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032 驚愕! 実力の差

 部屋の中を探し回って見つかったのは広めの通路が一つ。他にはモンスターも脇道も見当たらない。


 ならば、進むしかないだろう。

 緊張しながら進んでみると、その先は居住空間だった。

 カーペットやタペストリーで装飾された部屋に、藁が敷き詰められた部屋などがあり、さらに奥に木工工房と陶芸工房を発見した。


「こ、これはッッ!」

「木工工房? あの弓はここで作っているのかしら?」

「それはあるかもしれない。伊藤さん、工房両方とも取っておいてもらえないかしら? わたし、インベントリの空き容量が足りないのよ」

「別に構わないわ。このゲームに弓があるなら私もやってみたいし」


 陶芸工房の方も、「ついで」ということで快く承諾してくれた。これで六種類がゲットできた。ゲームマスタ-は全部で七種類と言っていたはずだから、残りは一つ。ええと、錬金工房か。


 隠し扉がないか探し回ってみても、ここにはそれらしきものは見当たらないので引き上げることにした。ワープして戻ろうかと思ったが、隠し扉はもう一つあったことを思い出した。


 ということで、来た道を戻り、隠し扉を開いて奥へと進む。


『ハズレ』を蹴り倒し、二つ目の隠し扉は無視して進んでいくと、今度は立派な槍と盾を持つ赤い鎧が鎮座する部屋に出た。


「やっぱりあれ動くのかな?」


 なんて言っている間に鎧の目が怪しく光り、立ち上がると槍の穂先をこちらに向ける。


「来るが良い」


 やる気満々の伊藤さんの邪魔をする気など毛頭ない。わたしはちょっと後ろで見物、もとい見学させてもらう。


 どうせまた瞬殺して「つまらない」とぼやくことになるのだろうと思っていたらそうでもなかった。


 鎧は盾をしっかりと構えて伊藤さんの一撃を防ぎ、槍で素早い突きを繰り出してくる。かと思ったら薙ぎ払いの攻撃が来たり盾で突き飛ばそうとしてきたりと、かなり手強い。


「ほほう」


 一度距離を置いた伊藤さんだが、剣を前に構えて突進していく。突き出される槍は左の剣で払い、そのまま押さえつけて盾に体当たりする。そしてそのまま、右手で盾を右に押しのけながら敵に向かって切りつける。


 力まかせの技だが、ダメージは入っている。これは剣の威力にずいぶん助けられていると言えるだろう。そして伊藤さんの攻撃は止まらない。


 左足で相手の槍を踏みつけ、そこから右の蹴りで盾をさらに横に弾く。さらに空中で体を捻って左右の剣で一撃ずつ叩き込み、着地と同時に再び距離を取る。


 既に鎧のHPは半分を切っているが、伊藤さんは変わらず無傷のままだ。再度突進していったかと思ったら、今度は右に跳び、後ろ回し蹴りを盾に叩き込む。さらに両手で盾を左に押し込みながら切りつける。


 そして、さらに一歩踏み込んで右の剣の強烈な一撃が鎧の左腕をとらえる。そして、剣から手を放して相手の盾を掴み、分捕ってやろうとばかりに振り回す。右に左に上に下にと振り回していると、バキンと音がして相手の手から盾が離れ、そのまま投げ捨てられた。


 伊藤さんも鎧も体勢を崩しているが、伊藤さんの方が動きが早い。地面に転がる剣を拾うと一気に踏み込んで、鎧にトドメの攻撃を放つ。


「ふう、武器を奪うのは結構大変ね。お陰で苦労したわ」


 なんだと⁉ ただ倒すだけなら余裕だとでも言うのかこの女は!


 わたしじゃ勝てないぞアレ。っていうか、さっきのケンタウロスと言い、第二階層であの強さは反則じゃないか? いくら一体だけといっても、どう考えてもボスのサメより強いだろう。もしかして魔法の弱点でもあるのだろうか?


