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13 小さな魔王様(咲視点)

 目の前に幸せそうに寝てる女の人がいた。

 メイドさんの衣装を着た、顔は子供っぽいのにお兄ちゃんより年上の人。

 狭いベッドに、お姉ちゃんは身体を小さくしていた。柔らかそうなほっぺをつんつん。


「ふあぁ……咲さまぁ……むにゃむにゃ……もう食べられまへん……」


 寝てるのに声が大きい。両手に大事そうにお星さまを握ってる。

 昨日はカレーを全部食べてくれた。思い出すとうれしい気持ちになった。


「……あれ? お兄ちゃん……?」


 後ろで寝てたお兄ちゃんがいない。

 昨日は暑い暑いと言いながら、咲とくっついていたのに。

 いないことに気付いたら、頭が真っ白になった。お腹が気持ち悪い。


 怖くなってベッドから降りた。


「うぎゃ……すぅすぅ」


 お姉ちゃんがベッドから落ちた。


「お兄ちゃん……どこ……」


 気持ち悪い。むかむかして吐きそう。

 もしかして咲を置いて行っちゃった? そう思うと、泣きそうになった。


「へぇ、街の一部を取り壊して農園にね。だから市場には食材が豊富にあるのか」


「身分も性別も関係なしに交代制で働かされてるのよ。今じゃ昔よりも裕福になったとか言い出す人もいてねぇ。サハギンたちも逆らわなければ好きにさせてくれているし、案外生活面は悪くないよ」


「アイツら本当に人間の街には興味ないんだな……」


 下からお兄ちゃんの声がした。

 お店の人とよくわからないお話をしてた。


 心配させないよう、涙を拭いて笑顔をつくる。

 お兄ちゃんは咲の笑った顔が好きみたいだから。 


「お兄ちゃん! おはよ~」


「おはよう咲。今日も可愛いなぁ」


「わー! どーん!」


 クルクル回りながらぎゅってしてくれた。 

 嬉しい。暖かい。気持ち悪いのもなくなった。


「アンタたち兄妹だったんだね。アタシ酷い勘違いをしていたわ」


「そりゃあ普通に考えて、俺が父親に見える? まだ十七だぞ?」


「冒険者は若くから出産する人も少なくないからねぇ。十七で五つ子持ちとか」


「うえっ犯罪的……」


 お話しが終わったら、お寝坊さんのお姉ちゃんをほっといて朝ごはん!

 朝から開いているお店で熱々のパイを買ってお兄ちゃんとわけっこした。

 お金はお魚さんからいっぱい貰ったから平気。お芋さんがホクホクで美味しかった。


「ブオオ、ヴオ!」


「ウギギ」


 歩いてたら昨日挨拶してくれたブタさんがいた、後ろにはゴブちゃんも。

 外で待ってるのが退屈だったみたい。置いてきた黒いマントと杖を渡された。


「わー、ありがとう!」


「おいおい、こんな所で着たら周りから変に思われるだろ?」


 お兄ちゃんはダメだって、でも咲はカッコいいから好き。

 着せてもらったら、ゴブちゃんが大はしゃぎで喜んでる。可愛い。


「あっ、そうだ。お兄ちゃん、ニケさんの分のご飯も買ってくるから、ここで待っててくれないか?」


「うん! いいよ~」


 そう言ってお店に戻るお兄ちゃん。

 ブタさんとゴブちゃんは地面に絵を描いてる。なんだろう?


「あっ、お姉ちゃんのおサイフ!」


「ヴオウ、ヴォオ」


「ウギウギ」


 お姉ちゃんは昨日おサイフ失くして泣いてた。

 ブタさんがお姉ちゃんの匂いがするあやしい人を見つけたんだって。


 お兄ちゃんは待っててって言ってたけど、どうしよう。

 でも咲、おサイフを探すってお姉ちゃんに約束したもんね。


「ブタさんその人どこ?」


「ヴオオ」


 ブタさんが案内してくれる。ゴブちゃんもついてきた。

 そこは行っちゃダメってお店の人が言ってた、暗くて狭い場所。

 ゴミもいっぱい落ちてる。お姉ちゃんがいたら大きな声で怒りそう。


「ねぇ、君」


 狭い道で女の子が話しかけてきた、迷子かな?

 咲と同じくらいの高さ、ううん、咲の方が少し大きい。勝った!

 変わった帽子と厚着の服を着ていて、少し顔色が悪そう。大丈夫かな?


