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彼の正体

「どこいくんだ、アル?」

「うん。ちょっと先生に用事頼まれたから、行ってくる」

「俺も手伝うか?」

「いいよ、ありがとう」


 ジークの呼び出しに応えるため、変に思われないよう用事をでっち上げ、フレイらと別れた。

 人気者の王子は食堂にて誰かと食べるらしいし、王子といたせいで騒がしかった喧騒から解放され、ほっと息を吐き裏庭までの道を歩く。

 一階にある教室から少し離れた場所にある裏庭に着いても、ジークはまだ来ていないようだった。

 目についた花壇をしゃがみこんで覗き、きちんと管理されているっぽい花々を眺める。

 そこには、自身の隊の象徴である、ルピナスの花もあった。

 帝を隊長としている隊はそれぞれ花を象徴としており、僕の隊はルピナスの花となっていた。


 炎帝、カーリアはグロリオサ。

 風帝、シオンはサンカヨウ。

 水帝、リースはムスカリ。

 雷帝、インファスはゲッケイジュ。

 土帝、ドュールはエビネ。

 光帝、ステラはアルストロメリア。

 闇帝、リキはブラックチューリップ。


 などというように。

 そしてそれらの花々が、この花壇には所狭しと植えられていた。

 帝は、人間国全ての国の象徴だ。

 それに、この学校には帝に憧れている人が多い。

 なので、帝の象徴である花々をこの花壇に植えているのだろう。

 尊敬の、意も込めて。


――っつ!?


 そう、のんびりと色とりどりの花々を眺めていたら。

 突如現れた気配が、僕の首を狙って拳を振り下ろしてきた。

 咄嗟に避け振り返り、拳を構える。

 するとそこには当然というか何というか、ジークの姿が。

 殺気を隠さず、優しそうな微笑みは鳴りを潜め、無表情でこちらを見やる。


「どういうつもり?」


 やはり、この生徒の実力は大人顔負けのもの。

 しかも、どうやら僕を敵と認識しているのか、殺気は消さず、張りつめた空気で互いを見つめ、そのまま数秒が流れた。


「まだ、わからないのか?」


 ジークの表情が動き、人を小馬鹿にしたような嫌な笑みを浮かべた。


「お前と一緒に、暫くいたというのに」


 寂しいな、と言うジークの口調も、雰囲気も、授業とは違いすぎて……その口調を、僕は聞いたことがあると思った。


「君……は……」


 記憶を探る。

 出てきた答えに、そんなはずない、と否定したくなるけれど、それでもその答えが正解なのだと、目の前の男が告げていた。


「何で……こんなところに、魔人が……」


 そう。目の前にいる男は、僕をこの半年間苦しめてきた、僕の心の闇に住み着いている魔人そのものだった。

 会ったことなどない、けれど雰囲気はあの魔人そのもので。

 狡猾的な態度と、勝ち誇ったような笑み。

 それは、声から想像できる態度と表情、そのものだった。


「何で、か」


 その魔人が、僕の方に一歩、一歩と足を進める。

 それに合わせて、僕の足も後退していった。


「それは、お前がここに来ることを、入学することを予想できたからだ。お前は、普通の人、普通の生活に飢えていた。それに、俺がつけ込んだ。お前の弱さを、俺が一番知っている。だからここに来ることくらい、当然予想できる」

「僕の、監視ってわけ?」

「まあ、そんなところだ」


 そこで、彼が警戒を解いた。

 僕も拳を下ろし、それでも警戒は解かずに、対面する。


「忘れるな。お前は何れ、こちら側に来ることになる。それをいつでも、心に留めておけ」


 俺が言いたいことは、それだけだ。

 そう言って、その魔人は僕に手を振って、じゃあなと去っていく。

 あの魔人が、この学校にいた。

 そして彼は、これからもここにいて、僕の事をいつでも監視している。


 確かに、僕はずっと憧れてきた。

 零帝でいることの意味が、あまりわかっていなかった。

 力があるから零帝に選ばれた、なら僕以上に力がある人が現れたのなら、簡単にその位は別の人のものになるだろう。

 僕がその位につくことの意味なんて、力以外なくて。

 この力がなければ、普通の人として、普通の生活を送って、笑い合えたかもしれない、なんて……。

 それは夢だと思っていた、だって力は簡単に消えてくれるものでもなく、それはもう隠せず、人生と共に、常にそこにあるものなのだから。

 その力が無くなって、普通の人としてこうして学園に通うことになって、友達と呼べる人もできて……今、もしかしたら少しだけ、幸せかもしれない……そう思っていたのに、その幸せも魔人によって、僕がいる状況を再認識され、そしてそれは学校にいる間ずっと、魔人のことを意識することと繋がっていて。


(平安な日々を僕は、求めちゃいけないのかな)


 踏み入れ始めたときに起こったこの現状に、幸せを求めてはいけないのかと絶望的な気持ちになる。

 けれど、時間はまだある。

 僕の人生の意味を見つけるため、してみたかったことをして、傍観者でいたことを、実際にやってみたかった。

 あの魔人だって、僕の普段の生活にまで口は出さないだろう。

 言われたことは心の隅に置いておく、だが時間までは僕のことを、放っておいてほしい。

 邪魔されてでも、僕は最後のその瞬間まで、自分の思うままに生きたい。

 だからどうか……僕の生き方を、邪魔、されませんように。

 そんなことを祈りながら、僕は昼食を食べるため、購買へと向かった。

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