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7-14. 開戦/終戦














 ◆


 デルタ・カインベルト騎士団長の号令で、王国は兵士をかき集めた。


 騎士団、魔術師団、護衛団、王国直属の機関は当然として、王都の衛兵や民間の傭兵も集めて、五万。数の上では上々の結果に、まずは安心した。

 予想よりも国民の危機感は募っていた。様々な扇動があったため、どうにかしないといけないと多くの国民が思い、武に覚えのある人間が集まった。


 彼は会議で自身の騎士団を右翼に据えた。


「左翼はおまえが指揮しろ、ロウファ」


 自らの娘、ロウファ・カインベルトに指揮を預ける。

 ロウファは深々と首を垂れた。


「承知いたしました」

「まずは我々右翼が先行する。左翼は基本的には防御に回れ。補佐役としてクリムをつける。困ったらやつに聞け。……今後、これを前例に、王国に歯向かう馬鹿どもが増えるかもしれん。これも経験だと思って、全力を尽くしてみろ」

「はい」


 デルタの視線は魔術師団の長、クロード・ザスティンに移る。


「魔術師団は騎士団の背後から援護射撃だ。くれぐれも味方に当てるんじゃないぞ」

「我々を誰だと思ってるんですか。敵の頭を射抜くことなど造作もないですよ」


 飄々としたクロード。

 デルタは鼻を鳴らして、護衛団と魔物討伐局の長にも声をかけた。


「貴様らも我々の背後に控え、うち漏らした敵を撃破せよ。相手は魔物にも似た生物だ。大繁殖時と同じように処理してくれればいい」

『了解』


 頷く頭。

 デルタはゆっくりと息を吐いた。


 いまだ王国内部は揺れている。

 マリアという少女が敵の親玉であることで、王家が彼女を追放したからだと糾弾が起き。

 何事もなかった普通の人間に急に覚醒遺伝が現れ、隣人に対する不信感が増強し。

 ただでさえ今まで起こりえなかった戦争。殺意を向けられて困惑するしかできなく。

 綺麗な王国が踏みつぶされるという危機感に震え。

 けれど逆に踏みつぶしてやるという反骨もあり。


 人によって思いは様々。一枚岩とは言い難い。

 けれど、勝つ。


「今までだって魔物の侵攻は存在した。我らは何度もそれを危なげなく屠っている。これはその延長に過ぎない」


 デルタは一筋の汗の感触を感じることなく、前に視線を向けた。



 ◇



 外から見る王国は、とても綺麗だった。

 一番大きい建物、王宮を中心に建物が立ち並び、人の栄華を見せつけてくる。ただっぴろい平原だって、人が生活しやすいように整えた地盤。


 王国の前に、大勢の人が立っている。

 鎧を着て、剣を携えて、私たちに敵意を向ける数多くの顔。敵意と不安と焦燥と。色んな感情を抱えた顔、顔、顔。


 私は背後を振り返る。

 その十分の一にも満たない人々。けれどその質は、普通の人間の十倍以上の戦力となることを私は知っている。


 戦争は、数じゃない。

 事前の準備ですべてが決まる。

 この戦争でそれを教えてあげる。

 授業料は、貴方たちの命。安いものでしょう?


「進撃」


 私の一言で化け物たちは駆け出した。



 ◆



「……ふむ」


 布陣を終えた二つの軍隊。お互いに一定の距離を空けて、平原上で向かい合う。先んじて魔国の者たちが王国に向けて走り出したのを見て、ロウファは頷いた。

 対応して、右翼、デルタの軍が動き出す。ここまでは予想した通り。ロウファに求められているのは、右翼の侵攻によって流れた敵軍を漏らさずに迎え撃つこと。


「……ここまでの数の人と人とがぶつかるのは壮観ですな」


 ロウファの脇に控えるクリム。老獪な口調でロウファを解きほぐす。


「ですが、数の利、地の利は我らにある。臆することはありません」

「そうですね」


 ロウファはじっと戦局を見定める。

 王国と魔国、先陣同士がぶつかって、怒号と咆哮が響き渡った。遠くに布陣するロウファたちにも届いてくる、獣としての人間の有様。びりびりと肌を打つ気迫。

 覚醒遺伝持ちはかくや。全身に化け物をみなぎらせて人間を屠っていく。黒い影に裂かれ、金色の腕に引きちぎられ、見えない衝撃に押しつぶされる。一瞬にして数十の命が消えていく。