「君はどうして魔物を連れているの?」


「それはね、咲のペットだからだよ?」


 可愛いペット、お兄ちゃんの次に大好き。

 あっ、うるさいお姉ちゃんも同じくらい好き。


「魔物を従えるなんてまるで魔王様みたいだね、その格好も似合ってるよ」


「魔王様? 咲は勇者様ってお姉ちゃんとお魚さんが言ってたよ?」


「フフッ、だから面白いんだよ」


 よくわからないけど、女の子が笑ってる。

 咲のドクロさんの杖とマントが似合ってるだって。

 後ろのブタさんとゴブちゃんは、なんだかソワソワしてる。


「そうだ、これ君にあげる。小さな魔王様へのボクからの贈り物」


「わー! 指輪だ~」


 黄色い宝石が綺麗な指輪。咲の指にピッタリだった、すごい。


「ありがとう! えっと……」


「ボクはノム、街の人からそう呼ばれているよ」


「ノムちゃん? 咲は咲だよ!」


 ノムちゃんはニコニコしている。すっごく可愛い、お人形さんみたい。


「君はそのままいい子でいてね? お兄さんと喧嘩したらダメだよ?」


「うん、咲はお兄ちゃん大好きだからケンカしないよ!」


「そうだね、そうしてくれるとボクも助かるよ」


 あれ? どうしてお兄ちゃんの事知ってるのかな、お友達なのかな?


「それじゃ、ボクは森に帰るから。サクの探している物は、この先の青い屋根の建物にあるよ」


「そうなんだ! ありがとうノムちゃ……あ、あれ? 溶けちゃった」


 ノムちゃんはドロドロになって地面になっちゃった。

 もしかして魔物さんだったのかな? でも優しかった。おサイフの場所教えてくれた。


「ヴオオ?」


「開かない……カギかかってるね」


 ノムちゃんの言ってた青い屋根のお家はすぐに見つかった。

 でもドアが開かない、どうしよう。お兄ちゃんの所に戻ろうかな?


「ギギギ! ウギギ!!」


 ゴブちゃんが驚いてる。

 見たら鍵穴が泥でべとべとになってる!

 それがだんだん硬くなって石になっちゃった。


 ――ガチャ


「わっ、開いた!」


「ヴオ」


 石の鍵を使って、ブタさんが先にお家に入っちゃった。

 咲も後ろからこんにちは、勝手に入っていいのかな? 

 明りもついていない、暗いお家だった。


「それにしたって金なんか集めてどうするんですか? どうせこの辺りは魔王軍の支配下ですよ?」


 知らない男の人の声がした。

 ブタさんも静かにしてる。咲も手でお口をチャック。


「そりゃあ、いずれ誰かが奴らを追っ払ってくれるだろう? その後の為だよ。金なんていつ何時必要になるかわかんねぇぞ?」


「おいおい、その時って俺らが生きている間に訪れるのか? 人間は魔族との戦争に負けたんだぜ。既に各地の王都も滅んだって聞いている」


「いや、それが世界のどこかに各国の王族が隠れ潜んでいる場所があるらしい。魔王を倒す為に力を蓄えているんだとよ。そこでなら金だって使い道はあるさ」


「単なる噂話じゃないんですか? それが本当だとして、まずはここから出られないとなぁ」


 よくわからないけど、お金の話をしているみたい。

 部屋には四人の人間さんがいた。怖そうな大人の人だった。 


「噂が確かかは知らんが、昨日面白い連中を見つけてね。どうやら街に若い冒険者が来ているようだ」


「えっ、冒険者ですか? まさか、セントラーズはサハギンどもに占領されているんですよ? どうやって入って来たんですか!?」


「怪しいだろう? これは俺の予想だが、サハギンどもはもしかしたら何者かに懐柔されたんじゃねぇかな。聞けば街の入口の鉄門も開かれた形跡があったらしい」


「嘘だろ? 衛兵を根絶やしにした連中だぞ。あんな化物とやり合える人間がこんな土地に残っているとは思えないぜ」


 お魚さん? 冒険者? うーん、よくわからない。


「ついこの間連中に大きな動きがあってな、しばらく戻って来なかった。で、その後に件の冒険者が現れた。絶対に何かあると思ってね。それでソイツらを見つけて、尾行してみた訳だ」


「んで、どうだったんだ? もしかして俺たち、奴らから解放されたのか?」


「その戦利品がこれよ」


 男の人が机に何か投げた。あっ、お姉ちゃんのおサイフだ!


