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048 退散! 無理は禁物。あせらない、あせらない

 収穫した苺と小麦を倉庫に入れて、次は鍛冶工房に顔を出す。


「サカキ、骸骨将軍の鎧、溶かしてみようよ」

「お、()ってきたか」


 早速溶鉱炉に向かってパネルを操作してみるが、スキルレベルが足りないと怒られてしまった。


「ねえねえ、サカキって精錬のスキルレベルっていくつ?」

「精錬は一だな。それがどうした?」

「わたし、レベルが足りなくて溶かせない」


 スキルレベルがいくつ必要なのかの表示は無かったので、サカキに試してもらうしかない。インベントリからブーツを取り出して渡してみる。


「オレもダメだな。レベルいくつ必要なんだこれ?」

「っていうか、どうやったらレベル上がるの?」

「前に鉄鉱石採ってきてただろ? ルビー取ってから、あれを精錬したらスキルは習得できたから、鉄鉱石を溶かしていれば良いんじゃないかと思う」


 ならば、鉄鉱石を採ってこないとダメなのか……?

 幾つあれば必要なレベルになるんだろう?


「よし、明日は第三階層で狩りと採掘をしよう」

「採掘ってどうやってやるんだ?」

「幸いなことに、鶴嘴(つるはし)は二個あるのだよ。キキョウのハンマーも使えるか試してみよう」


 都合を聞いてみると、サカキ以外は十五時にはログインできるらしいので、行ってみることにする。


「済まんな。ウチは休日とかないんだよ。どうしたって夜しか入れねえ」

「だから謝る必要なんかないってば。お仕事優先だよ、当たり前じゃん。頑張ってくれたまえ」

「おう。じゃあ、また明日」


 明日やることが決まるとサカキがログアウトしていき、わたしもそれに続く。



 ふう。


 ベットの上に起き上がるが、なんか、妙に体が重い。一日のプレイ時間が長すぎるのが原因か、あるいは仮想空間に慣れ過ぎなのだろうか。


 時刻は真夜中だが、すこし体を動かした方が良いかもしれない。ジャージに着替えて玄関を出る。


 エレベーターを降りてマンションの外に出ると、外は結構肌寒い。

 十月も八日、いやもう九日か。この時間はさすがに冷えてくるようだ。


 ふと思い出して、伊藤さんに教わった歩き方を実践してみる。あの人のあの指導は、絶対、現実(リアル)でもそのまま適用できるやつだ。


 さすがに路上で剣を振り回すわけにはいかないが、歩法だけならダンスの練習に見えなくもないだろう。


 上体を安定させて、一、二、一、二……


 生身でやってみると、仮想世界とは全然違うことが分かる。わたし、めっちゃ筋肉ない。


 十分ほどそうして歩いていると、運動している感がある。毎日やってみようかしら。伊藤さんに生身での良い練習方法がないか聞いてみよう。


 仮想空間では怪我の心配がないということで、かなりの練習が端折られていると言っていたし、生身向けの練習は色々あるはずだ。


 歩法の練習を三十分ほどやったら、あとはシャワーを浴びて寝るだけだ。



 翌日は九時過ぎにログインする。


 やることは、お金稼ぎだ。錬金工房と湖畔(レイクサイド)をはやく設置したい。


 ということで、第一階層裏ボスの周回に行ってみたが、ボス部屋の中は空っぽだった。続けて第二階層のボスに行ってみるが、そこも、もぬけの殻。前回倒したのが十三時間ほど前だから、インターバルは二十四時間以上だと思った方が良さそうだ。


 仕方がないので、第二階層に戻って壁の調査をしていくことにした。まだ調査が終わっていない箇所は結構あるし、お宝を見つければ一挙に稼げるかもしれない。


 ということで、ひたすら外壁を斧で叩きながら歩いていくだけの簡単な仕事だ。入口付近は結構人が増えてきたので、一旦、奥に行ってから左側を戻ってくる感じで調査をしていく。


