十二話
私は美映や初瀬さん、兄と一緒にカフェ・ルキーニを出た。
既に時刻は、お昼の十二時を過ぎている。私や美映はついさっきにカフェで軽食として、海老ピラフを頼んで昼食は済ませていた。兄と初瀬さんは帰る途中でコンビニにでも寄り、適当に買うらしい。お会計は割り勘だ。兄と私がまず支払い、次に初瀬さんと美映がといった順ですませた。
「ふう、あそこのピラフは美味しかったね」
「うん、味が良かったしボリュームもあったし。国子は全部を食べちゃったから。びっくりしたよ」
「そう言う美映だって、完食してたじゃない」
お互いに言い合って笑う。眩しそうに兄と初瀬さんが見ていたが。スルーをした。
「……なあ、初瀬さん。女の子同士はいいよな」
「俺に振ってどうする」
「いや、言いたくなったからに決まってるんだが」
兄が言うと、初瀬さんはムッとした表情になる。どうしたのだろう。気になって、二人を見たが。美映も心配そうにしていた。
「ねえ、お兄ちゃんに正村さんもどうしたの。睨み合ったりなんかして」
「どうもしないよ、ただちょっとな」
「ああ、男同士の積もる話というか」
「もう、何を言いたいのかさっぱりわからないよ。国子、行こう!」
「えっ、美映?!」
はっきりと言わない男性陣に焦れて、美映は私の腕を掴んでこの場を離れようとした。けど、兄がそれを阻んだ。
「待ってくれ、美映ちゃん。二人だけで帰る気か?」
「そうだけど」
「危ないよ、俺や初瀬さんも一緒に行く。さっきは悪かったよ。国子、周りに気配はないな?」
「うん、ないよ」
「よし、美映ちゃん。俺と二人で帰ろう。送ってくよ」
「え、正村さん!?」
兄はおもむろに美映の腕を掴む。驚いたせいで、私の腕が離れる。初瀬さんが近付いてきた。
「じゃあ、伊達さん。俺達も行こうか」
「わかりました」
初瀬さんはそう言って、私に手を差し出す。そろりと自身のそれを重ねる。ギュッと強く握られて、軽く驚いた。初瀬さんと二人で歩き出す。兄に目配せをしたら軽く頷いた。それを見届けてから、初瀬さんに目線を戻した。
その後、初瀬さんに今日来た理由を詳しく聞いた。そしたら、彼はこう告げる。
「さっきも言ったけど、俺さ。高二の夏休み以来、全然彼女ができなくてね。何というか、女の子が近寄らないんだ。全くね」
「高二の夏休みですか、もうちょっと詳しく教えてもらいたいんですけど」
「そうだな、高二の時に同じクラスの女子と付き合ってたんだ。名前は笹木伽耶さんっていったんだが。その子は長い黒髪がサラサラしてて、目鼻立ちもはっきりした凄く綺麗な感じで。超がつく美人だった。俺の自慢の彼女でね。性格も真面目でしっかりした子だ。勉強やスポーツもよくできた」
私は初瀬さんの表情を見た。どこか遠くを見るような、切なげな感情が瞳には浮かんでいる。苦しげとも言えようか。
「そうなんですか」
「うん、本当に文武両道な子なんだ。けど、付き合い始めて三ヶ月が過ぎた頃に伽耶は亡くなった。交通事故だった。俺はあまりのショックで、お通夜やお葬式にも出たけど。はっきりとあの時の事は思い出せないんだ」
初瀬さんはそこまでを話し終えると、私に視線を向けた。やはり、苦しげな表情をしている。
「……すみません、初対面の私が訊くべき事ではありませんでしたね」
「いや、俺こそごめん。けど、美映から君が悪霊や妖怪退治をしているとは聞いていたんだ。それで、会うのをOKしたとも言える」
「成程、私が妖怪退治をしている事はご存知なんですね。わかりました」
「え、いいのかい?」
「はい、兄さんも勘で何かあるとはわかっていたみたいですし。私で良ければ、引き受けます」
私が頷くと、初瀬さんは涙ぐむ。そっと握っていた手を離された。
「本当に恩に着るよ、伽耶の事故現場まで案内する。あいつを開放してやってくれ」
「はい」
私は再び頷いた。内心で青龍に詫びる。やはり、初瀬さんに気持ちが傾いていたようだ。けど、伽耶さんの話を聞いて平常心を取り戻せた。浮かれるな、国子。あんたは妖かし退治を請け負う巫女なんだ。それを忘れたら、駄目だよ。そう自分に言い聞かせながら、初瀬さんと伽耶さんの事故現場に向かう。ジリジリとした日差しを睨みつけるようにしながら、背筋を伸ばした。
しばらくは無言で歩いた。やはり、帽子を被ってくれば良かったか。まあ、日焼け止めは塗ってきているからマシだろう。そう思いながら、初瀬さんに付いて行く。
「……よし、ここだよ。伊達さん」
「そうですか」
「ここに伽耶がいる」
初瀬さんが言った途端に、周りの空気が重く冷たくなる。私はあまりの異様な気配に背筋が冷えた。
「……伽耶、久しぶりだな」
『……来てくれたの、初瀬』
「ああ、依代も連れて来たよ」
『本当?』
「本当だ、あちらに」
私は初瀬さんを凝視する。初瀬さんは、冷酷な笑みを浮かべていた。
「……騙して悪かったね、俺は伽耶を蘇らせたいんだ。そのために君を連れてきた」
「そうだったの、なら。あなた毎祓うまで」
「やはり、素直には従わないか。伽耶、あいつを倒せ」
『わかったわ、初瀬』
「……せめて、時間稼ぎはしないとね」
私はポツリと呟く。初瀬さんがにいと口角を上げた。傍らにいた長い黒髪にセーラー服を着た女の子が腕を横に薙いだ。たちまち、氷柱が幾本も現れる。それは私目掛けて、落ちてきたのだった。




