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043 全力! はじめての一騎打ち

「マジかよ……」


 第二階層の調査は、やり直す必要があるかも知れない。一体どれだけ隠し要素盛り込まれてるんだ?


 岩の隙間にボタンを発見し、押してみる。音もなく岩壁の一部が奥に吸い込まれていき、その後には二メートル四方くらいの大きさの通路が闇の奥へと誘ってくれる。


 何があるか分からないが、行くしかない。他の人を連れて行っても、犠牲者を増やすだけという結果になりかねない。

 危険に対処できるのは伊藤さんだけだ。


 壁を斧で叩きながら進んでいると、背後で隠し扉が閉まる音がする。

 それ以外の罠が動きだした様子も無いので、恐る恐る足を奥へと進めていく。


 この道は今までの横穴と違って人工的な作りだ。床も壁も石を組み上げて造ったものに見える。その通路は時折右へ左へと折れ曲がってはいるが、分岐路は無い。


 時々扉があるが、鍵が掛かっているのがほとんどで、簡単に開くのは何も無い部屋ばかりだ。これは単なるオブジェなのか、鍵開けのスキルとかあれば開くのかは今のところ分からない。



 出てくる敵は鬼火。初の亡霊系モンスターだ。剣でダメージは与えられないが弾き飛ばすことはできるし、氷の魔法を当てたら一発で死ぬのでそんなに怖くはない。


 通路の奥に発見した階段を下りてさらに進んでいくと、何やら大きな扉に行き当たった。ボスの間の扉ほどの大きさは無いが、重厚感たっぷりのその奥には何かがあるのは間違いないだろう。


 進むべきか、退くべきか。

 三十秒ほど悩んで、わたしは扉を開けてみることにした。一目見てダメそうだったらダッシュで逃げる算段である。


 卑怯? そんな言葉、知らないなあ。


 扉の奥には明かりが灯っており、部屋の中を見通せる程度の明るさがある。大きさはバスケットボールのコートが入るかどうかといったくらいで、正面の奥に真っ黒な奴がいた。あれがここのボスか。


 黒い奴はふわりと浮かび上がり、手に持つ杖を高く掲げる。と、炎の槍、いや炎の矢が何本もこちらに目掛けて発射されてくる。


 慌てて飛び退り回避しつつ、予め詠唱を完了していた『氷の槍』を放つ。だが、黒い奴は体の前に光る魔法円を出したかと思うと、『氷の槍』はそれに当たって砕け散った。


 防御魔法だと⁉ そんなものがあるのか。厄介な奴だが、魔法には詠唱時間が必要なはずだ。次の魔法を撃たれる前に距離を詰め切ってしまえば勝てる。


 そう判断して全速力で地を蹴るが、敵の魔法の方が早かった。走りながら目の前に迫りくる巨大な火の球に切りつける。練習での成功率は一割にも満たない走りながらの『魔法斬』だが、上手くいったようで炎は真っ二つに割れて宙に消えていく。


