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傾国令嬢 アイのカタチを教えて  作者: 紫藤朋己
二章 学生一年目
36/142

2-19













 ◆


 テータは焦っていた。


 まずい。まずいまずいまずい、この状況はまずい。

 走っていて体温は高いはずなのに、流れ落ちるのは冷や汗ばかり。


 テータの役割は、”綺麗な学院を観察すること”。そこに不純物が混じった報告は、”許可されていない”。

 都合の悪い事実を事実にしてはいけないのだ。だから、全力で事を収めないといけない。


 くそったれと叫びたい気持ちを抑える。

 Aクラス、Bクラスの人間はそれぞれ避難が完了して集まっているので、こっちは一旦置いておく。Cクラスは散ってしまっているが、これも置いておく。上の人間は、Cクラスの人間がどうなろうと何も言わない。

 A,Bクラスは現状問題なく、Cクラスは無視。そうであれば、テータの仕事はないと言っていいはず。


 しかし、物事はそう簡単に動いてくれていなかった。

 彼女が焦燥感を生み出している要因は、天井裏からAクラスの避難場所を覗いた時に発覚した。

 デリカ・アッシュベインの存在。このイーリス女学院一年生の中で最も身分の高い少女。注目度が一番高く、現に今だって敵が血眼で探しているのは彼女なのだ。

 逆に言えば、王国の民としていの一番に安全を確保して、王都へと身柄を移さないといけない存在が彼女のはず。


 なのに。

 集まったAクラスの中に彼女の姿はなかった。

 彼女は一番奥で小さな体を震わせていなければいけないのに、その席はぽっかりと不自然なまでに空いている。

 これだけでも卒倒しそうだったのに、その事実よりも恐ろしいのは、Aクラスの誰もデリカの不在を口に出さないことだった。あの子がいないことなど、気づかないはずがないのに。


「……人ってのは最低だ」


 舌を打った。

 何故誰も何も言わないのか。デリカがいないよと、声を上げないのか。

 口に出してしまったら、それが事実になるからだ。彼女の不在を認めないといけないからだ。そうなれば、言い出しっぺが安全な場所を捨てて、敵が狙っている彼女を探しに行かないといけない。死の恐怖と戦いながら、自分よりも彼女を優先しないといけなくなってしまう。


 それは怖い。

 温室で育った彼女たちにとって、猛獣のいる外は恐怖の対象だろう。

 でも。

 デリカがいないことに気がつかなかったら?

 人の目、人の耳に触れない事実は、事実ではない。この世界の反対側で人が死んだってどうでもいいのと同じこと。

 皆気づかないのだから、仕方がなかった。全員そんな共通認識を持っているのだ。

 そしてそのうち、デリカの被害を知って、知らなかったと泣きわめくのだ。自分だって必死だったと抗命するのだ。咎められても、死地にいたのであれば、黄泉に行くよりは軽い罪になるだろう。


 見える未来に、歯噛みする。


「私は、それで死ぬんだよ!」


 知らないことは最強だ。知らなかったというその一言であらゆる罪が許される。他人の目から見た自分の責任がなくなる。


 でも、テータは別だ。

 何も知らなかったと口にする諜報員に価値はなく、

 知っていて何もできなかったという諜報員に意味はない。

 つまり、テータには、”知っていて、防いだ”という結果しか求められていない。

 それ以外は、彼女の事実ではない。



 暗い廊下をデリカを探して駆ける。

 敵に出会わないように、味方とも鉢合わせないように。

 誰よりも早くデリカを見つけて、安全な場所に誘導しないと。その安全な場所もまだわかっていないけれど。

 自嘲し、腹が立つ。


「ああっ、もうっ!」


 処理しなければいけない案件が多すぎて、オーバーヒートしそうな脳。

 やらなくちゃだけが積み重なって手に負えない。


「……なんで私ばっかり」

「どうしたの?」


 声は天井から。

 慌てて上を仰ぐと、金色が目に入った。


「手伝うわよ。貴方のことを、教えてくれるのなら」


 眩いばかりの笑顔に、テータは顔をひきつらせた。


 悪魔との契約。

 いつか聞いたおとぎ話を思い出し、

  しかし、

 抗うことなくテータは首を垂れた。


 