 結果、昨日見つけたもの以外に、左側の壁に隠し扉や通路は見つけられなかった。見つかったのは、チビデブの巣へと続く洞窟の途中だ。


 まさかこんなところにあるとは思わなかったけれど、今までのパターンを考えると、ここを探すべきだったのだ。隠し扉を通って奥へ、奥へと進んでいくと、段々と道幅が広くなり、巨大な蟻がワラワラと出てくるようになった。


 一匹ずつは大した強さでもないし、一度に来るのは七、八匹程度なので倒して進んでいけるが、途中でふと嫌な予感がした。


……これ、背後でリスポーンしないか?


 この数で挟み撃ちされたら対処しきれなくなる可能性がある。わたしは伊藤さんみたいな化物とは違うのよ。


 洞窟の長さがどれ程なのかは分からない。もし、まだまだ続くならば、ソロはかなり危険だ。


 ここは一度退こう。


 ということで、足早に来た道を引き返すが、隠し扉は既に閉まっていた。これ、内側から開けられないのかな?


 探してみるが、スイッチらしきものは見当たらない。仕方が無いので『帰還の水晶』で一度クランホームへと戻ることにした。


「おはよう、ユズ」

「あ、おはよー。何やってるの?」


 セコイアはクランメニューを開いてピコピコと操作していた。


「ルビー取ってから、何か変わっていないかなって思ってね。で、農園のメニューはここからも操作できるって知ってた?」

「な、なんだってーーーー!」


 見てみると、確かに『扉一覧』のところに農園(ファーム)があり、それをタップすると農園(ファーム)のメニューが開いた。


 くそっ! あの高いところからやらなくても良かったのか。


「あれは何のためにあんな高いところにあるんだろう?」

「うーん、開発上の経緯でなんかあったんじゃない?」


 そう言うこともあるのだろうか。だが、考えても別に良いことはなさそうだし、やるべきことに頭を切り替える。


「そういえば、第二階層で隠し扉を見つけたんだけど、一緒に行く人いないかな?」

「また? 隠し扉っていくつあるの? 敵は強いの?」

「奥までは行っていないけど、蟻がウジャウジャいた。数的に一人だと辛そうだから一度戻って来たんだけど……」


 先程の隠し扉のことを説明すると、セコイアは一緒に来てくれるという。さらに、レベル上げに勤しんでいるというキキョウとヤナギにもメールを送ってみると、快い返事が来た。


 二人とも第二階層でやっているはずだし、中央の池の入口側を集合場所にすれば良い。第二階層の入口を集合場所にすると他の人にバレる恐れがあるので、鮭エリアをぐるっと回っていくのだ。


「調子はどう?」

「レベル十九になったよ」

「お、頑張ってるじゃん。CPいくつになった?」

「まだ百十六だよ。これじゃあ、ぜんぜん足りないよ」


 そんな他愛無い会話をしながら歩いていくのは、周囲に人がいるからだ。あまり情報を漏らさないようにしておかないと、後が怖い。


 途中で不死魔道士の洞窟の入口を開けて、わざと騒いでみせると、案の定、近くにいたパーティーが寄ってきて中へと入っていく。


「これは教えても良いの?」

「うん、どうせ、あの人たちじゃ勝てないから」

「凄い自信だね。僕たちなら勝てると思う?」

「魔法を切れることが最低条件かな。伊藤さんなら余裕だろうけど、アイツ、最後に自爆するからね。メチャメチャ厄介だと思うよ」

「自爆するの⁉」


 そして、その自爆から身を隠せる場所は一人分しかない。誰が生き残るかを決めておかずに全滅を避けるのは無理じゃないかと思う。


 お喋りをしながらも人目を避け、壁伝いに歩いてチビデブの洞窟へと入っていく。

……迷宮自体が洞窟なのではというツッコミは無しでお願いしたい。

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