「うおりゃああああ!」


 雄叫びを上げながら両の剣を振り回して切りつけまくる。

 至近距離まで近づいて、敵の正体が分かった。まるで骸骨のような容姿に真っ黒な襤褸を纏った白黒の魔物。


 大鎌を持っていれば死神なのだろうが、こいつが持っているのは魔法使いの杖。つまり、不死(アンデッド)化した魔法使いって奴だ。


 強力な魔法が売りなのだろうが、剣の間合いにまで入ってしまえば剣士の方が有利だ。杖で攻撃を防ごうとするが、武器を弾き飛ばす技は習っているのだ。


 完全にマスターしたわけではないが、何度かやれば不死魔道士の杖は宙を舞い、床を転がる結果となる。


 というか、こいつ、HP高いな。さすがは不死系といったところか。切りつけた回数は十を軽く超えているのに、まだHPは半分くらい残っている。


 伊藤流の心得。

 足を使え。一か所に留まるな。


 伊藤さん曰く、攻撃の瞬間に足が止まるのは素人なのだそうだ。わたしは練習中の左右にステップを踏みながらの攻撃を繰り返す。


 実戦で使えない技など何の意味もない。どんどん実戦で使っていくべきだ。当たる攻撃と躱される攻撃があり、そして数秒に一度放たれる魔法の回避がある。


 敵のHPの減りの遅さに気持ちが逸るが、焦ったら負けだ。落ち着いて基礎を忘れずに、攻撃を繰り返す。


 冷静に、冷静にと自分に言い聞かせ、攻撃と回避を何十回したのだろう。もう少し、あと少しで不死魔道士のHPは尽きる。


「勝ったと思った時が一番危ないの」


 突如、脳裏に伊藤さんの言葉が浮かんできた。まさか、最後に自爆したりとかしないよな……?


 だが、悪い予感とは当たるものだ。

 右手に握る剣が敵の首を捉えた直後、不死魔道士の全身が怪しく光る。


 ちょっと待て待て待て! ぎゃあああああああ!


 入口の扉はいつの間にか閉まっている。逃げる場所は、逃げる場所は! あった!


 ダッシュで唯一の物陰に回り込み地面に伏せる。


「うひいい。凶悪すぎない? これ」


 強烈な光と爆音が部屋中に広がり、静かになって少ししてから物陰から顔を出して様子を確認する。


 私が隠れた場所は、不死魔道士が座っていたゴテゴテしい装飾の施された椅子だ。いくら派手でも一人用の椅子である。おそらく、頑張ってもこの陰に隠れられるのは二人ではないだろうか。


 あの自爆攻撃に耐えるにはどれほどの防御力やHPが必要なのだろう? 隠し要素にしても程があるだろうに。


 部屋の中を見回してみるが、敵の姿はどこにもない。代わりに、弾き飛ばした杖が隅っこに転がっていた。


 回収して向かう先は部屋の奥。壁に大きく描かれた魔法円だ。これだけ目立つように描かれているのに何も無かったら怒るぞということで手を伸ばすと、ちゃんとパネルが表示された。


 扉を開くのにCPが必要などと言われて驚くが、三程度なら問題ない。ぽちぽちと操作すると魔法円が真っ二つに割れた。そこから通路が奥に伸び、その左右には扉が一つずつある。


 まず、開けてみたのは左側。こちらは予想通りと言うべきか、錬金工房だ。CPは百近くまで回復しているので入手には問題ない。


 もう一つの扉は何だろうかと開けてみると、いきなり外に出た。


「は? 何ここ?」


 目の前には湖が広がり、水面が静かに揺れている。頭上には青空に浮かぶ雲が夏を感じさせる。いや、現実(リアル)では秋なんだけども。周囲には湖を囲むように森がどこまでも続き、はるか向こうには山々が見える。


 背後を振り返るとみすぼらしい小屋があった。わたしはここから出てきたらしい。


 敵の姿は見当たらないが、森の方はどうなっているか分からない。どうなっているのか様子を見ようかと思ったが、小屋の横から見えない壁が伸びていて、そこから先に進めない。


「まるで農園みたいだな……」


 自分で呟いてみて分かった。っていうか何故今まで気付かないんだ? 湖畔(レイクサイド)そのまんまじゃないか。


 景品交換しなくて良かった! 錬金工房もないし後で良いやって思ってよかった!

 メダル無駄にするところだったよ。


 だが、湖畔(レイクサイド)の取得に必要なCPは百だ。対してわたしの現在のCPは七十六である。はい、足りません。


 CPの回復に必要な時間は二時間半か……。ここでログアウトして大丈夫なのかな?


 少し迷ったが、何もない湖畔で二時間半を潰すのは暇すぎる。また来るのは面倒だが、一縷の望みを掛けてログアウトした。



 ふう。

 じゃあ、洗濯と掃除でもしようか。

 現在時刻は十時三十七分。昼食の後、十三時過ぎにログインすれば良いだろう。

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