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017 楽勝! 第二階層ボス戦

 深海魚エリアと蟷螂エリアの境界付近にそれはある。右端の崖に開いた穴に入り、階段を下りていく。


「この辺だっけ?」

「もうちょっと先かな?」


 目印もない似たような道が続くので、隠し扉の場所が分かりづらい。インベントリから斧を出して、左壁面を叩きながら進む。


「あったあった。えーと、ここ!」


 音が変わったところで右壁面を探すと、ボタンがすぐに見つかった。ポチッと押すと重い音を立てながら隠し扉が開いていく。


「よく見つけたわね」

「運が良かったのよ」


 先に潜っていった人たちが悲鳴を上げてくれなかったら、わたしたちも見つけられなかったと思う。別に先に行けなんて言ってないし、進んで罠にかかってくれたのだから感謝しかない。


「ハズレ……?」

「コイツは敵」


 ヌリカベを一撃で蹴り倒して奥へと進む。そして、また隠し扉のスイッチを押すと壁の一部が奥に吸い込まれていく。


「こっち」

「本当に、よくこんなの見つけたわね」


 伊藤さんの声は驚きというより呆れている感じだ。わたしも呆れるよ。これ、誰がクリアできるんだよ?

 まあ、わたしはクリアするけどさ。


「この先がボスなのね?」

「おそらく」

「じゃあ、行こうか」

「あ、ちょっと待って! 装備変更してから!」


 一旦、『無傷の勝利者』を外して左右にそれぞれ『骸骨騎士の剣』『古びた剣』を装備し、『無傷の勝利者』は抜身の無装備で手に持つ。


 もちろん、一本は伊藤さんに貸しておく。

 扉を軽く引くと、ゴゴゴと音を立てて自動で開いていく。


「ヴァセ、エイリエ、オレンソール、モノ、ソルベジア」


 ドアが開ききる前にセコイアとキキョウが電撃の魔法を詠唱する。


「三十秒くらいで消えちゃうから、早く行こう!」


 先手必勝の構えらしい。わたしと伊藤さんは剣を構えて部屋の中に突撃する。

 そこは、全体的に青い部屋だった。まるで海の中にいるような錯覚がする。なんたって、サメが宙を泳いでいるのだから!


「伊藤さんは右の手前、わたしは左手前をやる! セコイアとキキョウは後ろを!」

「了解」


 叫びながら走り剣を構えると、伊藤さんから予想外の指示というかアドバイスが来た。


「剣は左下! 相手の左側に踏み込んで切り上げる!」


 一歩先に出た伊藤さんの構えを真似て剣を左側に下げる。が、もう目の前にサメが迫っている。


「だりゃあああああ」


 叫んで剣を力一杯振り上げると、刃がオレンジ色に光りサメのHPがぐぐっと減る。よっしゃクリティカルヒットだぜ! などと喜んでいられる状況じゃない。目の前の敵はまだ生きているのだ。


 サメがグッと力を溜め込むように身体を捻った瞬間、わたしは反射的に後ろへと倒れ込んだ。

 その目の前を幾重にも並ぶ鋭いサメの歯が通り過ぎていく。幸いにもサメの攻撃は単発のようで、わたしは起き上がりつつ、サメに向かって剣を振り回す。刃が何かに当たった手応えがあったかと思ったら、ぼたっと何かが落ちた。


 何だ? 何が落ちた?

 ダッシュで距離を取りつつサメの方を見ると、片側のヒレがない。……あれ、もしかしてフカヒレか⁉


「できたらヒレを切り落として!」


 無理に狙う必要はないけど、取れるなら取っておくに越したことはない。叫びはしても、わたしには他に目を向けてる余裕なんてない。目の前のコイツをどうにかしなきゃ。


 空中を大きく旋回し、サメはこちらに突進してくる。わたしは左下に剣を構えて、タイミングを合わせて踏み込み、思い切り切り上げる。バッチリ顎の下を捉えた一撃は、またオレンジ色に光る。


 だが、わたしの攻撃も、どうしても単発だ。華麗な連続技なんてできはしない。必死に距離を取りながら対峙していると、サメのHPが一気に減っていった。


 慌てたように宙を泳いで一旦距離を取ったのはサメの方だ。その向こうには伊藤さんが剣を構えている。もう自分の終わったの⁉ 早すぎでしょ!


 ターゲットがわたしから切り替わり、サメは伊藤さんに向かう。わたしがその横から一撃を入れている間に、正面から伊藤さんは物凄い勢いで連続攻撃を叩き込んでいる。

 あっという間にHPがゼロになり、サメの体がゆっくり沈むように落ちていく。そいつはとりあえず無視して、セコイアとキキョウが相手をしているはずの二匹に向かおうとした。


 部屋を見回すと、飛んでいるサメは一匹もいない。


「え? もしかして気絶(スタン)中?」

「そう」


 セコイアは剣で何とかヒレを切ろうとしているが上手くいかないようだ。キキョウの方は伊藤さんが切りつけまくっている。


「わたしがやるよ」


 わたしの剣は安物の剣とは切れ味が違うのだ。『無傷の勝利者』で切りつけると、ヒレは簡単に切り落とせる。

 ひとつヒレを落としたら、あとは止めを刺すだけだ。もう一度剣を振り下ろすと、その直後、サメは気絶(スタン)から回復して弾けるように浮かび上がった。が、攻撃に転じる前にあっという間に伊藤さんに沈められた。だから、伊藤さん早すぎ!


