのか。まだまだ理想の勇者には程遠い。
「ルーシーも素直じゃないよね」
「ノム、余計なことは言わないでいいの!」
◇
会議を終えて村を歩いていると、土妖精を発見する。
咲くらいの背丈で無精髭を生やしている。丸っこくがっしりした体格だ。
「勇者殿の戦いぶりを間近で見させてもらったが、随分と錆びた剣を使っておるのじゃな」
「ん、これか? この世界を訪れて最初に拾ったものだ。手に馴染むんで愛用している」
「ふむ、今は錆びついて眠っておるが、元はかなりの名剣だったはずじゃ。優れた武器は自ずと使い手を選ぶと言うが、勇者殿は癖のある者に好かれやすい体質と見た」
「土妖精は占いもできるのか?」
「ホッホッホッ、これでも長く生きておるからのう」
そうかコイツは名剣だったのか。ますます気に入った。
「爺さんは武器に詳しそうだが、もしかして直せたりするのか?」
「それは詳しく調べてみなければわからんが、あいにくこの村には道具も設備もないからのう」
「じゃあセントラーズに戻ったら打ち直してくれないか? 相棒を綺麗にしてやりたい」
「勇者殿の頼みとあらば、断るわけにもいかぬのう」
ウォッカの爺さんは、前向きに検討してくれるようだ。
これは楽しみが増えた。爺さんに別れを告げ俺は上機嫌で散歩を続ける。
「勇者様ダ」
「勇者様、オ散歩デスカ?」
次はハルピュイアの集団に捕まった。取り囲まれて厚い羽毛で密着される。
「勇者様、今宵敵の根城である世界樹に向かわれると聞きました。どうかご無事で。ワタクシはこの村で勇者様のお帰りをいつまでも、いつもでも待ち続けておりますわ」
「おう。すぐに戻るから期待して待っててくれ。お前らの平穏を取り戻してやるからな」
「勇者様……あぁ、何と心強いお言葉でしょうか」
ハルピュイアの女王が跪き、俺の手の甲に頬擦りをしていた。
好きにさせてから、女王たちにも別れを告げて、散歩を再開する。
ふと下を向くとザクロがちょこちょこと隣を歩いていた。
俺は警戒しながら距離を取る。隙を見せると肩に乗られるのだ。
「勇者様ガ村ヲ回ルダケデ皆ガ元気ニナル」
「俺は普通に扱ってくれた方がやりやすいんだがな。変に畏まられると気を遣う」
「勇者様ハ村ノ救世主ダ。ザクロハ勇者様ヲ尊敬シテイル」
「結果的にはな。だが村を守ったのは俺だけじゃないだろう? なのに俺だけがこうも褒められるのは違和感がある。ザクロ、お前だって村の救世主でもあるんだぞ。自分に誇りを持てよ?」
勇者なんて何もしなくても目立つ存在なんだ。
こういう日常でこそ、他の勇敢な戦士たちを労うべきだろうよ。
「お前はよく頑張った。勇者である俺が褒めてやる」
ザクロの頭を撫でてやる。コイツも子供の癖に有能で立派な戦士だ。
褒めてくれる両親や親友がいないのであれば、俺が代わりに褒めてやろう。
「……勇者様ハ、トテモ優シイ。ザクロハ勇者様ニ使ワレテ嬉シイ」
「気のせいだ。不良が稀にいいことをして過剰に評価されるのと同じだ」
スリスリ、スリスリスリ
「勇者様、勇者様。ザクロハ勇者様ガ好キ」
「あ、コラっ。ザクロ、肩に乗るなって。くすぐったいっての!」
頬で頬をスリスリされて、翼がモフモフで暑苦しい。
ザクロの攻撃を躱していると、休憩していた咲がニケさんと一緒にやってきた。
「お兄ちゃんぎゅー」
「なんだ咲、真似っ子か?」
「おにぃちゃんおにぃちゃん」
「勇者様勇者様」
咲がお腹にくっついて甘えた声を出す。ザクロも止まらない
スリスリ攻撃が延々と続いていた。目の前でニケさんがニコニコしている。
「楽しそうですね。ここは私も便乗します、えーい!」
「おい、ニケさんもふざけるなって、また説教を受けたいのか?」
「ご主人様のお説教なら喜んでお受けいたします!」