 伊藤さんは喜々として槍を回収しているが、この鎧本体ってどうなるんだろう? 適当に足のパーツを拾ってインベントリに入れてみようと思ったが入らない。これは回収不可なのか。


 念のためにとあちこちのパーツを試してみたが、やはり無理だった。


「回収できるのは槍と盾だけみたいね」

「そうみたい」


 伊藤さんが盾も回収すると、鎧は透明になって消えていった。鎧のあった場所に残った物は何も無い。


 だが、戦利品がそれだけということもあるまい。部屋の奥にお宝の一つや二つくらいあっても良いはずだ。


 だが、見つけた道の先にあったのは期待外れのものだった。特に伊藤さん的に。


 通路の先には小部屋があり、その中央にはオレンジ色に輝く宝玉が置かれていた。それを取り囲むように立てられているのは四つの鎚矛(メイス)。周囲を見回してみても、特に武器のような物は見当たらない。


 いや、あった。壁に二本の鶴嘴(つるはし)が掛けられている。……武器じゃないよね、これ。


 まあ良い。とりあえず回収できる物はしておく。しばらくしたら復活するのかは分からないが、他の人のことは気にしない。こういうのは早い者勝ちだ。当分の間は、ここに来る人もいないだろう。


 他に何かないかと探していると、セコイアが「やっと終わった」とボイスメールがやってきた。チビデブ組も敵の殲滅が完了したらしい。向こうは八人で行っているとはいえ、敵の数は三百。武器を奪いながらともなれば時間もかかるか。


 時間はまだ二十時。

 今までで最も歯ごたえのある敵に出会えて、伊藤さんは比較的機嫌が良いようだ。虫エリアで戦い方の指導をお願いすると引き受けてくれた。


 セコイアにボイスメールを送り、蜘蛛エリアの手前の辺りを待ち合わせ場所にする。距離的にはこちらからも、セコイアたちからも同じくらいのはずだ。


 途中、伊藤さんが「槍を試してみたい」と蟷螂に突撃していったが、やっぱり瞬殺することに変わりはない。格が違いすぎるんだよこの人。


 みんなと合流したら、ひとりずつ蜘蛛と対戦する。最初はわたしから。さっきの鎧は完全に伊藤さんに任せちゃったしね。ちゃんと戦うところを見てもらわないと。


 ということで、『骸骨騎士の剣』と『古びた剣』を装備して手近な蜘蛛へと向かう。ここで『無傷の勝利者』を使ったのでは意味がない。あれは適当に振り回すだけで勝ててしまう。強力な武器に頼らずに勝たねばならないのだ。


 軽くステップを刻みながら近づいていくと、蜘蛛が不気味な声を発しながら踊りかかってくる。慌てずに左の剣を真っ直ぐ敵に向けて伸ばし、二歩後ろに下がる。

 蜘蛛がさらに距離を詰めてくるところ見計らって、わたしも踏み込みながら右手の剣を振り上げる。クモの前足の爪攻撃を左の剣で弾き、その前足に右の剣を叩き込む。


 二度、三度と敵の攻撃を流しながら刃を立てるが、なかなか敵のHPは減らない。足じゃなくて胴体に攻撃しないと攻撃の効きが良くないみたいだ。


 敵の攻撃を恐れてばかりいても勝利は得られない。防ぎ切れる。そう信じて、今までよりも深く踏み込んで、蜘蛛の頭部に剣を振り下ろす。


 蜘蛛のHPは大きく減るが、その一発で絶命するほどではない。左右からの爪の攻撃を防ぎ、躱そうとして、思い切りバランスを崩してしまった。


 ヤバイ。


 そう思った次の瞬間、蜘蛛の頭に伊藤さんの投げ放った槍が直撃した。その一撃でHPはゼロになり、蜘蛛は消えていった。


「焦りすぎよ。相手をよく見て、足を使えば問題なく倒せるはずよ」


 うぐううう。返す言葉も無い。


 次はセコイアだ。魔法を織り交ぜた戦い方に関心しながらも、伊藤さんは「腰が引けている」と指摘する。


「恐怖心からなのかしら、右足が下がりすぎているから、動作が遅くなってしまっているの」

「なるほど、ありがとうございます」


 完全に魔法が主体の女性陣は辞退して、ツバキ、ヒイラギ、そしてサカキが伊藤さんに戦い方を見てもらい、それぞれにアドバイスを受ける。


 一通り終われば時間はもう二十一時だ。つまり、伊藤さんはログアウトする時間である。

 みんなもチビデブから奪った物を整理しようと言うことで一度全員でクランホームに戻る。


「そういえば、工房はどうすれば良いの?」

「あ、とりあえず今はそこの倉庫に入れてもらえるかな?」


 そう言ってみたけれど、工房って倉庫に入るのだろうか?

 何事も試してみなければ分からない。


 ということで、やってみたらできたらしい。倉庫に入ってみると、工房と書かれた大きな板が棚を占めていた。


「木工に陶芸? そんなの見つけたのかよ」

「うん、残りは錬金工房と湖畔(レイクサイド)だね」


 わたしも持っている工房は倉庫に入れておく。三つも持ったままだと枠を十五も消費して邪魔臭いんだよこれが。

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