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17 次の目的地

 激闘の末、魔王獣――大地を喰らうモノ(バシリスク)を倒した俺たちは、

 一旦セントラーズにあるひと際大きな建物、元領主の館に足を運んだ。


 本来の主を失った館は、サハギンたちの私物で埋まり潮の香りを漂わせている。

 二階にある会議室に似た広い場所で、代表同士机を囲んでの話し合いが始まった。 


「さて、色々あって戦力も増大した訳だが。次はどこを攻めるんだ? ニケさん?」


 魔の森にて大地の精霊ノムに、資材運搬用のカトプレパスが五匹加わり。

 セントラーズに駐留していた陸上部隊の大半を連れて歩くことが可能になった。

 数百にも及ぶ魔物たちだ。連中を今後どうやって運用していくのかも重要になってくる。


 詳しい計算、兵站はニケさんに丸投げしている。

 意外と彼女はその辺の雑務を得意としていたのだ。

 さすがは俺たちのメイドさんだな。ん――これって本当にメイドさんの仕事か?


「そうですね……今、私たちがいるセントラーズは大陸北東に位置しています。ここからですと、南西の街道を進んでトライト平原を越えた先にあるローザリアでしょうか。道中で補給が望めない以上、他大陸を目指すのは現実的ではありませんし」


 ニケさんは、会議机に広げられている古臭い世界地図を使って説明していく。

 俺たちが今いる大陸は、アウルランド大陸と呼ばれている場所であり。

 世界五大陸の内の一番大きな大陸で五つの国家があった。あくまで過去形だが。


 見た感じローザリアはアウルランド大陸中央付近、セントラーズからは距離がある。

 どうやらその間にあった街は滅ぼされ、地図から姿を消したようだ。×印がついていた。


「ローザリアはアウルランド大陸でも一、二を争う大都市です。そこから更に西に進めば首都ハーマルカイトにも届きます。ですので、ここを墜とせば一気に大陸の四割を掌握することができます」


 得意げにニケさんは攻略までの最短ルートを示していく。

 俺たちの戦力は爆発的に増えたがそう上手く行くものだろうか。


「ふむ、ローザリアか。確かにそこを奪還すればこの大陸での勝利は目前ですが。ハーマルカイトには魔王軍最強と謳われる四大魔将軍の一角にして、我が槍の師でもある暗夜ノ騎士ハデス様と、陸空合わせて五万の軍勢が控えておりますぞ。更にローザリアには、ハデス様の忠実な下僕であり我と同門の徒であった、首無し騎士と二万のアンデット部隊が待ち受けているはずです」


「……ローザリアに手を出すのはやめておきましょう。ええ、無謀な戦いは避けるべきです!」


 リヴァルホスの補足を聞き、何事もなかったかのように椅子に座るニケさん。

 ローザリアを攻めれば、総勢七万にも及ぶ魔王軍が牙を向くと。……無理だな。

 こちらもサハギンを合わせれば一千の兵力があるとはいえ、戦力差がバグっている。


「俺たちの主力はサハギンで陸戦には滅法弱いしな……どこか別の侵攻ルートはないのか?」


 俺は他の連中の顔色を伺う。何か妙案はないのだろうか。

 ニケさんは卵を撫でていた。咲は俺の膝の上で地図に落書きをしている。

 リヴァルホスはこっそり寝ようとしていた。ハイオークは黙って咲を見つめている。

 これは――既に人選から間違っている気がしてきた。肝心の婆様は戻って来ていないし。


「少しいいかな? 確かに街を解放していくのも大事だけど。ボクとしては遠回りしてでも、戦力の確保を優先すべきだと思うよ」


 停滞していた作戦会議という名の懇談会に、救世主が現れた。

 新参者であるノムが、のそのそと机の上に登り地図の前までやって来る。

 身長が足りず、椅子に座ると顔の半分が隠れてしまい地図が見えないのだろう。

 

 羽ペンを使って新しいルートを描き込んでくれる。


「まずはセントラーズから西のレイアース峡谷を通り、トルセコ山の麓にあるピスコ村を目指そう」

 