「銀貨が三枚ぽっちしか入ってねぇ。これじゃ碌な装備も買えない。冒険者ってのも嘘じゃねぇの?」


「馬鹿、もっと奥を見ろ。面白いもんが入ってるからよ」


「奥……? おっ、何だこれ……って、おい。これって……まさか!」


「ああ、そうだ。それはまさしく――」


 ――もう我慢できない。


「お姉ちゃんのおサイフ返して!」


「ヴオオオ!!」


 人の物を勝手に見たらダメなのに。

 どうしてこの人たちは悪い事してるんだろう。


「な、何だこのガキ、どうやって入って来たんだ!?」


「後ろにオークがいるぞ!」


「くそっ、金を取れ、逃げるぞ!」


「ウギギ!」


「ちっ、外にゴブリンもいやがる!!」


「ど、どうするんだよ。窃盗がバレて捕まったら俺たち死罪だぞ?」


「うるせぇ、ならガキを人質に取ればいいんだよ!!」


 大きな男の人が近付いてくる。大きな手が近付いてくる。


「あっ……」


 お腹が気持ち悪い。よくわからないけど、昔もこんなことあった気がする。


「うぅ、うぇ……おえぇ……」


「このガキ、急にえずき出しやがった」


「それはおめぇが臭うからじゃねぇのか?」


「ちげぇよ!!」


 嫌だ嫌だ。

 助けて、助けて。

 お兄ちゃん……。


「とにかくオークは二人で対処しろ! 室内で槍は使えねぇ。俺はこのガキを――――」


「お、おい。お前、て、て、手を……手を見ろ!!」


「なんだ? って、う、うわあああああ!? お、俺の手が溶けてる!」


 ドロドロだ。

 男の人の手がドロドロになってる。

 ノムちゃんから貰った指輪がキラキラ光ってた。


「く、くそっ、魔物と一緒だからおかしいと思ったら、このガキも魔族か!」


「さっさと殺せ、俺らも溶かされるぞ!!」


 違う男の人が近付いてくる。また指輪が光った。 


「足が動かねぇ!? 地面にくっついてやがる!!」


「俺もだ、どうなっているんだ!?」


 今度は地面の石が動いて足を固めちゃった。

 その間にブタさんが縄でクルクル巻いて芋虫さんにしちゃった。


「ちきしょう……! テメェ、何者だ……!」


「咲は……勇者様だよ?」


 お兄ちゃんと一緒の勇者様。


「魔物と組む勇者がいるか! テメェは化物だ!!」


 怒られちゃった。


 ◇  


「ハハハ、さすがは勇者殿。最近街を騒がせていた盗賊どもを捕まえてくださるとは、これで我々の仕事が一つ減りましたな」 


「お前らはそもそも仕事をしてないだろ。……咲、大丈夫か? 一人にしてごめんな、怖かったろ?」


 お兄ちゃんとお魚さんが来てくれた。

 悪い人は連れていかれたみたい。これから遠い世界に旅立つんだって。


「ブタさんとゴブちゃんがいてくれたから平気だったよ?」


「そうか……いや、本当に無事でよかった……!」


 お兄ちゃんにぎゅってされた。二回目だ、やった。   


「咲殿の実力ならば、盗賊程度に遅れを取らないのでは?」


「……咲の力は特別で、人間相手には効かないんだよ」


「なんと、では……あの魔法の痕跡は一体……」


「それはね! 指輪が光ったの! そしたらドロドロになっちゃった。あの人、大丈夫?」


 指輪の事を話したら、お魚さんが驚いてた。お兄ちゃんは面白そうに笑ってる。


「あの盗賊の腕か? 泥がくっついたのを溶けたと勘違いしただけみたいだぞ。マヌケだよな」


「そうなんだ!」


 よかった~。溶けたら怖いもんね。


「咲様!」


「わ~」


 今度はお姉ちゃんにぎゅってされちゃった。お姉ちゃんまた泣いてる。


「うぅ……ダメじゃないですかぁ! 私なんかの為に一人で危険なことをされちゃあ!」


「おサイフ、見つかってよかったね!」


「あ、ありがとうございまずぅ……うああああああん」


 お姉ちゃんは今日もうるさかった。喜んでくれて嬉しい。

 ノムちゃんに今度会ったら、ありがとうって言わないとね!

ところで、財布の中身は無事だったのか?(姫乃)

はい。元から大した物は入っていませんでしたから(ニケ)

……お姉ちゃん、本当?(咲)

咲様、気にしないでください(ニケ)


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