「ニケさんがどんどんマゾになっていく……!」
二つの強力な弾力を持つニケさんが背中にくっついた。
俺なんかにへばりついて一体何が楽しいのやら。熱い熱い。
「スリスリですぅ。姫乃様は暖かいですねぇ」
「お前ら……!」
三人分の重みを抱えて、腰を悪くした爺さんのように歩いていると。
「あ、お兄さん。ボクがいない間に楽しそうなことをしてる」
「決戦前に身体を休めないといけないのに何をしているのよ。緊張感の欠片もないわね……!」
ノムとルーシーが近付いてくる。嫌な予感。
背中を向けて逃げようとした瞬間、【精霊融合】が発動する。
『逃げるのは寂しいよ。ボクも仲間に入れて欲しいかな』
「……予想通りの展開だぞ」
外も内も女だらけだ。本当物好きな連中だ。
元気なのは良いことだが、もっと有意義な使い方をしろと。
「ノム、悪ふざけはやめなさいよ。勇者様を困らせてどうするの」
「ルーシー、お前だけが味方だぞ……!」
常識人のルーシーが止めに入るが、ふと動きが止まった。
じっと俺の空いている腕を見ている。あ、また嫌な予感が。
「そ、そうよね。私も、君たちのやり方に付き合ってあげる……!」
ルーシーは自分に言い訳をしながら右腕を掴んでいた。
これで五人分の重みを背負った事になる。まるで大家族の父親だな。
「お前も同調圧力に屈したか」
「別にいいじゃない……私にだって、頑張ったご褒美をくれたって」
ザクロを褒めていたくだりから聞こえていたのか。
まぁそうだよな。一番の功労者であるルーシーにもその権利はある。
俺の言葉にどれだけの価値があるかは知らんが。褒め言葉の一つくらい安いもんだ。
「ああ、お前もこれまでよく頑張ったな。おかげで俺たちもギリギリだが間に合った」
「……うん。私が不甲斐なくて、たくさん死んじゃったけど」
「だが、お前が生きて伝えてくれた。死んでいった者の無念を。それにここに残された連中はお前たちが救った命だ。自分を卑下するな、お前も立派に戦った勇敢な戦士だ。他の誰が何と言おうと、俺が認めてやる」
「勇者様……私は……うん……頑張ったよ。ずっとずっと、辛かった。強がっていたけど。本当は、誰かに救って欲しかった」
ルーシーは俺の腕を強く握りながら、静かに震えていた。
見ていない振りをしながら、もう片方の手で強く頭を撫でる。
「同じ志を持つ仲間なんだ。姫乃でいい。俺たちとお前の力で必ず仇を取るぞ」
「……ヒメノ。君は本当に……裏表のない素敵な人ね」
「気のせいだっての。男の言葉に簡単に騙されるなよ。将来酷い目に遭うからな」
「君になら騙されても後悔しないわ」
ルーシーはそう言って、涙を拭って笑った。
「ルーシー様もご主人様の魅力に気付いてくださいましたか!」
「あ、ダメだよ。お兄さんはボクが支えるんだから」
「お兄ちゃんは咲の!」
「勇者様勇者様」
「だーーーーーー! お前らいい加減、俺を解放してくれ!!」
「わー! お兄ちゃんが怒った~!」
「怖いですね、逃げちゃいましょう!」
俺が怒ると咲を筆頭に大はしゃぎで逃げ出していく。
鬼ごっこか、いいだろう。全員捕まえてお説教してやるからな。
「あはは、そういうヒメノこそ、将来が大変そうね」
で、鬼ごっこはどうなったの?(ルーシー)
全員、自分から自首してきたぞ。怒られて嬉しそうにしていた(姫乃)
えぇ……貴方の周りは変な子ばかり揃っているのね(ルーシー)
主にメイドさんのせいだな(姫乃)
どう考えてもヒメノの影響でしょ(ルーシー)
作品を読んで少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマーク、評価などをいただけるととても嬉しいです