「……ピスコ村ですか? 失礼ですが、これといって特徴もない普通の農村だったと記憶していますけど。今でも生存者がいらっしゃるとは到底思えませんが……」


 ニケさんはメモ用紙のような物をめくりながら意見する。

 過去の大戦の影響で、大半の人の住処は焼き払われているらしい。

 俺たちがこの世界に転移した時点で人類は敗北しているのだ。手遅れの可能性が高い。


「ううん。村は今も残されているはずよ。実はピスコは大戦時にとある魔族が力を貸していて、魔王軍の支配から逃れられた数少ない場所なんだ」


 ノムが言うには、占領したという名目で村を保護している魔族がいるらしい。

 要は今の俺たちがいるセントラーズと同じだ。形だけの支配で魔王軍の目を誤魔化している。


「そ、そうだったんですか!? 知りませんでした。でも、どうして精霊様はご存じなんです?」


「風の噂で聞いたんだよ」


「は、はぁ。風の噂ですか……」


 ノムは言い終わると、俺の顔を見て判断を委ねる。

 戦力の確保と言うからには、その魔族を仲間に引き入れろということか。


「ふーん。魔族の方から人間に協力って、そんな話もあるんだな」


「魔族にも昔から人との共存を望んでいた種族がいたからね。彼女らは率先して人間側に付いたんだ」


 魔王軍も、多種多様な種族が入り混じっているからあり得なくもないか。

 寧ろ今の俺たちがその前例を作っているようなものだ。人間と魔族の混成部隊だし。


「んで、ソイツらはどういった魔物なんだ?」


ハルピュイア(妖鳥人)だよ。風の魔法が得意で、人間の言語も理解する賢い魔物だね」


「ハルピュイアですか……雌しか生まれない変わった種族と聞き及んでいますが。確かに、人間がいないと種の繁栄ができませんね……!」


 ニケさんは何故か顔を真っ赤にして俯く。

 この程度で恥ずかしがるって思春期か――って俺も含めて思春期だった。

 咲は理解できていないのか、俺の顔を見て笑っている。この子はまだ知らなくていい。


「なるほど。精霊殿がその地を勧める理由が我輩には理解できましたぞ」


 先程からこっそり惰眠を貪っていたリヴァルホスが口を開く。

 海水が大量に入った桶からあがり、濡れた身体のまま椅子に座り込んだ。

 行儀が悪いし、作戦会議室に磯の臭いが立ち込めているのは大体コイツのせいだ。


「今の我々には不足している物が多い。それは単純な戦力もそうですが、何より――――空に対する有効手段が今のところありませぬ。我輩たちは槍の投擲を得意としますが、投げる物にも数が限られる故に至急対策が求められます」


「ああ、そうだな。これまで運良く出会っていないが、相対すれば苦戦は必須だ」


 咲の投擲も空を相手では効果が薄い。俺の能力も現状は力不足。

 弓で一体ずつ相手するにしても、大軍との戦いでは厳しいものがある。

 

 そう考えると、ハルピュイアの力は是非とも欲しいところだ。

 どれだけ強くなろうとも、剣が届かなければ勝ち目はないからな。


「それとは別にもう一つ、これは今はまだ取り立てるほどでもありませぬが。いずれは必要になる重要な要素です。勇者殿ならご理解なされていると存じますが」


「それはそうなんだが。難しい問題だよな」


「……はて? 何の話でしょうか?」


 ニケさんは気付いていなかったのか。今までの旅を振り返ればわかることなんだが。

 今の俺たちの部隊に足りない要素。大きな弱点。俺は自分の頭を指差してニケさんに教える。


「頭だよ頭。兵を指揮する将が足りないんだよ」


「はー、でもそれって、今は姫乃様がされてますよね? 今のままでも十分では?」


「いやいや、異世界から来た俺に一任している時点でおかしいんだが……。ともかくこの先戦力が増えていけば、俺一人で全軍を指揮するなんてどだい無理があるぞ。そも俺は主力で基本前線にいるんだからな」


