二話
この回で青龍様が登場します。
私は残る二体を相手に応戦した。
懐刀で二体の内、一体の腕を斬りつける。この二体もろくろっ首だ。厄介な敵ではあった。母も神楽鈴を懸命に鳴らす。シャンシャンと音がして妖かしは嫌がる。
「……国子。気を抜かないでよ!」
「はい!!」
私は頷いて懐刀でもう一度斬りつけた。ザンッと音がしてろくろっ首の肩の辺りが透明になる。空気に透けてしまっているのがわかった。今度は走って間合いを詰める。首に斬りつけたら二体目もすうと消えた。ろくろっ首は頭とかが弱点のようだ。それに気づいて私は三体目に攻撃を仕掛けた。母が神楽鈴だけでなくポケットから何かを取り出した。どうやらお札のようだ。刀のような紋様が描かれたそれを左手の人差し指と中指で挟む。右手の人差し指と中指でお札を弾くようにする。そこから小さな小太刀が出てきてろくろっ首の頭目掛けて飛んできた。
「国子。首を狙うんだよ!」
「……わかった!」
私は言われた通りに首に狙いを定めた。ろくろっ首は小太刀が刺さったせいで頭が半分ほど透明になっている。再び走って間合いを詰めて首を斬った。ザシュッと鈍い音がして三体目もすうと消えた。やっと戦闘は終わった。母はふうと息をつく。私もほっと胸を撫で下ろしたのだった。
戦闘が終わって私は母と共に家に戻った。もう日は高くて時計を見る。既に時刻は午前十時だった。それに驚いた。
「……ふう。やっと終わったね」
「そうねえ。国子も汗をかいたでしょ。シャワーを浴びてきなさい」
「わかった。じゃあ、先に浴びてくるね」
頷くと母は「着替えを忘れないように」と言ってくる。苦笑しながらもう一度頷いて自室に行く。七分袖のシャツとズボン、下着類、靴下をタンスから出した。上に着るパーカーも出すと浴室に向かう。一階に降りて脱衣場に入った。着替えを洗濯機の上に置くと側の収納棚からタオルを出す。二枚ほど用意すると一旦、洗濯機にかけて着ていた服を脱いだ。そしてタオルを持って浴室に入った。シャワーを浴びたのだった。
しばらく経って頭を洗い、体も洗った。全身の水気を拭き取り脱衣場に出るためにドアを開ける。ちなみに二枚のタオルも持っていた。一枚目で体を洗ったりして二枚目で水気を拭いた。ドアを閉めてバスマットの上に上がった。脱衣場の収納棚からもう一枚タオルを出す。それでショートにしている髪をもう一度拭いた。そのタオルを洗濯機にかけて用意していた服に着替える。七分袖のシャツはクリーム色でゆったりとしたデザインだ。胸元の辺りに調節用の紐がついたギャザーを寄せて作られた可愛い感じのものだった。ズボンは薄い藍色のスカート風のデザインでいとこと一緒に買いに行った最近の流行りのものだ。靴下も無地だが淡いクリーム色でシャツと同じ色だった。
上のパーカーは淡い黄緑色であった。ちょっといとこが見たら「もう少し考えなさいよ」と言われそうな格好だが。まあ、家の中なのでいいかと思う。濡れた髪をドライヤーで乾かしたのだった。
シャワーから上がると母も浴室に行った。入れ違いで台所に行き、リモコンを手にしてテレビのスイッチをオンにする。画面が表示された。ドラマが放送されている。どうやら再放送のようだ。しばらくそれを見ていたらふとリンと鈴らしき音が頭に響いた。不思議に思いながらも再びテレビに集中する。けどまた鈴の音が聞こえた。仕方ないのでテレビのスイッチをオフにする。音に導かれるように立ち上がった。ふらふらと台所を出た。気がつくと神棚がある和室に移動している。鈴の音はこの近くに来るとより強く響いた。
「……もしかして。青龍様が呼んでる?」
一人で呟く。すると呼応するかのように鈴の音が聞こえた。神棚の扉がゆっくりと何故か開いている。驚いて目を見開いた。中から深みのある青い鱗と瞳が美しい龍が飛び出してきた。そして私の目の前に長い胴体をくねらせるとこちらを見てきた。
『……おお。我が見えるか?』
瞳は銀を散らした青い虹彩が印象的だ。声は低くて男性のようだった。私は驚きのあまり固まった。
『そう怖がらずとも良い。だが。この姿だと部屋の中はさすがに狭いな』
そう独りごちた龍は瞳を閉じると眩い光を放った。光がやむとそこには深みのある青く長い髪と銀を散らした同じ色の瞳の麗人が佇んでいる。余計に驚いて二の句が出ない。
「……君が当代の巫女か?」
顔を見たり声を聞く限り外見年齢は二十代前半と思われた。いいとこ、二十三かそこらだろうか。
「……一応、そうですが」
「ふうん。そうか。我はこの地の守護である青龍よ。巫女。君の名は?」
「……私の名前は。伊達国子です」
名前を言うと青龍と名乗った麗人はなるほどと笑った。私はどうしても頭が追いついていかない。青龍はよく見たらチャイナ服と言える格好だ。深みのある藍色の上着とズボンだ。髪も後ろで一つに束ねている。
「国子。初めましてというべきだな。今日から君は我の嫁だ」
「え。嫁って?!」
「言葉通りだ。君は美人だし。知らぬのか。青龍の巫女は遥か昔から我や一族の者の花嫁になっていた」
あまりの事に絶句する。ちょっと待ってよ。この目の前の男性と私は結婚しなければならないのか。戸惑って後ろに下がる。が、青龍は距離を縮めてきた。
「……そこまでよ。青龍様。娘が驚いているではありませんか」
「……ちっ。いい所だったのに」
気がつくと後ろには母が佇んでいた。青龍と母は何でか睨み合ったのだった。