 だが、そうこうしている間に覚醒遺伝持ちの人間にも刃が届く。首に突き立てられた槍によって、頭は宙に飛んでいく。


 生まれる悲鳴。転がる死体。

 こんなにも簡単に人の命は散っていく。

 まさに、世界の終わり。


 先陣が戦闘を続ける間に、デルタの軍を避けるようにして前進してくる魔国の軍。予定では、それをロウファたちが迎え撃つという図式だった。

 そこでロウファは。


「……これは、不利だな」


 呟いた。


「は?」というクリムの戸惑いを無視して、

「こうなってしまっては、こちらに勝ち目はない。そうではないか?」

「何を言っているのですか? 確かに敵は化け物ばかり。しかし、こちらの反撃だって届いている。あちらは元より数が少ないのです。こちらは長期戦を見込むと話していたでしょう。ここでの判断は早急に過ぎますぞ」

「いいや、このままでは無為に人の命が失われる。それはあってはならない」


 ロウファは剣を振り上げた。

 それを進軍だと思った部下たちは、足を一歩踏み出す――


「退却だ! わが軍は王都まで退却する!」


 青空に掲げた剣を、そのまま背後へと向ける。


 当然、困惑。

 誰もが踏み出しかけた足を止めて、されど後ろに下げることもできなくて。

 迷いと不安の間、あるものは言われた通りに後退し、あるものは憤懣と共に前を向き。二つの足がぶつかり、互いの足を引っ張り合って。


 左翼は簡単に瓦解した。



 ◆



 ドン、という轟音。

 それは魔術師団から発された音だった。

 騎士団の背後から化け物に向けて魔術が飛んでいく。地面、あるいは人に着弾して、爆音を奏でて命を奪っていく。


 その成果は十分。何人もの魔国の人間がはじけ飛ぶのを見て、騎士団の人間は思った。これなら、勝てると。人間の魔術は通用すると。

 背後には最強の部隊が控えている。安心して前を向ける。自信と共に剣を携える。

 魔術の弾丸が”王国騎士団”のことを射抜いたのは、それからすぐのことだった。


「あ、間違えちゃった」


 と、微笑んだのは魔術師団所属のアルコ・ナイトラン。

 杖の向きは、完全に味方を指し示している。


「おい、アルコ! 貴様何をしている! 味方に当てるなとあれほど強く言っただろうが! 責任を問われるのは我々だぞ」


 同僚からの叱責。

 それを、


「うるさいなあ。クロード団長には許可を取ってるってば」

「……は?」

「少し黙っててくれる?」


 アルコは一蹴して、魔術を行使する。


「【爆炎】」


 アルコを中心として、業火が巻き起こる。その範囲は彼女の声が届くほどまで、周り一帯。つまり、近くにいた人間全員を巻き込む広範囲魔術。

 敵にはほとんど届かない魔術を見て、周りの魔術師たちは目の色を変える。


「な……」


 先ほど自分を叱責した同僚も、炎に巻かれて見えなくなる。自分の前にいた騎士団の人間も同様に。


「魔術の暴発ってことにすればいいんだよね。初めての戦闘でビビっちゃったってことだもんね。仕方ない仕方ない」


 アルコは焔の中心で微笑んだ。

 その笑顔の向き先は王国ではなく、眼前。敵国に向けて笑顔を作る。


「マリアと一緒に造った魔術よ。マリアのために使って当然でしょ。私は貴方の師匠だから。守ってあげる。貴方のために、道を作ってあげる。私は貴方のことが、大好きだから」



