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071 連戦! 油断も隙もあったものではない!

 不死魔道士を倒した瞬間に自爆が脳裏をよぎったが、幸いなことにこいつはそのまま動かなくなるだけだった。


 しかし、まだ安心するには早い。セコイアやツバキたちはまだ戦っているのだ。彼らは敵の攻撃をいなすことはできても、攻撃力が低くてほとんどダメージを与えられていない。


 まずはツバキとヒイラギが相手をしている一体だ。不死魔道士の背後にまわりこんで、全力の右の振り下ろしを叩き込む。さらに左手で切り上げ、右の突きと連続攻撃だ。


 運の良いことに、最後の突きを出そうとしたところで不死魔道士が振り向き、切っ先は見事にその喉元に突き刺さりオレンジ色の光を放つ。


 ここでのクリティカルヒットは大きい。一気に不死魔道士のHPが減った。魔導士の反撃は右手で対処し、左手に持つ『無傷の勝利者』をヒイラギの方へと床を転がしてやれば、すぐに意図を理解してくれたようでヒイラギは剣を拾って不死魔道士の背後から切りかかる。


 横からツバキも敵の邪魔を繰り返していれば、敵を倒しきるまでそれほど時間はかからない。すぐにセコイアとポプラの相手をしている最後の一匹へと向かった。



「こいつらは自爆はしないみたいだね」

「は? 自爆するのかよ!」

「第二階層で湖畔(レイクサイド)と錬金工房のところにいたやつは自爆したよ」


 あれは本当に鬼だと思う。勝ったと思った瞬間に自爆攻撃がくるのだ。まさしく油断も隙もあったものではない。


「で、ここには何があるんだ?」

「その前に、身包み剥ごうよ」

「その言い方、やめない……?」


 追剥だの強盗だの、とてもイメージが悪い。ドロップアイテムの回収って言おうよ!


 セコイアもツバキも敵の杖を弾き飛ばすことには成功しているようで、不死魔道士は三匹ともそのまま残っている。果たしてこいつらから何が取れるのだろうか。


「何採れるんだろう? この黒いローブとか……」

「うわ! 本当に取れたし!」

「こんな気色悪いのいらねえよ!」


 裾がボロボロになった真っ黒いフード付きのローブが取れてきたが、こんなのを欲しがる人はいないだろう。それとも何かの材料にでもなるのだろうか。他に取れそうなのは、指輪くらいしかない。骸骨の骨から外してインベントリに入れると、すんなり入ってくれた。


「謎の指輪ってなによそれ……」

「鑑定スキルとか必要なのか?」

「そうかも知れないね。呪われそうだし、装備はしないでおこうか」


 鍛冶か錬金のスキルで、アイテム鑑定とかありそうな気はする。あとで製作チームにでも聞いてみよう。


「紡がれる魔道? これの効果も分からんな?」

「あれ、私が前にやったのとは違うんだ」


 私が以前に戦った不死魔道士が落としたのは『魔道の志』とかいう良く分からない名前の物だ。『紡がれる魔道』も十分に意味が分からないが、魔道シリーズなのだろうか。


 まあ、そんなことは考えても分からない。とりあえずこれも鍛冶工房行きで良いだろう。



 その後、部屋の中の調べてみたが、特に変わったものはなかった。奥に扉が一つあるが、この奥は宝箱でもあるのだろうか。開けて入ってみると、正面の奥にそれっぽい物が並んでいた。


「お、あったあった」

「何かいっぱいあるよ!」


 ツバキが部屋の中に踏み入り、ポプラも続く。わたしもセコイアとヒイラギと扉を潜ると、勢いよく閉ざされた。


「何だ⁉」

「このタイミングで罠かよ!」


 狼狽(うろた)え叫ぶわたしたちの目の前に、二ツ頭の巨大な犬が着地した。これが罠の本体か。


「んぎゃあああああああ!」

「まてまてまてまて!」


 ポプラもツバキも悲鳴を上げ慌てて後退しようとするが、そんなに空間的余裕はない。


「退がるな攻撃ィィ!」


 叫びながら剣を抜き、ポプラを横に突き飛ばしながらオルトロスに切りかかる。それに続くのはセコイアだ。剣で切りかかりつつ、詠唱した『氷の槍』を至近距離からぶちかます。