 しかもうちの部隊の大半が魔物で構成されているときた。

 彼らと進んで意思の疎通ができる人物じゃないと務まらない。

 

 一応ノムにはそれが可能らしいが、彼女は俺の力の一部であり。

 ノム自身も性格的に部隊を指揮するのは難しいだろうと語っていた。


 つまりこのまま順調に戦力を増やしていけば。

 近い将来、俺の代わりとなる頭が絶対に必要になる。


「咲は言葉わかるよ? 咲がしょうぐんさんになるー!」


「ブホブウ、ヴオ」


 咲は髑髏の杖を振って自分をアピールする。ハイオークも咲を俺に勧めてくる。


「咲には今後、全部隊を統制する大元帥様になってもらうからな? しょうぐんさんより偉いぞ~!」


「わーい! 咲、おっきいしょうぐんさま~!」


「ブオヴオ。ブオオ!」


 二人は大喜びではしゃいでいた。

 咲は魔物の言葉を本能的に理解できるらしい。

 だが、咲から部隊に細かい指示を与えるのは難しいだろう。


 それに咲の存在自体が部隊を繋ぎ留め、士気を高める重要な神輿となっている。

 今後は後方で皆の応援に回って貰うことも増えるかもしれない。よって大元帥の役割を与えた。

 というか、さすがにこれ以上、危険な前線に出てきて欲しくないのがお兄ちゃんとしての心情だ。


 バシリスクの一件で目が醒めたのだ。これ以上、咲に頼らない戦い方を見つけなければ。


「まぁ将の問題は置いておくにしてもだ。人間と魔物の二つの言語を使いこなし、空も飛べるハルピュイアの力はこの先必要不可欠だと思う。ノムのおかげで会議も有意義に終わったよ。ありがとな」


「どういたしまして。ボクとしてはハルピュイアもそうだけど、もう一つの目的もあるしね」


 ノムはそう言って、ペンで地図に書き加える。

 それはピスコ村から離れた立地にある大きな木の印だった。


「ピスコから更に北西の所に世界樹と呼ばれる大樹があるんだけど。そこにボクの友人である風の精霊のルーシーが住んでいるんだ。あの子も、ボクと同様にお兄さんの力になってくれると思うよ」


「なるほど。風の噂とはそういうことだったんですね! 風の精霊様なら、空に対する有効手段をお持ちではないでしょうか? これはノム様の仰る通りのルートで間違いはなさそうです!」


 さっそくニケさんはメモに次々と数字を書き込んでいく。

 目的地までの移動日数と、それに伴う必要物資を計算していた。

 役割が増え生き生きとしたニケさんは輝いて見えた。俺も安心したぞ。


「ルーシーはちょっとやんちゃな子だけど、お兄さんなら彼女と上手くやっていけると思うよ。あの子とお兄さんは共通点が多いし。もしかしたら案外、部隊を指揮する才能もあるかもね」


「そうなのか? それは期待できるな」


 大地の精霊の力だけでも魔王獣とやり合えたのだ。

 風の精霊の力も借りられれば、万の軍勢を相手にしても通用するかもしれない。

 ますます楽しみが増え――戦争を楽しんでどうするんだ。ついに倫理観すらも狂ってきたか。


「それと、ボク一人でお兄さんを支えられる自信を失ったから。ルーシーには悪いけど、負担を分散して貰いたいんだ。それがボクの一番の本音だよ……!」


 前回の戦いを思い出してか、真っ蒼な顔をして本心を語るノム。

 どうも俺は鬼畜なイメージを持たれたらしい。これはあとで謝っておこう。

この前はかなり無理をさせてしまった。すまなかった(姫乃)

あ、うん。ボクも疲れるけど、身体を張るお兄さんが一番大変だからね。気にしないで(ノム)

以前から気になっておりましたが、勇者殿の身体はどこまで耐久力があるのでしょうか?(リヴァ)

試してみないことにはわからんが……実験でも槍で貫かれたいとは思わんな(姫乃)

怖いのでやめてくださいね……?(ニケ)


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