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058 卑怯! それってどういうことよ?

 闘技場のレベルが少しマシになったという話をすると、伊藤さんはとても興味があるようで、みんなで行くことになった。さっきは忘れていたが、人の勧誘もしなければならない。



「クランメンバー募集してまーす。木の名前を持つ方はいらっしゃいませんかー?」

「何で木の名前だよ?」

「うち、木の名前の人ばかりなのよ。どうせならそれ系で集めようかなと思って。クラン名も雑木林だし」

「って、雑木林かアンタ!」

「雑木林だって⁉」


 なんだかよく分からないが、『雑木林』に反応して人が集まってくる。わたしたちって、そんなに有名なのか?


「メンバー募集だよー。特に前衛の木工職人は歓迎するよー」

「生産やってる奴まだいないだろ」

「これからやる人でも可!」

「でも、雑木林だろ?」

「雑木林はなあ……」


 なんか凄い引っかかる言い方をする。なんでだよ。わたしたち、悪いことしてないよ?


「雑木林で何の文句があるってのよ?」

「どこまで本当か知らんが、酷く汚い戦い方をするって聞いたことがあるな」

「何よそれ? そんなの、負けた奴の言い訳じゃん。本気にしないでよ」

「じゃあ、俺と一戦やってくれるか? どんな戦い方するのか見てみたい」


 そこまで言うなら、やったろうじゃあないの。受付で対戦の申し込みをして、準備室に転送される。


 あとで武器の性能の差だとか文句を言われても面倒なので、装備は普通のものにしておく。剣は両手とも骸骨騎士の剣だ。マントも外しておく。


 カウントダウンが始まり場内に転送されると、相手は右手にダガーを、左手には盾を持っていた。なるほど。


 開始と同時にダガーが飛んできたが、別にそれはどうということはない。『氷霜球』を詠唱しながらサイドステップで躱し右手の剣を抜く。


 相手が突っ込んでくるのに対し、大きく後ろに下がるが、向こうもまた詠唱をしている。『爆炎球』を放つところを狙って右手の剣を投げつけてやれば、魔法は暴発する。


 その隙に氷の範囲魔法を放ち、左の剣を抜く。相手は氷の耐性を持っていないようで、動きを止められる時間が長いようだ。


 早口で詠唱を終わらせてやれば、動き出した直後に次弾が命中する。これなら余裕だ。一気に距離を詰めて、そのまま走る勢いを乗せて首を刎ねんとばかりに剣を振る。


 自爆を含めて三発魔法をくらっているところに、クリティカルヒットが決まり、相手のHPはもう残りわずかだ。


 わたしは転がっている剣に向かって走り、拾ったうごきそのままで相手に投げつけ、さらに『氷の槍』を放つ。


 相手は剣は盾で弾いたものの、魔法は防ぐことも躱すこともできずにHPがゼロになった。


「やっぱりメチャメチャ卑怯じゃねえか!」

「え? どこが?」


 ホールに戻るなり文句を言われたが、大真面目に何が汚いのか分からない。非難轟々の要素ってどこにあったの?


「アンタ剣士じゃないのかよ? 剣を投げつけて魔法滅多打ちってありえねえだろ」

「いや、ウチで剣だけで戦えるのって一人しかいないし、みんな魔法併用だよ? 剣と魔法のファンタジーで魔法は卑怯ってありえないでしょ」


 剣だけで勝負したいなら、初めからそういう条件設定にすれば良い。魔法使用可能なんだから使うに決まってる。それに、武器を投げるのは相手だってやっていたことだ。私が非難される謂れはない。


