ギルドの依頼
「で……どうしてまた、君がここにいるの?」
「俺だって知るかよ」
学校の正門にて、来ている人をみて、僕はげんなりとした顔をした。
それは相手も同じで、二人して微妙な表情を浮かべる。
「よし、全員そろったことだし……行くか!」
そして、そんな中元気な声を張り上げたのはもちろん、フレイだった。
本当に、どうしてこうなったのか……それは、昨日の放課後へと遡る。
王子が学園へと通い始めてから数日後、王子がいる生活というのにも多少は慣れてきただろうか? と思い始めてきた時だった。
「明日、ギルドの依頼を受けに行こうぜ!」
そう、フレイが提案してきたのだ。
「明日? 急ね」
「だって、新歓はもう二週間後だろ? 練習しないとだし、練習には一番実技が良いだろうし。って考えると、ギルドの依頼だろ。行こうぜ!」
「まあ、私は良いけれど……皆は?」
「……フレイが行くなら、行く」
「私も。特に予定はないから、良いかな」
リアの質問に、即答したのはフィーナリアだった。
そして次に、ミリーが答える。
返答していない僕には皆の視線が集まり、返事を促した。
「……行かない。……って答えると面倒そうだから、行くよ」
どうせ、その目は断っても断りきれないことを、僕は経験上理解してしまっていた。
だからため息とともにそう返すと、「じゃあ決まりだな!」とフレイが言い、明日学校の門集合ということで、その日の話は終わったのだった。
「君も代表に出るんでしょ? 敵同士行動するのはおかしいんじゃない?」
「ああ、俺もそう思ったんだがな……如何せん、断れなかった」
そう、ここにいたのはジークだった。
あの日以来会っていない、敵である人物が、僕の目の前にいた。
「で、アルディル。今日はどんな依頼を受けるんだ?」
そしてそんな僕らの隣には、キラキラとした瞳を称えた、王子の姿が。
敵であるジークと、この国で重要な人物に挟まれ、僕は絶賛、混乱中である。
「本当に、今日は俺らに付き合ってくれてありがとうございます! 今日はよろしくお願いしますね、ジークさん」
「あ、ああ……よろしくね」
フレイが和やかに挨拶するものの、ジークの表情は引きつっていた。
あの風の授業のあと、フレイはどうやら同じ代表として挨拶に行ったらしい。
そしてそこで仲良くなったと勘違いしたフレイが、今日の事を寮で見かけたときに話し、一緒に行くことになったと。
……本当、どうして断ってくれなかったんだろう。
「じゃあ、行くか!」
前にフレイを中心に右にフィーナリア、左にミリーとリア、そして後ろに僕の右に王子、左にジークという奇妙なメンバーで、僕たちはギルドに入っていった。
「そういえば、ギルドのカードはちゃんと持ってきたか?」
依頼を見ていたところで、フレイが問いかけた。
ギルドの依頼を受けるには、例えそれがパーティーであったとしても、全員分のギルドのカードがなくてはならない。
当然、持ってこなくてはならないもの、なのだが……。
「もちろんよ。ほら」
リアが実際のカードを出す。
皆もそれぞれ、カードを出していく、が。
「俺は……持っていないな」
「……僕も」
結んだ口で、悔しそうに僕はそっぽを向いた。
僕が持っているカードは二つある。
零帝としてのカードと、その前の冒険者として活動していたころのカード。
零帝のカードは言わずもがな、冒険者としてのカードもランクはSで、とてもじゃないが出せるものではなかった。
カードを持つ習慣、それは冒険者としてあるべき当然なもののはずなのに、零帝としているとあの赤いマントが零帝を表していて、カードを提示する必要がなかった。
それが今、仇となるだなんて。
僕の隣ではジークが自慢げに自身のカードを掲げていて、とても煩わしい。
でも皆に分からないように口元を手で隠して、「ア・ホ」ってやるのやめてくれないかな、殺気が出そうになるから。
「あれ、王子はまあ分かるけど、アル、お前自己紹介の時にギルドランク言ってなかったか?」
「……ちょっと、無くして……」
これ以外、理由が思い浮かばなかった。
僕って理由を考えるのとか、こういう咄嗟の対応、苦手かもしれない。
ポーカーフェイスですまし顔を作ることしかできない。
しかもそれも、フレイにジト目を送られてるし。
「……アル、ギルドカードを無くすなんて……お前、それでも冒険者志望か?」
「……ちょっと、ドジったんだよ」
本当は持ってるよ、僕だって。
そう言いたかったけれど、とりあえずは抑えそう言った。
冒険者にとってギルドカードは命と同様大事なもの、それを無くすだなんて、考えられない行為。
この視線も頷ける。
「カードを持ってない人が二人、か……どうする、作ってもらうか? アルはたぶん、弁償ってなると思うけど」
カードの紛失は自分の責任、それ相応の対価を払い、再度作ってもらわなくてはならない。
だが、そもそも僕はそのカード自体が存在していないのだ。
存在していないものを作ってもらうだなんてそんなこと、できるはずもない。
「えっと、僕は……ちょっと、ギルドマスターに頼もうかな……王子も、きっとそうだろうし」
王子は、今まで大切に保護されてきた存在だ。
普通は王族や貴族が多い学園に通うはずなのに、彼は冒険者が多いこの学園に入学してきた。
それは単に、冒険者という職業や魔法に関係ある職業に興味があったからか、はたまた別の理由があるのか。
とにかく、彼は今まで冒険者という職から遠い所にいたのだ。
ギルドのカードなど、持っているはずもない。
そして彼の位が、普通にギルドカードの登録をすることを許さない。
きっとギルドマスターが呼ばれるはずだ。
その時に、ちょっと頼んでみようと思う。
「わかった、じゃあとりあえず、王子の登録からさせてもらうか」
そうして、僕らはカウンターに向かった。
「本日は、どのような御用でしょうか」
王子に気づいたギルドの職員が丁寧に王子に応対する。
そしてそれに対して王子も、優しく微笑んで要件を告げた。
「ギルドのカードを作りたいのだ。ギルドマスターを呼べるか」
「かしこまりました」
ギルドの職員はすぐに頭を下げ、奥に引っ込んでいった。
待つこと数分、僕たちは奥へと案内され、ギルドマスターの登場を待つ。
「お待たせいたしました」
そして、意外にも早くギルドマスターは現れた。
「ギルドのカードを作りたいとのことですが……」
「ああ、頼めるか」
「わかりました。では、こちらに手をかざしてください」
ギルドのカードは、それぞれの魔力が登録されている。
なので普通は二つと同じものを作れるものではなく、偽造も許されない。
だから僕のこの頼みは、ギルドマスターにしか頼めないものだった。
「で、貴方もですか、アルディル」
王子の魔力を記録している間、マスターが僕の方を向いた。
「はい。お願いできますか」
「ええ、では同じようにしてください」
「え、アルはもう持ってるから複製だけなんじゃ……」
「アルディルの魔力は少々特殊なんです。変わった魔力故、記録は残っておらず、直接ギルドカードに記さないといけない。なので今回、また再度作らないといけません」
「……大変ですね」
帝のカードが、万が一にでもギルドから漏れて、偽造なんてことになったら大変だ。
緊急事態が起こった時、帝の場所が特定できず、被害が拡大していく。
そうならないためにも帝の魔力は保存されておらず、無くした場合は、こうしてまた魔力を測る所から始めなければならない。




