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064 愕然! わたしはニブくない!

 第一階層の裏ボスはパーティーを三つに分けることになった。と言っても、私はソロだ。セコイアとカカオが組んで、ツバキ・ヒイラギコンビとポプラが一緒に行く。

 全員が一人ずつ挑めればいいのだが、さすがにそれは厳しいということでこのパーティー構成である。


「ノーダメージはキツイかもしれないけど、負けはしないよ」

「どうせ俺たちは、第一階層はノーダメじゃないからな」


 第三階層以降は全員が無傷なのでそこは慎重に維持していきたいが、第一階層は今更だ。わたしと違って、他のみんなは第一階層は無死亡(ノーデス)ですらない。


 扉を潜るとダッシュで動く鎧(リビングアーマー)を撃破し、骸骨将軍が立ち上がるところを狙って横から飛び蹴りを食らわせる。


 剣を持つ骸骨の手を斧でぶん殴って落とさせたら、あとは滅多打ちにするだけだ。あっという間に骸骨のHPはゼロになる。


「無傷でいけるね」

「あのやり方はアリなんスか?」


 わたしが階段で待っていると、セコイアとカカオは余裕綽々で部屋から出てくる。カカオが頭を抱えてるけれど、一体何があったんだろう?


「鎧を倒す前に骸骨の剣を奪っただけだよ」


 また鬼みたいなことするな此奴(こやつ)も。鎧を全部倒すまでは、骸骨は部屋の奥で黙って椅子に座っているらしい。というのも、それを確認したことはない。行ってみたら、ちゃんといたらしい。


 ただ黙って座っているだけの骸骨から剣を奪うのは実に簡単だったという。いや、人を強盗だの追剥だの言っておいて自分はそれかい、セコイアさんよ。


「いや、強盗とか言ってたのはツバキだよ」


 さらっと人のせいにしやがった! こいつ、思った以上に腹黒だぞ。

 そんなことをやっていたら、そのツバキたちも部屋から出てくる。


「頑張れば無傷でいけるものだな」


 この三人組も無傷勝利はできたらしい。これで『骸骨将軍の剣』は九本になる。わたしとポプラが二本ずつ、セコイアたちが一本ずつで、一本余る。ならば、サカキに強化の実験でもしてもらおうか。


 次の第二階層ボスは一人ずつでも十分いける。というか、第一階層のボスより楽だよね、ここのサメ。弱点属性について修正が入ると思っていたのだが、こちらは変更が無さそうだ。クマの動きは変わったのに……


「じゃあ、ホームに戻って訓練でもしましょうか」


 わたしは弓矢対策をしなければならないし、カカオとポプラは魔法を覚えてもらわないと困る。木工職人やるにしても、ある程度の戦闘ができないと先々が大変になるだろう。軽く歩法の復習をしてから、二人で魔法を投げ合ってもらう。


 飛んでくる矢を剣で切り落とすのは、一向に上手くいかない。ツバキたち盾野郎どもは割と上手く防げるようになってきているのに、である。


 何度か死んで、ついに心が折れた。


「お、盾を使う気になったらしい」

「ユズは魔法を切るのも下手なんだから無理するなよ」


 言いたい放題言ってくれるじゃあないか。どうせ、わたしは剣下手ですよ!