 ◆



 自分が何者か。

 それは何度も考えて、描いて、結局有耶無耶にしてきた議題である。

 突き詰めても答えなんかきっとない。相対評価はぐらぐらと揺れ、絶対評価は存在しえない。


 他人と違くて疎まれて捨てられて、それが当然の身の上。

 孤児院では周りがそんな子ばかりだったから、しばらく忘れていたけれど。

 学院に入って、やっぱり自身は異端だと思い知った。周りと違うのだと痛感した。


 でも。

 じゃあ、他人と同じって何なんだろうか。

 身長も体重も体型も性格も、人によって異なるだろうに。

 どうして、人と違うということがここまで悪とされるのだろうか。


「私が思うに」


 イヴァンは静かに口を開いた。


「人と見た目が異なることは別に悪ではなくって、人と”力”が異なることが悪とされるんだよね。自分より相手が強いと本能的に思うから、嫌うんだ。どう思う?」


 問いかける先。眼前で一人の男が膝から崩れ落ちた。

 額から腕ほどの太さの角を生やした偉丈夫。全身を打撲跡と切り傷で真っ赤に染めた彼。

 それを引き起こしたのは、イヴァンの強靭な四肢。そして、血だった。

 自身の爪で切り裂いた頸動脈。そこからだくだくとあふれ出す血液を再び体の中に戻していく。まるで時が戻るかのような違和感と流麗さをもって、赤黒は刃の形を失っていく。


 最後の一滴が飲み込まれてかさぶたとなると、イヴァンは大きく息をついた。


「だから、これからあんたも私を嫌うんだろうね。あんたから見れば、私は化け物だから。でも、マリアのように瞬殺はできないかぁ」


 所要時間は数十秒。

 拳と蹴りを打ちこんで揺らめいた相手に、血で造り上げた剣を突き刺した。「やめろ」だの「仲間だろ」だの叫んでいた口は、何度も刺し繰り返すことでようやく静かになった。

 真っ赤でぼろぼろで白目を剥いているけれど、殺してはいない。

 マリアの言いつけ通り。

「ぼこぼこにして、再起不能にしてね。でも、殺さないように」というお願い通り。


 目の前の人間は、覚醒遺伝持ち。

 そういった意味ではイヴァンと同じ。だからやかましくも仲間と言う言葉を発したのだろう。


「仲間?」


 例えば、他の普通の人間の目から見れば、そう見えるのだろう。

 覚醒遺伝持ちは、覚醒遺伝持ちで括られる。自己にとって異常な存在は全員化け物だ。

 でも。


「こんなに差があるのに?」


 自分と目の前の男は、決して仲間ではないだろう。

 勝負という舞台にも上がれていないくらい、人と家畜のような絶対的戦力差。それを見て仲間だなんて、うすら寒いことこの上ない。

 化け物にも、格がある。

 普通の人間では見えない差異がある。


 イヴァンがわかっているのは、自分が吸血鬼だという事。

 その強さも中身もよくわかっていなかった。

 なので、ここで他の覚醒遺伝持ちを相手どれたのは良かった。少なくとも自分が弱くないと把握できた。


 ――マリアの仲間で良いと、わかった。

 満足げに鼻息を漏らす。

 転がる有象無象とは一線を画す異常性。昔は忌避したその異端を、今では心から欲している。異端であればあるほど、愛しい人に近づくのだから。愛した人は、雲の上の化け物だから、必死に手を伸ばさないと。