 ともあれ、あとは素材回収タイムだ。伊藤さんの一匹目もヒレを切り落としていたようで消えずに残っている。


「ヒレ以外には取れないのかな?」

「サメは魚肉としてはあまり質は良くないって言うけど」

「軟骨魚の卸し方は知らないよ?」


 あれだけ滅多斬りしたのに取れてこないんだから、身は取れないのだろう。キキョウは斧を出して歯を折ろうと頑張っている。


「サメの歯は取れないみたい」


 口に向かって振り下ろしても、斧の耐久値だけが下がっていくらしい。フカヒレが一匹につき四つ取れたということで良しとしよう。


「超恐かったよ」

「勝てて良かったね」

「なかなか面白いものね、ゲームというのも。サメと戦うのは初めてよ」


 伊藤さんの感想がズレすぎだ。一体、何とならば戦ったことがあるのだろう? 怖すぎて突っ込めない。


「よし、これで初回ボーナスに初見ボーナスゲットだ!」

「何それ?」


 首を傾げたのはキキョウだ。彼女もあまり詳しくはないのか。他のゲームでも必ずあるわけじゃないし、上位プレイヤー以外で狙う人も少ないし、そもそも知らなかったりするものなのか。


「初回ボーナスってのは、ゲーム全体、全プレイヤーを通して、最初にクリアしたときのボーナス。初見ボーナスは、その人が初めて当たって、一回目でクリアしたときのボーナス。一度でも負けたり逃げたりしたら取れない。ついでに、多分裏ボーナス、ノーダメがあるとみた!」

「ノーダメ?」

「ダメージを一つも受けずにクリアしたらもらえるボーナス。伊藤さんとわたしはゲーム開始からずっと、セコイアとキキョウも第二階層ではダメージを受けていないでしょ?」

「そういえば回復とか全然してないね」


 というわけで、意気揚々と出口に向かう。青い壁に扉もなくポッカリと穴が開いたのだ。出口なのだろう。これが罠だったら怒るよ。

 出てみると第一階層と同じような小部屋の中に、スポットライトに浮かぶ四つの宝箱があった。

 やっぱり人数分が出るんだ。


 それぞれ自分の名前の宝箱を開けて、中身を確認する。緑の宝玉、革袋、そして、メダルは三枚が入っているのはみんな同じだ。

 装備は人によって違うようで、わたしは『無傷の破壊者』、伊藤さんは『剣王の冠』、セコイアは『電撃杖』、キキョウは『鍛冶屋のハンマー』だ。


 わたしの装備品は明らかに武器に引き摺られているのは分かるのだが、キキョウのが謎すぎる。鍛冶屋なんてどこから出てきたんだ? しかし、わたしのは無傷シリーズか。揃えたくなるじゃないか。あと何階層無傷でクリアすれば良いんだろう?


 『無傷の破壊者』は白銀のティアラで防御力はない。力と敏捷の十パーセントアップがその効果だ。恐らく、防御なんて考えず、攻撃と回避に特化しろということか。


 お金は一人二千百(ゲー)。所持金は一気に増えたけど、目標にはまだまだ届かない。緑の玉は、『転移のエメラルド』で、クランホームから迷宮内へ直接行けるというものだった。低階層限定らしいが、今のところ低階層しか実装されていない。そして、メダルの用途は相変わらず不明のままである。


「こんなの要らないんだけど。剣が欲しいわ」


 伊藤さんは『剣王の冠』に不満そうだ。とくに剣王と銘打っているのに剣ではないのが気に入らないと言う。尚、わたしの『無傷の破壊者』の上位版で、力と敏捷が十五パーセント上がるのに加えて、防御力百を備えているらしい。


「強そうだと思うんだけど?」


 セコイアとキキョウも不思議そうに言うが、伊藤さん的には力や敏捷を無闇に上げたくないらしい。生身との差が大きくなると、動きに慣れるのに時間がかかり、むしろ弱くなってしまうらしい。


 セコイアの『電撃杖』はもう、名前そのままだ。詠唱しなくても振るだけで電撃を発し、魔力が二十上がるということだ。


 キキョウの『鍛冶屋のハンマー』は、鍛冶や魔物解体に便利らしい。歯を折りとるのに使うやつね……


「じゃあ、次、行ってみようか!」


 奥に開いた出口に向かって歩いていくわたしに、一つだけ疑問が浮かび上がった。が、それを口にする前に白い光に包まれていった。

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