 だが、盾を持っても、上手く矢を処理できないことに変わりはなかった。


「スピード感とか距離感の掴み方の問題か?」

「タイミングが合ってないよな。視力はみんな同じになってるはずだし、純粋な運動神経の問題か」

「まちたまえ。わたしは運動は割と得意な方だ。体育でも、陸上とかバスケやバレーができなかったことはない」


 そりゃあ、水泳はダメだったけど、あれは運動神経と関係ないはずだ。だいたい、運動神経が根本的にダメだったら、一対一で戦うとかできないと思うのだよ。


「そういえば、相手の剣には反応できてるよな。なんでだ?」

「じゃあ、こういうのはできるか?」


 ヒイラギは弓を上に放り投げて、落ちてきたところをキャッチする。きちんと持ち手を掴むのが大事なポイントらしい。


 それくらいできるでしょ、とやってみたができなかった。手が弦に引っかかって弾き飛ばしてしまったのだ。


「よし、ユズはここからだな。剣でやっても良いんじゃないか? 少なくとも、この程度ができなかったら、矢を切り払うとか絶対無理だと思うぞ」


 そう言われて返す言葉もなくわたしは再び装備を変えることになった。


 練習に使う剣は『無傷の勝利者』ではない。あれは攻撃力が高すぎて、一度失敗したら大きくHPを削られてしまう。サカキが鍛冶練習用に使っていた『古びた剣』だ。強化されて攻撃力が五百五十ほどまで上がっているが、それでも『骸骨将軍の剣』の八百よりは低い。


 それをわたしはガランガランと落としまくる。そしてグサグサと突き刺さりまくる。


「回転させないで真っ直ぐ投げる所からやれよ」


 呆れたツバキとヒイラギが見本を見せてくれる。十メートルほどあけて剣を投げ渡し合うとか、こいつら実はスゲエ格好良いんじゃないか?


 キャッチボールならぬキャッチソードはセコイアとカカオも問題なくこなすことができ、わたしとポプラはがっくりと地に手をつく。


 だが、そんなことをしていても上達するわけでもない。とにかく練習しなければ。たぶん、これができれば魔法斬ももうちょっとできるようになると思うんだよ。


 最初はあまり高すぎないように、回転させないように投げてはキャッチする。ポプラの方はまだ魔法スキルと耐性を得ていないのでそちらが優先だ。


 闘技場の対人戦をやるならば、耐性は得ておくべきだ。耐性レベルを二にしておけば、その属性の魔法ダメージを四パーセント減らせる。リスクなしでそれを得られるんだから訓練場とは便利なものだ。



 二十四時で解散になる。

 それ以降続けてはいけないなんてルールはないが、みんな明日も仕事があるのだ。ほどほどの時間でログアウトして寝なければ実生活に支障がでてしまう。


 わたしも少しは剣を取れるようになり、残っているCPを全部ホームに突っ込んでログアウトする。


 ただし、寝る前にやることがある。

 ネット端末を操作してゲーム情報サイトを開く。ユーザーが自由に情報を追加していけるタイプの人気サイトで、トップ画面には各ゲームタイトルが並んでいる。


 そして、『ラビリゲート』をぽちっとすると、驚愕の情報が出てきた。


『!!雑木林注意報!!』


 真っ赤な文字で書かれたそれは、わたしたちがゲームを荒らしているという根も葉もない誹謗中傷だった。


「通報! 通報! 通報! 通報じゃあああああ!」


 こんなことをする奴は一人しかない。伊藤さんに敗けたアイツだ。名前は知らない。

 正面から勝負して勝てないからとネットで誹謗中傷を撒き散らすとは、コイツの方が卑怯で卑劣だろう。


 記事そのものを誹謗中傷ということで通報しておいて、攻略情報を開く。情報は階層ごとに分かれているのか。各階層共通はどこだろう。無いならカテゴリを作ればいいかと思ったけれど、基本情報というのもある。


 ならば、まずそちらでいいだろう。場所が不適切だったら、誰かが引っ越してくれるはずだ。


『各階層に裏ボスの設定あり』

『家は拡張できます』


 そして、第三階層の情報を追加しておく


『ボスはケルベロス。めちゃ強』

『鉄鉱石を採掘できる箇所あり。壁の色の違いに注意』


 よし、これだけトピックを作っておけば良いだろう。署名は「雑木林 ユズ」としておく。



 翌日、会社の休憩室で缶コーヒーを投げてはキャッチをしていたら怒られた。


「投げるなって言ってるんじゃねえよ、落とすなバカ!」


 とは上司の弁だが、これはパワハラではないだろうか。

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