 ◆



「これは間違いなく後世に残る戦争になる。未来の人間から見たら、どう議論される戦争だと思う?」


 エイフル・テルガーデンは口の端を歪めた。彼女の姿は王都にある。王都の高台から戦争の様子を見つめている。

 隣に立つアネット・ウィンガーデンは眉を潜めた。


「戦争ではなかった、とそう言われるんじゃないか?」

「そうだろうな。今まであった魔物との小競り合いとは大きく違う。これは人と人との争い。思考をもつ者同士の戦い。ゆえに、行動は本能より理性に左右される。ただの力比べだと思っていたのは、王国軍だけだ。魔国軍は、すでに”戦争を終えていた”」


 撤退していく左翼、魔術師団から沸き起こる爆風を見て、エイフルはさらに嗤う。


「戦いは始まる前から決まっていた。会話によって、対話によって。まったく、人間らしいな。ああ、なんと愚かしいことか。すでに決着のついた戦い、それはただの虐殺だというのに。誰もそれを知らずに戦っている」

「残念だな。最初から王国が勝てる未来はなかったってことだ」

「その通り。そして王国の敵は”ここにもいる”。私は王国の味方ではない、正義の味方なのだ。ロウファもアルコも、マリアに与した者は全員、私が無罪にしてやろう。法務官として、そこには不義ではなく正義があったと証言してやろう。なあに、初めての戦争だ。軍法もあったものじゃない。隙をつくことは簡単さ」

「そもそも王国が終わるんだから、意味がないだろ」

「はっは。確かにその通り」


 エイフルは高らかに笑って、眼下の光景を見つめる。

 左翼、魔術師団の隙間を縫って、敵軍は真っすぐに戦場を抜けてくる。まだ戦闘が始まって数時間だというのに、戦局はおおよそ固まってしまっている。


「あそこに配属になった護衛団の先輩らには、敵はとんでもない化け物だと伝えておいた。逃げても仕方がないって煽っておいたよ」


 アネットははため息を吐いた。


「良いことをしたな、アネット。貴様は正義だ。彼らだって茶番で死ぬのは勿体ないだろう」


 その言葉の通り、護衛団の反撃は弱弱しかった。簡単に魔国軍は突破していく。

 そして彼女らの足は、王国に入ってくる。下町に脚をかけたところだった。


「さあ、愛しのマリア。正義を執行しよう。腐った人間どもに正義の鉄槌をくれてやれ」



 ◇



 私の足は王国の土地を踏んだ。

 予定よりも大分早い。流石に数日勝負になるかなと思っていたけれど、内通者たちの動きが優秀だったみたい。


 皆、私に好意から協力してくれた。

 私は一人じゃない。だから、なんでもできる。


 私を先頭に、数十人の行軍。王国の本戦力は王国の外にいるからこれくらいの人数で十分。幹部たちもいるし、十分すぎるくらい。


 下町。衛兵たちが血相を変えてこちらに向かってくるが、下町の住人が徒党を組んで、組み伏せていた。私は笑顔で彼らに手を振って、そこを通り過ぎる。

 王都。ここにもまだ鎧を着た少しだけ強そうな人がいる。でも、拳を叩きつけたらその場に蹲ってしまった。鎧って脆い。幹部以外の人を残して、私たちは前に進む。


 王宮前。金色が何人もいた。

 一番前の男には見覚えがある。


「フォウル。生きていたのね」


 バレンシアのおじいさん。王国の刃の一人。その背後には、十数人の獅子面。この前ベイクと一緒に全員殺したつもりだったけど、あの場にいなかった王国の刃もまだいたということね。

