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『楽しい』

「できましたね。では、少し待っていてください。すぐにカードに映します。アルディル、貴方はこちらへ」


 マスターに呼ばれて、僕だけさらに奥にある部屋に連れていかれた。


「何です?」


 マスタ―の言いたいことはわかるが、とりあえず尋ねる。


「ギルドのランクは、どうしますか?」

「Cでお願いします。自己紹介の時にもそう言ったので」

「わかりました。けれど、そのランクは普段の貴方とは十分にかけ離れたものです。その辺の注意は、しっかりしてくださいね」

「魔力量だけで言ったら、このランクは僕の実力より少し低いくらいです。なので、大丈夫ですよ」


 封具を付けているとはいえ、一般の大人くらいしか今僕にはないのだ。

 だから、ちょっと気を付けるくらいで良い。

 そう思って口にしたら、マスターに呆れたような視線を向けられた。


「貴方はまた……魔力量だけで、全ての実力が決まるわけではないのですよ? ……まあ、その辺はおいおいわかっていけばいいですが……」


 ため息をマスターはつき、そして表情を切り替え、こう切り出す。


「王子は、どうです? ちゃんとやれてますか?」


 それはきっと、性別を偽って学園に通っている王子への、純粋な心配なのだろう。

 女だとバレていないかや、僕と同じように初めて学園に通う王子への気遣いからくる問いかけに、僕も安心するよう微かに笑みを浮かべた。


「ちゃんとやれてます。どこからどうみても男の子ですよ、王子の時は」


 実際、恐れ多くも王子の腕に自身の腕を絡ませてくる女の子がいたのだが、それに対しても動揺一つせず、さりげなく手放すという芸当を見せていた。

 胸に当たるとは思わなかったのか、あの表情を全く動かさないのにはびっくりしたし、感心した。

 僕はどうやらフードを被っていないと表情が読まれやすいので、見習いたいと思ったものだ。


「そうですか、それを聞いて安心しました。では、貴方はどうですか、アルディル」

「どう、とは?」

「楽しいですか? 学校は」


 優しく微笑んで、まるで子供を見るような目線で、マスターは僕を見つめてきた。


「……はい。楽しい、ですよ」


 その『楽しい』の言葉が、どうも自分からはかけ離れているように思えて戸惑ってしまったが、きちんと言葉に出す。

 どうも、気恥ずかしい。

 自分が密かに今の生活を楽しみになってきていることを、親に知られたような気分だった。


……まあ実際、マスターは僕の保護者だけれど。


「そうですか。良かったです」


 マスターもそんな僕の言葉に嬉しそうに微笑んで、「戻りましょうか」と元の道を引き返す。

 けれど途中で振り返って、あっ、と声を上げた。


「言い忘れていました。来週末は、暇ですか?」

「ええ、何の予定も入っていませんが」

「一度、本当の王子に会ってほしいのです。そのために、予定を空けておいてくれませんか」

「わかりました」


 それは、僕も思っていたことだった。

 王子の様子を見てみたい。

 本当に、自分はこうなるはずだったのか、自分と同じ症状なのか。

 それを確かめてみたかった。

 だからマスターの提案に、素直に頷く。

 そして皆の所に戻り、僕と王子はギルドのカードを作り終えたのだった。






「じゃあ、ちょっと出鼻を挫かれたが……依頼探しだ! どのランクの依頼を受ける!?」


 テンション高めに、フレイは問いかけた。

 受ける依頼のランクは、パーティーなら一番下のランクの上下を受けることができる。

 僕らのランクで一番下は、僕とミリーのCランク。

 なので、BかCかDを受けることができる。

 ちなみに、王子はその実力を考慮して、特別にランクはBxとなっている。

 Bxとは、AとBの間のランクで、SとAの間がAxである。

 学生で一般的とされているのがCなので、このグループはそれなりに優秀ということになるだろう。

 その中でも一番高いフレイのAランクは、大人の冒険者と同じものであり、入学当初からのこのランクは将来性を望め、比較的優秀なことを表していた。


……まあ、そうは見えないんだけど。