 その間にわたしは横へと回り込む。こんな化物を相手に、正面で対峙なんてしていられるのは伊藤さんだけだ。ツバキとヒイラギも動きだすが、ポプラがワンテンポ遅れる。


 だが、そんなことを一々気に掛けてなどいられない。心配して叫んでいる暇があるならば、攻撃でもしていた方が良いに決まっている。


「どりゃああ!」

「やられるかよ!」


 叫びながらオルトロスの攻撃を盾で防いでいるツバキとヒイラギだが、思い切り吹っ飛ばされてはいる。あれってダメージになっているんだろうか。

 それを確認するのは後だ。唱え終わった『氷の槍』を撃ち、さらに後ろに回り込みつつ『無傷の勝利者』で切りかかる。


 このオルトロスは『氷の槍』でしっかりと固まってくれる。一発につきゼロコンマ二、三秒だが、二発立て続けに当たれば実質的に一秒近くも動きが止まる。その隙はとても大きいのだ。


 全力で尻に向かって切りかかると、なんと尾の蛇が根元から切れて落ちた。分離した蛇がその場で暴れられても困るので、取り敢えず部屋の隅に蹴り飛ばしておく。


 そんなことをしている間にも、戦いは続いている。ツバキとヒイラギの『氷の槍』が連続して命中してオルトロスの動きが止まり、動きだしたところにさらにポプラとセコイアの『氷の槍』が立て続けに決まる。


 これはもう勝ったも同然だ。『無傷の勝利者』で何度も切りつければオルトロスのHPはみるみるうちに尽きていった。



「あぶねえ。」

「そうやって油断するなって!」


 ツバキが気を抜いてしゃがみ込んだところに、ヒイラギの苦言が飛ぶ。酷い罠がこれで終わりとも限らない。本当に油断も隙もあったものではないゲームなのだ。


「これ、何入ってるのかな?」

「開けちゃダメ!」


 ポプラは無邪気に宝箱を開けようとするが、こんなの襲いかかってくるに決まっている。


「そんなにミミック率って高いの?」

「今のところ百パーだから」


 ポプラはこのゲームを分かっていない。何段階にも罠を張っているなんて当たり前のことだ。それを全て突破してやっと先に進めるのだ。


 ツバキとヒイラギ、それにセコイアで宝箱を押さえこむように盾を構えて開けてみる。


「ほら、やっぱりィィ!」


 留め金を開けた瞬間に跳ね上がった宝箱を盾持ちの三人が抑え込み、私の突きが蓋の隙間から宝箱を貫く。一撃で倒せる程度のHPしかないのが幸いだが、これは『無傷の勝利者』の攻撃力あってのことだ。もっと弱い攻撃力しかない剣では苦戦する可能性がある。


 七つ並んでいた宝箱は全てミミックで、そのうち四つは完全なハズレで何のドロップもなし。三つからはそれぞれ巻物(スクロール)にレシピ書が出てきた。


「これ巻物(スクロール)としか出てこないけど、効果って分からないのかな?」

「鑑定の魔法とか道具が必要なんだろうね」

「そんで、陶芸と皮革のレシピ本か。皮革工房ないけどな」

「工房は持ってるから、ホームの拡張待ちだね。担当者はどうしようかな」

「出来てから考えりゃ良いんじゃね? サカキとかカカオの意見聞かないと分からんし」


 そりゃそうだ。生産組の担当をどうするかなど、わたしたちが勝手に決めることでもないだろう。


 一旦戻ろうかと扉を開けたら、意外とすんなり開いた。そして、そこには既に不死魔道士三体が既にリスポーンしていた。


「閉めろ! 閉めろォォ~~~!」


 モンスターがぐるりと一斉に振り向くのを見て、開けた扉を大急ぎで閉ざす。


「なあ、扉を閉めれば大丈夫なのかコレ?」

「帰還するよ! 帰還!」


 慌ててインベントリを開き、『帰還の水晶』を使ってクランホームに帰る。あんな化物と何度も戦いたくない。



「ねえねえ、サカキってアイテム鑑定できたりしない?」


 ホームに着くなり、鍛冶工房へと突進する。


「唐突に一体何だよ」

「いやね、謎の物体が増えてきたのよ。鑑定スキルがそろそろ欲しいなと思うんだけど心当りない?」


 説明しながら謎物体、つまり不死魔道士の杖、ローブ、指輪の三点セットに巻物(スクロール)を机の上に並べる。


「確かに謎の物体だな。なんだよ謎の指輪って……」


 インベントリに入れてアイテムの名称を確認すると、サカキも笑いながら言う。所持していたのが骸骨みたいな化物ということもあり、そんなものを装備したくはないと付け加えておくと肩をすくめて首を横に振る。


「分からんか……」

「どうにかして鑑定スキル欲しいよなあ……」

「で、このローブだけど、鍛冶職人に聞くなよ。革でもなさそうだし織物職人じゃねえか? こっちの杖も金属っぽくないし、レシピにも杖はないぞ」


 サカキは理屈を言う。まあ、何でも鍛冶職人に聞くなと言うのは分からなくもない。巻物(スクロール)は錬金だろうか、何にしてもみんなに聞いてみた方が良いだろう。

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