 逆に言えば、残ったのはこれだけ。これら全員殺せば、王国は丸裸。


「あはは――あれほど惨敗したのに、よくもまあ顔を出せたものね」

「失敗したぜ」


 大仰なため息。


「おまえは、殺しちゃいけなかったんだな。俺もベイクも読み間違えた」

「そうよ。貴方は私の逆鱗に触れた。もしくは、私の影を踏んでしまった。無知とは怖いものね。誰もこんな未来を描けていなかったでしょう」

「当たり前だ。誰がおまえのような存在を想像できる? が、後悔しても仕方がねえ。王国を守護する刃、今できる最善を尽くさないとな」


 擬態が剥がれていく。

 王宮の前、隠そうともしないで金獅子の姿を形作る。人の眼がないわけないのになりふり構わない。もはやそんな余裕もないのだろう。生存をかけた勝負で他人の目を気にするなんて、馬鹿でもしない。

 現れる巨躯。獅子。


「どちらにせよ、これからの王国は荒れに荒れる。こうならないために王国をコントロールしてきたってのに、やってくれたな」

「私は知ったのよ。私の正体を。世界の正体を」


 知ったら戻れない。

 知ったら進むだけ。

 知ることは、人から退路を奪う。


 私が構えると、エリクシアが私の前に出た。


「マリア様。先に行ってください」

「王国が混乱している間に、王座をとってしまうといいミラ」

「こいつらには因縁があるのじゃ。任せい」


 王国の刃は、エリクシア、ミラージュ、ドレイクの三人が引き受けてくれるらしい。

 確かに、今は好機。人の中に私たちへの恐れがあるから、手をこまねいている段階。これが開き直って自己保身を捨てて私たちに襲い掛かってくるタイミングになったら、少々めんどくさい。

 少数精鋭でさっさと頭を押さえてしまった方が有用ね。


「わかった。任せたわ」


 彼女たちに敗北はありえない。これは時間の節約の一環でしかない。


 私たちは歩みを進めた。

 王宮内に脚を踏み入れる。

 廊下上には流石に誰もいない。ここまで侵攻されたことを知って、部屋に隠れでもしているんだろう。そっちの方が気が楽でいい。


 しばらく進んだ、王宮の奥、開けた場所で。今度立ちふさがったのは、リオン、クロウ、ピレネーの三人だった。


 私は指を折って、思い出していく。

 もうこれ以上、王国が出せる戦力はないのか。王国の刃が王宮前にいた時点で推して知るべきだった。


「貴方たちね。ミリアのおもりはいいの?」

「何度も様をつけろと言っているだろうが。相手は王妃だぞ」


 リオンが眉を寄せて私を睨む。

 出会ってから変わらないリオンの反応に、少し安心する。


「虫の息の王妃様ね。今日のうちにその肩書はなくなるんだからどうでもいいでしょう」

「自惚れるな。いいか、貴様のしていることは悪だ。この戦争で何人死ぬと思ってる。災害と同じくらい人が死ぬんだぞ」


 諭すような言い方に、いらっとする。


「おまえらこそ自惚れるな。どの視点で人生を語ってるんだ。それぞれの命はおまえらに管理されるものじゃない。人の命は人が語るものじゃない」

「ここで死ぬ命も個人の責任だというつもりか」

「そうよ。私には目的がある。その目的に対してどんなアクションをとるか、それは私の想うところじゃない。反攻したから殺すし、迎合したなら生かす」

「傲慢だな」

「傲慢だわ」


 人を殺してはいけない。

 そんなことを言うのなら、人に殺されてはいけない、そういった常識も必要じゃない? どうして他人に甘えているの? 殺してはいけないという他人の良識に頼っているの? 自分を守れるのは自分だけなんだから、殺されることを危惧するよりも死なないことに全力を注ぐべきでは?