 轟音がしたので振り返ると、シクロが敵にとどめを刺したところだった。


「……ちょっと時間がかかってしまいました」


 返り血に染まった格好で、シクロは頬を歪めた。

 彼女に怪我はない。でも、それは当たり前。もっともっと、先へ。もっともっと早く処理しないと。

 それが異常だという証拠になる。

 マリアの仲間だと、家族だという、証左になる。


「殺してないよね?」

「当然です。私が言いつけを守れない悪い子だとでも?」

「一応聞いただけだよ」


 イヴァンは肩を竦めた。

 シクロがマリア言う事を守らないはずがない。

 彼女にとって、それが一で全だ。


 シクロは右手を開く。真っ白い手。人と違う手。その手はすべてを打ち砕く剛腕。

 シクロは左手を開く。真っ黒い手。人と違う手。その手はすべてをかき消す敏腕。


「私って、何者なんでしょう?」


 シクロはイヴァンと同じようなことを言う。

 イヴァンは吸血鬼だが、シクロが何の遺伝を持っているのかはわかっていない。

 研究所の研究によっていじられた身体。何かイレギュラーが起こっている可能性もある。

 が。


「うふふ、私は自分が何者かわからないんです。それでいいんです。マリアと一緒……」


 シクロはそのこと自体が心地よかった。

 何者かわからない。それはつまり、誰よりもマリアに近しいということ。

 化け物に酷似する、異常性。


「私は、強く、可愛く、素敵であればいいんです。マリアのように、マリアと同じように。だって私たち、家族ですから。ずっと一緒の、絶対的な愛で結ばれているんですから。家族なんだから、もっともっと近くなっていかないと。血よりも濃い絆で一緒になっていかないと」


 シクロの陶酔しきった様子に、イヴァンは気づかれない程度に眉を寄せた。

 妄信。

 執着。

 強い強い感情。

 長い付き合いで、それなりに同じ修羅場をくぐってもきた。イヴァンはシクロのことを嫌いなわけではない。

 ただ、


「マリアは弱いから、支えてあげないとだめだよ。そんな風に寄り掛かるだけじゃダメ」


 考え方は違う。

 マリアは人前で心の底から笑えないくらい、臆病で弱い存在だから。

 マリアは他人との違いに怯えてしまう、脆弱性を持っているから。

 理解と支えが必要なのだ。


「……マリアは弱くないですよ。綺麗で素敵で絶対的で、ずうっとキラキラと輝いているんです。それこそ、太陽のように」

「違う。それは表面だけだよ。忘れたの? 孤児院で泣いて震えていたマリアの事。気丈にも頑張って、周りに見せないようにしているんだよ。マリアは太陽よりも、月に似てる」

「マリアは強くなったんですよ。本人だって泣いたのは嫌がってたでしょう。だから、乗り越えたんです。そういった強さが、愛おしいんです」

「……」

「……」


 二人して見つめ合い、しばしの静寂。

 マリアは、弱いか強いのか。

 自分で輝く太陽なのか、照らされて輝く月なのか。


「やめよう」「やめましょう」


 二人して、肩を竦めた。

 その議論に意味はないと気が付いた。

 マリアは。”どっちもであるから”。

 イヴァンの言う事も/シクロの言う事も、正しいとお互いに思った。

 でも、両方とも間違っている。

 手の中にあるのに、掴み切れない不明瞭さ。


 それが彼女の魅力で、恐ろしいところだと、イヴァンは口を歪めた。

 