「じゃあ、次はボクとやろう。魔法は禁止でね」


 文句ばかり言うひとたちを掻き分けて、さっきと別の男が前に出てくる。腕に自信ありのような口振りだが、わたしより強い人なら是非勧誘したいところだ。


 受付を済ませて、再び場内に転送される。今回の相手も盾持ちの剣士だ。盾持ちの相手はサカキとヒイラギ相手に何度も練習しているし、魔法なしでも何とかなるだろう。


 開始の合図とともに、相手は距離を詰めてくる。盾を前に構え、右手の剣は体の後ろで切っ先を上に向ける構えだ。


 ならば。

 わたしは二本の剣を左下に構えて、軽く前に出る。

 間合いに入る直前で体勢を低くして、タックルするかの如く突っ込む。そして、右手で盾を払い除けつつ、足を切りつけ、左手の剣は防御用に頭上へと振り上げる。


 相手の振り下ろした剣は体の左側へと流しながら、後ろに下がる。三歩、四歩と大きく飛び退り体勢を整える間に、向こうも構え直す。頭に血が上って追いかけてくるほどバカではないようだ。


 さて、どうしようか。魔法は禁止だし、同じ手は通用しないだろう。ダメージ覚悟で手数で勝負して押し切るか、あくまでもノーダメージを狙うか。


 相手も無闇に突撃はしてこない。ダメージを受けて慎重に防御を固めている。厄介だなあ、伊藤さんならどうするだろう?


 とりあえず、守りを崩さないと話にならない。盾のない側、向かって左側へと回り込むように走りながら開いていた距離を縮める。そして、相手が足を浮かせて体の向きを変えようとしたところで一気に踏み込む。


 右手の剣を大きく振りかぶれば、相手は盾を前に出して構える。そこに全力でドロップキックをぶちかますと、衝撃を受けきることはできなかったようで、相手は体勢を崩す。が、こっちも思い切り体勢を崩してしまっている。剣を振り回して、足に一撃入れるのがやっとだった。


「クソッ!」


 忌々しげに叫びながらも相手は大きく後退して距離を取る。相手のHPはまだ半分以上も残っている。


「もう! やりづらいなあ」

「それはこっちのセリフだし! こっちの攻撃、全く当たってないじゃないか!」


 苛立ちはしても冷静さは失っていないようだ。そこがまた面倒臭い。仕方がない。見様見真似伊藤流!


 体の前で腕を交差させ、二本の剣は体の後ろに。助走をつけて相手に迫り、左足で大きく踏み切ると同時に、剣を背後に隠すようにしたまま右手を頭上に上げて、そこから一気に振り下ろす。

 当然のように盾で受けられるが、それは想定済み。左手の剣で盾を左方向に押しつつ、右手の剣は手放す。倒れ込みながらも左手の剣を振り抜くと、目の前の相手は無防備な姿を晒している。


 なんとか一歩踏み込んで左脇を切り上げ、返す刀で足にさらに一撃。しかし、相手も必死に防ごうと盾を振り回して、わたしの左の剣も弾かれてしまった。


 ああぅ! 伊藤さんみたいに上手くいかない!


 嘆いても仕方がないので、目の前の盾を思い切り両手で突き飛ばす。それで相手がバランスを崩したところで、地面に転がる右手の剣を急いで回収する。


「あと一撃かなー? 二発必要かな?」


 分かりやすい挑発だが、守りを固められたら、もうダメージの与えようがない。相手もヤバいと思うくらいにHPが減っているし、そろそろ攻撃に転じてくれても良さそうなのだが。


「くっそー、まだ何か技があるのか?」

「残念だけど、わたしも、もう切れるカードが無いのよ」


 このゲームには表情というものがない。わたしも相手も、微笑を貼り付けたポーカーフェイス状態だ。本当に余裕があるのか、ハッタリなのかはそう簡単には分からない。


 けど、本当にどうしよう? 打てる手がないよ。あと一撃か二撃なのになあ。


 あ、そうだ。


 地面に転がるわたしの剣をチラチラと見ながら、相手を回り込むように少しずつ移動していく。と、当然、相手も気づいたようで、そちらを気にかける。


 よし。


 適当にタイミングを見計らってダッシュすると、相手の意識が完全に剣の方に向いた。

 狙いどおり!


 華麗なステップを踏めたら良いなという無理やりなターンで突撃を仕掛ける。相手も振り向くが遅い! わたしの突きが決まり、相手のHPはゼロになった。

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