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呼び出し

「あそこに行こうか」

「はい」


 ひらけた場所を探し、王子が指差す。


「風か……正直、苦手なんだよな。ふわふわとしてて、あまりイメージが沸かないっていうか……普段使わないから、余計にわからないかもしれないけどな」

「王子の得意属性は確か、光でしたっけ?」

「ああ、そうだ」


 王族は代々、光属性の保有者が多く、例に漏れず王子も、そして王女も光属性を得意としていた。

 得意属性以外はあまり扱えない、だから持っていたとしても練習せずに、得意属性だけを極める人は多い。

 だが多属性を保有している人は、それじゃもったいない。

 それぞれの属性の良さを生かして、他の属性を補助として使う。

 それが一番、戦える、合っているやり方なのだ。


「風のイメージで大事なのは、鋭さ、素早さ、軽さです。風は補助魔法として有効です。強くなったら、護衛も少なく行動できるかもしれませんよ?」


 半年前の出来事を思い浮かべ、クスッと笑いながらそう述べた。

 護衛から逃げていた彼女は、きっと街に出ることを許されていなかったのだろう。

 ただでさえ、王子の格好ではなく王女の格好をしていたのだ。

 見つかったら大騒ぎになる、そりゃ許可は下りないだろう。


「……そうだな」


 王子にとっては耳に痛い話だったからか。

 少し顔を歪めた王子は、すぐに笑顔に戻ってからかうように口をにやけさせた。


「では、アルディルに教えてもらおうか。得意なのだろう?」

「え……別に、得意というわけでは……」

「アルディルの保持している属性は確か一つで、それは風なのだろう? 得意属性が風の人から習えるなら、俺も嬉しいのだが」


 わかっているくせに、王子は周りに聞かれていることも考慮に入れてかそう言った。

 僕の得意属性は火だ。

 風は……そんなに、得意というわけでも、不得意というわけでもない。

 火だとバレやすくなると思って、属性は適当に火以外を選んだ。

 だから、多少は教えられるとは思うけれど、そんなに自信もなく……。

 それにそんな改めて教えてと言われた事なんてないから、余計に気負ってしまうというか……それに、王子だし……。

 ちゃんと教えられるかどうか……。

 そんなことを悶々と考えていたら、突如王子が吹き出した。


「ハハ、そんなに気負わなくていいんだぞ? 俺は、王族だとかそういうのは気にしていないからな」


 そしてなぜか、また頭を撫でられる。


「こうして学生をしているお前は、何だかからかいやすくて面白いな」


 優しげな顔をした王子は、僕の頭を少し撫でると手を離した。

 でもまだ口がにやけていて、それに対してムッとしてしまう。


「子供扱い、しないでください」

「そういう扱いは新鮮だろう? いいじゃないか、たまになら」


 たまにっていうか、今日でもう二回目なんだけど。

 離れた手が再び戻り、矛盾を感じる言葉に手を払いたくなったが、それじゃ不敬かと手も出せず。

 暫く好きなように撫でさせていたら、不意に近づいてきた足に漸く手を止めさせることができた。


「仲、良いんだね」


 気配も足音もせずに近づいてきたので無意識に攻撃しようと手を伸ばしかけたが、おっ、と避けながら後ろに一歩引いた男の顔を見て、すぐに手を引っ込める。


「アイスト、さん?」

「ジークでいいよ」


 一年で、こうも変わるものなのだろうか。

 この人は足音も、気配でさえも消して僕に近づいてきた。

 いや、この人は代表に選ばれていると言っていたか。

 それはつまり二学年のトップの実力者、この実力も当然ということか?


「君、代表に選ばれてるんだって? 僕もなんだ、よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」


 手を差し出されたから、僕も右手を出し、握手する。

 なぜか離す瞬間にぎゅっと力を入れられ、一瞬瞳が冷たくなった気がした。


「じゃあ、いつも自分が練習するようにやってみて。王子も、お願いします」


 近くで傍観者のごとく見守る体制を整えていた王子に、ジークは笑いかけた。

 苦笑い気味に王子は近づき、僕の隣に並ぶ。


「初級でいいですよね?」

「そうだね。初級は全ての基本だから、初級がいいね」


 王子と目を合わせ、同時に呪文を唱えた。


『“風よ。形を成し、我の手となり足となれ”』


 昨日の授業でも使った、風の初級魔法。

 それは風の、最も基本となる魔法だった。

 イメージした通りに風を吹かせ、それが緻密な程良いとされる。

 王子と僕は同じくらいの、手のひらに収まる程の風を掲げ、それを維持した。


「うん。君はよくできてるね。基本がしっかりしていて、僕からは何もいうことがない。王子は……もう少し安定感を意識してみてください。アルディル君と比べて、揺れが大きいので」

「わかった」


 王子が頷いたのを見て、僕らの方はそんなに問題がないと思ったのだろう。

 去ろうとし通り過ぎようとしたところで、ジークの手が何やら紙を僕に握らせた。


『昼休み、裏庭』


 それだけしか書かれていない紙。

 それは明らかに、呼び出しだった。

 真意を探るためにジークを振り返るも、ただ微笑まれるだけでなんの呼び出しか検討もつかず。


「どうした?」


 不審な動きをしていた僕の顔色を、王子が伺った。

 しゃがんで下から覗かれて、常より近いその距離に一瞬心臓が跳ね、一歩後ろへと退く。


「……い、いいえ、何でもありません」

「そうか? 具合が悪いのなら、すぐに言えよ?」


 僕の状態を慮って、王子が気遣わしげに眉を寄せた。

 確かに、僕の状態は今、不安定だ。

 けれどこれまで体調は崩さなかったし、何なら今までの人生で風邪なんてものを引いたのは、数度しかないのだ。


「はい」


 なので肯定の意を伝えたくて、何度か頭を素早く上下に動かした。

 それに本当に具合が悪いのなら、我慢しても意味はない。

 そういう時には素直に休む方が、周りのためにもなる。

 だから大丈夫だと目で訴える。

 するとポンポン、と二度頭を叩き、


「そんなに何度も振らなくていい」


 と言って、王子はまた練習に戻った。

 まだ慣れない子供扱いに戸惑うが、僕も練習しようと王子に続き、今度はもう少し大きな風を起こそうと呪文を唱える。

 そして、練習しながらジークを観察しつつ、王子にちょっとしたアドバイスをしつつ……僕の、初めての魔法の授業は終了したのだ。

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