「やっぱここは、Bランク依頼、行ってみるか?」


 皆を見渡しフレイが尋ねると、「そうね」と皆も反応する。


「あ、これなんてどうかしら?ちょうどBランクだし、討伐依頼だし、いいんじゃない?」

「透明蜂か……そうだな、これにするか!」


 そうして、案外あっさりと決まった依頼の紙をカウンターに提出し、僕らはこのメンバーで初めての依頼へと向かった。


「つーかこれ、俺本当に必要だったのか?」

「いいじゃんもう、来ちゃったのは仕方ないんだし」


 ジークが、皆を見渡しながら嘆いた。

 確かに、皆討伐依頼を受けたことがあるらしく、手慣れたようにどんどん進んでいっていた。

 ジークの口出しシーンなんてないし、一年の中に一人いる二年は少々異質だ。


「わっ」

「大丈夫ですか? 足元、気を付けてください」


 だがこっちの王子はそもそも依頼を受けることが初めてなので、さっきから凸凹とした道にふらふらと必死に皆についていっている形だ。


「ああ、ありががとう、アルディル」

「いいえ」


 ふらついた王子を支えた肩を離す。


「僕の事、掴んでいいですから」

「え?」

「肩。その方が、バランス取れるでしょう?」


 自分の肩をトントンと叩いて示すと、「すまない」と申し訳なさそうに王子は僕の肩を掴んできた。

 きっともうすぐ、透明蜂の住処にたどり着くだろう。

 警戒心を強ませ、慎重に皆進んでいく。

 森のはずれの方だからだろうか。

 さっきから誰にも会わず、それがこの森の不気味さを醸し出していた。


「ありゃ」


 だから、前方の草から声と共に飛び出してきたその人物に、皆体をビクリと震わせた。


「お前ら、こんな所で、依頼か?」

「……雷帝、様?」


 そこにいたのは雷帝、インファス・ルーグリストだった。


「は、はい、これから透明蜂を退治しにいくところで……」

「透明蜂か! あれは、B級だろう? 見たところ学生のようだが……お前らは、相当優秀なパーティーなんだな」


 確かに初めての依頼にしては、この依頼は少々難易度が高い方かもしれない。

 だがこれも、皆学園に入学する前に冒険者登録を済ませていて、実際に依頼も何度かこなしたことがあるメンバーだからこそだ。冒険者登録を学園に入学してからする人も、中にはいるのだ。

 それに、このメンバーには特待生が何人もいる。

 だからこそ、この依頼を受けたとしても、怪我をすることは滅多なことがない限りないだろう。


「じゃあ、俺は報告しなきゃいけないから行くな。頑張れよ!」


 気さくに去っていく雷帝を、うっとりとした顔で皆見つめた。

 帝は、この国の憧れである。

 特に冒険者が顕著に彼らを尊敬しており、そんな憧れの人物に突如会ったため、その姿を記憶に留めておくように皆必死になっているのだろう。


「かっこよかったな……」

「ええ、そうね」


 そうやってフレイとリアが気持ち悪い顔で見えなくなっても尚去っていった先を見つめていると、フィーナリアがフレイの裾を掴んだ。


「……浮気、ダメ」


 そしてそんなフィーナリアを、フレイも愛おしそうに見つめ、頭をポンポンと撫でる。


「男だろ? 俺は、フィーが一番だよ」

「……うん」


 少し頬を染めたフィーナリアは、嬉しそうな顔を隠すように俯いた。

 そして今のやり取りで、僕は確信する。

 この二人、デキてるどころかラブラブだ。

 今までもそんな素振りもあったが、今のが一番確信的だった。


「ほら、こんなところでイチャイチャしてないで、行くわよ」

「おう、悪い悪い」

「……うん、ごめん」


 少しも悪びれていないフレイに、三人もついていき、後ろから僕らもついていく。


「すごいな、彼は。あんな歯の浮くようなセリフ、よくも恥ずかしがらずに言えるものだ」

「……僕も思いました」


 彼は、もしかしたら羞恥心を持っていないのかもしれない。

 普段の生活からもそれは伺える。

 急に奇声を上げたりするし、周りを気にするような素振りを見せたことなんてないし。

 そこに関して言えば、すごい男だと思う。

 ただ空気を読めていないだけだと思うけど。

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