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24 ピスコ村防衛戦

「おらおらおら。邪魔立てする奴は斬る。逃げても斬る! 俺と出会った不幸を呪うがいい!」


『お兄さん、今日はいつになく張り切ってるね?』


「こちとら慣れないロッククライミングをやらされて気が立ってんだ!」


 騒がしい戦場のど真ん中で、ひたすら俺は目立っていた。

 手当たり次第に叩き潰していく。どうせ目の前のすべてが敵だ。

 いちいち味方との区別をつける必要すらない。目を瞑っても剣が当たるぞ。


「お兄ちゃん~! がんばれ~!」


 後方、民家の屋根の上で愛する妹が手を振っていた。

 あぁ~こんな血生臭い状況でも癒される。俺も手を振って返す。


 ――グオオオオオオオ

 

「失せろ」


 背後から迫る魔物に肘鉄を喰らわせ、首を叩き折る。

 咲との触れ合いの邪魔をするな糞野郎。その行い万死に値するぞ。

 一連の流れを見ていた風の精霊が、槍を振り回しながら大きな声を出す。

 

「ちょっと、威勢の割に敵の数が減ってないわよ。余裕かましてる場合!?」


「余裕だから余裕をかましてんだよ」


「言うじゃない。苦戦していた私たちが弱いって言いたいのね?」


「変な自虐すんな。お前こそ口を動かす前に手を動かせ! 背中は、預けたぞ」


「精霊使いが荒いわね……ご期待に応えてあげるわよっ!」

 

 五十体目の命を奪ったあと、再び民家に視線を向けると。

 咲が屋根の上で石ブロックをフラフラと両手に持ち上げていた。


「お兄ちゃん見ててみてて!」


「咲、ブロック崩しでもやるのか?」


「うん! いっぱい崩す~! ぽいっ!」

 

『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 魔物が石に衝突して消滅した。今ので三十は吹っ飛んだか。

 咲もいつにも増して気合が入ってる。俺も負けていられないな。


「う、嘘……何なのよあの力……! 一帯の魔物が蒸発したんですけど!?」


「何言ってんだ、女神から貰った力だぞ。まさか、精霊なのにご存じでない?」


「女神の力は純粋無垢な子ほど適合すると聞いたことがあるけど……ここまで差がでるんだ……!」


「へぇ、初耳だ。だが納得はできるな。咲は穢れのない天使だからな。薄汚れた俺と違って!」


 咲は女神に選ばれた正真正銘の勇者であり。

 俺の自慢の、全世界で一番優しくて可愛い妹なんだ。


「……あんな小さい子を戦場に出そうだなんて。君も女神も酷いことを考えるわ」


「咲はお兄ちゃん子なんでな。心配なら、さっさと戦いを終わらせるぞ!」


 咲の近辺は親衛隊のハイオークたちが防衛しているはずだ。

 アイツら屋根の上で俺を応援してやがった。サボり癖がついてるな。


「勇者様とルーシー様に続くっス! 俺たちの村を取り戻すんだ!!」


「ソウダ、魔王軍ヲ根絶ヤシニスルノダ!」


「ホッホッホッ、ワシも負けてはおられんぞ!」


 ひたすら無双を続ける俺たちの姿に、味方が感化されていく。

 士気が上がり、逆に敵は勢いに衰えが見え始めた。こうなればこちらのものだ。

 敵の大部分が勇者を名乗る俺の存在に固執している。味方の被害はかなり抑えられている。


「この程度の戦力で俺たち兄妹に敵うと思うなよ? これが人間様の底意地だ、思い知れ!」


「もうっ、勇者様なら少しはそれらしくしなさいよ! 言動が悪役のそれよ!?」


「戦いに礼儀も糞もあるか、勝つか負けるかだ! 今の俺は殺戮者(キリングマシーン)だ!!」


 返り血に染まった俺が近付くだけで、魔物どもが怯え逃げ出していく。

 容赦なく背中を叩きつける。二度と逆らえないよう地獄を味わわせてやる。

 