 ◆



 トイレ。

 その奥。

 デリカ・アッシュベインは一人震えていた。


 気が付けば一人だった。

 一緒にトイレまで来た他の子たちは、気が付いたらいなかった。そして時を同じくして、自分の名を叫ぶ声が響いて、個室から出られなくなってしまった。

 薄明りの中、手の震えが止まらない。握り合わせることすら叶わないくらい、制御できない。


 皆どこに行ったんだろうか。


 もしかして、と思って、首を横に振る。


 とにかく今は静かにして、事の終息を待たないと――


「見つけたわ、デリカ様」


 声と共に、扉が開かれて、デリカの心臓は一度止まった。それくらい、一際大きい鼓動が身体を揺らした。


「ぴっ」喉は不明瞭な音を出して、眼は眼前の存在を見つめ、脳は緩慢に人物を検索する。

「……まりあ」


 そこでようやくデリカの心臓は自らを主張し始めた。どくんどくんと全身に血が巡り、ぞっとするくらい大量の汗が流れ落ちる。


「ど、」

「どうしたのかって? 貴方を探しに来たのよ。外は危険だし、中も段々と敵が侵入し始めてる。こんなところ早く出て、安全なところに早く移動しましょう」

「で、でも、外には敵が」

「大丈夫よ。私、とっても強いから」


 細い腕に力こぶを作って見せる姿は、確かに心強かった。


「わかったわ。行きましょう」


 デリカは頷いて、それから――首を横に振った。


「……立てない」

「しょうがないわね。ほら、背中におぶさって」


 マリアはデリカを背中に乗せて、歩き出した。トイレを出て、薄暗い廊下に出る。


「……」


 マリアの背中は暖かく、デリカは先より感じていた不安が薄れ、自身の震えが止まっていることに気が付いた。


「マリア。ありがとう」

「いいわよ。私たち、友達じゃない」


 友達。

 デリカはその言葉になんとも言えない気分を味わった。柔らかくて暖かくて、でも同時に、硬くて冷たいような。

 その感情の意味は、次のマリアの言葉でよくわかった。


「でも皆薄情よね。デリカ様を、”置いていく”なんて」

「……え?」


 ぞわっと。

 体が震えた。

 聞きたくない。

 心の底、開けないようにしておいた箱が、がたがたと揺れている。


「敵がデリカ様を狙っているからって、一人にするなんて、ひどいことよね。自分たちの安全を優先して、デリカ様を”見殺し”にするなんて」


 体が冷えていく。

 さっき、トイレの中で震えながら、頭を過ったことではあった。

 自分が一人でここにいるのは、偶然が積み重なった事故ではなく、故意なのではないか、と。他人の悪意によって押し込められた棺桶が、ここだったのではないかと。

 流石に、受け入れられなかった。


「そ、そんなことないわ……。み、みんな、忘れてただけよ」

「忘れるものかしら?」

「も、もしかしたら、敵に襲われてたとか……」

「Aクラスの子は誰も襲われてないわ。今、Cクラスの全員で頑張ってるから」

「じ、じゃあ、……」

「ちなみに、A、Bクラスの子は避難が”完了”したそうよ。全員、一つの部屋に固まって籠城しているんですって。テータに聞いたの」

「……完了、って」


 おかしくない?

 誰か、いなくない?

 目の前が真っ白になる。

 誰も、気が付かなかったの?


「あ、あれ? わ、私って、そ、そんなに影薄かったのかな……」


 震える声。

 デリカは自分の身体が再び震え出したことを自覚した。

 要因は、外ではない。今度は、内側の、味方だと思ってた人たちのせいで。


「まさか。デリカ様は可愛いもの。忘れられるはずもないわ」

「じ、じゃあ、なんで……」

「――ふふ」


 マリアが笑った。

 薄暗い廊下。表情はうかがい知れない。


「なんでだと思う?」


 嫌だ。

 その答えに、気が付きたくない。

 でも、脳は気づいてしまっているのだ。


「……見殺し、って、そういうこと?」


 蚊の鳴くような小さい声がマリアに届いたかわからない。

 でも、彼女は頷いていた。


「私は外を片付けてすぐに貴方を探しに来たからよくわからないけど、そうなのかもね。敵の目的が貴方らしいから、降りかかる火の粉を払ったのかも」

「……で、でも、わ、わたし、わたし、わたしは、わたしは」

「ええ。アッシュベイン家のご令嬢。この中で最も価値がある御方。だから、彼女たちが助かるための”生贄”にもふさわしいわね」


 がつん、と、音がした。目の前で星が散って、殴打されたわけでもないのに、目の前がちかちかした。

 ぐらぐらと揺れているように感じるのは、どうして?