「誰も彼が言うのは、”誰か助けて”」


 何もしないくせに。

 あるいは、何もしないことこそ価値があるかのように、何かをした人間を叱責する。

 何もしないのには価値がないの。無力が正義だと勘違いしないで。私はきちんと覚悟を持って行動を起こしている。

 そんな中身のない良識では止まれない。


「私を止めたければ、他人の造った常識じゃなくて、自分の意思を見せつけなさいよ。普通こうだから、なんて言葉で私が止まるとでも?」


 この戦争で死ぬ人数は計り知れない。災害に遭ったかのような絶望が人間を襲うだろう。そんなことわかっている。

 でも、それこそが私の目的。脳死で常識に捕らわれる人間への警鐘。


「普通、常識、当たり前。そんな言葉、私が叩き壊してやる」

「……そうですわ。これ以上ここの問答に意味はないのですわ」


 ピレネーがリオンの肩に手を置いた。


「互いに譲れないものがあれば、残るのは意地だけ。殴り合いの喧嘩だけ」


 ピレネーは擬態を剥がした。

 王国の刃と同じ、金獅子。グレイストーン家の少女は、暴力的な姿を晒した。


「残念ですが、ミリアからはマリア以外の出禁を命じられていますわ。お引き取り願えますか?」


 同時に、道が開く。

 王宮の、王の間までの道が、はっきりと開いた。

 私にだけ。


 きひひ、という笑い声はバレンシアから。


「どうしてその言葉に従う必要がある? てめえら全員殺して全員で乗り込めばいいだろうが」

「お姉さまでもそれは許せません。これは、私とミリアの”約束”なんですわ」


 ピレネーの姿がその場から消える。バレンシアに肉薄して、拳を突き出す。「は、てめえが私に勝つだって?」


「この場に留めれば私の勝ちですわ!」

「それができねえっつってんだ!」


 カウンターの要領で、バレンシアの拳がピレネーの顔面に叩き込まれた。転がるピレネーだが、すぐに体を反転、バレンシアに再び向かっていく。


「……この命にかえても、約束は守りますの」

「……全員殺せば終わりですよ」


 シクロが手を持ち上げる。力の矛先は、クロウに。上からの圧力に押しつぶされる前に。


「数秒で十分」

「……私は、魔物でいい」


 クロウの擬態が剥がれる。

 現れた原初は、青色の熊。金獅子すら凌駕し、通路を埋め尽くすほどの巨躯。


「今、この瞬間だけは、なんでもいい。ただ、ミリア様との約束を守るんだ」


 シクロの力が加わっても、巨大な体を折り曲げるだけ。多分、シクロは手加減をしてしまった。その隙をついて、クロウの身体がシクロに向けられる。ド、と大きな音がして、シクロの身体が壁まで吹き飛ばされた。


「マリア。行ってください」


 シクロは起き上がる。怪我などみじんも見せず、足元に真っ黒な影を纏わせて。


「これは私が始末します」

「ええ、任せたわ」


 私は歩き出す。

 眼前に、リオン。対峙するのはイヴァン。


「任せてもいい?」

「うん。楽勝だよ」


 イヴァンの足元で影が動き出す。いつでもリオンを仕留められるように、凝固を始めていく。


「私にはついぞわからなかった、マリア。なぜ貴様がこんなことをしたのか」


 リオンの横を通り過ぎる。

 考えなしの言葉が鼓膜を揺らす。


「貴様はなんでも持っているように見えた。頭も、膂力も、魔法の才能も。私が欲しくてたまらなかったあらゆるものを持っているように見える」

「そうよ。だからこそ、持っていない苦しみがわかるの」


 一つ持っているから、二つ目を持てない苦しみがある。

 持ってしまったから、失ってしまう悲しみがわかった。


「まあ、そんな話はもうおしまい」


 私は歩んでいく。

 王の間へ。

 アースとミリアが待ち構えているであろうその場所に。


 彼らを、殺しに。

 彼らの首を、断頭台に掲げるの。

 そうして人は知るのよ。悲しみを、苦しみを、嘆きを、絶望を。

 そして、化け物の時代を悟るの。

 痛みっていうのは、一番の愛。

 知らないやつらに教えてやる。突きつけてやる。


 扉を開ける。

 王座にて、二人は待っている。


「おかえり」


 とんでもない皮肉に、私の口角は知らず上がっていた。

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