 牛の魔物を蹴り飛ばし、ゴブリンの首を折る。近付く獣は全力の拳で粉砕する。

 挟まれればザクロが羽根を飛ばし妨害。生まれた隙に剣を叩き込む。

 あちこちに骸の山を築き、それでも満足せずに突撃する。戦いは狩りに移行していた。


「君、本当に異世界人!? ちょっと野蛮過ぎない!?」


『フフッ、ルーシーもさっそくお兄さんに苦労してるね』


「ノムも笑ってないで、手伝え!」


『はいはい。本当不器用な勇者様なんだから』


 【マッドゴーレム召喚】×六十


 余力を残しつつゴーレムを生み出す。操作はノムに丸投げだ。

 ゴーレムによって隔離された連中を叩いていく。あと、降り注ぐブロック群を躱す。


「はぁはぁ……守る背中が移動しすぎよ。無茶苦茶なんだから!」


 風の精霊は鋭い槍捌きで敵を薙ぎ払っている。やるじゃないか。

 負けじと錆びた剣で敵オークの骨を砕く。やっぱ俺の戦い方ダサくね。

 咲の石が近場で爆発する。破片を浴びて周囲の魔物がぶっ飛んでいく。


「……君の妹さんの攻撃、こっちには届かないわよね?」


「俺は愛する妹の行動を目を瞑っても理解できる。なぁに俺の傍にいれば当たらない」


「不安なんですけど!?」


 ――ズオオオオオオオオオン


 自信満々にそう答えた直後、地割れのような衝撃に俺たちはひっくり返る。


「お兄ちゃあああああああああああん!」


 咲が満面の笑みを浮かべて巨石を放り投げていた。

 ボーリング玉の如く転がり、防壁ごと一軍を磨り潰す。

 妹の逞しい成長を見届けることができて、お兄ちゃん感激だよ。


 でもな、もう少しで巻き込まれるところだったぞ。次は事前に教えてくれよな。


「ぎゃああああああ、君たち兄妹はどうなってるのよおおおおおおおお!?」


「懐かしいですね。私も慣れない頃はこんな反応でした」


 ニケさんが後ろで得意げになっている。何してんだこのメイドさん。

 灰色の煙が晴れる。隕石クラスの爆撃を受けて、第一陣は壊滅したようだ。


「ば、馬鹿ナ……この戦力差ヲ覆すだト!? 貴様たちハ一体……!」


 前方に人の言葉を話すオークが立っている。

 どうやらこの部隊の大将らしい。終わりが見えたな。


「油断してわざわざ前に出てきてくれるとはな。その首、貰い受けるぞ」


「前に出たのでハない、壊滅したノだ!! クッ、人間風情が、この俺様ヲ止められ――――」


 大将オークが遅れて大きな戦斧を持ち上げる。

 ここまで戦い続け、身体が暖まっている俺には止まって見える。


「雑魚が黙ってろ」

「他愛もないわね」


 俺と風の精霊、踏み出したのは同時だった。

 土手っ腹にクロスの傷跡を刻み、敵大将を葬り去る。  


「グギャアアアアアアアアアアアアア」

 

 頭を失い、敵部隊が散りぢりになっていく。

 雨の勢いも静まり陽の光に照らされる。天も勝利を歓迎してくれたか。

 

「勝ったぞ! 俺たちは生き残ったんだあああああ!」


「奇跡じゃ、ワシらは奇跡を掴み取ったのじゃ!」


 残党を狩りながら、数少ない村人たちが雄叫びをあげた。

 俺は愛用の剣の汚れを拭っていく。手荒く扱ったのに折れる気配もない。


「初戦はこんなものか。周囲を警戒しつつ一時休息を取るぞ」


「勇者様ノオ力ハ本物ダッタ。ザクロハ今日ヨリ永久ノ忠誠ヲ誓ウ。我ガ身我ガ魂ヲ捧ゲル」


 肩の上でザクロが妙な誓いを立てていた。だから色んな意味で重いぞ。


「さてと、俺の本懐を果たすとするか」


「君、えっと勇者様――」

 

 無防備に近付いてきた風の精霊に、人差し指を親指で引き絞り、放つ。


「――イタッ。あう、もうぅ……何するのよ!」


「大将を討ち取ったからな。それで許してやるよ」


「怒るのはわかるけど、功労者なんだからもう少し労ってよぉ!」


 おでこを擦りながら、風の精霊は文句を垂れる。

 これでもかなり譲歩したんだ。デコピンなんて可愛いもんだろう。

 

「現行の勇者様は本当……意地悪ね」


「それがお兄さんのいいところなんだよ。実に頼もしいでしょ?」


「ノム、貴女も染まったわね。まるで不良みたいよ」


「ルーシーもすぐに慣れるよ。いや、もう手遅れかもね?」


「それは……認めるわ。悔しいけど、アイツ――――すごく、カッコいいし……」


「フフッ、仲間ができて嬉しいよ」


 分離したノムと風の精霊が話していた。どうせくだらない内容だろう。

 チラチラと視線を感じる。何だ、そんなに痛かったか。だが俺は謝らないからな。

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