「可哀想に。貴方が今まで信じていた友達は、教師は、ただ表面上にこにこしているだけの、信じるに値しない外道だったのね。貴方ではなく、貴方の背後の偉い家族ににこにこしていただけ。王都から離れれば、こうも容易くメッキが剥がれてしまう。嘆かわしいわ」


 沈痛な、マリアの声。

 自分の感情に寄り添ってくれているような、優しい声だった。


「わっわたし、わたしは」


 デリカは自分の声が嗚咽交じりになっていることが、ただ恥ずかしかった。

 そんな、”空虚な関係”に気が付かなかった。否、気が付かないようにしていた自分が、情けなかった。


「わ、わたしは、何もできなくて。よくお母様にも怒られて、本当にダメな人間で……。同い年の同じ公爵家の女の子に何も敵わなくて、無理矢理二年も前倒して学院に入学して。それでも良い結果を残せなくて、お母様にいつも手紙でも怒られて。本当は、わかってたの。こんな私の周りに人が集まるわけもないって。アース様だって、私みたいなのが婚約者なんて嫌なはずなのに。全員、全員全員、私はどうでもよくて、お父様に嫌われたくないだけなんだわ。私なんてどうでもいいんだわ。だから、こんな――」


 言葉を切る。

 結局、有事の際に、自分の周りには誰もいなかった。

 自分は結局、裸の王様だった。


「ええ、そうね。本当、くだらない人間ばかり」

「……それは、私がくだらないから」

「いいえ。違うわ。貴方はとっても素晴らしいもの。可愛くて、すこし表現が苦手だけど優しくて、自分の弱さを自覚できる貴方が、魅力的ではないはずがないわ。悪いのは、貴方の周り」

「私の、周り?」

「そうよ。詭弁ばかりを並び立てる道化ばかり。素敵な貴方にはふさわしくないわ」

「駄目なのは、他の子? わ、わたしって、素敵かしら?」


 デリカはマリアの言葉に少しだけ前向きになれた。


「勿論。私が太鼓判を押すわ」


 振り向かれて微笑まれれば、嬉しくなる。

 他の子たちと一緒にいるより、楽しくなる。


「ところで、貴方のお母様って誰?」


 そんな中、マリアはとぼけた声を出した。


「お父様は? おじい様は? その他ご家族は? 何をして、どうして偉い人なの? 私は誰も知らないわ」


 マリアは下町の孤児院出身。知らなくても当然、と思って、デリカは息を飲んだ。

 じゃあなんで、この子はここにいるの?


「私はデリカ様しか知らないわ。そして、知る必要もないと思ってる」

「……なんで」

「私たち、友達でしょう?」


 すっと、耳に入る言葉。

 その言葉は、暖かくて柔らかい方だった。

 蝋燭の光が近づいてきたのでよく見ると、マリアの服装は土や埃に汚れていた。ところどころ赤く染まっていて、戦闘の跡も見える。振り返ると、小さく血の粒が垂れていた。


「マリア……。怪我してるの?」

「ちょっとだけよ。手のひらを切ったくらいね。だから気にしなくていいわ」

「……それなのに、来てくれたの?」

「最初に会った時、言ったでしょう。貴方と仲良くしたいって。友達だから、会いたいの。友達だから、一緒にいたいの。友達だから、助けたいの。貴方がデリカ様だから、全然苦しくなかったわ」


 デリカは鼻がつんとして痛かった。

 目の前にあるマリアの後頭部に、額をこすり付ける。


「……ごめんね、今まで冷たくして」

「いいわよ。それだって、デリカ様だもの」

「あとね、様はいいわ。私たち、その、と、ともだちで、もしかしたら、貴方こそが、貴方だけが、本当のとっ、とも……」

「友達、よ。デリカ」

「うん!」


 デリカは鼻を啜って、マリアに強く抱き着いた。



 ◇



「――どういうことですか、マリア様」


 竜は怒れる瞳で私を見ていた。

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