授業
「では、これから魔法基礎学の授業を始めます」
メルティユ先生の号令で、授業が開始した。
昨日と同じ実習室にて、先生を中心に円を描いて皆立つ。
「アル、お前この授業も初めての参加じゃないか?」
「……そうかもね」
僕は魔法系、いや実技の授業は全て避けていた。
力がなくなったとは言ってもそれは魔力で、制御能力までは消えていない。
だからあまり学生から逸脱しないように、注目を浴びないようにしなければいけない。
それが面倒で、避けていたのだ……けれど。
「サボっていたのか?」
今日は王子がいる手前、抜け出せなかったのだ。
王子に問われたサボっていたという言葉が、とても悪いことをしたように感じて、顔を背ける。
「そういうわけじゃ……ちょっと、体調が……」
「そう何度もか?」
「……からかわないでください。わかっているでしょう?」
僕が零帝だとわかっていれば、すぐに僕が授業に出なかった理由は思いつくだろう。
それなのに言及する王子に対して、少し眉を顰めた。
「ハハハ、悪かったな」
からかっていたのを自覚していたのだろう、すぐに謝った王子は、何故か僕の頭を撫でてきた。
それをジト目で、見上げる。
王女の身長は僕より少し低いくらいなのだけれど、王子は僕より十センチ以上は高い。
それを誤魔化す為に、普段はシークレットシューズを履いてさらに幻影魔法で二重に王子の象に近づくようにしているらしく、王子の顔は僕の上にあった。
完全な子供扱いにムッとするが、王子は笑って先生の方に向き直る。
渋々ながら、僕も先生の方に視線を移し、喋っている言葉に集中した。
「今日は、上級生の方に来てもらって、指導をしてもらいます。代表にも出る方もいるので、互いの実力を密かに探ってもいいでしょう。それでは、自己紹介をお願いします」
「はい。ジーク・アイストです。属性は風で、新歓に選ばれてます。よろしくお願いします」
先生に促されて、先生の右横に立った人がペコリと頭を下げた。
緑色の髪をした、優しげな風貌の男の人。
整った顔で最後ににこりと笑ったから、女子の「キャー」という声が響き渡る。
そして視線をその右に向け、先を促した。
「シルフ・ギッシュだ。属性は水。俺は新歓には出ないが、制御の成績が良いから呼ばれた。よろしく頼む」
水色の髪を坊主に近いくらいに短く刈った人が、快活にそう言った。
今度は女子は反応こそしなかったが、皆「よろしくお願いします」と返した。
どうやらこの学校では、学年を超えての交友を持てるように、先輩が週一くらいの頻度でクラスに先生の助っ人という形でやってくるらしい。
「二人の属性は風と水なので、その属性を持っている方は彼らの周りに集まってください。それ以外の方は、私の方にお願いします」
僕が持っている属性として言っているのは風である。
なので、ジークという好青年の方に向かった。
「俺も風を持っているから、一緒にいこう」
「はい」
王子と共に、既に数人集まっていたそこに向かう。
僕が歩き出して、すぐ後ろにいたサリュも動き出した。
サリュの属性は、風と雷。
なので一緒のところになってしまう。
少し気まずい……けれど、それはサリュも思っているのだろう。
だから、こうして僕が動き出したところで後ろからついて来ているような、そんな形をとっているのだろう。
けれど気まずいのは、サリュだけではなかった。
――ジィィィ。
僕のことを、睨みつけるように見てくる男の子。
決闘まで挑んだのに負けるどころか、竜巻で気絶してしまうと言うのは、この少年にとって堪えたのだろう。
いつものように堂々と話しかけて来ずに、僕のことをただ睨みつけていた。
「もう集まったかな? では改めて、ジークです。よろしくね」
僕らが着いたところで、ジークが再び軽めの自己紹介をした。
僕らも頭を下げると、彼は僕らを見回す。
「では、これから授業を始めます。まず最初に、ここに集まってきたのは全員風を持っていると思うけど、じゃあ風って何だと思う?」
授業の始まりとともに真剣な表情になった生徒らは、各々考え込んでいるのだろう。
自分なりの正解が出るのを待って、ジークは切り出した。
「風は、何も道具もないところで起こすことができる。手を早く動かせばほら、もう風が起こる。でも、その風はすぐに消えてしまう。僕らが必要なのはこういう些細な風じゃなくて、大きな、魔物を倒せるくらいの鋭くて、強い風だ。じゃあその風を起こすには、どうすればいいと思う?」
また、ジークは見渡した。
そこでキーシィスが手を上げ、ジークが先を促す。
「大量の魔力を用いれば良いのでは?」
魔力を大量に用いれば、それだけ大きい魔法が使える。
キーシィスの言葉は理にかなっているように思えるだろう。
だが、それだけでは足りないのだ。
「そうだね。でもそれだと、無闇に魔力を使って、すぐに尽きて殺されてしまうよ。魔法で一番大事なのはイメージだ。その魔法を厳格にイメージして、その通りに放たれるようにする。そしてすぐに尽きないように、密度を高める事が、次に大事なことになる」
戦場において、魔力は命と同様だ。
魔力が尽きれば、死ぬ確率が格段に上がる。
そして、その魔力を尽きさせないための努力。
それは、練習して身につけなければならない。
「まあつまりは、全ての魔法で共通して言える、密度の訓練を怠らないように、ってことなんだけど……風は、それだけじゃないんだ。
イメージすれば何でも作れる、それは火や水だって同じだ。だから、風だけの特性を学ばなければいけない。風は、火や水と比べたらすぐに消えるよね。火のようにそこにあるだけで危険ってわけじゃないし、水のように重さがあるわけでもない。軽くて、意志を持ってからでしか攻撃として用いれない、それが風だ。その軽さは素早さを生む、他の魔法より一瞬でも早く魔法を構築できる。
つまり言いたいことは、魔法の密度を上げて、魔力をできるだけ用いず、イメージを大事に、風だけの特性を生かした攻撃をして欲しい、って事なんだ」
長々と説明した後、ジークは一旦手をパンッと叩いた。
「でも説明だけじゃあまりわからないよね? 実際に、皆がどれだけできているのか見てみようか。僕が言ったことを頭の片隅に置いて、いつも自分がしているように練習してみて」
説明している間、ピンと張りつめていた空気がジークが笑った瞬間解け、友達同士、間を広げてそれぞれ練習に入った。




