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仲良くなりたい

「それでは、これより新入生恒例、クラブ巡りを始めます。各5人程度のグループを作り、好きに回ってください」


 教壇に立った担任の声に「はーい」と返した生徒達は、すでに固まっているグループに分かれ、次々と教室から出て行った。

 もう既に入学式から一週間が経っており、最初の緊張感も大分和らぎ、和気藹々とした雰囲気が漂う、今日この頃。


ーーフレイは、ある悩みを抱えていた。


 それは入学式の日から続き、今現在も、それに悩まされているところである。

 そしてその悩みの中心を、フレイはちらりと見つめる。

 白に近い銀色の髪に、ちらほらと赤の髪がちらつき、先は完全に赤という、独特な髪型。

 170はいってないだろう小さめの身長に、華奢そうだけれどよく見れば所々しっかりとした筋肉のついている体躯。

 中等部の学生と言われても何ら違和感はない、幼げな顔。


ーー俺らは今、絶賛無視され期間である。


 入学式の時、こいつは最初、俺を拒絶した。

 話しかけたら、すぐに逃げた。

 名前も、自己紹介があるまで教えてくれなかった。

 でも、教室では……ちゃんと、話してくれたんだ。

 それが帰りにまた拒絶されて、それ以来ずっと、何を話しかけても無視され、肩をつかもうとしても躱され、声を荒げてみても冷たい目で見つめられるだけ。

 俺は、焦っていた。

 入学式の時のアルの様子が目に浮かぶ。

 妙な髪に興味が湧き隣にいたアルを見ると、そこには不思議な雰囲気を放った少年がいた。

 真紅の瞳は赤であるはずなのに何処までも暗く、じっと見ていると、吸い込まれそうな気がするほどの、深い、深い闇。

 今現在でもその瞳を携えているアルを見てると、不安になってくる。

 こいつは、ちゃんとここにいるのか。

 ふとした瞬間に、いなくなってはいないか。


ーーすぐに消えて無くなりそうな儚さが、アルにはあった。


 こいつが、何らかの事情、ないしは悩みを抱えていることは明らかである。

 それを少しでも早く軽減しないと、壊れてしまうのではないかという疑念が、俺にはあった。


ーーだから今日も、懲りずに俺は、話しかける。


「なぁ。クラブ、一緒に回ろうぜ!」

「…………」

「グループつくらねぇと、ペナルティある、っつってたけど?」

「…………」

「クラブは強制参加だし、参加用紙は一週間以内に提出だ。今日回らなかったら、もう機会はないぞ?」

「…………」

「同じ腕輪をつけることでグループを判断するらしいし、1人じゃ色々聞かれるぞ?」

「…………」

「よし、じゃあ一緒に行こうな!」


 腕を引こうとする。

 けれどまたもや躱された手は、虚しくも空振った。


「……僕に、構わないでよ」


 どこまでも冷たく、感情のこもっていない声。

 声と同じく感情の込められていない表情は、見ていてとても、痛々しかった。


(何で、そんな顔するんだよ……)


 もうダメだ、我慢できない。

 溢れ出る感情の濁流を、フレイは、抑えることができなかった。


「……何でお前は、すぐ1人になろうとするんだよ!」


 もう自分たちしか残っていない教室で、フレイは声を荒げる。


「お前は! ……何の為に、ここにいるんだよ」


 もう学ぶことのないはずのサリュも、なぜ義務教育の枠から外れないのか。

 それは、学校に通うことの目的が、学ぶことだけではないからだ。

 交友を深め、協力することの重要さを知り、手を取り合い、国を支える。

 それが、この学園のある、もう一つの目的である。


……その、はず。なのに……。


 アルは、積極的に1人になりたがっていた。

 それはこの学園の方針から外れることだ。

 そりゃ、学校なのだから勉強するために通っているのだろう。

 自分の将来のために、通っているのだろう。

 確かに、人との繋がりだなんて必要ない、と言う人もいる。


ーーだが、それにしてもアルの対応は、酷すぎた。


 だから、そんな態度になる理由も何もかもを吹っ飛ばして俺は……こいつと心から、向き合いたいんだ。


「……僕がここにいるのは、自分の為だよ」


 悲しい目をしたアルは言う。


「自分だけの為に、僕はここにいるんだ。だから……もう、僕に構わないで」


 そう言い放った瞬間、“転移”と呟き、消えるアル。

 残されたフレイらは、ただ呆然と、さっきまでアルがいた場所を見つめていた。

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