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11 休息

「ハハハ、さすが勇者と呼ばれる方々はお強いですな。このリヴァルホス、心底感服いたしましたぞ!」


 額と身体に傷が付いたサハギン大将が笑う。

 決闘の後、俺たちはオークの砦で親睦会を開いていた。

 松明の光に照らされて、魔物たちの談笑の声が聞こえてくる。


「負けてからも都合のいい連中ですね……。街を支配していた癖に……!」


 ニケさんは輪の外からチクチクと嫌味を放つ。

 部外者の俺たちと違い、この世界の人間は魔族に搾取される立場だ。

 

 当然彼らにいい感情を持ち合わせていない。

 だが、リヴァルホスはそれを不遜な態度で受け止めた。


「我輩は軍人として魔王様の命に従ったまで。本来は人間と関わり合うことはない。我々一族は海底に独自の生態系を築いているからな。そも地上は肌には合わんのだ。息苦しくて敵わん」


「そうか。なら約束通りセントラーズは解放してくれるんだな?」


「ご命令とあらば」


 あれだけ酷い目に遭っても尚、口約束を守ってくれるとは律義な大将だ。

 もしかしたら彼らも、文化の違う人間の街を管理するのが面倒だったのではないだろうか。

 肩の荷が下りたかのように、達弁になる姿を見ているとそう思う。 


「お兄ちゃん、お魚さんおいしいね!」


「人間の作ったパンもありますぞ、ささっ、どうぞお召し上がりください」


「助かるよ。道中は肉ばっか食ってたしな、さすがに飽きた」


「毒は……なさそうですね……」


 みんなで海の幸や街から献上された料理をいただく。

 魚顔が魚を食べている図はシュールな光景だったが、自然界に置き換えると普通か。

 サハギンたちも、あれだけ怒りに燃えていた割には打ち解けている。魔物は切り替えが早い。


 そうでもないと生き残れないほどには弱肉強食の世界なんだろう。理不尽への耐性があるのだ。


「我々魔族は皆、心の底から魔王様に従っている訳ではないのだ。ただ一軍人として、絶対的な立場にある御方からの与えられた命令に従ったまでよ。それ以上の強者と触れ合い、魂で惹かれたのであれば、その御方に仕えるのが魔族の常。現に魔王様に反抗する勢力はいくつも存在しておるからな」


「しがらみのない楽な生き方だなぁ」


「はぁ……こんなのに支配されてる私たちが馬鹿みたいです」 


 魔族のこういった適当な感じ、俺は嫌いじゃない。

 この手の連中を引き抜いていけば面白いことになりそうだ。

 どうも人類を救う使命とは真逆の道を歩んでいる気がするが。


「聞けば勇者殿は人間を解放する為に、魔王様と戦われるおつもりだとか。血が滾りますな! 是非配下として使ってください。我々は勇者殿に惚れ込んだのです。この愛槍に誓って、貴殿の覇道を阻む者を貫いて見せましょう」


 リヴァルホスは俺と咲の前で跪いた。

 部下のサハギンたちもそれに倣って頭を下げる。

 主の為なら人間を救うことも、他の魔族と戦うことも辞さない気構え。

 嫌々宴に参加していたニケさんも、これには困惑した表情を浮かべていた。


「ど、どうするんですか? 私は姫乃様の意向に従いますけど……」


「お魚さんもペット?」


 第三潜水部隊は七百強の半魚人からなる主力部隊と、三百の陸上部隊で構成されている。 

 戦力としては大幅に向上されるが、今後の移動のことも考えると、ちょっと人数が多すぎるか。


「うーん。そうだな……」


 ◇


「ブウ、ブオ!」


 セントラーズを封鎖していた重厚な鉄門が開かれる。

 見張りとして巡回しているオークたちが手を振ってくれた。

 街で待機していた魔物たちにも、連絡が行き届いているようだ。


「へぇーここがセントラーズか、案外――――普通だな」


 アウルランド大陸の北東に位置する、他国との貿易が盛んな街らしい。

 大陸の中心部から遠いのもあって、この街独自の伝統品や食べ物があるようだ。

 

 潮の香りを漂わせた、石造りの建物には様々な国の様式が施されている。

 朝の市場は盛況を見せていて、店も普通に開いていた。ちゃんと人間が店番をしている。

 咲と歳が近そうな子供たちが元気に走り回っていた。男性よりも女性の比率が多い。

 

 おかしいな、占領下の街とは思えない光景なんだが。


「あれれ、想像していたより平和ですね……?」


 ニケさんも戸惑いを隠せていない。婆様は例の如く偵察で不在だ。

 所々建物の瓦礫や、武器の破片といった過去の戦争の痕跡が見られるが。

 それにしたって平穏そのもの。奴隷にされているらしい住民も普通に外を出歩いている。


 そこへ魔物であるオークが闊歩していても誰も気に留めていない。


「……アイツら、絶対街の管理をサボってたな」


 戦いこそが生き甲斐らしい、魚面の勇将様の姿が脳裏に浮かんだ。

 街の人にとっては喜ばしい話だろうが、お前らそれでいいのかとツッコみたくなる。

 砦を落とした俺たちと戦う為に全軍で突撃して、大敗北を喫した連中に問うても無駄か。


「とにかくまずは宿を探そう、いい加減そろそろ文明人らしい生活に戻りたい」


「ベッド! 咲、ふかふかベッドがいい~!」


「少々お待ちを……確か、この通りに海運亭というお宿があったはずです!」


 三人で小鳥がさえずる平和な表通りを歩く。

 これから数日間は、この街で過ごす手筈となっている。

 次の街を目指すにしても少しでも情報が欲しいし、なにより咲の為だ。

 

 妹の体調だけはお兄ちゃんとして気を遣ってあげないと。

 病気になったからといって治療を簡単に受けられる世界じゃない。

 回復系の異能も存在するらしいが、所有者はかなり希少と聞いているからな。


「あっ、ありました! この街でも有名な、ご飯も美味しく、一番の――――安宿です!」


「……そういえばお金がないのか」


「お姉ちゃん、ベッドないの?」


 野営生活に慣れ過ぎて、今になって対価にお金を支払うという一般常識を思い出した。

 異世界人の俺たちは当然この世界の通貨を持っていないので、懐事情はニケさん次第である。

 というか占領下の街でお金って意味あるのか、今も経営しているのか、色々不安が付きまとう。


「さぁ元気出して参りましょう~! どんなに安くてもベッドは用意されていると思いますよ!」


 ニケさんは変なテンションで宿に入っていった。多分、街一番の安宿でも厳しいのだろう。

 メイドさんの給料は――――そういえば俺たちが雇用主になるのか。無給で働かせていたわ。


「この分だと一人部屋を取るので精一杯か。三人で一つのベッドか……狭いな」


「咲はお兄ちゃんと一緒! 同じベッドがいい!」


「……ニケさんも入れてあげような?」


 咲の中での、ニケさんの存在感のなさといったら。

 これからも共同生活は続く、偶には二人の仲も取り持ってあげないとな。

そろそろ新しい服が欲しいな。定期的に水洗いしているが限度がある(姫乃)

くんくん、くんくん、お魚くさいね(咲)

新しい衣服……? お、お金が……聞こえなかったフリをしましょう(ニケ)


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